【020.王都】
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眼下には、人の流れがあった。
流れ、そうだ、川の流れのようだ。
だが、流れは決まりなく乱れている。
同じ方向に行く者もいれば、反対方向へ、全然違う方向へ、立ち止まり、まわりを見わたす者もいる。
人種は、雑多だ。
ソラ人のみだが。
ここに異星人が落とされることはないだろう。
監獄ステーションですら異星人は見かけなかった。
とにかく、こんなにも人が集まっているのは、信じられなかった。
「何か催し物でもあるんですか?」
「いえ。日常の風景です。ちょうどお昼の時間なので、昼食を求めに出ているのです」
オレとアネットは、そのようすを見下ろせる石造りのテラスにいた。
すでに軍の基地から〈スベルト〉の王都の城へと運ばれていたのだ。
移動は、自動車だった。
おそらく公共の移動手段で、乗り合いバスの一種だ。
ほかにも乗客はいたが、私服の軍人だとわかった。
髪を短く刈っているからだ。
それに座る姿もスキがない。
バスに揺られながら、まわりを見渡した。
軍の基地から王都までは、さまざまな種類の畑や工場が並んで見えていた。
アネットがひとつひとつを説明してくれる。
やがて、背の高い建物があたりを埋め尽くしはじめた。
「50階建ての共同住宅です。王都で働く人の多くが住んでいます」
「私もあれに?」
「お望みならば、それも可能です。ですが、提供される住居は、もっと快適です」
「あれは快適ではないと?」
「そこまでは言いませんが、せまいですし、エレベーターが止まったらと考えますと……」“あとはおわかりでしょう?”と彼女の目が言っていた。
「登ったり降りたりが大変になる、と」
「はい。もちろん、非常用の設備がありはしますが」
そう言えば、一度、ビル火災で、閉じ込められたことがあった。
そのときは、エレベーターは動いていたが、乗れるような状態ではなかった。
灰色の煙が充満していたのだ。
非常階段も煙はあったが、上昇気流が吸い上げていて、見通しもよく、息も苦しさはなかった。
ビルの設計に対策が組み込まれていたのだ。
それでも100階以上のビルの30階あたりから階段を使って降りるのは苦痛だった。
まるで永遠に続くかのように思えたものだ。
火災は、階段を攻めては来ていなかった。
煙は、吐き出されていたが。
そのフロアを通り過ぎるとき、熱を感じた。
壁の向こうで炎がフロアを焼いているのだ。
煙が吐き出されているところをくぐり、階下へと降りていく。
非常階段から出ると、そこはファイヤースーツを着た消防団員たちが、右往左往して、がんばっていた。
数人の彼らが、オレたちを導いて、ビルの外に連れ出してくれた。
ビルの外では、さらに多くの消防団員たちが活動していた。
多くの車両とともに。
ひと息つくと、外の空気はうまかった。
「あれが城です」
アネットの声で、我に返った。
彼女の指し示す方角、進行方向にその姿があった。
まだ遠いのでよくわからないが、ちょっとした山のように見える。
だが、さきほどの集合住宅ほどの高さがあるようには見えない。
それでもオフホワイトの城壁や高く伸びた塔が見てとれる。
「まさかと思うのですが、もしかして、石造り?」
「そうです。国民からの寄進ですわ」
「寄進? 城を?」
「はい。王が統治権を評議会に渡し、象徴となった際に、造られました。国民がそれを願ったのです。王は、城に住むべきだと」
「あれだけの城を造るのに、どれだけのコストがかかるかを考えたら、王が許可を出すとは」
「そうです。ですが、造ったあとに寄進すれば、王は何も言えません。実際にそういうことになりました」
「なるほど。評議会も文句はなかったので?」
「見て見ぬフリをしていました。一部の議員は、手を貸していたようです」
「へぇ」
近づくにつれて、街が見えてきた。
街は、広々として明るい雰囲気だ。
ショッピングモールにも思える。
ビルは、みな低く抑えられていた。
「地下にも生活空間があります。地上は商業中心です」
「地下は?」
「ビジネスオフィスや研究開発、各種リサイクル施設などです。いくつかの工場も含まれています」
バスは、街なかを通って、城へと進む。
途中途中で、私服姿の軍人を降ろしながら。
街なかは、明るく、人々も表情豊かだ。
城は近づくにつれて、その白い壁面を大きくしていく。
城門には、鈍い銀色の輝きの金属の門が、内側に向かって開かれていた。
その城門をくぐる。
そこで降ろされた。
振り返ると、バスはUターンして、街へと戻っていく。
アネットのあとについて、検問を抜け、城壁内を歩く。
城壁内は、微風があって、比較的涼しく、すごしやすそうに感じた。
上り坂となっている石畳を登って、低層階のテラスに出た。
そのテラスからの眺めに、唖然となった。
それが、昼食を求めて、流れる人々の姿だった。
バスを降りるまで、なかった流れ。
それが今では、濁流のごとく、あふれかえっている。
「さぁ、行きましょう」
アネットにうながされて、オレはテラスをあとにし、薄暗い城内に入った。
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