【030.依頼】
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室長からの指示で、指定の場所に向かった。
城内の中心地に近いエリアだ。
そのあたりは、近づいたことがない。
なぜなら王室関連施設だからだ。
厳重な警戒が敷かれている。
指示されたドアをノックした。
すぐにドアが開く。
ドアから顔を出したのは、50代後半の男性。
白髪の交じるこげ茶色の髪は縮れ毛で、それを後ろでまとめている。
肌は、黄色人種のものだ。
そのこげ茶の瞳が、オレを値踏みする。
オレは、自分の名前を告げる。
彼は、表情を緩めて、微笑み、中へと通した。
部屋の反対側に開け放たれたドアがあり、その向こうには、緑の庭園が見えた。
彼が先に立って、そのドアをくぐる。
オレもあとに続く。
庭園には、4人がけのテーブルがひとつと、ふたつのイス。
テーブルの上には、カトラリーがふたり分用意されている。
片方のイスを勧められ、腰を落ち着けた。
つまり、誰かと昼食を一緒に取ることになるわけか。
「しばらくお待ちを。何かお飲みになられますか?」
「常温の水があれば」
「すぐにお持ちいたします」
彼が下がるのを見送って、まわりを見渡す。
別のドアがいくつかある。
庭園としては、広くはない。
緑は、壁際に低木が配されている以外は、芝生だけだ。
低木には、花が咲いていた。
赤紫の小さな花が、咲き乱れている。
彼が戻ってきて、オレの前に水の入ったグラスを置いてくれた。
「ありがとう」
「いえ」
彼は、その場から離れ、ドアのひとつに入っていった。
オレは、グラスから水を飲む。
冷えた水もうまいのだが、空っぽの胃に入れるには、ショックが大きい。
それで常温を頼んだのだ。
ジュースやアルコールという選択肢もあったが、どんな昼食になるかわからないため、舌を下手に刺激したくなかった。
それはともかく、相手は誰だろう?
その相手の話も気になる。
まぁ、こういうときは、何を考えても、何を心配しても無駄なのだが。
水もほとんどなくなりかけたころ、さきほどの彼が出てきて、別のドアへと入っていった。
そこから彼と一緒に出てきたのは、ひとりの少女だった。
オレは驚いて、イスから立ち上がり、右手を胸に当て、頭を垂れた。
その少女は、女王ノーラだったからだ。
「陛下」と声をかける。
「久しぶりだな、モーガン殿。息災であったか?」
「はい。陛下も御元気そうで何よりです」
「うむ。まぁ、堅苦しいのはなしにしよう。座るがよい」
「ありがとうございます」
陛下のイスを50代後半の男が引き、そこに座るのを待って、オレも座る。
男はひとつのドアを開け、中に声をかけた。
するとそこからふたりの男女が出てきた。
給仕役だろう。
手に持った皿を目の前に置く。
スープだ。
「まずは、食事だ。話はあとにしよう。腹ペコでな」と陛下が微笑む。
デザートを終えると、紅茶が配られた。
陛下は、目に見えて、くつろいでいた。
給仕たちは、壁際で待機している。
「ルーカスから聞いたぞ。いろいろと役立っているそうだな」
「そうであればと思っております」
「生活に不便はないか?」
「これといって。あれば、すでに文句を言っております」と笑顔を見せる。
「それもそうだな。外出はしてみたか?」
「二度ほど。街を軽くぶらついた程度です」
「そうか。私もぶらつきたいが、身分が邪魔をしていてな」
「一度も?」
「いや。城を出る際には、城下を通るのだが、ほぼ素通りだからな」
「ああ、なるほど」
おたがいに紅茶を飲む。
「ところで」
ようやく本題に入ってくれるか。
「はい」
「おまえの知識の中に、薬の作り方はあるか?」
すぐに思いつかず、リストから検索する。
見つかった。
「はい、ございますが」
「そうか。よかった。じつはな、我が国では、いや、ほかの国でもそうなのだが、必要な薬が手に入らずに、命を落とす患者が多くてな」
「医者がいても薬がなくては、意味がありませんからね」
詐欺で医者になったこともある。
「そうなのだ。だが、この惑星では、薬の入手は難しい。なんとかしたいのだが、手にできるもので薬になるのは、ほんの一部だ」
「なるほど。そうなると、いろいろなものから薬効を調べたりしないといけませんね」
「うむ。人間の身体でわかるものは、限度があるし」
「ふむ。人工的に作り出さねばならないものもありますね。何か早急に必要な物はございますか?」
「抗生物質だな。ほかにもいろいろとあるが」
「わかりました。ルーカス室長と相談して、検討してみることにいたします」
「そうしてもらえると助かる。薬があれば、ほかの国との交渉にも使えるしな」
「確かに。いままでに流行り病とかはなかったのですか?」
「先王が存命中に一度な。死亡者はなかったが、後遺症で苦しんだそうだ」
「そのときには、薬は何も?」
「そう、何もなかった。医者は対処療法でなんとかしのいだが。また発生したらどうなることか」
「御心痛、お察しいたします」
「うむ」
それから少し仕事の話をして、陛下は出ていかれた。
御昼寝をされるのだろう。
オレもその場をあとにした。
文化院の部屋へと戻って、室長に報告した。
「そうね。何が必要になるか、まとめてもらえるかしら?」
「わかりました」
オレは自分の席につくと、すぐさま記憶から薬学関連の情報を調べ、未知の動植物や鉱物から分子を分析する装置や遠心分離機など、製薬の各工程に必要な機材や知識をコンピューターに書き出した。
それを室長に見てもらう。
彼女は、首を振った。
「おそらく、ほとんどを一から作り出さないといけないわね」
「そうでしょうね」
「作れると思う?」
それだけの知識があるか、と彼女は訊いているのだ。
今までにも知識が足らなくて、できなかったものもあるのだ。
「できます。すでにある技術を組み入れれば」
「そう。なら準備をお願い。必要な人員を手配するわ」
「わかりました」
必要な知識を記憶からイメージとして取り出し、それをテオが文字データ化していく。
オレは、今ある技術をチェックして、どこにそれを使うのかを調べておく。
そうした作業は、もう手馴れたものになっていた。
プロジェクトが発足され、資料が引き渡された。
あとは、彼らに任せればいい。
オレとテオは、それまでやっていた仕事に戻る。
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