【038.昼食】
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翌日には、テオの風邪も治まり、顔色もよくなった。
だが、仕事に復帰させるには、まだまだだ。
そこで今日一日は、休ませることにした。
室長にもそう言っておく。
「もう一日、マリーンを看護につけましょうか?」と室長に言われた。
「動きまわれますし、ロボットもいますから」と断った。
その代わり、マリーンにテオの仕事をやってもらうことにした。
といっても手順はテオしか知らないから、ほんの一部だけだ。
オレは、自分の仕事に集中しながらも、ときおり、彼女のようすをチェックする。
昼食。
マリーンと一緒に食堂へ行く。
食堂は暖かく、うまそうなニオイが漂っていた。
「本当に食材が豊富ですね、ここは」
「そうだね。料理人たちが、見つけ出してくれたおかげだね。これからも増えるだろう」
「弱肉強食の世界だ、と看守に言われたのに」
「私も言われたよ。最後の晩餐だから、とおいしいものを食べさせてくれた」
「私もです。でもこっちの方がもっとおいしい」
彼女は、笑顔で食事を口に運んでいる。
「私は落とされたのが、島でね。150日ほど、そこで生活していたんだ。狩猟採集生活を送っていたよ」
「すぐに迎えが来なかったんですか?」
「ああ。その島に落とされる人は少ないんだそうだ。中尉が自分の時間を使って探しに来なければ、そのままだっただろうね」
「中尉?」
「ああ。クリスティーヌ・ブロードリック中尉。私は“クリス”と呼んでいるがね。いい人だよ」
「そうですか。私は、あのボールから出たらすぐに声をかけられて、そのまま、軍の施設に連れていかれたんです」
「ちょうどよくバルーン観測していたから、それでどこに落とされたのかが、わかるようになったんだ」
「バルーン観測?」
「そう。気象観測するためのものだよ。王国の各所で気球を上げていてね。そこからのデータを収集して、天気予測に役立ててる。将来的には、この惑星全体の気象からさまざまな予測ができるようになる予定なんだ」
「それって、ふつうのことではないんですか?」
「本来ならば、人工衛星を打ち上げて、そこからデータを収集し、コンピューター解析するんだ。だが、ロケット技術と人工衛星の技術があっても、封鎖ブイで落とされてしまう。それにコンピューターも高性能なものが必要なんだ。今はそこまでいっていないんだよ」
「そうなんですか。いろんな技術がふつうに使われているから、そういうのもできているんだと思っていました」
「まだまだだね。各種学問の基礎も穴だらけだったんだ。教科書も寄せ集めだった。身体ひとつで落とされたんだから仕方がないがね。今はそうしたことも改善されてきているよ。必要な知識が得られたからね」
「知識?」
「ああ。ここでは、“知識は宝”なんだ」
「文化院がその知識を集めているんですか?」
「そのとおりだよ」
「先生のお仕事は?」
「ここの」と側頭部を左手人差し指でつつく。「記憶を取り出しているんだ」
「記憶を?」
「ああ。私は、ここに落とされるまで瞬間記憶術で、さまざまな知識を蓄えてきた。仕事で必要でね。だから落とされたときでも知識はあったわけさ。それを思い描くと特定の脳波が出てくる。その脳波をコンピューター解析すると、思い描いたイメージが取り出せるんだ」
「すごいですね。誰でも使えるんですか?」
「誰でもね。でも個人個人で脳波は微妙に違ってくるから、解析用のデータを作る必要がある。それに時間がかかるがね」
「へぇ。すごいですね」
「ただどうしても解像度は荒くなってしまうから、写真なんかはボンヤリとしたものになってしまうんだがね」
「それは残念ですね」
「うん」
昼食を食べ終え、温かいドリンクを飲み、仕事場に戻る。
それぞれの仕事に集中した。
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