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プロローグ 病院の顔と裏の顔

【闇夜の断罪者】シリーズ一つ目の物語です。

あらすじを読んでから、こちらの物語を読んでいただきただいたほうが入り込みやすいかな、と思います。

東京の中心部、煌びやかな高層ビル群の中に、東都中央医療センターはその威容を誇っていた。

ガラス張りの外壁は陽光を反射し、夜には上層階が幻想的にライトアップされ、その姿はまさに「医療の殿堂」と呼ぶにふさわしい。

内部に一歩足を踏み入れれば、そこは高級ホテルのような洗練された空間が広がり、美術品が飾られたロビーには、多種多様な人々が行き交う。

最先端の医療を提供し、患者第一を謳うこの病院は、メディアでも頻繁に取り上げられる模範的な存在として知られていた。

その華やかな顔の裏側で、蠢く闇があることを知る者は少ない。

莫大な医療費を巡る利権争い、新薬開発における倫理的な問題、そして政財界の要人が絡む裏取引――。

この巨大な医療機関の奥深くには、表には決して出ることのない「不浄」が深く根を張っていた。


その病院の「顔」とも言える総合受付で、朝倉 凛(あさくら りん)は今日もにこやかな笑顔で患者たちと向き合っていた。

白衣に身を包み、手際よく患者の案内や書類作成をこなす彼女は、ごく普通のどこにでもいそうな看護師である。

だが、黒縁の眼鏡の奥で光るその瞳は、時に冷徹な光を宿し、全てを見透かすかのように鋭い。

「朝倉さん、すみません、こちらの書類、急ぎでお願いします!」

同僚の慌てた声にも、凛は冷静な対応を見せる。

「はい、すぐに確認しますね」と返しながら、彼女の脳裏では、今日一日の来院者リスト、特にVIP通路を利用した人物の情報が瞬時に処理されていく。

彼女の動きの一つ一つが、すべて緻密に計算された、【shadow(シャドウ)】としての情報収集活動の一環だった。

朝倉 凛――コードネーム【shadow】。

彼女は、裏社会に属しながらも「世界の不浄をなくしたい」という強い信念を持つ秘密組織【Crow's (クロウズ)Veil(ヴェール)】の一員だ。

この病院に看護師として潜入しているのは、ここ東都中央医療センターで起こっている「おかしなこと」、特に怪しげな取引の真相を探るためだった。

罪のない人を大切に思う彼女にとって、この聖なる場所が不正に染まることは許しがたい。


その日の午後、凛は受付業務の合間に、ロビーの一角にあるカフェで休憩を取っていた。

手元のタブレットで今日のニュース記事を読み進めるふりをして、耳は周囲の会話に、視線は人々の動きに集中している。

すると、少し離れた席から、聞き慣れない会話が耳に飛び込んできた。

「…今回の件は、最高機密だ。特に最上階の特別病棟に入院している『R』については、厳重に口を噤むように」

「しかし、先生。あの患者の状態では、いつ何が起こるか…」

「それでもだ。我々の計画にとって、彼の存在は不可欠。何としても、あのプロジェクトが完遂されるまでは、生かしておく必要がある」

会話の主は、この病院の外科部長である藤堂(とうどう)と、彼の秘書らしき若い女性だった。

藤堂外科部長は、テレビにも出演するほど有名な腕利きの医師だが、その裏では様々な黒い噂が絶えない人物だ。

特に「最上階の特別病棟」「R」「プロジェクト」「生かす必要がある」といったキーワードが、凛の脳裏に警鐘を鳴らした。


「R」とは何者なのか?


「プロジェクト」とは一体何を意味するのか?


そして、彼を「生かしておく必要がある」という言葉には、どのような闇が隠されているのだろうか?

凛はいつものにこやか笑顔のまま、カフェラテを一口飲んだ。

心臓の鼓動もまた普段と変わらない。

だが、その瞳の奥には、新たな獲物を見つけたshadowとしての冷たい光が宿っていた。

「悪い人はいらない」

彼女の信念が、静かに、しかし確実に動き出そうとしていた。

この東都中央医療センターに潜む「不浄」を暴き、排除するために。

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