私の能力、全部チートです
「ドゴォォォォォォォオオオオオオオオオオオオオ」
その日、大きな衝撃波と共に、ゼトワーン・ビトンは滅んだ。正確には、宇宙が滅んだ。周りには白い世界が広がっている。
……んんんんん?
世界は、あっけなく、滅んだ。
……いや、そうじゃなくて!ええええ?
どこからどう考えても私のせいだ。逆に私以外にこの世界を破滅できるほど強い力を持った人はいないと思う。
……身体が強靭だから生きてるんだよね。
「……これからどうするよ?」
世界が破滅した。それで終わりだ。
……ってか、神様「あまり破壊してほしくない」って言ってなかったっけ?
やばい。どうしよう。いくら女神とはいえ、神様と対立したくない。
……じゃあ、どうすれば?
私は一生懸命考えた。しかし、今までは破壊しかしてこなかったのでわからない。あれ?ものを作ることとかできたっけ?
……破壊があるなら、創造もあるんじゃね?
私は新しい世界を創造……したいところだけれど、現実はそう上手くは行かない。私はまずこの星のことを知らないし、創ったとしても人などを完璧に再現できる自信がない。
……これで詰みっていう訳では無いから、まだ救済措置はあると思うんだよね。例えば、時間を戻すとか。それができたらチートじゃね?
すると、私の頭の中に「ジャマンバック」という言葉がよぎった。そして私は自然とその言葉を発する。
「『ジャマンバック』」
次の瞬間、とてつもない速さで時間が戻っていき、マングリ・タウォが目の前にいるところまで戻った。それと同時に、私の体内に強い衝撃が走り、地面に突っ伏してしまう。それと同時に咳き込むと、地面が真っ赤になる。
……これは血?がはっ!
時間を戻す能力はチートだった。しかし、それに伴って大きな代償が存在した。
……うぅ。痛いよぉ。
「どうした?ニンゲン。もう魔力切れか?」
……違うっ!時を戻しただけ!
こいつ、ムカつく。ぐちゃぐちゃにしてやりたい。そう思った時、また頭に言葉がよぎった。そしてマングリ・タウォに向かって手をかざす。
「『メムタルバリカンアンパノラン』!」
「な、何だ!?」
何も起こらない。しかし、私が伸ばしている手を握りつぶすと、マングリ・タウォが悲鳴を上げる。
「アガガガガガ……」
「なんだこれ……?」
ディース一同がぐるぐるに潰れていくマングリ・タウォを見てめっちゃ引いてる。一番偉いおじいちゃんが、恐る恐る私に「マヤ様、アレはなんですか?」と聞いてくる。私はニッコリと笑って答える。
「時空を歪ませたのです。時空を歪ませてマングリ・タウォを潰しています」
「は……?」
そう、「メムタルバリカンアンパノラン」とは時空を操る能力だ。時空を圧縮したら、相手は絶対に逃げられない。
……このまま潰すか。
「さようなら」
「グギギギギギギギ……」
魔王軍幹部は女神により呆気なく消えた。
「すごい……マヤ様!」
「これで私達は百人力だ!」
わあああああっと歓声が上がる。褒めてもらうのは嬉しいのだが。
……それよりも早く治療をしてほしいな……。
「マヤ様!出血が……」
「本当だ!大変じゃないか!」
……やっと気づいたね。
「僕が治療します!」
名乗り出たのは、神豪の少年だ。僧侶は仏直属のジョブなので、神や女神の信仰者は神豪というジョブを名乗るらしい。
……昔は神仏習合で皆仲が良かったけれど、何らかの理由で仏だけ孤立しちゃったらしいんだよね。そのせいで仏以外の信仰者は僧侶を名乗れなくなったなんてね。
仏は一人しかいないのに、地球での信仰が大きすぎるため、権力がとても大きい。なので、「神」「魔」「霊」だけでは倒せないそうだ。
……だから私が必要なのかな?
「マヤ様、治療終わりましたよ!」
私が勝手に妄想していると、少年が声をかけてきた。
「ありがとう。感謝するわ」
「あ、ありがとうございます!」
軽くお礼を言ったら、深々とお辞儀をされて逆にお礼をされてしまった。なんで?
「マヤ様。もうお疲れでしょうから今日はお帰りに……」
「いえ、大丈夫です」
私はディースの意見を却下した。そして更に続ける。
「幹部が倒れたのなら、あちらの警備も手薄でしょう。今から攻めに行きます。ですが、貴方達の中に戦える人は……」
「マヤ様!俺、戦士です!あまり強くないけれど、少しは役に立てると思います!」
「わ、私は魔法使いです!」
「儂は武術なら行けるぞ」
私が呼びかけると、我こそはという人がズカズカと前に出てきた。
……ざっと戦える人は十人くらいか。
ディース総員五十人の内、戦えるのが十人。これじゃあ、戦えない人を守りきれない。
……強化できたらいいのだけれど。
そんなことを考えていると、いつものお約束。
「『パグソフェ』!」
そう唱えると、私の中から虹色の光が飛び出してくる。やがて大きな塊になり、ディースの戦力一人ひとりに降り注ぐ。
「え?何これ!?」
「力が湧き上がってくる……?」
……どうやら上手くいったみたいだね。
私が行ったのは、対象に一時的だが強力な力を与えることができる能力だ。さすがに私みたいな破壊力はないけど。
「これである程度力はついた筈です。さぁ、共に本拠地を取り戻しましょう!」
「はい!」
私はディースの士気も戦力も上げることに成功した。
「うわぁ……派手にやられてんな」
数日間歩き、休みながらテネクティシアから北に数百キロメートル。私達はディースの本拠地ヘンタブヌールに到着した。そこには、赤とか黄色の目が縦に連なっていて背骨にもついているんかっていうくらい目がある青色の狼がたくさんいた。
……気持ち悪っ!
これが魔王軍か。こういうのがたくさんいるのかと思うと先が思いやられる。
……まぁ、私が魔王軍を倒すわけではないけど。
気を取り直して、ディースの皆に声を掛ける。
「さぁ、貴方達。存分に暴れてやりなさい!」
「はい!」
戦う者たちは戦場に赴き、戦えないものは残り、木に腰を掛けた。私は、周りから安静にしてろと言われ、自分も世界を破壊しそうで怖いので、待機している。すると、少し寒気がすることに気づいた。
……南から北に来たから寒いな。ん?でも暑くなるんじゃ……?
ゼトワーン・ビトンは真ん中――ちょうど地球でいうと赤道のところで魔王軍領地と人間の領地が分かれている。そしてその赤道付近に今いるわけだが、少し肌寒く感じる。草木は生えているものの、背丈はどれも低い。
「……この星では、中心に行くほど寒くなるのかしら?」
「えぇ、そうですよ。真ん中には『魔山』と呼ばれる魔王軍が創った氷山地帯があって、そこから冷気が発生しているので気温の概念が逆転したのです。……実際、魔王軍は寒いのが好みなので北の方は全て寒いのですが」
……へぇ〜。
正直、私は寒いのが苦手である。絶対ポカポカしている方がいい。
「つまり氷山地帯を壊せば暖かくなるということですね?」
「?」
……絶対温かい土地を取り戻してみせるんだから!
私は次の目標が決まった。敵は魔山にあり!ってね。
「どりゃあっ!」
「くっ!」
遠くから声が聞こえる。奮闘している声もあれば、苦戦している声も聞こえる。
……なんやかんやまだ続きそうだなぁ〜。
時間の余裕があるようなので、ここで一度、私の――女神の能力について一度整理してみよう。まず、一番最初に発生した事件。地面大破壊事件。これは恐らく、足に破壊の能力が付与されているわけではなく、単純な身体強化だ。ジャンプも滅茶苦茶高かったし、飛べたし。
……私もともと力が強いから、強化されて物理的破壊神になっちゃったんだよね。
次に、エネルギー生成だ。今はまだ感情に左右されるが、大きさを制御できる。まだ破壊することしかできないが、いずれは他の使い道もできるようになるのではないだろうか。
……なんか他に使い道あるかなぁ〜。
そして、時を操る能力。これは強すぎる代わりに、莫大な代償として自分の体に大きな負荷がかかる。ちなみに今の私は血が出てくる。
……あんまり使いたくないなぁ〜。そのためにも女神の力を使いこなせるようにならないとな。
最後に、力を分け与える能力。一時的、と言っても一週間ほどでもとに戻るが、とても強大な力を与えることができる。そうはいっても、私の力の中のおよそ0.00000001%ぐらいしか分け与えていないので、あまり強くはならない。
……実際私自身も女神の力を20%しか引き出せてないのだけれど。
だいたい整理は終わった。結論、私の能力チート。うん、間違いない。
……まぁ、強い力に敵うものなんてないけど……。
「グオオオオオォッ!」
「!?」
突然巨体が現れた。よく見ると、さっきの狼の親玉みたいな見た目をしている。
……アレが親玉?いや、もう倒したよね?
「……アレはなんですか?」
「私達にもわかりません。……ですが、アレを倒せば恐らく『ディオーニ』の発生が収まるかもしれません」
……あの魔物「ディオーニ」って言うんだ。
それはさておき、この親玉は強そうだ。もしかすると、ディースの皆だけでは歯が立たないかもしれない。
……これは、私の出番じゃないか?
「私が行きます」
「本当ですか!?」
私の予想通り、ディースの皆は尻尾だけで振り払われていて、全く歯が立っていない様子だ。ならば、最強の私が行くしかない……と思った瞬間だった。
『いいのか?またこの世が滅んでも良いのか?』
……確かに。
再び聞こえてきた謎の声に私はハッとした。そうだ。またこの世界が滅んで、自分が傷を負って皆に迷惑をかけるのか。また神様の命令に背くのか。
……危ない危ない。
恐らく、今のままの状態では、またゼトワーン・ビトンは滅んでいた。またもや謎の声に助けられた。
……だけど、一体誰の声なんだろう。
そう考えていた次の瞬間、目の前の親玉が「ギエェェェェ」という悲鳴を上げた。それと同時に貫かれた巨体と血飛沫が見える。
「な、何だ!?」
「誰の仕業だ!?」
「マヤ様、マヤ様なのか!?」
……何が起きた?
理解力が低いディースの皆を他所に、私は必死に辺りを見渡す。すると、随分と分かりやすい大きな岩の上に人が立っていた。
……誰だ?見た目からして勇者か?
「……ねぇ。あの大きな岩の上にいらっしゃる方はどなたでして?」
一瞬、皆どこにいるか分からなかったようだが、すぐ見つけたようだ。見つけたと同時に、ひどく震えが起きていて、恐ろしいものを見ているような形相になった。
「ねぇ、どなたでし……」
「あ、あれは!!この国最大の王族の第一王子にして歴代最強の実力を持つ、ロスティニ・オーヴ様!!何故ここに!?」
おじいちゃんが叫んでこちらに気づいたのか、ロスティニ・オーヴはこちらを向いた。彼はなぜか私を睨んでいるようだ。
……なんか睨まれてない?私何かしたっけ?
この時、まだ私はこの出会いが何をもたらすのか全く知る由もなかった。