【018.誓約】
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そこは、窓のないこじんまりとした会議室だった。
真ん中にテーブルがあり、そのまわりにイスが六つ、並べられている。
ひとりの女性が待っていた。
クリスさんと同じくらいだろうか?
白いワイシャツに濃紺のスカート姿。
ワイシャツには、クリスさんとは違うデザインの襟章と肩章がつけられている。
赤毛の髪は、アップだ。
「彼女は」とクリスさん。ふたりのあいだを取り持つように立ち、オレに顔を向けた。「今後、あなたを担当するアネット・マネリーです。私の役目はここまでです、モーガンさん」
彼女は、右手を差し出した。
「また会えますか?」その右手を取って、握手しながら訊いた。
「予定はないですが、また会えるとうれしいですね。お話、楽しかったですわ」
握手を終え、彼女は敬礼をすると、きびすを返して、ドアの外へと姿を消した。
~'15.07.13(月)~
ドアが閉まるのを確認してから、マネリーさんに振り返る。
「初めまして、ミズ・マネリー」
「どうぞ、アネットとお呼びください、モーガンさん。敬称もいりませんわ」
「では、アネット。私のこともパオロと呼んでいただけるとうれしいですね」
「わかりました。朝食はいかがでしたか? パオロさん」
彼女は、イスを勧めてくれた。
「とてもおいしかったですよ。本来とは違う材料で作られているとは思えなかった」
「そうでしょうね。当初、この惑星〈スータン〉がこれほどの実りをもたらしてくれるとは誰も思っていませんでした」
「でしょうね。王様が探索を進めた、と聞きました」
「はい。先王がいなければ、我々は今でも未開人として、飢えや渇きに苦しんでいたでしょう」
オレは、うなずいた。
「ところで、あなたは今後の担当、とクリスさんが言っていましたが?」
「はい。パオロさんが〈スベルト王国〉に定住、もしくは別のところに移るまでを担当する予定になっています。あなたは、運がよかった」
「運がよかった? どういう意味です?」
「あなたがいらした島は本来ならば、回収予定に組み込まれていませんでした」
「えっ?」
「それをブロードリック中尉が、そうしたポイントを定期調査するように進言したのです。ですが、“割ける人員はいない”と却下されそうになり、彼女自身が”余暇を使って行なうから”と上司を説得したのです」
「余暇を使って? なんでそこまで?」
「さぁ。ですが、彼女のおかげで、優秀な人材を得ることができたのも事実です。“知識は宝”ですから」
「なるほど」
「では、惑星〈スータン〉や〈スベルト王国〉、ほかの場所について、説明しますね」
「お願いします」
「惑星〈スータン〉は、もともと資源開発を目的として、開発が進められました。資源は豊富だったはずですが、撤退することになりました。理由は定かではありません。病気が蔓延したとも害獣が襲ってきたとも言われていますが。そのころの植民者たちが、〈スータン〉の第1世代です。彼らもまた、囚人でした。強制労働させられていたのです。ですが、撤退する際に、彼らは残されました」
「残された? ひとりも撤退を許されなかったんですか?」
「はい。監督官たちは、まるで逃げるかのように撤退していったのです。機材を丸々残して」
「なるほど。それで?」
「第1世代の人々は、とにかく生きることに専念しました。配給されていた食糧はすぐになくなりますし、水も限られていましたから。幸いなことに〈スータン〉には、食べられる動植物がありました。でもどれが食べられるのか、毒はないのか、誰も知りませんでした。そこで死んだ者も多かったと聞いています」
「でしょうね」
「とにかく、狩猟採集生活が続けられました。長い年月が経ち、そこへ新たな宇宙船が到着しました。でも救助の船ではありませんでした。着陸ポイントの設定と惑星封鎖が目的だったのです」
彼女は、テーブルに置いていた手のひらサイズの端末に、指を滑らせた。
それから左壁を手で指した。
左壁には、映像が映し出されていた。
〈スータン〉と思われる球体地図と着陸ポイントが示されている。
「着陸ポイントは、現在わかっているだけで、98ポイント。宇宙船からは、何も知らせてきませんでした。こちらで見つけるにしても人工衛星も飛行機も、バルーンさえ、ありませんでした。ですから最初は近場のポイントを見つけ、囚人を集めたのです」
「そうするうちに王国が発展していったのですね」
「いいえ。王国ができるのは、もっとあとです。まだ、王が到着していませんから」
「王は、第1世代ではなかったのですか?」
「はい。第3期の着陸でいらっしゃいました。それまでは、都どころか、町もなく、小さな村が点在していたそうです。到着した囚人は、近場の村が吸収、あるいは、自分たちで村を作りました。王もそうした村のひとつに吸収されたのです。やがて、王が村の長になり、まわりの村々とともに町を作り出し、それが王国のもとになりました」
「なるほど。あとは、人々の知識や技術を集積して、文化レベルを引き上げていったわけですね」
「そうです」
次に彼女は、現在の王国を紹介してくれた。
そこで驚いたのは、現在の支配者だった。
先王のあとを継いだのは、なんと12歳の少女だったのだ。
しかも先王の血を受け継いでいないという。
先王夫婦には、子どもがなかった。
そこで彼は評議会を招集させて、〈スータン〉の未来を統べる王の選出が必要であることを認めさせた。
評議会は、国民を統べる力が必要だと王が主張して、すでに作られていた。
あらゆる議論の結果、評議会はこの〈スータン〉で生まれた子ども――男女問わず――を集め、すべての子を王の養子に迎え、養育し、そこから王を選出することにした。
その選出方法に議員たちは悩んだ。
何せ、親はみな犯罪者として、この惑星に落とされたのだ。
その子どもが、そうした犯罪に染まることも考えられる。
〈スータン〉でも犯罪の多くは、処罰対象だ。
取り締まる警察もいる。
そのための法もある。
そこで議員たちは、子どもたちを親から隔離し、“誓約”を施すことにした。
“誓約”とは、催眠術の一種だ。
子どもたちは、犯罪を知識として知ることができるが、犯罪を行なう際の心理的抑制を強化して、犯罪を行なわせないようにするのだ。
これは、犯罪心理学から考え出されたもので、その心理学者もこの〈スータン〉に落とされていた。
子どもたちは、多くの学者の教育によって、その能力を開花していく。
その能力によっては、王位継承ではなく、別の道に活かされる子どももいた。
王は、今後生まれてくる子どもたちに対しても、能力開花を行なうべきだと考え、評議会に提案し、議決され、そのための学校も寄宿舎も設立された。
なお、子どもたちの親には、何がしかの対価が約束された。
親の保育は、産まれてからひと月ほどだけ。
産んだ母親は、最初は拒絶する傾向が強いが、暮らしている環境を考えれば、王国に養われる方が子どものためと渋々納得した。
中には、対価が欲しくて、子どもを産む者もいた。
これは、秩序なく行なわれたため、ベビーブームとなり、財政を圧迫した。
そこで評議会は計画出産という手法をとり、妊娠を申請化した。
未認可で出産された赤ん坊は、今までどおり、国の庇護下に置かれるが、対価の対象から外される、というものだ。
これのおかげで、ブームは下火になった。
現在では、安定した人口増加に寄与している。
「生まれてきた子どもたちは、すべて王の養子となり、“誓約”が施され、その中から王位継承者を決めることになっていましたが、なかなか条件を満たす者は出てきませんでした」と彼女。
彼女の説明のあいだに、女性が入ってきて、ドリンクを置いて出ていった。
オレは、そのドリンクを飲みながら、彼女の説明に耳を傾けた。
説明は続く。
「ようやく条件を満たす者が現れました。王女ノーラです」
王位継承が行なわれたのは、3年前。
先王がなくなったのだ。
心臓発作だった。
王の死を知ると、国民たちは嘆き悲しんだ、という。
その1週間後、戴冠式が行なわれ、ノーラが女王となった。
「だが、そんなに幼い子に国を任せるなんて」
「任せていません。女王は、象徴に過ぎません。彼女の役割は、評議会で可決された法案などを承認することと国民の象徴であることです」
「では、自分で何かを決定するわけではないのか」
「ご自分で提案があるならば、評議会に諮ることができます。女王もそれなりの教育を受けてきていますし、十二分にお考えの上での提案ですから評議会での反論もほとんどありません」
「無条件で決議を?」
「さすがにそこまでは。きちんと議論され、決が採られ、女王の承認が降り次第、施行されます」
「女王以外の子どもたちは?」
「それまでと同様に、教育を続けています。王位継承のためではなく、国のさらなる発展のために」
「なるほど」
それからもいろいろと教えられた。
〈スベルト王国〉は、驚きに満ちていた。
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