少しの油断で物は滅びる
前回のあらすじ。神様の手違い(ペットが暴走)により私の異世界転生のスキルが女神同等になってしまった。
・・・・・・神様が「霊」とか「魔」とか意味わからないことを言っていたけど、まぁ、気にしないでおこう。
「ピピッ。転送準備、完了」
どうやら、異世界への転送が完了したようだ。機械がそう言っている。
・・・・・・神様にとっては何でも喋るもんなの?
「本当に申し訳ない・・・・・・」
「全然いいですよ。パワーはあったほうがいいので」
私はしょんぼりしている神様を頑張って慰める。
・・・・・・いや、やっぱりパワーがあったほうがいいでしょ。
強すぎてつまらなくなることはあるが、困ることはない。力こそ正義だ。
・・・・・・あれ?全然様子が変わってないけど・・・・・・。
精一杯慰めたつもりだったが、今も変わらずしょんぼりしている。
「あの・・・・・・」
「本当に申し訳ない。君の運動神経だったら心配はいらないだろうが、一応言っておく。ほぼ確実に普通の人間の肉体では、女神の力を制御することができないと思われる。故に、世界を破壊する恐れがある」
・・・・・・え?
神様の衝撃発言に、私唖然。強すぎる力所以に女神の力を制御できないのは分かる。だけど、世界を破壊するとはどういうことなのだろうか。
・・・・・・力が暴走するとか?勝手にビームが出ちゃうとかかなー?
「あまり破壊してほしくないがな・・・・・・。まぁ、それも行ってみてからのお楽しみか」
・・・・・・え?え?ちょっと!
「転送を開始します」
次の瞬間、私の意識は遠のいた。何も考えられない私の頭の中には機械の冷たい声だけが響いていた。
『起きろ』
「うえっ!?」
聞いたことのない男性の声で目が覚めた。耳から入ってきたと言うよりかは心のなかに響いたという感じだろうか。
・・・・・・だって、今の状況じゃ聞こえないだろうからね。
目が冷めた瞬間、私は自分の状況を理解した。いや、理解せざるを得なかった。今、私は空から地上に向かって落ちている。そして、私の感想。
・・・・・・うぅー。寒っ。
不思議なことに、怖さを全く感じない。力を手に入れたからかな?
・・・・・・ってか、さっきの声、何だったんだろう。
私は、疑問を持ちながら、落下していった。少し経つと、地面が見えてきた。そして、私はよいしょっ、と森の中の地面に着陸した。が、それが迂闊だった。
「バキバキバキバキッ」
「・・・・・・え?」
周辺の地面が割れた。それもバッキバキに。
・・・・・・え?なんで?
自分の半径3メートルくらいだけだったので、気にしないことにした。
・・・・・・とりあえず、街に行けばいいのかな?
私は異世界転生モノのストーリーを思い出す。確か、転生したら、最初は街に行ってジョブを設定したり、仲間を作ったり・・・・・・。私には関係ないか。
「よーし。街に行くぞ!」
私は希望の一歩を踏み出した。
「メキッ・・・・・・ドシャァン!」
さっきよりも派手に地面が割れた。それも、一瞬で。
「ズドドドドドドドド・・・・・・」
地面が割れるのに伴い、周りの木々が次々と倒れていく。
・・・・・・もしかしてこれって、私のせい?
どうやら私が地面に足をついた瞬間、地面が割れているようだ。
・・・・・・これが神様が言っていた「世界を破壊する」ってこと?
もし、それが本当なら――いや絶対そうに違いない。
・・・・・・本当なら・・・・・・私って存在するだけでやばくない?
「そろそろ、街に着くかな?」
結局、歩くたびに被害を与えるようであれば、空から行けばいいじゃん!っていうことになった。
・・・・・・まさか空も飛べるなんて……。飛ぼうと思えば飛べるんだね、空って。
ちなみに私、今とてもご機嫌である。何故かというと、少しだけ力の使い方に慣れてきたからである。
・・・・・・空を飛ぶ速さも調整可能。途中で攻撃を仕掛けてきた空飛ぶ魔物とたくさん戦って攻撃部門も制御完了。最初は、少しの力でとてつもない爆発が起きたけどね。
いろいろ試してみたが、手を拳銃の形にして少しのエネルギーを発射するといい感じになる。そして、なんか面白いからこれを「疑似拳銃」と名付けることにした。
「・・・・・・なんかいい方法ないかなぁー」
現在の私の服装。転生前の見た目に白いワンピース。いかにも女神って感じ。
・・・・・・だけど素足なんだよね。
女神様だからなのか分からないが、靴とかはいていないのだ。おまけに歩く災害だし。
・・・・・・ワンチャン靴を履いたら地面は壊れないのかな?あ、でも靴が壊れるか。
私は切実に思った。絶対に壊れない靴が欲しいと。てか、早く地上に降りたい。地に足をつけたい。
・・・・・・破壊ができるなら創造もできるんじゃない?神よ!私に絶対に壊れない靴を恵んでおくれ!・・・・・・いや、私が女神じゃね?
そう思った瞬間、私の足が光り輝いた。
「うわっ!なにこれ!?」
光りに包まれていた私の足元は、やがて靴の形を模してくる。
・・・・・・え?何?これ、本当に靴になっちゃうの?
まばゆい光は数秒で消え、私の足には黒い靴が履いてあった。
・・・・・・これが、絶対に壊れない靴?
試しに、そこの地面に降りてみた。
「タンッ」
・・・・・・地面が割れない!え!歩ける!
走っても、ジャンプしても、地面は壊れない。
・・・・・・私、マジ感動。
歩けるだけで、こんなに感動するとは思わなかった。
「よーし!街に行くぞー!」
そう意気込んだものの、一つの悩みが解決されたことで私の中にある疑問が生まれた。
・・・・・・もしかして、手の方もやばいんじゃ……?
手から出るものは大丈夫だ。しかし、手で物を触るのとは全く違う。
・・・・・・試してみるか。
私は試しに、横にあった木に手を置いてみた。しかし、全く反応がなかった。ぺちぺち叩いてみても、思いっきり握ってみてもびくともしない。
・・・・・・え、マジすか。
恐らく、私が力の使い方に慣れてきたから融通が利くようになったのだろう。実際、少し力を解放して触ってみると、簡単に壊れてしまった。
・・・・・・力の調節、マジ大事。
とりあえず、力の調節を上手くすれば大丈夫だということが分かった。
「やっと着いたー!」
やっとの思いで最初の街、テネクティシアに到着することができた。
・・・・・・はぁ、本ッ当に疲れた!
私は思わず、ため息をついてしまった。しかし、それが迂闊だった。力が抜けたのか、私の周りに金色の光が出現してしまった。
・・・・・・やべっ。
それと同時に周りの人がこちらを見る。
・・・・・・わわわわ目立っちゃってるよ……。
絶対に悪い目で見られると思った次の瞬間、全員がザッと土下座をし始めた。
「め、女神様!私は女神様を信仰している組織の総長であります!」
・・・・・・え?何それ?
ちょっとよく分からない。私ってそんなに有名だったの?
「え?何のことですか?」
「え?貴方様が放っているそのオーラ。まさに女神様ではありませんか!」
疑問を疑問で返されてしまった。どうやら、私は人目でわかるくらい女神のオーラがビンビンだったようだ。
・・・・・・まぁ、たしかに女神だけどさぁ。
「信仰している」って言われたら、普通怖いと思う。しかも知らないおじいちゃんに。
・・・・・・これからどうしよう?
「こちらが宮殿になります。ここテネクティシアを治める領主様が住まわっております」
結局どうしたかというと、とりあえず「『マヤ』という女神」とだけ名乗り、「この世界は初めてなので案内してくださる?」ととても上品にお願いしたところ、さっきのおじいちゃんが女神を信仰している組織「ディース」のメンバーを全員連れてきてテネクティシアの案内をしてくれることになった。
・・・・・・皆親切なんだろうけど、怖いよね。
ただ女神のオーラを放っているだけでここまでしてくれるディースのみなさんが少し怖い。
・・・・・・まぁ、勉強になるからいいか。
ちなみに、この世界(星)の名前は、地球とよく似ているがゼトワーン・ビトンと言って、北が魔王軍、南が人間の領地なのだそうだ。一番大きくて、王族が住んでいる王都がハミラーブルで、側に小さい領地が十個程あるのだそうだ。
・・・・・・小さいと言っても星全体が二つに割れているから、アメリカぐらいの広さはあるだろうけれど。
ちなみに海は全く無い。陸地と海洋が九対一ぐらいだ。
「・・・・・・貴方達ディースの本拠地はどちらにあるのですか?」
話に飽きてきたところで、私はつい興味本位で聞いてしまった。すると、おじいちゃんは何の躊躇いもなく言った。
「私達の本拠地はテネクティシアから遠く離れたヘンタブヌールにあるのですが、もう既にそこは魔王軍の支配下となってしまいまして。今はテネクティシアに避難している状況なのです」
・・・・・・へぇ。意外とそういうこととかあるんだ。
まぁ、異世界で、魔王がいて、ただ単に女神を信仰している組織には対抗するすべがないのだろうから仕方がないけれど。
「お願いします!私達の本拠地を魔王から取り戻してください!」
ディース一同が深々と頭を下げて私にお願いしてきた。無礼、無謀なことだと分かっているのか、全員体が震えている。
・・・・・・やっぱり大事なんだろうな。
建物だけではなく物には必ず、人の魂が宿る。よく父親から言われていたことだ。その物を作った人、関わっている人、そしてそこに住んでいる人。これらの人々の魂―――気持ちが宿っているのだ。しかし、それらが誰かに何らかの理由から壊された時、その時が物の終わりだと。
・・・・・・まだ気持ちは壊れていないな。
気持ちが壊れていないなら、物は壊れない。
「じゃあ、取り戻しましょうか。貴方達の本拠地」
「いいんですか!?」
皆が顔をバッと上げて、少し上擦った声を出す。
「もちろん。貴方達のためですもの」
私が続けて言うと、全員の表情がパッと輝いた。
・・・・・・なんか、ちょっと嬉しいな。
「ドゴォォォォォォン」
「!?」
私がほっこりしていると、後ろで大きな音がした。振り返ると、そこにはでっかいヤモリみたいな怪物がいた。
・・・・・・ひぃいいいいいいいいいいいいいいいいいい!無理無理無理絶対無理!
虫は無理。マジで無理。
「あ、あれは!魔王軍幹部のマングリ・タウォ!何故ここに・・・・・・」
・・・・・・なんかとりあえず強いやつ来たね。
「マヤ様!あいつこそが私達の本拠地を占拠した奴らです!」
・・・・・・こいつが親玉かよ!
「マヤ様!やっちゃってください!」
・・・・・・やるっきゃないか。
私はディースの皆から大きな信頼を感じた。それだけで、私のモチベは爆上がりだ。
「私に任せなさい。・・・・・・『疑似拳銃』!」
私は感情のまま手を拳銃の形にして黄色の球を発射した。
・・・・・・やべっ。調整ミスっちゃった。まぁいっか。
私は発射してから少し後悔した。しかし、それでは遅かった。マングリ・タウォに私の攻撃が着弾した瞬間、大きな音が響いた。
「ドゴォォォォォォォオオオオオオオオオオオオオ」
その日、大きな衝撃波と共に、ゼトワーン・ビトンは滅んだ。