【039.記憶の消去】
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城下の街並みが、キラキラと輝いている。
屋根に積もった雪が少しずつ融け出しているのだ。
もうすぐ春が来る。
あれからマリーンは、正式にオレの部下になった。
テオの仕事を分担しているのだ。
マリーンの動作は人間らしく、どこにも機械的な動きは感じられない。
だから誰も彼女が機械の身体だとは思っていない。
かくいうオレも違和感なく、付き合っている。
室長も同様だ。
室長には、オレがマリーンの身体のことを知っているとは話していない。
別に話す必要も感じていないからだ。
室長も同意見なのだろう。
室長からそれについて、なんら話してもこない。
マリーンを注意して見ているようすもない。
オレの知識は、まだほんの1割しか取り出していない。
そのすべてを取り出すには、まだまだ時間が必要だ。
だが、取り出し終えたらどうするんだろう?
「記憶は消去してないわよね?」と室長が質問してきた。
「ええ。いつでも消去できますが」
「しないでね。記録が紛失してしまう可能性はあるんだから」
「なるほど。わかりました。要するにバックアップなんですね、私は」
「そのとおりよ。それにリーダーで読んで利用するよりも、あなたの方が利用方法を見つけるのも早いんじゃなくて?」
オレは、肩をすくめた。
「そうかもしれませんね」
「できたら誰かに記憶術を教えてもらって、知識を受け継ぐ、なんてできるとありがたいんだけど」
「可能ですよ。記憶術自体は誰でも扱えるはずです。ですが」
室長が首を傾げた。
「下手をすると他国に流失することが考えられますが」
室長の眉間にシワが寄る。
「つまり、亡命して、知識を売ると?」
「ええ」
「考えたくないわね、そんなこと。でもそれを言ったら、取り出した知識をメモリーに入れて、持ち出すという手もあるわ。それなら人間に入れておく方が管理しやすいでしょうね」
「なるほど。メモリーで持ち出す方が簡単そうですね」
持ち出し先に〈スベルト〉のコンピューターがあればの話だが。
「それにほとんどの知識は公開するのが前提だから、外に持ち出すのを止める手立てはないでしょうね」
「ああ、そうでした。どんどんと利用してもらうのが、目的ですからね」
「そういうこと」
「では、知識の受け継ぎを誰に?」
「テオに、と言いたいところだけど、少し考えさせて。それに王室評議会とも相談しておきたいから」
「わかりました」
王室評議会、それは女王を中心とする有識者の集まりだ。
女王に初めて会ったとき、集まっていた十数名の面々を思い出す。
それなりの年齢を重ねた人物も何人かいたが、老若男女さまざまだった。
彼らは、さまざまな議案を持ち寄っては、それを検討しているのだそうだ。
王国内外の情報も集めているとも聞く。
他国との境界線では、小競り合いもあるらしい。
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