第38話 狂気に染まる聖戦の幕開け
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聖国 信徒兵
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「死は終わりではない!」
信者の男が叫ぶ。傷だらけの体で立ち上がるその姿は異様だった。彼の腹部には槍が刺さった跡があるにもかかわらず、すでに血は止まり、肌が新たな肉で覆われ始めている。
「聖女リリアン様がいる限り、我らは何度でも立ち上がれる!」
周囲には同じような死兵たちが無数に立ち上がっていた。彼らの眼は焦点が定まらず、狂気と歓喜が入り混じった表情を浮かべている。
その中心には「聖の勇者」リリアンが立っていた。白銀の髪が風に舞い、淡い光を放つ聖なる浄化結界が彼女の足元から広がっている。その結界に触れた瞬間、兵士たちの傷は瞬く間に癒され、痛みは消え去った。
「まだ戦えるわ…立ち上がって!」
リリアンの優しい声が響く。だがその声に宿るのは慈愛ではなかった。無意識のうちに彼女もまた教皇の狂気に染まり、信仰の名のもとに戦場を浄化の場と見なしていた。
死を恐れない兵士たちは再び魔王国の守護兵たちに襲いかかる。彼らの剣は血で染まり、矢の雨が降り注ぐ中でも怯むことなく前進を続けた。
「斬り裂け、聖なる裁きの刃よ!」
戦場の中央で、一人の若き剣士が剣を振るっていた。彼の名はセドリック。剣国の滅亡後、密かに聖国で育成された「剣の勇者」である。
セドリックは元は剣国の民でありながら、アグニウム教の狂信者へと変貌を遂げていた。
「ヴァリオス様のご意思に背く者は全て裁かれねばならない!」
彼の剣が振るわれるたび、魔王国の兵士たちは次々と地に倒れた。
「セドリック様、魔王国の国境門が見えました!」
副官が報告する。セドリックは血塗れの剣を掲げ、狂信的な笑みを浮かべた。
「門が開かれる時、ヴァリオス様の御業が完遂される! 進め!」
兵士たちは「ヴァリオス万歳!」と叫びながら魔王国の国境門へ殺到し、ついに魔王国の領土へと足を踏み入れた。
「我らにはリリアン様がいる! セドリック様がいる! ヴァリオス様のご加護がある!」
兵士たちは無数の死者をも踏み越え、前進を続けた。
「聖戦は終わらない…神の意志が完遂されるその時まで!」
教皇の言葉が兵士たちの心に深く刻まれている。彼らにとってこの戦いは単なる戦争ではなかった。
神への奉仕、浄化の儀式、そして永遠の救済を得るための「聖なる戦場」だったのだ。
こうして、狂信的な信徒たちと聖女、剣の勇者による侵攻はさらなる狂気と血で染まっていくのであった。
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魔王軍幹部 不死の大賢者ドゥラメル視点
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灰色の空に雷鳴がとどろき、不吉な風が戦場を撫でる。魔王国と聖国を隔てる国境門――その頑強な砦は、幾度となく侵攻を退けてきた。だが今日、この門に押し寄せていたのは狂信的な信徒兵たち。
「異端なる者を焼き尽くすのです!」
信徒兵たちは傷だらけの体で剣を振り上げ、叫びながら突進する。体中に刻まれた深い傷は聖女リリアンの聖なる浄化結界によって瞬時に癒されていた。
その後方では剣を構えた若き剣士――セドリックが冷ややかな声で命令を飛ばしていた。
「結界の強度は十分だ。門を破壊する!」
聖なる剣が振り下ろされるたび、魔王国の門が軋み、黒鉄の板にひびが入る。
「ちょっとちょっと~、門にそんな乱暴するなんて困っちゃうじゃないのよォ」
不意に艶めかしい声が戦場に響いた。砦の上層から現れたのは、古びたローブをまとった骸骨――不死の大賢者ドゥラメルだ。
「も~怖いわぁ、こんなハードな歓迎会なんて聞いてないんですけどォ?」
骸骨の顔には当然表情はないが、その仕草や声色は明らかに異質だった。ローブの裾をつまんでひょいと持ち上げ、軽やかに砦から飛び降りる。地面に着地すると、骸骨らしい乾いた音が響いた。
「ほ~ら、せっかくの素敵な門なんだから大事にしてちょうだい。私、修理するの面倒なのよォ」
黒い霧がドゥラメルの周囲に渦巻き、土の中から無数の骸骨兵士がせり上がってきた。
「さあさあ骨くんたち、お仕事の時間よォ! あの無礼なゲストたちをしっかり"おもてなし"しちゃいなさい!」
骸骨兵士たちは音もなく信徒兵たちに突撃する。その一方で、ドゥラメルは優雅に指を鳴らすと暗黒の結界を展開した。
「冥府の盾、はいド~ン☆ さっ、これで浄化ごっこはおしまいよォ」
結界が聖女リリアンの浄化魔法を遮断する。彼女は眉をひそめたが、すぐに結界突破の準備を始める。
「まだ諦めないなんて……ほんとしつこいんだからァ」
ドゥラメルは溜息をつきつつ、懐から一羽の黒いカラスを取り出した。
「さっ、あんた行ってきなさい。魔王様に"ただいまお客さん暴れてます"って伝えてちょうだいな」
巻物をカラスの足に括り付けながら、妙に丁寧に整えていく。
「巻き方も美しくなきゃダメなの。見た目って大事じゃな~い?」
黒いカラスは高らかに一声鳴いて飛び立った。
戦場では信徒兵と骸骨兵士が激しくぶつかり合っていた。セドリックが鋭い眼差しを向けながらドゥラメルに詰め寄る。
「貴様が不死の大賢者か? 薄汚い骸骨ごと門もろとも斬り捨ててやる!」
ドゥラメルは手を腰に当て、思いきり乾いた笑い声を上げた。
「あらやだァ!怖いわ~、そんな殺伐とした言葉使いじゃモテないわよォ? せっかくのイケメンなのにぃ~、損してるわねェ」
セドリックが一気に間合いを詰める。しかし次の瞬間、彼の足元から黒い鎖が絡みついた。
「はい、ストップ~☆ あわてないのよォ。足元注意してねェ? 転ぶわよォ?」
鎖に縛られたセドリックを横目に、ドゥラメルは優雅に舞い上がった。
「ほんと、私が生きてる間にお利口さんになってちょうだい。ま、死なないんだけどねェ~♪」
黒い霧に包まれた門は未だ健在で、ドゥラメルの不気味な笑い声が戦場にこだました。
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