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第1話:出会いからのツーリング&スパーリング

「お願いします!」

 山梨県甲府市のとある邸宅のリビングで、茶髪で短髪の青年がソファから立ち上がって頭を下げる。長身でがっしりとした体格をしっかりと九十度に折り曲げている。

「そう言われてもね~」

 青年の正面に座った、青みがかったショートボブの女性がその美しい顔を困り顔にする。

「尊敬する父の遺言なんです!」

「う~ん……」

「父がお世話になったご両親のお役に立ちたいんです!」

「さっきも言ったけど、うちの両親は立て続けに亡くなっちゃってね……」

「それは本当に……ご愁傷様です。すみません、最近まで海外に行っておりまして、そのことはまったく知りませんでした……ただ、父の恩人ならば、自分の恩人でもあります!」

「女所帯に男が入るってのはちょっとマズくないかな~?」

 ソファに座るショートボブの右隣に座っていた緑色のセミロングの女性が首を傾げる。

「林音ちゃん、ここはボディーガードを雇うと思えば……」

「えっ、風香ちゃんはノリ気なの?」

 セミロングが驚いて、ショートボブの顔を見る。

「オレは別にどっちでも良いけどよ……強い奴なら間に合っているだろう?」

 ショートボブの左隣にドカッと座っている赤髪のショートカットが自分を指し示す。

「ちょっち不安だよね~。火織ちゃん、格下相手にたまに取りこぼすから……」

「ぐっ、い、言ってくれんじゃねえか、山河よ……」

 ショートカットが自らとショートボブの間の背もたれに大きな胸を乗せた黒髪ロングの女性を睨む。離れたところに座っている銀髪のツインテールがおずおずと口を開く。

「せ、拙者もどっちでもいいかな……」

「陰陽ちゃん、ネット上なら?」

「下心あんじゃねえのか! 多少イケメンだからって調子に乗るなよ! この野郎!」

 黒髪ロングに問われ、ツインテールは自らの端末を手際よく操作し、端末の画面に映った可愛らしい二次元キャラクターに暴言を吐かせる。リビングとキッチンの間に立っていた制服姿の金髪のポニーテールの女子がため息をつく。

「はあ……ネット弁慶はちょっと黙っていてくれる?」

「雷々ちゃん、酷っ⁉」

 ツインテールが愕然とする。

「ウチも男の人が同居するとかなかなか、いやだいぶ問題があると思うんですけど……」

 ポニーテールが腕を組みながら呟く。

「これは見事に意見が割れたわね~」

 ショートボブが周囲を見回しながら呟く。

「同居賛成派が二票、反対派が二票、どちらでもいいが二票か……こういうとき、偶数だと困るんだよね~」

 セミロングが苦笑する。ツインテールが端末を操作する。

「オイラはぶっ飛ばす派に一票!」

「二次元はノーカウントよ」

 金髪ポニーテールがばっさりと切り捨てる。

「酷っ!」

「酷くないから、実質一人二票なんて認められないでしょう?」

「雷々ちゃんの言う通りだね~」

 黒髪ロングが立ち上がりうんうんと頷く。豊満な胸が揺れる。ショートカットが口を開く。

「どうすんだ風香姉? 腕相撲で決めるか?」

「それじゃあ火織ちゃん優位じゃないの……」

「じゃんけんでもするか?」

「いや、そもそもどちらでもいい派が勝っちゃったら、話が進まないでしょ……」

「あ、それもそうだな……」

 セミロングの指摘に、ショートカットが自らの後頭部をポリポリと掻く。

「これだから脳筋は……」

 ポニーテールが呆れ気味に呟く。ショートカットが睨む。

「あんだと? 雷々、姉に対する敬意ってもんが感じられねえな……」

「家事のほとんどを末っ子一人に任せている姉たちに尊敬の念を抱くのは難しいわよ」

「む……」

「この武枝和虎(たけえだかずとら)! 家事ならば一通り、水準以上に出来ます!」

 青年が口を開く。ショートボブが首を捻る。

「本当?」

「ええ! 他にも例えば、勉強もお教え出来ますし、大型車の免許も持っています。英語、スペイン語、中国語、韓国語など語学も堪能です!」

「ふむ、それはアリかもな……歌詞の翻訳とかお願い出来るし」

 セミロングが自らの顎に手を添えながら頷く。ポニーテールが若干慌てる。

「ちょっと、林音お姉ちゃん、正気?」

「……武枝和虎……拙者の調べではこういう情報があるでござる」

 ツインテールが端末の画面をショートボブらに見せる。五人の表情が変わる。

「え、えっと、お父さんのお名前はなんだったかしら?」

武枝昭虎(たけえだあきとら)です!」

 和虎と名乗った青年がショートボブの質問に元気よく答える。

「お父さまは大変な資産家だったそうね……」

「はい。一代で築き上げました。そういうところも尊敬しておりました」

「その……ぶっちゃけた話、遺産というのはどうなっているのかしら?」

「母も亡くなっているので、一人息子の自分が全て継ぎました……」

「⁉」

 六人の顔色がガラッと変わる。和虎が窓の外を指し示しながら呟く。

「お庭の物置にでも置いていただけないでしょうか? 番犬になると思うのですが……」

「いいえ」

「だ、駄目ですか……」

「このリビングに住みなさい」

「えっ⁉」

 一瞬うなだれた和虎が驚いて頭を上げる。

「そこら辺のお部屋よりもよっぽど広いし、東西南北、さらに上下、私たちの部屋と繋がっている。ここにいてもらうと安心だわ」

「は、はあ……」

「ご不満?」

「と、とんでもないです!」

 和虎が首をぶんぶんと左右に振る。ショートボブは笑みを浮かべる。

「結構……自己紹介がまだだったわね、私は長女の激烈風香(げきれつふうか)、小説家をやっています」

「次女の激烈林音(げきれつりんね)、シンガーソングライターをやっています」

 セミロングがにっこりと笑う。ショートカットが右腕で力こぶを作りながら告げる。

「三女の激烈火織(げきれつかおり)、MMAの総合格闘家だ、よろしくな」

「四女の激烈山河(げきれつさんが)、グラビアアイドルやっていま~す」

 黒髪ロングが手を振る。胸もそれに合わせて揺れる。ツインテールが呟く。

「五女の激烈陰陽(げきれついんよう)、動画クリエイターをやっているでござる……」

「六女の激烈雷々(げきれつらら)、名前以外はごく普通の女子高生……」

「風林火山陰雷……」

「というわけで、私たち『激烈六姉妹』、どうぞよろしくね」

「は、はい! よろしくお願いします!」

 微笑む風香たちに対し、和虎が頭を下げる。笑顔の裏の黒い感情には気が付かない……。


「和虎くん」

 リビングにいた和虎に長女の風香が声をかける。

「はい」

「ちょっと付き合いなさい」

「はい……」

 風香に連れられて、和虎は外に出る。風香はぴっちりとしたライダーズスーツ姿だ。

「ツーリングよ、ついてきなさい……」

 風香は大型バイクに跨る。和虎が戸惑う。

「えっと……」

「趣味でもう何年も乗っているの、執筆の良い息抜きになるのよ」

「い、意外です……」

「よく言われるわ」

 風香がヘルメットを被りながら笑う。和虎にもう一個のヘルメットを渡す。

「……ふ、二人乗りってことですか?」

「安全運転だから安心してちょうだい」

「はあ……」

「さあ、乗って……」

「し、失礼します……」

 和虎が風香の後ろに座り、遠慮気味にお腹の辺りに両手を回す。

「しっかり掴まっていてね……それじゃあ、行くわよ!」

 風香が出発する。法定速度はしっかり守っていたが、運転技術の高さ故であろうか、和虎は心地よい風を感じることが出来た。

「うわあ……」

「ふふっ、なかなかない経験かしら?」

「シベリア横断の時とはまた違った心地よさです」

「シ、シベリア⁉ アメリカ大陸とかならともかく……後でちょっと話を聞きたいわね」

 風香と和虎はツーリングを一通り楽しみ、帰宅した。リビングに戻った和虎が礼を言う。

「ありがとうございました」

「和虎くん、ちょっと……このライダーズスーツ、背中のチャック下ろしてくれる……?」

「ええ? わ、分かりました……うおっ⁉」

 遠慮がちにスーツのチャックを下ろす和虎の鼻に独特の匂いが突き刺さる。

(直接的なのはアレだからね……私、汗の匂いには結構な自信があるの! 和虎くん、貴方の『嗅覚』に訴えていくわよ! 私の虜にしてあげる……!)

「うおおっ……」

 和虎が恍惚とした表情を浮かべる。

「和虎!」

 後ろから声がかかる。和虎が正気に戻る。

「はっ!」

「ちっ……」

 風香が舌打ちする。和虎が振り返ると、そこにはタンクトップとハーフパンツ姿の六姉妹三女、火織が立っていた。比較的露出度が高い服からよく引き締まった肉体が覗く。

「な、なんでしょうか?」

「ふむ……」

 火織は近づいてきて、和虎の体を上から下までマジマジと見つめる。

「あ、あの……?」

「なかなか鍛えているみてえだな。スポーツかなにかやっていたのか?」

「特にこれというのは……トレーニングはわりと欠かさずやっていましたが……」

「ほう……」

「えっと……」

「よし、今からオレとスパーリングをやるぞ」

「ええっ⁉ さ、さすがにちょっと無理では……」

「本気ではいかねえよ、軽くだ、安心しろ」

「は、はあ……」

「よっしゃ、行くぞ!」

「あ……!」

 火織が和虎からあっという間にマウントを取る。

「へへっ……」

「くっ……!」

 和虎がなんとか抜け出そうとする。火織は口笛を鳴らす。

「~~♪ ここから抵抗するとは……その根性、気に入ったぜ!」

「!」

 火織が自らの体を絡みつかせて、和虎の自由を奪う。

「へっ、これならどうだ?」

「ぐっ……」

(筋肉だけじゃなく、オレも結構あるもんはあるんだよ――なにかとは言わねえが――和虎、てめえの『触覚』に訴えていくぜ! オレのもんになりな!)

「む、むおお……」

 和虎は鼻血を出して意識を失う。火織は絞め技を解いて立ち上がる。

「ちっ、ちょっとばかり刺激が強すぎたか……」

「今日はノーゲームね……」

 火織と風香がそれぞれ両手を広げる。

お読み頂いてありがとうございます。

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