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落とされ人  作者: カーブミラー


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25/35

【025.部屋】

続きを読んでいただき、ありがとうございます。励みになります。

 その日の仕事を終えるころ、アネットが部屋に戻ってきた。

 区切りのいいところで、仕事を終え、テオや室長と別れ、アネットとともに部屋を出る。

「これからあなたの住む場所に向かいます」

「城の中に?」

「はい。不便はないはずです」

「雨露しのげれば」

「必要と思われるものは、すべて揃っていますわ。足らないものもおっしゃっていただければ、できるだけご用意いたします」


 連れていかれたのは、草花と池で彩られた広い庭園。

 その周囲をめぐる通廊は、庭園側に柱を向けている。

 庭園の正面にその部屋があった。

 ドアの前に立つと自動的にスライドして開く。

「すでにパオロさんを登録してあります。あなたを認識して、カギを開けてくれます」

「では、カギは自分なのですか?」

「そういうことになります。どうぞ」

 中に入って、驚いた。

 広い空間があったからだ。

 そこには、くつろげるソファーやテーブルがあり、リビングとわかる。

 ソファーは、少なくても3人がけとひとりがけが、ふた組。

 その中心に置かれたテーブルは、木目が美しい。

 奥には、カウンターと三つのスツール。

 カウンターの奥には、キッチンが見える。

 そこにベッドやバスタブやトイレはない。

 五つのドアが見えてはいるから、そこにあるのだろう。

「あの、広くありませんか? それともほかの人と一緒なのでしょうか?」

「あなたおひとりの部屋です。ご友人と住まわれてもかまいませんが」

「ご友人と言われても」

「食事は、ここで食べることも、外で食べることも自由です」

「ここで? 自分で作れと?」

「お好きなら。ですが、ロボットに作らせればいいでしょう」

「ロボット? SXEのロボットが?」

「いえ。ここの技術で作ったロボットです。SXEのロボットは、この惑星には、ひとりもいません」

「です、よね」

 驚いた。

 SXEのロボットが囚人に提供されてるのか、と思ってしまった。

 SXEとは、ロボットの開発・製造・販売を行なっている会社で、そこのロボットは信頼度の高いものだった。

「以前にお使いだったのですか? SXEのロボットを」

「ええ、まぁ。仕事柄、何度か」

 作業用から個人的に購入したセクサロイドまで。

 総じて、オレをいらだたせることはなく、仕事にも支障は出なかった。

「でしたら期待はなさらないでください。SXEの作業用ロボットの足元にもおよびませんので」

「ふむ。しかし、調理できるのでしょう?」

「メニューは、限られていますが。“まずくはない”というレベルです。ご自分でお作りになられるのでしたら、ロボットに指示すれば、材料その他を食料庫から取り寄せてくれます」

「いちいちドアまで?」

「いいえ。隠れた通路からそれぞれの部屋へと搬送されます。ですからドアを開けて受け取る必要はありません」

「なるほど。まぁ、ロボットの腕前次第としておきましょう」

「そうですわね」

「しかし、こんな広い部屋ではなく、こじんまりとした部屋を考えていたのですが」

「部屋は、それぞれの能力を考慮して、割り当てられます。その割り当て条件をパオロさんが満たしたというだけですわ」と微笑む。

「過大評価されても……」

「思った以上の成果が出なかったときは、こちらの落ち度です。そのときになって、部屋を移れ、とは言いませんわ」

「なるほど。ほかのかたがたは? 近くにお住まいに?」

「さまざまですわ。城の中にいる者もいれば、城下に部屋を借りて住む者もおります」

「ああ、そうでした。確か、部屋を借りたら、手当てが出るんでしたね」

「はい。その際には、申請をしていただかねばなりませんが」

「わかりました」

「それからこちらを」

 彼女が差し出したのは、シガレットケース。

 少なくてもそう見える。

 彼女から受け取った。

 金属表面に幅広の木目模様。

 それ以外に特徴はない。

「なんです?」

「個人用の通信機器です」

「通信機器?」

「電話でもメールでも。各種情報も扱えます。ロボットやコンピューターとのインターフェースにも使えます。デザインが気に入らなければ、交換いたしますわ」

「なるほど。あなたとの連絡にというわけですか」

「室長の連絡先も入れてございます。使い方は、それほど難しくはありません」

「わかりました」

「念のために言っておきますが、それで場所の特定もできてしまいます。調べれば、どこにいるのかがわかるようになっています。常に監視しているわけではありませんので、あまりお気になさいませんように」

 そうは言っても、居場所を特定されてしまうのは、気分が悪いな。

「気にしないようにしましょう。常に持ち歩いた方がいいのでしょう? お話しからすると」

「そうしてください。それから王都を出ると、アラームが鳴るようになっています。警備にもそのことが伝わります。ご注意を」

「王都から出るなと?」

「許可申請をお願いします。知識の流出を避けたいのです。そのための処置とお考えください」

「“知識は宝”、ですか」

「はい」

 彼女は、ほかにも必要なことを説明して、部屋から出ていった。

 オレは、ようやく緊張を解いて、ソファーに腰を降ろした。

 ソファーが柔らかく、オレを迎え入れ、身体が沈んだ。

 疲れていたらそのまま寝てしまいそうな心地良さだ。

 どこからかモーター音が聞こえはじめた。

 耳をすませて、聞こえる方向を確かめる。

 キッチンの方からだ。

 そちらから人影。

 いや、違う。

 ロボットだ。

 SXEのロボットを知っている身としては、それをロボットとは認めたくないくらい陳腐なデザインだ。

 身長150cmほど。

 頭は直径20cmほどの球体。

 その頭が載っている胴は、円柱形。

 その左右に人間と同じ自由度を持つ腕。

 腕には、やはり5本指の手。

 円柱の胴の下には、脚はなく、一対の車輪があるだけ。

 うまくバランスを取りながら、動いてくる。

 全体の色は、青白いが乳白色に近い。

 そのロボットが、止まった。

 距離は、オレの座っているソファーから50cmくらいだろうか。

「初めまして。私は、ロボットです。テディーと呼ばれています。名前の変更は可能です」

 頭部の球体には、人間をデフォルメした顔が表示され、しゃべるたびにその唇が動いた。

「テディーか。よろしく。私の名前は」

「知っています。パオロ・モーガン様です」

「パオロと呼んでくれ。何をしていた? ドアが開いて、話し声が聞こえていたはずだが」

「それはすみませんでした。起動に時間がかかっていました」

「わかった。さっそくで悪いが、夕食を頼む」

「メニューを選んでください」

 アネットから受け取った通信機器――“フェイス”と呼ばれているそうだ――がテーブルの上で踊りはじめた。

 小さなモーターで震えているのだ。

 フェイスを手に取る。

 震えが止まって、その表面が木目から白地になり、黒の文字が浮き出した。

 文字は、メニューを示していた。

 ロボットから送られてきたのだろう。

 右手の人差し指でタッチして、選んだ。

「さっそくお作りいたします。そのあいだに何かドリンクを飲みますか?」

「そうだな。食前酒はあるか?」

「あります。メニューから選んでください」

 またフェイスが震える。

 新しいメニューが表示された。

 スパークリングワインを選んだ。

「すぐにお持ちします」

「いや、その前にシャワーを浴びてくる」

「では、出てからの方がいいですね」

「ああ」

 オレは、ソファーから立ち上がり、バスルームに向かおうとして、どのドアがそれなのか知らないことを思い出した。

「バスルームは、どのドアだ?」

「そちらです」と右腕を伸ばして、指し示した。

「ありがとう」


 シャワーを浴びて、バスタオルを腰に巻いて、出た。

 テディーに着替えはどこにあるかを訊く。

 SXEのロボットなら、何も言わずに用意してくれているところだ。

 着替えは、クローゼットの中。

 入っていたのは、定番の服と白い生活着。

 下着も靴もそこにあった。

 さっぱりして、着替え終わると、ソファーに座る。

 テディーが、食前酒に頼んだスパークリングワインの入ったグラスをテーブルに置く。

 彼はそのまま、キッチンに戻る。


 出てきた食事は、それほど酷いものではなかった。

 一般受けする味付けだ。

 悪くはないが、少し濃く感じる。

 調整をテディーに指示したいところだが、やめておくことにした。

 下手に調整しようとすると、味付けがおかしくなるかもしれないからだ。

 そうなったら食欲もわかなくなる。

 SXEのロボットなら、ちょっとの文句で全体的に微調整してくれるのだが。

 それにレパートリーも多い。

 彼女たちには、ライブラリーがあるのだ。

 テディーには、それがない。

 仕方がないが。

 時間があれば、自分で調理をしよう。


 やはり、慣れないマクラは眠りに誘ってくれない。

 どれだけ寝返りを打っても大丈夫なくらいのベッドの大きさも、ひとり寝には大きすぎる。

 SXEのセクサロイドがいれば、下の世話とともに添い寝もしてくれるのに。

 まさか、テディーをその相手にするわけにもいかない。

 ちょっと想像してしまって、にやけてしまう。

 今彼は、何をしているのだろうか?

 きっと掃除か何かをしているのだろう。

 それとも眠っているのだろうか?

 SXEのロボットなら、必要な仕事が終わったら、人工脳髄の処理能力を落として、身体を休める。

 ロボットだからといっても、身体や人工脳髄を休めなければ、金属疲労などを起こして、故障してしまう。

 そうならないように休めるのだ、と以前聞いたことがある。

 昔、購入したセクサロイド、ミリーのことを思い出した。

 彼女は、オレの恋人だった。

 それ以上に家族だった。

 オレの心休まる家だった。

 そのときの仕事から離れるのが、つらかった。

 それは、同時に彼女との別れでもあったからだ。

 できれば、彼女を取り戻したいが、それはできない。

 SXEに回収してもらったのだが、特別な契約はしなかった。

 保管の契約をしていればよかったのだが、仕事の関係上、それはできなかった。

 次の仕事に就いたときに、SXEに確認を取った。

 ミリーをふたたび買い取りたい、と。

 だが、彼女は、すでに中古として、売られてしまっていた。

 気落ちしたが、仕方のないことだ。

 購入した人物がわかったとしても、すでにミリーの記憶にオレの姿はない。

 新しいご主人様に幸福を与えてもらえるように、とオレは祈った。

 それ以降、ほかのセクサロイドをミリーのように感じられたことはない。

 ミリー、おまえに会いたい。


読んでいただき、ありがとうございます。面白ければ、ブックマーク、評価、リアクションをお願いします。励みになりますので(汗)

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