レベルアップと受付嬢の決意
ヒーカさんに付いていき、階段を上がっていくと一際大きな扉があった。
入ると、イケオジ風の男の人がいた。
多分だけどこの人がこのギルドのギルマスなんだろう。
「おぅ、ヒーカ。そいつが例の奴か」
ギルマスは俺に目を向けるとヒーカさんに尋ねた。
例の奴?
「はい。こちらが、ツバキさんです」
「あの?」
全く話が見えない。
「すまない。俺は、このギルドのギルマスのザフレだ。よろしくな」
「はい。よろしくお願いします」
挨拶すると、ギルマスは、机の前にあるソファーに移動しお互い向かい合って座った。
「では、本題だ。ツバキ、お前がボアを討伐したというのは本当か?」
「あ、はい。依頼で薬草を取りに森へ行った際にボアに薬草を奪われまして、それで、魔法で倒しました」
俺がボアを倒した経緯を話すとギルマスは少し考え込んでいた。
「そうか、経緯は分かった。だがなぁ、Fランクの新人冒険者が格上の魔物を倒すなんてそんな事初めてなんだよ、しかも、今日登録したてのだ。はぁ」
「はい。すみません」
ギルマスの愚痴じみた話し方に思わず謝ってしまった。
「何で謝る?まぁ良い。さて、ボアについでだが、恐らくヒーカからも話があっただろう、こちらで買い取らせてもらう。買取金は後で受付で受け取ってくれ。そして、お前のランクをDランクに上げる」
「へぇっ?」
ギルマスのまさかの言葉にまた素っ頓狂な声が出てしまった。
「はぁ。何を驚く、当たり前だろう。格上の魔物を倒したんだからな。しかも、Dランク最強魔物、ランク上げねぇと実力と見合ってねぇだろうが。さて、話は終わりだ。ヒーカ、ツバキのランク更新頼む」
「承知しました。では、ツバキさんいきましょうか」
俺は呆然としたままヒーカさんに言われるままについて行った。
♦︎♦︎♦︎♦︎
ギルマスの部屋を後にした俺達は冒険者登録をした時に力を測った鏡のある場所へ来た。
「ツバキさん、鏡に前の様に触れてください」
「はい」
そして、本日二回目の鏡に触れた。
書かれている力は、本来の方は変わっていなかったが偽装の方に職業として冒険者が追加されており、レベルも11から15になっていた。
「おぉ、凄いですね。レベルが四つも上がってますよ!私はギルドカードの更新をしてきますので受付の方でお待ちください」
そう言ってヒーカさんは俺のギルドカードを持ち、奥の方に行った。
♢♢♢♢
私、ヒーカは今日登録したばかりの冒険者であるツバキさんのランク更新をしにギルドの裏にいった。
ツバキさんは、見た目は貴族の様な風貌を持つ綺麗な方で、今日、彼がギルドへ来た時ギルド内がツバキさんに視線を向けざる負えない程に目立っていた。
かく言う私も彼に魅了された1人だった。
恐らく全受付嬢が自分のもとに来て欲しいそう思っていたに違いない。
ツバキさんが薬草を取りに行った際には、私も含め彼話しばかりで盛り上がってしまった。
ツバキさんは、マジックバックを持っていたり薬草採取で格上の魔物を倒したりとギルドに来た時以上に目立っていた。
本人は、どこか目立つことがイヤなようにも見え、それが余計にツバキさんを貴族や王族なのでは無いかという周りの疑惑に結びつけてしまった。
しかし、ギルドに所属する者への出生や身分などに関することへの詮索の不可は暗黙のルールとなっている為、気になっても、誰も彼のことを詮索することが出来ない。
「ヒーカ、ちょっと良いか?」
私が彼のギルドカードを更新しているとギルマスがやって来た。
本当に、一日でランクを二つもあげた人なんで見たことがないわ。
「はい、大丈夫です。どうかしましたか?」
「ツバキのことなんだが、ヒーカ、アイツに"常識"を教えてやってくれないか」
「"常識"ですか。また、どうしてそんな事を?」
ギルマスの考えている事に全く私は理解が出来なかった。
「アイツが討伐してきたボアの死体を見たか?あれはレベル11の者が打てる範疇を超えている。アイツが何者か詮索するつもりはないが、アイツが無知のままでいれば後々、自分自身を壊してしまいかねない。俺は何人もそういう奴を見てきた。だからこそ、アイツにはそうなって欲しくない。すまないが、頼まれてくれないか?」
そう話すギルマスは何どこか遠い目をしていた。
この人はもとは冒険者として活躍していた事もあったし、ギルマスとなってからも長い。そんな人がいうのだから断るなんて選択肢、私にはなかった。
それに、ギルマスはよく"無知は時に己の危険を招く"と言う。
私にはまだその意味はちゃんと理解出来ないけど、何だかここでツバキさんのことを断ればイヤな未来に突き進む気がする。
「はい、分かりました。お任せ下さい」
「ありがとな」
私が引き受ける旨を伝えるとギルマスは安心した様に、フッと笑うと部屋へと戻った。
私はツバキさんが討伐してきたボアを思い出して考えていた、あのボアには正確なところは分からないけど、百本以上の矢に刺された様な傷跡が目立っていた。
ん~、確かにあれはツバキさんのレベルではできる範疇を超えていたわね。
しっかり、ツバキさんに"常識"を教えるぞ!
私はそう意気込み彼が待つ受付の方に戻った。
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