双方視界
双重泪には風変わりな『質』が宿っている。それは本来在るこの世界と、もう一つの平行世界を同時に視るという『質』……。平行世界というのはこの世界を中心に枝分かれしていき、同じ時間が流れている別の世界を指す。先の世界は複数在るが泪目は左右二つしかない為、のその数だけしか見えない。どれか二つしか選ぶ事が出来ずにいるのが、とても歯痒い。(瞳の数だけしか見えないなんて、ちょっと物足りない。出来れば全部の平行世界を見たいな)枝分かれしている分だけの光景が見えたら、自身の周りでの平行世界がどんな流れなのかを知ることが出来るのに。泪は欲を持ってしまう。(折角持って生まれてきた『質』なんだから、在るだけ見えたらどれだけ楽しいか……)そんなことを思いながら泪は、いつも通りに夕飯の買い出しにコンビニを訪れた。店内にいるのは泪と、男性店員が一人だ。その時、泪の視界に今の光景に合わせて、平行世界で起きている事も映り込んだ。平行世界での光景では、高齢の男性客が入店しATMで入金をする為、男性店員に入金方法を尋ねている。(向こうの世界じゃ、ヤバイ事になってる。この高齢のお客さんは、ここには……いた!)この世界での高齢の男性客は、コンビニの駐車場で携帯電話を手に通話している。(電話の内容……もしかして……)ここでの高齢の男性客の様子を見ながら、泪は平行世界での男性客と男性店員の動きを視る。向こうの世界では男性店員が詐欺を疑い、警察へ通報しているのが垣間見てとれる。(向こうでは無事に解決出来てる。よかった……ここだと、電話をしてる時間がこっち側と向こうじゃ違う。店員さんバックヤードに入った!あ!おじいさん、店に入ってきた!)高齢の男性客の足はATMへと向かっている。(止めてくれる、店員さんは、ここでは奥に引っ込んでて出てこない……)電話をしながら高齢の男性客が財布を鞄から取り出す。(店員さん、まだ出てこない)平行世界とこの世界での行動が一つ狂う理由にはそれぞれの人物の動く方による。恐らく平行世界では高齢の男性が電話をとるタイミングが早く、この世界だと何らかの用事をしていて電話をとるのが遅くなった事にある。高齢の男性客がATMに入金しようと操作を始める。(駄目だ!その入金待って!)泪の足が高齢の男性客へと歩み寄る。「おじいさん、ちょっと、待ってくれませんか?」「え?」「その入金ですけど、金額、おいくらですか?」何故か泪の方がオドオドした態度になっている。「その……息子が会社のお金を使い込んだらしくて……五十万ほどで……」(間違いなくサギ!)「おじいさん、息子さんに電話してみて下さい。その電話、切っていいですから」(あれ?私、こんなぐいぐい行けるキャラだっけ?)「でも……今、息子の知り合いから電話が……」「切っても大丈夫ですから、確かめて下さい」泪の目を見て高齢の男性客は電話を切り、息子へと電話をかける。『はい、もしもし?』「実!」「えっ⁉父さん?何?どうしたの?」「何も問題無いのか?」「何が?」高齢の男性客が息子に電話をかけた事で、サギ被害は間逃れた。泪は男性客に何度もお礼を言われ、安堵で帰路についていた。(店員さんのお手柄、横取りしたかも)途中泪の目は近くのスーパーマーケットに向けられた。(確か、コンビニに行くかスーパーに行くか迷ってたんだっけ。スーパーを選んでて、なおかつおじいさんがATMに入金してたケースも考えられるな)複数ある平行世界では、最悪な事が起きているかもしれない。(本当にもっと見える数が増えてほしい!全部見えたら、最悪な事案を回避出来るのに)泪には二種類の世界しか見えないが、彼女の他にも沢山同じ『質』を持つ人間が存在している。彼女達はいつか出会うのだが、それはまた遠い未来。