街の混乱と収束
ライザイの街の冒険者ギルドに残ったD以下の冒険者たち、それに領主邸により派遣されてきた騎士たちが避難状況の確認をしていた。
私—アレシアもその中の冒険者の一人だ。
今の所街への魔物の侵入は確認されていないけど、何があるか分からないし気は抜けない。
それに彼—ツバキくんのことも気になる。
突然倒れたかと思えば、一瞬の隙をついて部屋から抜け出し、今も行方不明。
倒れたことに申し訳なさを感じていたみたいだし、もしかしたら‥‥‥‥そんな嫌な想像をしてしまう。
けど、多分ツバキくんなら大丈夫だろうと信じることにした。
まぁ、どうしても気になってしまうんだけど。
「シア、領主邸のシェルターの状況は?」
「えっと、まだ数名余裕があるみたい」
避難状況について改めて確認していると、少し歳の離れた私の幼馴染で、この冒険者ギルドの職員であるレイが話しかけてきた。
私にとってはお兄ちゃんみたいな存在だ。
けど、人の目がある時にはレイから敬語で話すように言われている。
ギルド職員と冒険者の個人的な付き合いによって機密性の高い情報が漏洩した事件があってからはギルドの方も神経質になっているようで、タメ口で話す冒険者に対してあまり快くは思っていない節がある。
もちろん、高ランク冒険者ともなればその辺が緩くなるけど、私はまだまだひよっこの域をでない。
タメ口で話すことで変なやっかみを受けるのは嫌だし、何よりレイに迷惑をかけてしまうことが自分のこと以上に嫌だ。
まぁ、二人の時はタメ口で話すけど。
「了解。‥‥‥あの若い冒険者のことが心配だろうが、頑張ってくれ」
レイは私の肩に手を置き、励ますように優しい声で言ってくれた。
「ありがとう、でも大丈夫。そうだ教会の方はどうなってるの?」
「問題ない、と言いたいところだが物資の確保が困難だ。考えたくもないが長期戦になることを想定した場合には教会に備蓄してある分だけでは避難人数分に行き渡らない。領主邸ではある程度の蓄えがあるみたいだから、物資を分けてくれないか交渉中だ」
私の質問にレイは渋い顔をしながら答える。
教会の物資は基本的にこのような状況を想定して蓄えられているものではないはずだ。
シスターの知り合いに聞いた話だと、教会に備蓄されている食糧などは教会本部からの配布とは別に、街の人からの寄付によるもので、年によって若干の変動があるらしい。
だから、レイが渋い顔をするのも納得できる。
「そうなんだ‥‥こっちに何人か受け入れられないか確認してみようか?根本的な解決にはならないけど、食糧なら少しは余裕が出るかもだし」
「いや、良い。今は逃げ遅れている人がいないか騎士団の人たちと冒険者が駆け回っていて、移動に人手を裂けない。それにもし逃げ遅れていた人が老人や妊婦、子供だとしたら領主邸の方に避難させたいから、余裕は残しておいてくれ」
「分かった。でもレイ、そこまで独断で決めて良いの?」
ここまでレイと話してきて感じたことをそのままぶつけてみる。
ギルドマスターが前戦で戦っている今、代理でギルドマスター代行をしているのはユリアさんだ。
「あ、大丈夫だ。住民の避難についてはユリアから一任されているから、報告を回せば問題にはならないはずだ」
「そっか、なら安心だね。もし何かあったら教えて」
「了解。じゃあ、また後で」
「うん」
レイは片手をあげるとそのまま別の職員の方へ向かった。
流石にできる男は違うな。
顔もイケメンだし、仕事もできるし、無駄にスペック高いんだよな、レイって。
っと、こんなこと考えている場合じゃなかった。
「ご苦労様です。逃げ遅れた人ってどのくらいいますか?」
レイから街にまで逃げ遅れている人がいないか騎士や冒険者が駆け回っていると言っていたので、領主邸へ受け入れ体制を整えるために、街から戻ってきたであろう騎士に聞く。
「あぁ、えっと、八十代の女性とその女性の孫の三歳の少年を保護しました。その他の逃げ遅れはいません。二人については領主邸への受け入れが可能でしたら、そちらに」
「領主邸には数名の余裕がありますので、受け入れは可能だと思います」
「では、お願いします」
「了解です」
逃げ遅れた人について確認を終えると持っていた紙にさっとメモすると、近くにいた職員さんに概要を説明して渡すと、立ちっぱなしで披露していた体を椅子に沈めた。
ちなみに概要を説明した職員さんにしっかりと許可はとってある。
私だって無断で休憩なんて気が引けるもの。
まぁ、忙しなく動く冒険者、騎士、ギルド職員を見ていると自分だけ休んでいることが申し訳なくなるのもまた事実。
でも、無理して働く方が体に悪いしね。
「あの、資料を纏めたので確認していただけますか?」
休憩していると後ろから私と同じでランクが足りず、ここに避難誘導や雑務を押し‥‥任された冒険者らしき女の子が立っていた。
「えっと、私はギルドの職員じゃないから、この資料はそこにいる職員さんに渡してもらえるかな」
「あ、でも、さっき‥‥騎士さんと避難状況の確認をしてて‥‥あれ?」
自分が何をいっているのか分からなくなってしまったのか、女の子は資料を持ったまま呆然と立ち尽くした。
でも、この子が勘違いしたのも無理はない。
私がツバキくんの看病をしている間、他の冒険者たちは街へ避難誘導をしていたし、ギルドの職員は魔物の暴走での被害状況などの資料で手一杯で避難状況の把握まで手が回っていたかった。
そこにツバキくんが部屋から勝手に抜け出して、することがなくなっていた私に白羽の矢がだったというわけだ。
こんなひよっこに状況把握なんて仕事をさせて良いものかと思っていたけど、出来る限りでも職員は手伝ってくれるし、既存の資料をもとに確認を取るだけだったので、思いの外楽だった。
そのうち手の空いたレイのような職員が避難状況の手伝いに回って来てくれたというわけだ。
そのことを女の子に説明すると、なぜか高速で頷き始めた。
「どうしたの?」
「あ、いえ。私も先輩みたいな冒険者も事務仕事も完璧にこなせる女になりたいと思って」
「はぁ‥‥?」
突然の先輩呼びと、斜め上の解答に返す言葉が見つからない。
「じゃあ先輩、私、この資料を職員さんに確認してもらって来ます!」
「あ、うん。いってらっしゃい」
後輩?の勢いに負け、思わず見送りの言葉を言ってしまった。
やる気があるのは良いことだけど、目指すのならもっと上の人を参考にすれば良いのに。
でも、嬉しかったかな。
「‥‥シアさん、アレシアさん!」
「はい!‥‥レイ、さん」
私はいつの間にか椅子に座っていた寝ていたようで、レイに肩を揺すられ起こされた。
危うく敬称なしでレイの名前を呼ぶとこだった。
「疲れているなら、二回の部屋貸すぞ?」
「大丈夫。十分に寝たから」
「そうか」
小声になりながらタメ口で話すレイに、背伸びをしながら答える。
「それより、何があったの?」
「あぁ、避難誘導が終わった。それと領主邸からの物資の確保も出来た。あとは、討伐隊が魔物を討伐してくれることを待つだけだ」
レイのその言葉を聞いて安心した感情が込み上げて来た。
避難中に怪我をした住民もいたみたいだけど、幸い取り残されている人はいないし、一安心だ。
けど、魔物が街の中に入って来てしまったら?
まだ完全に安心するのは早いよね。
「そっか。そうだ、街に入って来た魔物たちはどう対応すれば良い?」
「それなら、領主様の騎士とさっき帰って来た冒険者をメインとしてDランク以下の冒険者は後方支援に回って欲しい」
「了解。‥‥戻って来たんだ、討伐隊」
「あぁ。とは言っても一部だけだけどな。報告がてらに怪我人を運んできたらしい」
「ツバキくんは‥‥?」
「さぁ、いなかったと思うが」
「そう‥‥」
信じてはいるけど、私と同じDランクのツバキくんが魔物の暴走という大災害で怪我なんかをしていないか、唐突に不安になって来た。
討伐隊の中で最もランクの低い彼が怪我人としても冒険者としてもいないとなると‥‥。
そんなことを考えながギルドの入り口を見ていると、入り口付近に丸い魔法陣が現れ、光り始めた。
「何‥‥?」
「あの魔法陣‥‥転移か!」
レイは現れた魔法陣を見ると思い出したように叫び、魔法陣内、その付近にいた人たちに離れるように指示を出す。
その声に驚き、冒険者や職員たちは慌ててその場から去った。
「レイさん、一体‥‥」
ユリアさんが不安そうな顔で近づいてきた。
「これは転移の魔法陣だよ。これを使えるということは‥‥教会からの派遣か」
「それって、教会治癒士派遣部隊ですよね。あんまり依頼を受けているところ見たことないです」
レイがユリアさんに説明しているのを聞き、気になったことを確認のために質問をする。
ユリアさんがいるから敬語で。
「それは基本的に彼らは援護に周るからですよ」
光の正体が分かったことで安心してらしいユリアさんは私の質問に微笑みながら答えてくれた。
教会治癒士派遣部隊は教会により冒険者ギルドによって派遣された人たち。
ギルド内ではっきりと存在を認識したことはなくて、私は話にしか聞いたことがない。
「派遣部隊の説明は後で。今はそれより、出迎えの準備をしよう」
「そうですね」
魔法陣の光が眩しいほどに輝き始め、私たちは冒険者たちが怪我していた時用の治癒薬があるかを確認してた。
準備し終えた頃に、光の眩しさがより一層強まり、目が開けられないほどになった。
しばらくして眩しさが軽減され、目を開けると、魔法陣の上に数名の人影が見えた。
「ユリアさん、レイさん。ただいま戻りました」
「お疲れ様です。ご無事で何よりです」
「お帰りなさい、シリアンさん。ですが、魔法陣での転移、もう少しどうにかなりませんか?」
人影の中の若くて、私と同じくらいの男の子がユリアさんとレイに声をかけていた。
レイの言葉からこの人が教会治癒士だと分かり妙に緊張してきた。
「ははは。えっと、考えてみます。じゃなくて、報告に来たんです」
ノリツッコミをするように教会治癒士—シリアンさんがレイに言う。
「あ、はい。お願いします」
「すぅ、魔物の暴走は沈静化しました。街への被害は限りなく低いと思われます」
シリアンさんはゆっくりと口を開くとギルド内に響き渡るように報告をした。
でも、不思議なのはシリアンさんは別に声を張り上げているわけでもないことだったりする。
それよりも報告の内容に安心した。
緊張感の漂っていたギルド内も安堵に包まれた。
「あ、あの」
安堵に包まれるなか私は気がかりなことがあった。
それはもちろん、ツバキくんのことだ。
魔物の暴走が沈静化したのならツバキくんはきっと無事なはず‥‥けど‥‥。
「えっと、冒険者の方ですか?」
「はい、アレシアと言います」
「僕に何か?」
シリアンさんは不思議そうに私を見つめた。
「あの、ツバキ‥‥えっと、碧目で茶髪の若い冒険者を知りませんか?」
「ツバキさんですか?知ってますよ。今回の魔物の暴走の原因を止めたのが彼ですから」
「えっ、えっ、えぇ~!」
私はシリアンさんの言葉に本日二度目の大声を出した。
だけど、長い長い一日が彼の手によって終わりを告げられたことに安堵した。
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