【034.歓声】
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庭園の緑は、真っ白に包まれていた。
空は灰色で、静かに降ってくるものがあった。
雪。
いつのまにか、冬になっていた。
「先生、コートを忘れないでくださいね」とテオ。
「ああ」
オレは、言われたとおり、コートを羽織る。
朝食を終え、これから出勤だ。
部屋の外の通路は、屋根があるとはいえ、柱があるだけで、冷たい外気のままだ。
その中を寒さに縮こまらないように、姿勢よく歩く。
歩幅を広くして、早めに移動するためだ。
行きかう人々と、おはようの挨拶を交わす。
中には、見るだけでこちらが寒くなるような人もいる。
Tシャツに半ズボンといういでたちだ。
しかも樽のような腹がTシャツからはみ出している。
彼は室内にいると、汗を流すほどの肥満体型。
夏場は、クーラーのある部屋から動こうとしないそうだ。
そんな人々とすれ違いながら、足早に文化院の部屋に入る。
そこにいた全員と挨拶を交わす。
コートをロッカーにしまう。
暖房はまだスイッチが入れられたばかりで、部屋全体に暖気は行き渡っていない。
自分の席に座り、小さなため息とともに肩の力を抜く。
目の前に褐色のコーヒーが置かれた。
白い湯気が立ち上る。
「どうぞ」とテオ。
「ありがとう」
いつものことだが、ありがたい。
コーヒーに砂糖とミルクを入れ、スプーンでかき混ぜる。
最初のひと口をすすった。
「うまいな」
テオも自分の席で、同じようにコーヒーをすする。
ホッとひと息つくテオ。
落ち着いてから、今日の仕事のスケジュールを確認して、仕事をはじめた。
子どもたちの歓声が響いてくるのに気がついた。
「なんだろう?」
オレは、仕事の手を止め、窓辺に近づいた。
窓の外は、まだ雪が降っている。
大きな塊だ。
どんどん積もるのだろう。
窓の向こうは、ベランダになっている。
そこには、積もった雪の白しかない。
「きっと」と室長。「子どもたちが、外で遊んでるのよ」
「外で?」
「体操の授業としてね」
「ああ」
「子どもたちには、いい運動になるわ。ずっと城の中では、偏った運動しかできないから」
「なるほど。ああした子どもたちの声は、いいもんですね」
「子どもは、好き?」
「嫌いではありませんが、苦手です。特に集団は」
「あはは。私も苦手だわ」
ほかのみんなも賛同する。
「一緒に遊んだら大変ね」
「子どもは加減を知りませんからね。しかも疲れきってしまうまで、全力ですから」
「ええ」
室長は、結婚していた。
子どももいたそうだ。
だが、犯罪を犯し、終身刑を受け、落とされた。
それでも夫を愛し、子どもを愛しているという。
だから今でも独身なのだ。
「残念なのは、結婚指輪ね。落とされる前に没収されちゃったから」
「そうしたものは、すべて没収されてましたね、上で」
「ええ。子どもの成長も見たかったけど」
室長は、悲しげに遠くを見つめた。
昼食を終え、仕事部屋に戻る途中、ひとつの窓から城下を眺め見た。
城下は、白い世界と化していた。
おそらく、城下から見た城も同じだろう。
雪はやみそうもない。
「除雪作業が大変そうだな」
「ええ。毎年のことです」
「人命は、どうなんだ?」
「どう、というと?」
「毎年、どのくらいの死者が出ている?」
「さぁ……調べてみましょうか?」
「そうしてくれ」
調べた結果、屋根の雪下ろしでの転落や屋根から落ちてきた雪で埋まって死んだ人は、毎年かなりの人数となっていることがわかった。
室長によると、降雪予測は行なわれていないという。
「それを計算できるコンピューターがないのよ。それに必要な計算式もソフトも人もいない。それにね、もしそれらがあっても、人工衛星も打ち上げられないのよ。封鎖ブイに撃ち落とされてしまうわ。人工衛星がなければ、データ収集は限定的にならざるを得ない。そんなデータでは必要な量にならないから予測もできないでしょ」
オレは、記憶の中から気象学に関する知識を調べた。
「人工衛星の必要はありません。気象観測用のバルーンでいけるでしょう。専用のコンピューターの開発が必要にはなりますが」
「でもそんなコンピューターの開発には、多大な費用がかかるわ」
「ええ。でもデータ収集だけでもはじめておけば、いざデータ解析できる状態になった際に、すぐに取り掛かれるはずです」
「ああ、そうね。バルーンならそれなりの費用で済みそうだし」
「ええ。数が必要ですからその分、大量生産も可能でしょう。大量生産されれば、費用も安く上がります」
「わかったわ。必要な情報をお願い」
バルーンが各地で上げられると、収集されるデータがどんどんと蓄積されはじめた。
それを解析する部門も用意され、現在の天気予報の精度も高められることになった。
ただし、エリアは、王国とその協力国だけに限られてしまうが。
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