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キリトン草

テントで目が覚めると、テントの中には俺と呪いをかけられていた冒険者しかいなかった。

呪いをかけられていた冒険者は後遺症などの心配があるため無闇に起こさずそっとしている。

ちゃんと息はしているみたいで一人で安心していた。


「お、ツバキ、起きたか」

冒険者の安否確認をしていると天幕をくぐりギルマスが入ってきた。

「おはようございます。すみません、俺が最後みたいで」

「気にすんな。一番の功労者に無理はさせんよ」

ギルマスは俺の肩に手を置くと、そう言った。

「皆さんもう起きてるんですか?」

「あ、あぁ。とっくに起きてるぞ」

そう言いつつギルマスは呪いをかけられていた冒険者の元へ向い容体を確認する。


「その方、大丈夫みたいです」

ギルマスが容態を確認しているのをみて、いち早く伝える。

「そうみたいだな、だが、意識は戻らんのか。あ、お前はさっさと朝飯食べろ。今日は街に帰るだからな」

「はい」

俺が伝えた容態を一応、確認にすると自分の荷物をまとめながら朝ごはんを摂るように言う。

「あ、それと、きついかもしれんが今日の午後には街を立つ。いいな?」

「えっ、今日立つんですか?」

ギルマスが思い出したように言った言葉に思わず聞き返してしまった。

「あぁ、そうしないと予定通りにならんからな」

「そ、うですか」

「じゃ、そういうことだから。飯食ってこい」

「‥‥はい」

今日も今日とて忙しい一日になりそうだなと思いながら天幕の中から出た。


♦︎♦︎♦︎♦︎


「お、ツバキくん。おはよう」

「おはようございます、ツバキさん」

天幕を出るとハンギュさんのアレンさんが一緒に火の番をしながら声をかけてきた。

「おはようございます。ハンギュさん、アレンさん。火の番ですか?」

「あぁ、さっきまではザフレがやってたんだよ。交代制で、俺とザフレとアレン、あと、ハンスさんでな」

「えっ、俺にも声をかけてくれれば良かったのに」

「今回はツバキくんが一番活躍してだから、やめておこうと言う話になったんだよ」

彼らの心遣いが凄く嬉しく感じた。

俺とハンギュさんが話している横で、火が弱回らないようにアレンさんはひたすらに薪を焚べていく。


「あ、そうだ。ツバキさん、朝ご飯まだですよね?」

「あ、はい」

「じゃあ、ちょっと待っててくださいね」

ハンギュさんと俺の会話が途切れたところでアレンさんが火の番をしながら何かを焼いていることに気がついた。

朝ご飯かな?

気がつけばとてもいい香りがあたりに充満している。

「この匂い、魔物とか寄って来ないんですか?」

「大丈夫ですよ。天幕がある周囲には魔物を弾く結界が張ってありますし、昨日の討伐で魔物の数も減ってるみたいですから」

「そうなんですね。あの、因みに何を焼いてるんですか?」

「あ、これ、昨日、ツバキさんが来て早々燃やしたジャイアントベアーらしいです。覚えてますか?えっと、西の隊だったのかな?」

こんがりと焼けつつあるそれを見ながらアレンさんはそれがなんなのか説明する。


昨日‥‥燃やした‥‥ベアー?(熊さん?)

アレンさんの言葉に昨日のことを鮮明に思い出そうと頭を回転させる。

ここに来て早々ってことは‥‥‥あ、だめだ。

昨日がむしゃらに魔物を倒し続けたから全く覚えてない。

何を倒したか、それを記憶するよりも倒してしまったほうがずっと楽だったから。


「覚えてないのか?ツバキくん」

「ハンスさん」

いつ倒したか頭を悩ませていると、森の奥から何かを手に持ったハンスさんが現れた。

「おはよう、ツバキくん」

「おはようございます。それで俺が倒した熊さ‥‥ジャイアントベアーってなんですっけ?」

「はぁ、本当に覚えていないんだな。魔法で丸焦げにしたってことはアレンくんから聞いたよな?俺から説明するとしたら俺と出会う少し前に倒した一匹の魔物だ」

手に持っていたものを置きながらハンスさんは説明してくれる。

なんだろう‥‥凄く出てきそう‥‥‥。


「あっ!あれかっ!」

全く意識をしていなかった‥‥‥。

魔法の残滓を頼りに創造魔法で解除した時、目の前に広がっていたのはギルマスが剣を持ち、その前には巨大な何かが立ち塞がっているそんな光景だった。

今にも襲い掛からんとする様子に考えるよりも体が動いて、あれがどんな魔物だったとか、考えもしなかった。


「思い出したか?本来あれは、Bランクの人間が束になって戦うものだからな」

「えっ、でも、ギルマスは一人で戦ってましたよね」

「あぁ、あいつは引退したとは言え、元はAランクだ。その中でも上位のな。Sランクも近いと言われていたんだが。まぁ、そんなわけだからあいつは一人でもいけたんじゃないか?」

「適当なことを言うな。結構ギリだったんだぞ」

天幕から出てきたギルマスが、ハンズさんの言葉を聞き反論するように言う。

「何言ってんだ。鬼神の如き活躍だったじゃないか」

「言っておくがな、数時間も戦い続けてのあれだぞ?諦めかけてたわ」

呆れた顔をしながらギルマスはハンズさんに反論する。

にしても数時間戦いたい続けてもなお、前線で戦ってたのかあの時‥‥この人本当に人間なのだろうか。

俺がいえた義理じゃないか。


「まぁ、いいじゃないか。結局はツバキくんが倒したわけだ。さ、飯を食べろ。街へ帰るんだろう?」

ハンズさんとギルマスの言い合いをハンギュさんは止めると、焼けたらしいジャイアントベアーの肉を食べるように差し出してきた。

香ばしくていい匂いだ‥‥。

熊肉は初めてだから若干の緊張はあるけど、この世界に来て数ヶ月が経ったから抵抗感は無くなった。

慣れって怖いな。


「美味っ!」

肉に齧り付き、あまりの美味しさに思わず声が漏れてしまった。

肉汁が口の中で広がっていく、香ばしさとともに風味も感じる‥‥あり得ないくらいに美味しい!

「美味そうに食べるな」

感心するようにギルマスがそう言う。

考えてみれば俺、野宿というかこういうご飯この世界に来て初めてだな。

依頼で森に来ても、一日で住むような依頼ばかりだったし、たまにはこういうのもいいかもしれない。

「そうだ、これも食べるか?」

しみじみと考えていると、ハンズさんがやってきた時に手に持っていたものを差し出してきた。

それは青々としていて何かの葉っぱにしか見えない‥‥。


「これ、なんですか?」

「疲労回復に効果のある薬草だ。効果は保証するぞ」

「じゃあ、いただきます」

「ちょっと待て、本気で食う気か?」

「えっ?あ、はい」

ハンズさんから疲労回復に効果のあるという薬草を受け取り食べようとすると、ギルマスがギョッとした顔をして質問をしてきた。

戸惑いつつ、返事をすると頭を抱えていた。

「はぁ。お前妙なところで野生っぽいな」

ため息混じりのその言葉に、俺の周りにいる全員がコクリと同意をしめした。


えっ?なんで?

地球にいた頃はベビーリーフとかパセリとか草ではないけど、似たようなもの食べてたし俺にとってみたら、魔物を普通に食べているこの世界の人の方が野性味に溢れていると感じるだけど。

「良いじゃないか。ツバキくん、食べてみろ」

「‥‥いただきます。ぶっ!み、水!口がぁぁ!」

食べてみると口の中に苦味が広がる。

不味すぎ、口の中では異物と判定されているようで、反射で口から吐き出した。

しかし、口の中には風味がいまだに残っている。

「まぁ、そうなるよな」

「勇気入りますよね、これ。効果はあるんですけど」

「貴重な薬草だからそれなりにギルドに依頼がくるが、なんせ味がなぁ」

「み‥‥みず‥‥くだ‥さい‥」

俺の叫び虚しく、ハンズさんは声を殺して笑い、他の三人はしみじみと語っていた。

なんとか最後の力を振り絞って水をくれるように訴えるとようやく俺の手元に水がやってきた。


「ぶはぁ!なんですか、これ!」

「キリトン草。疲労効果、目覚ましにも使われる薬草だ。通常はすり潰して治癒薬なんかになったものを飲む。味は‥‥食べた通りの味だな」

俺の質問にハンズさんは淡々と不味いこの薬草について説明していく。

「そもそもお前、鑑定持ちなのに何で気づかないんだよ」

「それは、あまり人から貰うものとか‥鑑定するのは失礼かなと思って」

「はぁ、全く。謙虚さは大事だが、冒険者というものは自分の身は自分で守らないと、生き残れないぞ」

ため息混じりのその声に俺は確かにと、思った。




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