初めてのご飯
受付の方に戻りヒーカさんを待っているとまた、冒険者たちの声が聞こえてきた。
《なぁ、何があったと思う?》
《ギルマスとか?》
《あぁ》
《何だろな。ほら、ギルマスってさぁ、何考えてんのか分からねぇとこあるじゃんか》
《確かにな》
《やっぱ、高貴な身分とかでその関係じゃないのか?》
《あ、でも、ギルドはどの国家にも属さない機関だろ。多分ギルドカードの更新とかそういうのじゃないのか》
《確かになぁ。てか、お前夢ねぇな》
はぁ、これ以上目立つのは嫌なんだけどそうも言ってられる状況じゃないか。
登録初日でランクがニつ上がるとかなぁな。
「はぁ~」
「ツバキさん?更新出来ましたよ。こちらギルドカードです。それと、ボア、クリーン草の買取金になります。どうぞ」
「え?あ、はい、ありがとうございます」
ヒーカさんは銅色から赤色に変わったギルドカードとズッシリと入った革袋を手渡した。
は、初めての報酬!
労働の重み!
ランクが上がればギルドカードの色も変わるのだろう。
「改めまして、ツバキさん、Dランク昇格おめでとうございます」
「ありがとうございます」
お礼を言うとヒーカさんは何やら俺の顔色を窺っている。
「あの、話は変わりますが、今日この後どうされるんですか?」
「ん?あ、えっと、これから宿探そうかなと思っています」
「そうですか、良かったらギルドに泊まりませんか?その、ツバキさん"常識"って言葉知ってます?」
「はい?知ってますけど」
一体、さっきから何聞かれてるんだろう。
俺が答えるとヒーカさんは質問を続けた。
「では、聞きますけど、どうやってボアを倒したんですか?」
「えっと、魔法で水の矢を作ってボアに放ちましたけど、それが何か?」
「何か?じゃありませんよ、どこのレベル20もいかない新人冒険者が百本以上の矢を魔法で同時に作れるって言うんですか!」
ヒーカさんは捲し立てて話し、「ハァハァ」言っている。
何で、そんなこと知ってるんだろう?
あ、そうか、ボアの傷跡を見てそう思ったのか。
「え?あの、魔法ってそういうものじゃ」
「えぇ、確かにそういうものですよ。そうなんですけど、魔法は己のレベルにあったものしか発動出来ないんです!例えば、ツバキさんのレベルだったらせいぜい、矢を同時に十本作るので精一杯なんですよ。だから、ツバキさんはまず"常識"を学びましょう!」
ヒーカさんに熱弁されてしまった。
まぁ実際、非常識な力を持ってるし、レベルも1300越えだしな。
よし、良い機会だ、この世界のこと、魔法のこと色々学ぼう!
「はい。お願いします」
「お任せ下さい!では、取り敢えずお部屋を用意しますね。お勉強は明日からと言うことで」
♦︎♦︎♦︎♦︎
そうして、ヒーカさんにギルドのニ階に用意してもらった部屋に行った。
冒険者ギルドの部屋は、思ったより広く、ベットもふかふかだった。
俺は、そのふかふかベットに寝転ぶと今日のことについて考えた。
本当、今日一日色々あった。異世界に召喚されるし、冒険者ギルドに登録して依頼を受けたら魔物に会って倒したらランクが二つも上がるし、なんか、非常識認定されたっぽいし。
「ねむっ。明日からは勉強だ」
ふかふかベットによって疲れが急に出てきて、俺はそのまま意識が夢の中へと堕ちていった。
♦︎♦︎♦︎♦︎
「んっっ!よく寝た」
俺は、ベットから降り、部屋を出ると一階へと降りた。
降りるとヒーカさんが待っていた。
「ツバキさん。おはようございます」
「おはようございます。ヒーカさん」
俺たちはお互いに挨拶をするとギルド内にある食堂に移動した。
「朝ご飯食べてからお勉強をしましょうか。このギルドのご飯は街の食堂にも負けずとも劣らないんです」
「そうなんですか、楽しみです!」
この世界での初めての食事!
凄く楽しみ~。
「エリナさ~ん。今日のオススメお願いします!」
異世界での食事にワクワクしているとヒーカさんはカウンターに向かって食事を頼んだ。
「は~い。あら、ヒーカちゃん。誰、そのイケメン?もしかして、彼氏~?」
呼ばれて出てきたのは若くて美人で気の良さそうな女の人だった。
「ち、違いますよ‼︎冒険者さんです」
ヒーカさんは彼女の質問に慌てた様子で答えた。
慌てることないのに、そもそも、ヒーカさんと俺なんかとじゃ釣り合いなんて取れのに。
「またまた、照れちゃって~。ヒーカちゃん可愛い~」
「あの?」
戸惑って声をかけると女の人はこっちを向いた。
「ごめんなさいね。私はエリナ、このギルドの食堂で食事を作ってるの」
「どうも、俺は昨日登録した新人冒険者のツバキと言います」
お互いに自己紹介すると、突然ヒーカさんのお腹がなった。
「すみません。エリナさん、朝ご飯お願いします」
「ぷっ、分かったわ。ちょっと待っててね」
ヒーカさんが恥ずかしそうに顔を赤らめるとエリナさんが少し吹き出してカウンターの方へと戻っていった。
「では、ご飯を待つ間に今日勉強する内容でも決めちゃいましょうか」
「そうですね。あの、お腹大丈夫ですか?」
「ツバキさん!それは忘れてください」
「はい、分かりました」
俺がヒーカさんを少しからかうとまた、ヒーカさんは顔を赤らめた。
必死に忘れさせようとしてくるヒーカさんに思わず笑いそうになった。
「気を取り直して、ツバキさん何を勉強したいですか?」
「そうですね~」
何が良いかな。
ただ、これから生活していく上で必要なのはこの世界の地理や経済的なこと、そして、法律か。
俺が、何が良いか考えているとエリナさんが料理を運んできた。
「はい、どうぞ。オムレツよ」
エリナさんが運んできたのは地球と同じ色、同じ見た目をしたオムレツだった。
「わぁ、美味しそうです」
「ツバキさん、"美味しそう"ではなく"美味しい"です。エリナさんが王都でお店を出したらすぐに人気になると思うんですけどね」
ヒーカさんはそう言うとオムレツをじっくり見つめ、「いただきます」と言いって食べ始めた。
そして、ヒーカさんの顔がみるみるうちに光悦した表情になってゆく。
それに釣られて、俺も目の前に輝くオムレツを食べた。
うっま!
なに、このふわっとして、そして口の中でトロトロと溶ける食感!
こんな美味しいオムレツ初めて食べた。
俺がオムレツに感動しているとヒーカさんが驚異のスピードで食べてしまい天を仰ぎオムレツの余韻を味わっていた。
「はぁ、何回食べてもエリナさんの料理は格別に美味しい」
「同感です。こんな美味しい料理初めて食べました」
二人でこのオムレツについて語り合い、ふとエレナさんの方を向くと恥ずかしそうに笑っていた。
「二人とも、そのくらいにしてくれない。そんな事より、さっき二人が話してた事だけど、"魔法"はどうかしら?」
「さっきの話‥‥‥?あ、オムレツですか」
「違うわ、ヒーカちゃん。何を勉強するかって話よ。ツバキくんてさ、あの例の子でしょ?だったら魔法が先決じゃない?そもそも、オムレツと魔法ってどう繋がるのよ」
エリナさんのヒーカさんへの鋭いツッコミが決まった。
ヒーカさんも納得したような表情を浮かべていた。
えっと、例の子?何それ。
俺、どんな噂になっているのだろう?
「そうですね、確かにそれが一番いいかもしれませんね。あ~、でも、私、座学は教えられても実技は出来ませんよ」
「そこは任せて!提案したからには実技の方は私が教えるわ」
俺を置いて二人の話はどんどん進んでゆく。
「え!本当ですか!ツバキさん凄いですよ、伝説の冒険者パーティの魔法使いが教えてくれるなんて早々ないですよ」
ヒーカさんは顔を高揚させ語ってくる。
どうやら、俺は魔法を学ぶことが決まりつつあるらしい。
「あの、置いて行かないでもらって良いですか?全く話が掴めないんですけど」
俺がそう言うとヒーカさんは"しまった"というような表情に変わった。
ヒーカさんて結構分かりやすいな。
「ご、ごめんなさい、ツバキさんはレベルに見合わず魔法がとんでもないので魔法を学ぶことが一番今、ツバキさんに必要だと思いまして、私は座学を実技は伝説の冒険者パーティの魔法使いのエリナさんが教えます」
伝説の冒険者パーティか、エリナさんて見た目そんな感じしないけど強いのか。
「そうですか‥‥‥、そうですよね!分かりました。その、お願いします!」
「はい!」
「それじゃ、私は今日の仕込みしているから何かあったら呼んでね」
そう言うと、エリナさんはカウンターの方へ戻って行った。
そうして、俺の魔法の勉強が始まった。
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