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麻痺毒

走り始めてしばらく経ち、剣の交わる音や魔法を詠唱する声がかすかに聞こえて来た。

そして、魔物の声と思われる雄叫びのような声も。

ここまでくる間、探知をずっと発動していたが、魔物、人間以外に反応はなかった。

魔族がどのような者か、それは会ったことがないからはっきりとはしないけど、ギルマスたちが戦闘をしていた周囲に張り巡らされていた結界が魔族側の仕業だとしたら、今回のことも含めて何故、そんなことをしたのか。


「ツバキ、ハンズ、戦闘準備を」

ギルマスが腰に下げていた剣の柄を掴みながら言う。

その言葉を合図に俺は魔法の準備を、ハンズさんは剣を抜き、いつでも斬りかかれるような体制をとる。

その状態のまま戦闘の様子を茂みから隠れて見てみると、確かにあの冒険者が言っていたように魔物の他に明らかに異常な冒険者が仲間に斬りかかる。

咄嗟に魔法使いが斬られそうになっていた冒険者を結界を使い守るが、それでもその冒険者は斬りかかろうとする。

結界を何度も何度も斬りつける。

そのせいで結界には綻びが生まれ今にも壊れてしまいそうだ。


「ギルマス、これって‥‥」

その様子はあまりにも酷いものだった。

「あぁ。ちとやばいかもしれねぇ」

「そこの奴、聞こえるか!」

ギルマスは声を張り上げ結界を展開していた魔法使いと結界内にいる冒険者に話しかける。

「おい。バカかお前。そんなに叫んだら敵に気づかれるだろうが!」

そんなギルマスにハンズさんは思いっきりギルマスの服を引っ張り自分の方に寄せ、小声で言う。

ギルマスはハンズさんの言葉に微かに笑った。


「残念、手遅れだ。それに、あの冒険者を確実に助けるにはこの方が良いだろ?」

「確かにそうだが‥‥あぁ、もう。本当に昔からそうだよな。肝心な作戦は周り話さない」

「すまん。だが、今は」

「あぁ。目の前の敵を殲滅することが先だな」

二人は息を合わせたように同時に立ち上がると、ギルマスのさっきの声に引き寄せられ向かってきている異常な様子の冒険者を迎え撃つ。


お互いに最低限の話し合いしかしていないのに、息が合っている。

まるで長年一緒に戦ってきたように。

「ツバキ、ボサっとしてないで動け!周りをよく見ろ!頭より体を動かせ!自分ができることをするんだ」

ギルマスとハンズさんの様子に考え込んでいると、ギルマスの叱るような声が頭に響いてきた。

頭より体を動かせ、か。

今、俺に出来ること‥‥‥、そうだ!


「治癒手伝います」

俺は戦闘している森の隅に横たわっている複数の冒険者とそれを治療している人たちを見つけ、その中にいた男の人に声をかけた。

その人たちはとても冒険者とは思えない軽装だった。

「あなたは?」

突然、俺が声をかけたせいか緊張した面持ちで俺の言葉に返す。

「冒険者のツバキです」

「そうですか。ではツバキさん、この方たちにあそこにある治療薬を持ってきてください」

そう言って少し離れたところにある木箱を指差した。

「分かりました」

指示通りに治癒薬が入っているであろう木箱を取りに行く。


そして俺はその場にあった二箱の木箱を抱えて、元の場所に戻った。

「持ってきました」

「ありがとうございます。今持って来た治癒薬をこの方たちの患部にかけて下さい。一個で足りないようならさらに増やして。どうしても塞がらない、再生しない場合は私を呼んでください」

彼は横っている冒険者を光属性魔法で治療しながら言う。

「はい」

手早く近くにいる冒険者の患部に治癒薬かける。

この冒険者は腕を齧られたようだ。

苦しそうな声をあげて、助けを求める。

「今、助けますから」

必死にそう声をかけながら治療するが、俺の頭の中には先ほどの彼の光属性魔法が頭から離れなかった。


いつかも話したようにこの世界で光属性魔法を扱えるのはほんの一握りだ。

そのほとんどが教会によって保護され、一般に光属性の使い手は少なくなる。

もちろん冒険者の中にも居るが、表だってそれを公表しようとはしない。

それは教会という権力の塊みたいなのものに生活を脅かされたくないと考える人もいるからみたいだ。

俺もその口だからそう考えるのはわかる。

まぁ、少し特殊っていうのもあるけど。


一般に公表しているのはその地位が教会であっても手を出しづらい者。

身近な例をあげるとすれば、エリナさんが良いだろう。

エリナさん自身も光属性が使えることを公表しているが、教会はその動向に注目はするけれど表立って保護には動かない。

それはエリナさん自身の知名度に由来していて、強制的に保護を申し出ればエリナさんを慕う多くの者の反発を生みかねないからだ。

教会としてもそんな悪評は作りたくないからだと思うし、エリナさんが教会に保護されるほど弱くはないと分かっているからかもしれない。


いずれにしろ前世で俺が読んだことのあるライトノベルの作品では大抵がこういう場合、教会は悪どい存在として描かれていたがこの世界ではそうではないようだ。

きちんと真っ当だし、邪教というものも存在しない。

清廉潔白。

冒険者や国との関係も概ね良好。

それが俺が教会に抱いている印象だ。


だいぶそれてしまったが話を戻すが今、光属性で治癒をしている彼は一体何者なんだろうか。

一見して強そうには見えない。

俺は個人的な興味で鑑定を使わないようにしている。

それは個人情報を盗み見ることにもなるし、人には大抵秘密を抱えているかだ。

だけど、彼は敵ではないことは雰囲気からわかる。

だから、彼が何者か俺は知れない。

冒険者にしては軽装備すぎるし、教会の人間にしては前線での身の振り方を知っているように見えた。


「あ、あ‥‥ありがとう」

「えっ?あ、無事で良かったです」

光属性魔法と教会について考えていると治療していた冒険者が薄らと目を開けた。

一瞬、反応が遅れたが御礼に名一杯の笑顔を向けた。

色々考えている間に何本も治療薬を使ったらしい。

傷が塞がらないようなら増やして、とは言われたけど流石に勿体無いな。

もう少し集中して治療しないと無駄なことしてしまう。


「よし次!」

改めて気合いを入れ直し横の冒険者の治療に取り掛かった。

効率的に治療するため、傷口を鑑定してみると、そこには麻痺毒と出ていた。

ただその麻痺毒は特定の魔物によるものではなく、複数の魔物の麻痺毒が融合されていた。

人員的なものが働いているとしか思えない結果だった。

これは普通の治癒薬で治るのだろうか。

ここにあるのは全部、上級治癒薬とはいえギルドでの一件もあるし‥‥‥。

俺が聖属性魔法で治しても良いのだが、またぶっ倒れてしまったらどうしようもない。

幸いここには光属性魔法の使い手たちがいる。


「あの」

「どうしましたか?」

「あちらの方、麻痺毒のようで、しかも複数も魔物のが融合した麻痺毒みたいなのですが」

「それは、本当ですか!シリアン、この人をお願い。ツバキさん、一緒にきて下さい」

俺の話を聞き彼は慌てて立ち上がり、今、診ていたた冒険者を近くにいた仲間に頼むと、俺を来るようにと促した。


「この方ですか?」

「はい。怪我の具合が気になって鑑定して見たらさっき話したようなことが分かって」

「そうですか‥‥。少し失礼します、鑑定‥‥これは‥どういう?」

彼は鑑定をすると、訳がわからないような表情をして、何度も確認するように鑑定を発動する。

「どうしましたか?」

「ツバキさん。あなたは一体何者ですか?」

「え?」

「鑑定の結果ですが、いえ、やめておきましょうか。今はこの方を救うことに専念しましょう。他の冒険者の方は恐らく大丈夫でしょうし。残りの重症者はこの方だけです」

彼は一瞬何かを言いかけたが思い直したように、目の前の冒険者を見ながら言った。

そして次の瞬間にはてきぱきと手の空いている仲間に解毒薬を持ってくるように指示をした。

俺も取りに行こうとしたが、彼にここにいるようにと指示を出された。


「光属性での解毒は可能ですか?」

「はい一応は。ですが、光属性が解毒できるのせいぜい、CランクからDランクまでの魔物の毒のみです。A、Sランクの魔物の毒では気休め程度にしか効きません。この方の毒がなんの魔物の融合毒であるかによります。そこは分かりませんか?」

「いえ、あまりに多くの魔物の毒が融合しているみたいで一個体を特定するのは難しいです」

「そうですか‥‥」

俺の解答に彼は顔を曇らせた。


「難しいですか?」

「一応はかけて見ます。ふぅ、〝清廉なる光の精よ、我の願いを聞き届け、苦しむ者をお救い下さい。浄化〟」

彼が詠唱すると、周辺が明るく光り輝いた。

しかし、目の前の冒険者は良くなったとはいえない状態だった。

もしも効いていたら、と鑑定をしてみると、微かに麻痺毒が弱まっていた。


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