【036.機械】
続きを読んでいただき、ありがとうございます。励みになります。
春まだ遠いが、明るく暖かな晴れたある日、室長から報告を受けた。
「ゆうべ、落とされたわ」
それだけで意味が通じる。
オレが、ここに到着してから6度目の〈落とされ人〉たちだ。
「今度は、夜でしたか」
落とされる時間帯は、まちまちだ。
落とされる日もバラバラ。
夜ならば、監獄ステーションを見張っていれば、落下の瞬間も方向もわかる。
だが、昼間に落とされては、昼間の明るさで、そうしたようすは見られない。
せいぜい、大気圏突入時に燃えて落ちてくる着陸船が見えるくらいだ。
それも近場でないとわからない。
「ええ。それでね、例のバルーンの観測データから、着陸先を見つけることができたのよ」
「バルーン! なるほど。しかし、王国近隣だけでは?」
「とりあえずね。そのデータから今まで見つかっていなかったポイントも見つけたの。今、軍の方で、出迎えに行っているはずよ」
「新たなポイントですか……とするとそこに何人も?」
「可能性はあるわね。ブロードリック中尉を覚えているかしら?」
「ええ。私を島から連れ出してくれた人ですね。彼女が何か?」
「彼女の手間も省くことができたわ。今までは、落とされる人が極端に少ない場所を調べていたのは、彼女だったから。落ちてきたかどうかがわかれば――」
「ああ、すぐに迎えに行けますね」
「そういうこと。落とされた人数もわかるしね。バルーン様様よ」
「よかったです。中尉には、いつかなんらかの形で、お返しをと考えていましたので」
「そうね」
軍から結果が届いた。
今までのポイントに新しく落とされたのは、12人。
新しく見つかったポイントは、2ヵ所で、11人。
合計23人が、保護された。
少ない人数だが、王国近隣だけと考えれば、多い方だろう。
本来ならば、ほかのポイントも保護対象にしたいところだが、敵国もあるし、距離的に遠過ぎて難しい。
それでも調査隊を出したりしてはいるそうだ。
すでにわかっているポイントは、それなりにあるのだから。
翌日、女性ばかり3人を連れたアネット・マネリーが現れた。
オレを軍施設からここに連れてきて、文化院室長に紹介してくれた彼女だ。
室長が自分の席から立ち上がって、アネットと女性たちを会議室に招いた。
新人の男性がドリンクの用意をして、会議室に入っていく。
しばらくすると、全員が出てきて、3人が自己紹介をしはじめた。
それまでチラッとしか見ていなかったが、そこで初めて、彼女たちを見た。
一瞬、オレは、心臓が止まった。
3人のうちのひとりを見て。
ミリーだった。
いや、彼女じゃない。
そっくりでもない。
そこにいる彼女は、褐色の肌ではなく、白人の肌。
緊張していて、青白い顔をしている。
瞳は、海のようなブルー。
肩甲骨が隠れるくらいの長さの髪は、輝く金糸のよう。
なのに、オレは、彼女をミリーと認めてしまった。
ひとりが挨拶を終えた。
彼女の唇が動いた。
「マリーン・ブルックスです。よろしくお願いします」と会釈。
もうひとりが挨拶する。
そのふたりのことは、目に入っていない。
マリーンのどこが、ミリーなのだろう?
似ているところといえば、背丈と身体のライン、顔の造詣くらいだ。
ミリーではない、そう理性ではわかっているのに、目が離せない。
マリーンもオレの視線に気付いて、オレを見ていた。
怖がっているのがわかる。
急いで視線を外した。
「みんな」と室長の声。「彼女たちには、ここで働いてもらうことになったわ。仲良くね」
オレは、その日、仕事にならなかった。
記憶からイメージを取り出そうとしても、ミリーとマリーンしかイメージできない。
何度も何度も失敗を繰り返して、とうとう諦めた。
「あら、どうしたの?」と室長に声かけられた。
「今日は、どうも調子が」
「身体の調子でも悪いの?」
「いえ」
「調子が乗らない?」
「ええ、まぁ」
「いいわよ、早退しても。今までずっとがんばってきたんだから」
「では、お言葉に甘えさせていただきます」
翌日からは、ミリーとマリーンの姿を頭から追い出して、仕事に専念することができた。
読んでいただき、ありがとうございます。面白ければ、ブックマーク、評価、リアクションをお願いします。励みになりますので(汗)




