表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
落とされ人  作者: カーブミラー


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

27/35

【027.プロジェクト始動】

続きを読んでいただき、ありがとうございます。励みになります。

 室長から、出来上がった分だけでいいから、とリストの提出を求められた。

 それを見た彼女が、オレの顔を見る。

「本当にこれらをすべて記憶しているの?」

「ええ。なんならひとつ選んでください。それを入力して見せますから。画像や図は、無理ですが」

「いえ、そのまま、続けてください。あと、どのくらいで出来上がるかしら?」

「ひと月ほどかと」

「わかりました。その日の入力分を毎日提出してください。各分野の人間にチェックしてもらって、必要なものをリストアップしますから」

「はい」

「テオは、どう? 使えますか?」

「ええ。とはいえ、入力ばかりの仕事で申し訳ないのですがね」

「それは仕方のないことですわね。本人もわかっているでしょう。何か不便なことは?」

「これといって。ですが、脳内の情報を取り出せるようになればいいのに、とよく思います」

「ああ、確かに。あとで脳科学の人間に訊いてみましょう。完全に取り出すことはできなくても、それなりの情報が得られるだけでも違いますから」

「そうですね」


 3日後。

 室長とともに別の部屋に行く。

 脳科学の研究室だ。

 男性に紹介された。

 ジェイ・サーストン。

 スキンヘッドの40代。

 黒い肌。引き締まった身体。

 握手を交わす。

 口が開くと、白い歯が見える。

 服装は、定番に見えるが、デザインが明らかに違うので、私服だとわかる。

 簡単な説明を受けて、ベッドに横になった。

 ここで脳の活動を調べるのだそうだ。

 頭が固定され、電極が頭の皮膚に貼り付けられ、それからカバーが下ろされた。

 真っ暗になった。

 マブタを閉じて、指示を待つ。

 まずは、そのまま何もしない状態。

 次にリストを思い浮かべた状態。

 それからテオにリストの打ち込みの指示を行なう。

「すごいですね」とジェイ。「こういうのを見るのは、初めてですよ」

「こういうのとは?」と室長。

 サーストンは、少し考えてから、こう説明した。

「脳は、ご存知のとおり、そのエネルギーとして、糖を使っています。その糖は、血液によって運ばれます。ここでは、その血流を調べて、脳のどの部分が活発化しているかがわかります。どの部分が活発化しているかがわかれば、脳の働きがわかるわけです。

 ふつうの人間だと活発化する部分がそれほど多くはないんですが、モーガンさんの場合、脳のあちこちを複雑に使っているんです。長年使ってきたのでしょう。本人が意識することがないくらいに」

「そう。それでどうかしら? 情報を取り出すことはできそう?」

「はっきりとした情報は申し訳ないが、無理です。ですが、脳内のイメージをある程度の解像度では出せるはずです」

「それだけでもありがたいわ。まさか、手術なんてしないわよね?」

 その点は、オレも気になっていた。

「本当はそうしたいところですが、そんなことをしてもあまり意味はないでしょう。安心してください、モーガンさん」と彼は胸に置いていたオレの手を軽く叩いた。

「よかった。戦々恐々としていたところでした」

「でしょうね。手順としては、文字や図形を見た際の脳の反応を記録していきます。そのあと、実際に記憶したイメージと脳の反応をつなぎ合わせ、イメージの解像度を上げていきます。それが済み次第、本来の取り出したい記憶の出力に取り掛かることになるでしょう」

「どのくらいの時間がかかるかしら? 記憶の出力を開始できるまで」

「さぁ。今話したのは、本来、被験者が見ている夢をイメージ化するのが目的でしたからね。なんとも言えません。本当にイメージが出力できるかどうか、解像度がどこまで得られるか。やってみないと」

「そう。パオロ」

「はい?」

「やってみてもらえるかしら?」

「ええ。サーストンさんのおっしゃっていることは、間違いなく実現可能です。すでにそうした論文が発表されています。発表されたかたは、それで起業しましたが、営業力がなかったのでしょう。すぐに経営難で倒産しました。ですが、どうすればいいかはわかっています」

「知っていたの?」

「記憶にはありましたが、引き出すキーワードがなかったのです。それがこの記憶術の欠点ともいえます」

「ならすぐにでもはじめられるわけ?」

「サーストンさんが言った手順を踏みますが、紆余曲折することなく、すすめられますから、3日でイメージの取り出しが開始できるでしょう」

「そう。なら協力して、やってもらえるかしら?」

「わかりました」


 さらに3日後。

「あぁあ」とテオがため息をつく。「これで私の仕事がひとつ、なくなりましたね」

 それは、最初のリストが出力されたのを見ての感想だった。

 そこには、今まで口頭で伝え、入力するしかなかった内容が出力されていた。

「その代わり、新たな仕事も増えたよ、テオ」

「新たな仕事、ですか?」

 彼は、その出力されたイメージを見つめたが、何もわからないと首を振った。

「これはただのイメージだ。そのままでは、コンピューターで検索もかけられない。検索できるように入力の必要がある」

「これを私が入力するんですか? 今までどおりに」

「さすがにそれをやれとは言えないな。コンピューターにやらせる方がいいだろう」

「コンピューターに?」


 室長の前に立つ。

 そして、出力されたリストを提出した。

「素晴らしいわね。ここまでのものになるとは」

「ですが、イメージでしかありません。検索できるようにコンピューターに入力が必要です」

「このままではダメなの?」

「これは、画像なんです。文字データに変換してやらないといけません」

「そう。では、人を集めて、入力させるしかないわけね。すぐに手配するわ」

「いえ、その必要はありません」

「どうして?」

「必要なのは、OCRソフトです」

「OCR? 何かしら?」

「optical character reader。画像上の文字を読み取ることのできるハードウェア、あるいはソフトウェアのことです」

「初めて聞くわ」

「そうですか。そのソフトがあれば、コンピューターに通すだけで、イメージから文字データに変換することができます。変換したあとにチェックが必要ですが、かなりの労力と時間を節約できるでしょう」

「なるほど」

 彼女は、電話をかけはじめた。

 どうやら相手は、ソフトウェア技術者のようだ。

 しばらく話をしたあと、受話器に手を当て、オレに話しはじめた。

「そうしたソフトはないそうよ。そうした要望もなかったから、開発するしかないって。理論も何もないところからのスタートになるから、長期のプロジェクトになるだろうって言ってるわ」

 オレはうなずいた。

「一からスタートする必要はありません。必要な情報はここにありますから」と右手の人差し指で、自分の頭をトントンと叩いた。

「本当に?」

「もちろん、簡単ではありません。ですからイメージの取り出しを行なっているあいだに、開発を進めてもらいます。どうでしょう?」

「ちょっと待って」

 彼女は、電話相手に話しはじめた。

 開発に割ける人員がいるかを訊いている。

「ああ、そうだったわね」と彼女は考え込み、それからオレを見た。受話器を押さえる。「手が空いているのは、新人数人しかいないそうよ。プログラミングはできるけど、設計とかは無理だって。それでも大丈夫?」

「ふむ」

 オレは、どうすべきかと考えた。

 設計やプロジェクト管理ができる人間がいなければ、プログラマーは何もできない。

「リーダーは、あとから参加できますか?」

「もちろん」

「では、それでプロジェクトを組みましょう。基本設計を私がやります。プログラマーには、機能別プログラムを指示しましょう。リーダーが来た時点で、正式にプロジェクトを稼働させればいいのではないか、と」

「わかりました」

 彼女は、また電話に向かって、指示を出し、電話を置いた。

「すぐにプログラマーが集まるわ」


 会議室がひとつ割り当てられ、全員が集合した。

 プログラマーは、全員で4人。

 20代後半がひとり、あとは30代だ。

 男女ふたりずつ。

 彼らにプロジェクトの内容を説明する。

 それから必要な機能を、どうすれば実現できるかの資料を差し出した。

 それは、オレの記憶から取り出したイメージを出力しておいたものだ。

 彼らに理解させた上で、機能ごとに作業を分担させる。

 作業を開始。

 しばらくようすを見てから、脳科学研究室に戻る。


読んでいただき、ありがとうございます。面白ければ、ブックマーク、評価、リアクションをお願いします。励みになりますので(汗)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ