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判断の鏡の裏話

俺、ザフレは夜が明け、冒険者として活動していたせいか、ほんの数時間で目が覚めてしまった。

それはハンズこと、ルイナスも同じだったようでテントから出ると焚き火を焚いていた。


「ザフレ、起きてきたのか」

「あぁ。なんだか目が覚めて」

ルイナスの横に座りつつ答える。

ここ一帯の魔物は掃討しているし、ライザイの冒険者ギルド、ギルドマスターであるハンギュの連れていた教会から派遣された冒険者の張った結界のおかげで魔物の気配すらない。

あったら、テントの中で熟睡しているハンギュが、誰よりも早く起きているだろうしな。


「にしても、すごい騒動に巻き込まれたな」

「魔物の暴走についての兆候はなかったらしいし、四皇位たちが関わっているのかもしれない。もし、そうならば早急に勇者を‥‥‥あ‥」

重要な秘密についてポロリと口から出てしまった。

緊張がほぐれていたのか、それとも逆に四皇位という存在をとうとう無視できない状態、つまり、単なる周期的に起こる魔物の暴走だと思えない状態が起こってしまったから、誰かと気持ちを分かち合いたかったのかもしれない。

「勇者かぁ‥‥‥。お互いに色々あるな」

「‥‥‥そうみたいだな」

俺の言葉に何かを察したのか、思い出したのか、ルイナスは遠い目をしながら答える。

ルイナスは俺のギルドマスターとして知り得る情報を詮索しない、俺もルイナスの表も裏も仕事について深くは詮索しない。

それは自分の立場を守るためでもあるし、お互いの立場を守り合うためでもある。


たとえばギルドの機密情報が外部に漏れたとして、漏洩した犯人が違くとも、俺と深い関わりがあるルイナスが疑われかねない。

ただ疑われるだけならば、さほど問題はないだろうが、ルイナスの出自と現在の職、地位を考えると、そうもいかない。

俺も詳しくは分からないが、貴族の地位は呆れるほどに脆い、これだけは言えるだろう。

一度の不祥事も家柄に傷をつける。

どんなに高名な家系でも、揉み消そうともがいても、情報というのはどこからでも広がるのだ。


そんなわけでルイナスの現在の地位を守るためなわけだったりする。

それに見方をかければ俺の立場も守れる。

まぁ、今のギルドマスターという地位に固執しているわけではないけど、それなりに充実しているし手放したくない気持ちもある。

それに責任ある立場のものは中途半端に投げ出すことは許されていない。


で、俺にとっての利点は、貴族との関わりを大っぴらに知られないということだ。

これに関してはルイナスが商人として化けているから、あまり考えないが、もしもの時がある。

ギルドの機密情報を渡したのは貴族と仲がいいお前だろ、なんて言われなら反論したくても無実を訴えるだけの証拠もない。

それに国家レベルの秘密を胸に秘すだけの覚悟は俺にはない。


「よく考えればお前、良く貴族なのに冒険者ギルドに登録できたな」

場の空気が悪くなっており、全く関係のない、話をルイナスにふった。

「それなんだけどな、実は判断の鏡には穴があんだよ」

焚き火に薪を焼べながら、ルイナスは答える。

「穴?」

「そう。判断の鏡は人の思考を魔力で読み取る魔道具だから、じゃあ強く嘘情報を頭で念じればそれがそいつの結果になるわけで。まぁ、そんな方法でギルドに登録できたんだよ」

登録できた経緯があまりにも、なんというか、詐欺だなもうこれ。

ともかくそんな方法で登録した冒険者はルイナスを除いていないだろう。

にしても、ルイナスはこれだけのことを考えつく柔軟さがあったのだろうか?


「言っておくが考えたのは俺じゃないぞ。これは弟の仮説でな。まぁ、正直なところ本当に行けるとは思って行けなかったが」

「でたな、弟。何者なんだよ、お前の弟は」

「さぁな。ただ、幼い頃からいろんなものに対して興味があり、いつの間にか、領地を盛り起こすほどの発明をした、これが弟だ」

至極最もそうに言うルイナスにため息が出る。

ルイナスの弟は話には聞いたことがあるが、実際に会ったことはない。

知っているのは画期的な発明で、痩せる一方だった領地を盛り起こした天才。

あと、この国(ナズラタン王国)の王太子であるアルベルト殿下の学友だったこと、くらいだ。

ただ話を聞いているだけでもルイナスの弟がとんでもない人物だとわかる。


「確か弟に領地経営を任せてんだろ?」 

「あぁ。ユウガー家当主代理としてな。まぁ、俺としてはこのまま、あいつに全部任せてしまいたい」

ため息を吐くようにルイナスは話す。

「そういえば弟は何歳なんだ。大分、歳が離れていた気がするが」

「えっと、俺と十五歳差だから‥‥ちょうど十五歳か」

「ツバキと同い年か。‥‥っていうか、今の十五歳ってみんなあんな、なのか?」

身の回りにいる十五歳、ツバキやルイナスの弟、そして王太子のアルベルト殿下を思い返しながら、十五歳ではあれが普通なのだろうかと思う。

「さぁ、でも少なくともあそこまで規格外ではないだろうな」

「だよな。そうだ、俺が口出しすることじゃないが、まだ成人前の子供に領地経営を任せていいのか?ユウガー伯爵家の発展を快く思っていない貴族も多いんだろう?」

「そうだな。俺の表向きの職に対してもだが、領地は痩せていく一方で財政面は騎士団長としての収入を頼るしかなく、没落貴族とまで言わしめたユウガー伯爵家がここ数年で見違えるほどに成長している。それは中央で踏ん反り返っている貴族連中からしたら面白くない話だろう。ついでに現在伯爵家代理を勤めているのが殿下の学友で今でも交流が続いているとなれば尚更だ」

ルイナスは商人や冒険者の顔ではなく、領地について思案する伯爵家当主そのものの顔だった。


俺には貴族のいざこざなんざ、関わりがないことだ。

それでもギルマスである以上はある程度の情報が流れてくる。

それは気持ちのいい話ばかりではなく、むしろ胸糞悪くなるような話も多い。

政権争いも、マウントの取り合いも本当に醜いとしか言いようがない。

ルイナスには悪いが、つくづく貴族に生まれなくてよかったと思う。


「大変なんだな。すまんな、変なことを聞いた」

「いや、気にするな。これが貴族の日常だよ。だが、王命で期間限定ではあるけれど貴族の地位を離れ、こうやって自由に旅ができることがどうしようもなく、楽しくてしょうがない。本当にこのまま弟に当主を譲り、こうやって気ままに旅ができればどんなにいいことだろうな」

そう言うルイナスの表情は悦びと同時にそれが不可能と分かっているからか、寂しそうな表情も浮かんでいた。


「ルイナス‥‥‥。あ、そうだ。一つ気になっていたことがあってな。お前、騎士団長としての仕事はどうしてんだ?」

なにかルイナスの表情に俺は居た堪れなさを感じ、また話題を変える。

ルイナスが、というか、ユウガー伯爵家の当主が騎士団の騎士団長であることは周知の事実だ。

その上で何ヶ月も騎士団長が姿を見せていなければ不審に思う者もいるだろう。

そこからつけ込まれる可能性だってないわけでないはずだ。


「安心しろ。その点にについてはうちの弟のお陰で解決済みだ」

「また弟か‥‥。で、今度はどんな発明だ?」

「身代わりを作ってもらった。姿映人形(トレースドール)という名前らしい。ある対象を完璧にコピーする魔道具だ。骨の作りから肉のつき方、それに剣筋、口調、性格まで全てトレースした自信作らしいぞ。今は、そいつが王都で騎士団長をしている」

とんでもない魔道具を発明したらしいルイナスの弟に対して頭を抱えるが、ルイナスは嬉しそうに弟の作った魔道具について語っている。

「その魔道具について、陛下は知っているのか?」

「もちろん、王命を下したのは陛下だぞ。話さないと俺が、どんな目に遭うかわかったもんじゃない」

あり得ないと言いたそうな顔で俺を見つめる。

まぁ、命を下したのははずの人間が普通にそこにいたら驚くな。

最悪、王命に背いた反逆者とかにされかねないのだろうか‥‥‥?


「まぁ、確かにな。しかしその魔道具、国宝いや禁忌レベルだよな、完全に」

「なりそうだが、軍事用に使わないという条件で作ってもらったからな。あいつは極端に戦争を嫌う、平和を望むんだよ。だから姿映人形(トレースドール)も戦場においては活動を停止する設定になっているからある程度の安全性は保証していいぞ」

「本当にお前の弟、十五歳か‥‥?天才すぎるだろう」

「まぁな」

弟について褒められ、嬉しかったのか火に照らされて顔が熱っていたのか、ルイナスの顔は赤くなっていた。

魔道具について語っていた時もそうだったが、ルイナスは弟が大切で大好きで仕方がなんだろうな。

しかし、やはりルイナスの弟、底が知らない‥‥。


「そういえば、殿下がお前の弟に頼み事をしているとおっしゃっていたが」

「あぁ。多分、魔剣のことだ。昔一度、誕生日プレゼントに殿下に魔剣を渡すと言っていたからな」

ルイナスの言葉に座っていた倒木から思わず立ち上がり、ルイナスを見つめてしまった。

それもそのはずで魔剣というのは古代の伝承により語られる高質度の高い魔力が剣全体に纏わされており、聖、闇の属性はそれぞれ勇者、魔王が所持し、その剣で互いに戦ったと記されている


「すまない。しかし、魔剣は伝承にのみ伝わるものだろう?」

「あ、いや、俺の話し方が悪かった。俺の言う魔剣は魔導剣のことでまた別だ。魔剣に限りなく近いだろうが、剣にただ魔力を促すことを補助するだけで伝承の魔剣とは天と地ほどの差があるそうだ」

「紛らわしいから、魔導剣と呼ぶことを進める。いらん誤解を招くぞ」

「そうだな。今後は控えよう」

そこまで言うとテントの天幕が上がり、ハンギュが起きてきた。

ぐっすり寝ていたのか寝起きの顔には寝癖のついた髪が張り付いていた。

ツバキはまだ寝ているみたいだな。

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