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落とされ人  作者: カーブミラー


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17/46

【017.朝食】

続きを読んでいただき、ありがとうございます。励みになります。

 ドアがノックされた。

「おはよう、モーガンさん。気分はどう?」

 見ると開け放したドアのところに、クリスさんが立っていた。

 昨日着ていた服ではなく、真っ白い半袖ワイシャツと濃紺のスラックスをはいている。

 どちらもプレスされて、汚れひとつない。

 おかげで、昨日よりも若々しく見える。

 ワイシャツの襟と肩には、黒地に金糸の階級章があり、彼女が軍人であることを表していた。

「おはようございます、クリスさん。おかげで気分爽快ですよ」

「そのようね。朝食に行きましょう。そのあとで、担当の者に紹介するわ」

 オレは、“さっき食べたから”と断るつもりはなかった。

 食べられるなら食べておく方がいい。

 それに糧食よりはいいはずだ。

 クリスさんは、オレを食堂へ連れていった。

 食堂は、清潔で広く、4人がけのテーブルが、10台くっつき、10列並べられていた。

 400人が同時に座れるわけだ。

 6人の兵士が奥の方にいた。

 彼らの服装もクリスさんと同様、清潔そうに見える。

「昨日の検査でアレルギー反応がないと聞いたわ。なんでも食べれるでしょう?」

「たぶん。鶏肉は苦手ですが」

「あら。ならば、安心して。〈スータン〉に鳥はいないから」

「そうなんですか? じゃぁ、卵も?」

「鳥の卵はないわね。でも竜の卵ならあるわよ」

「竜? ドラゴンのことですか?」

「ええ。でもイメージとは違うでしょうね。そのうち、見せてもらえるでしょう」

 食堂のメニューは、3種類。

 見た目には、ふつうの食べ物に見える。

 だが、この〈スータン〉に持ち込んだ材料はないはずだ。

「疑問に思っているのは、材料のこと?」

「ええ。魚介類は目にしているのでわかるんですが、小麦粉や米は?」

「ないわね。だから〈スータン〉原産のものを使用してるの。食べてもわからないわよ」

「本当に?」という疑問は、声に出さずにおいた。食べればわかることだ。

 カウンターで注文して、受け取り、窓際の中ほどの席に陣取った。

 カウンターで働く人間のユニフォームも、真っ白でまだ折り目も薄れていなかった。

「きれいな厨房だし、清潔そうですね」

「ええ。食中毒は発生したことがないわ。もちろん、そうした菌はいるんだけど」

「食中毒が起こったら、どんな症状が?」

「ほかの菌と同じよ。たいていは、お腹が痛くなり、嘔吐や下痢を繰り返す。放っておくと脱水症状で死につながる。早めに医師に見てもらう必要があるわね」

「なるほど」

 目の前のプレートを見下ろす。

 ふたりとも同じメニューを選んだ。

 パスタに野菜サラダ、スープ、サイコロ状のステーキ肉。

 パスタソースは、お好みだったので、彼女は貝の身とキノコ、オレは赤や橙色のフルーツソースにした。

 そう言えば、パスタにも卵が使われていたはずだ。

 それも竜の卵なのだろうか?

 さっそく食べてみた。

「うまいですね。原料がすべて地元産とは思えない。いや、本物よりも濃厚で味に深みがある」

「そうでしょう」彼女は笑顔でそう言って、自分の食事を口に運んだ。モグモグと噛み砕き、ノドを通す。それから言った。「パスタに竜の卵は使われていないわ。お料理研究家に感謝ね。竜の卵は、季節物だから。キノコも野菜もフルーツも、すべて〈スータン〉原産よ。食材探求家のおかげだわ」

「それぞれに研究家や探求家がいらっしゃるんですね」

「ええ。学者先生も含めてね。コンピューターやネットワークの存在もそれを支える技術者やプログラマーたちも」

「コンピューターも自分たちで?」

「ええ。この惑星は、もともと資源開発が目的の惑星だったの。その時代のコンピューターは残されていた。でも性能も台数も需要には追いつけなかった。そこで王が技術開発を推し進めたわけ。あらゆる方面に波及していったわ。コンピューターを作るのに必要な技術は簡単じゃなかったから」

「そうですね。詳しくは知りませんが、材料ですら取り出すのに特殊な機材が必要だったはずですし、その機材を作るにも別の材料や機材が必要になったはずです。となれば、土台技術が必要です。それをほとんど一から作り出すとなると長年の歳月が必要となるでしょう」

「王は、それをやったのよ。さまざまな技術者や知識人を集めてね。そうした機械的な発展の裏で、王は別の発展もやっていたわ。なんだと思う?」

 オレはその質問の答えを考えた。

 科学技術が進むだけでは、人間社会には足りない。

 それに人間が科学技術の集積に力を使うとなれば、そのシワ寄せがどこかに行く。

 視線を落とした。

 そこにあるのは、食事のプレート。

「そうか!」

 叫ぶとともにクリスさんを見た。

「そのとおり」と彼女。「食料の狩猟・採集からの脱却を指示したの。農耕や牧畜をするようにとね。物によっては、食料工場も作ったりしたわ。科学技術が発展するに従って、その技術がそちらにも寄与するようにとの配慮もあったの。人々は新しい技術を自分たちのアイディアで自分たちの仕事の効率化を進めていった」

「科学や技術が使われていくうちに習熟し、分化し、新たな方面へと使われていく」

「そう。燃料も自分たちで作っていった。化石燃料は見つけるのにコストがかかりすぎたから。見つけるための衛星を打ち上げても封鎖ブイによって撃ち落とされるから、埋蔵場所が特定できない。人間が入っていける範囲を調査しても特定できる可能性は低い。特定できても埋蔵量が少なければ意味がない」

「それだけの資金と時間があるならば、作り出した方がいいですね。それで何を燃料にしたんですか?」

「いろいろね。でも水素が一番かしら。身近だし、飛行機は水素燃料で動いているから」

「水素か。周辺技術がかなり必要ですね」

「そう? そっちの方は、詳細を知らないのよね。軍事機密の部分もあるから」

「隠す、ということは、敵対する勢力があるんですか?」

「残念ながらね。国としては、〈スベルト〉ほどではないんだけど、豊富な化石燃料を掘り当てて、周辺に売りつけているのよ」

「油田成金ですか」

「そんなところね。潤沢な資金を使って、自分勝手なことをやっているわ。兵器開発もそのひとつよ」

「そんなことをしても無駄なんですがね」

「あら、どうしてかしら?」

「確かに戦争行為が科学や技術を発展させはしますが、その影で多くの命が失われます。そうなれば、これから生まれてくるはずの多くの技術も失われていくんですよ?」

「ああ、それはそうね。あなたのおっしゃるとおりだわ、モーガンさん。でも兵器を準備して、兵士を訓練しておかなければ、いざというときに国民を守れませんよ?」

「そう、そのとおりです。だからどちらもやめられなくなってしまう。そして、ちょっとしたいさかいで戦争に突入してしまうのです。人間は、ずっとそれを繰り返してきた。それを避けるために宇宙に飛び出し、がんばってきたのに」

「宇宙に飛び出しても同じなのでは?」

「いいえ。飛び出せば、苛酷な環境によって、人間は協力するようになるため、戦争にはなりえません。その星に先住知的生物がいれば、その星を離れ、別の場所を見つけます。あるいは、住まわせてもらう。そうして戦争を避けているんです。植民惑星の人口が必要以上に多くないのはそうした理由があるのです」

「どうしてそう言い切れるのですか? あなたは、そっち方面の学者先生なの?」

 オレは、首を振った。「いいえ。過去にそうした情報に目を通したことがありましてね。仕事柄と言えばいいかな」

「どんなお仕事なのかしら? 聞かせてもらえません?」

「“過去は過去”、でしょ?」

 彼女は、気落ちせずにうなずいた。

「そうでした。過去を詮索してもはじまりませんね。食事を終えてしまいましょうか」

「そうですね」


読んでいただき、ありがとうございます。面白ければ、ブックマーク、評価、リアクションをお願いします。励みになりますので(汗)

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