魔物の暴走①
だいぶ時間が空いてしまいました‥‥‥。
部屋を出た俺は現在質問攻めにあっていた。
周りにいるのは右から順に女性、女性、女性女性‥‥‥男性⁉︎
まぁ、馬鹿な数え方は置いといて大量の人囲まれていた。
せっかくコーヒーを飲み直そうと思っていたのに残念だ。
「名前は?」
「趣味は?」
「特技は?」
「好きな女性のタイプは?」
次々と質問を投げかけてくる状況に本当にギブと言いたい。
俺は聖徳太子じゃないんだからそう一遍に聞き取れないし、答えられない。
周りからは男性陣が俺を睨むように見つめている。
もう泣きたい。
「あの!一人、一人ずつにして下さい」
なんとかやっとの思いで、人の喧騒の中声を張った。
俺の言葉に周りは一瞬シーンとなり、質問者はお互いを見合わせて一斉に頷き、そして一斉にまた思い想いの言葉を口にした。
意思疎通出来てない気がするし、さっきと全く変わってない気がする。
「おい、その辺にしてやれ。その小僧が困ってるぞ」
そんな俺の状況に助け舟を出してくれたのは、熟練冒険者風の男の人だった。
後ろには髪の長い若い女?男?の人を連れていた。
「ったく、ランクマ。お前が一番困らせてんだよ」
一瞬誰か分からなかったが、声の主は助け舟を出してくれたランクマさんの後ろにいた性別が分からなかった人だった。
声の質や口調からして男の人だろう。
「あ、すまん。小僧、俺はランクマで盾役だ。ランクはBランクだ。よろしく」
「俺はユージト。剣士でランクマとは〝炎〟っていう同じパーティに所属している。よろしくな」
「あ、俺は‥‥えっ?」
二人の自己紹介に続いて俺も自己紹介しようとすると、一気に視線が俺の方を向いた。
その視線はまるで獲物を狙う獣のようだ。
「はぁ、お前らっ!」
ランクマさんがそんな俺を見かねてか、視線を向ける人々に喝を入れるように言った。
その声を聞き、一斉に視線を明後日の方向に向けた。
凄い‥‥‥っ!カッコいい。
「悪い。いつもはこんな気分を悪くするようなことをしないんだが。新顔だからつい聞きたくなっちまったんだと思う」
ランクマさんは苦笑いをしながら言った。
「さっすが、ライザイ冒険者のお父さんだ。言葉の重みが違うな」
「変な二つ名つけるなっ!お前らも頷くなっ!」
ランクマさんの言葉にしみじみとユージトさんが言うと、ランクマさんは慌てたようにユジートさんにツッコむと、頷くギルドにいる冒険者にも顔をほんのり赤くしてツッコんだ。
ついさっき会ったばかりだけど、確かにランクマさんはお父さん‥‥‥面倒見がいいな。
「「「「‥‥‥‥!」」」」
ユジートさんとランクマさんの会話にギルド内にが笑顔になっていると、突然聞き迫るようにギルドのドアが開いた。
「どうした⁉︎」
「はぁはぁ、に、西のサイラントの森に、魔物の大群が現れて、ナラン‥‥仲間が襲われて、助けて‥‥‥」
五人組の冒険者パーティが勢いよく駆け込んできた。
装備は血が飛び散り、一人は仲間に支えられるようにしてぐったりとしている。
パーティの一人が言葉を絞り出すように言うと、俺たちはその様子に息を呑んだ。
「‥‥っ!ユリア、ギルドマスターに連絡。俺たちは止血をするぞっ!」
静かになった部屋の中で、ランクマさんの鬼気迫るような声だけが響いた。
その声に背を押されるように皆、負傷した冒険者の止血をし出した。
光属性や聖属性を持っている人は少ない。
教会に保護され、正しく教育をされるらしい。
でも稀に、俺みたいに適性を持っていても教会に入らない者はいる。
俺の場合は鑑定されるのがめんどくさいのと、聖属性という光属性よりも高位な属性を持っているから、嫌に祭り上げられそうだからだ。
今、俺がこの冒険者を光属性や聖属性で治そうと思ったらすぐに治るが、態度が変わるのが怖い。
変に注目されるのが怖い。
俺はそんな自分勝手な気持ちと闘いながら、止血を行う冒険者たちを遠目で見ることしかできなかった。
「ああああぁあああっ!」
痛がるような声がギルド内を包む。
見ていられないけど、俺の自分勝手な意思が治癒をすることを拒む。
見ているのも聞いているのも、この空間にいるこそさえ嫌になってくる。
今更ながらにこの世界が地球とは大きく異なるんだとよく分かった。
アユリンの街でもこんなに怪我をした人が運ばれてくるなんてなかったし、魔物の血肉を裂くことに慣れてもこの状況には一生慣れることが出来ないかもしれない。
「ギルドマスターから、上級治癒薬の使用許可が出ました」
逃げ出したい気持ちを必死に抑えていると受付嬢さんが息を切らしながら言った。
「よしっ!どんどん持ってきてくれ」
「はいっ、承知しました」
ランクマさんの指示で受付嬢さんはギルド内にある倉庫のような場所に行った。
「大丈夫だ、必ず助けてやる。意識を保て、寝るな、戻って来れなくなるぞ」
ランクマさんは受付嬢さんが走っていくのを背中で見送ると、負傷している冒険者に向かって必死に声を掛ける。
「ランクマさん、上級治癒薬です!」
声をかけ続けていると、受付嬢さんが腕に木箱を抱え戻ってきた。
「よしっ!治癒薬がきたぞ。もう大丈夫だ」
「ユジート、出血が酷い場所にかけてくれ」
「了解」
ユジードさんはランクマさんから治癒薬を受け取ると、出血が酷い上半身に無言でかけた。
「ヴオェッ」
誰か嗚咽するような声が聞こえたと思ったら端の方で男の人が青白い顔をしていた。
恐らく溢れ出てくる血に耐えきれなくなったんだろう。
今までも何人か冒険者が運ばれていった。
血に慣れていない新人冒険者や育ちのいい冒険者には辛い光景なんだろう。
俺の場合はなんか自分が情け無くてそれどころではなかった。
「ん?おい全然効いてないじゃないか」
「どういうことだ?上級治癒薬って言えば四肢欠損をも治す代物だぞ」
ランクマさんとユージトさんは焦ったように言う。
「よく聞け!今から緊急依頼を出す。Cランク以上はサイラントの森に向かい魔物を討伐してもらう。それ以下の冒険者は住民を安全な場所へ避難させ被害を最小限に抑えろ。報酬は大銀貨十枚だ。討伐に行く者は倒した魔物の証明となるものを持って帰って来れば報酬を追加してやろう!」
その様子を見ていると、ハンギュさんの声が喧騒とした雰囲気を一瞬で緊める。
「ギ、ギルドマスター、僕はCランクだけど薬草採取が専門です。魔物の討伐なんてとてもじゃないけど無理です‥‥‥!」
「もちろん、強制はしない。だが魔物討伐は無理でも住民の避難誘導は出来るだろう。何度も言うがこの依頼は強制ではない。が、もし何かしたいと思うのならば街に残り、各々出来る最低限のことをしろ」
見るからに気の弱そうな冒険者がそっと手を挙げてハンギュさんに言うと、ハンギュさんはその冒険者を見た後、ギルド全体を見渡し力強く言った。
そして受付嬢さんに何かを囁かれると、再び俺たちの方を向き言った。
「分かった。いいか今回の件には領の騎士団との合同討伐になる。不必要なプライドは捨てろ。今お前たちが持っていていいのは住民やこの街を救う気持ちだ。ただし死なことは許さない。分かったか!」
「「「「「「はい!」」」」」」
覇気のある声で冒険者たちは喝を入れられると、勢いよく返事をして我先にとギルドの外へ討伐に向かった。
ギリギリ討伐に参加出来るランクではなかった俺は、住民の避難誘導をするために冒険者の職員さんから指示を受けることになった。
「大変なことになったね」
「えっ?」
声を不意にかけられ横を見ると、軽装に身を包んだ十代後半くらいの女の子がいた。
「あ、ごめんね。いきなり声かけちゃって。きみ名前は?」
「ツバキ。きみは」
「アレシアよ。ツバキくんかぁ‥‥‥なんか特別な気分」
自己紹介をすると、アレシアは俺の名前を呼称し、不思議なことを言った。
「えっと、何で?」
「だってなんだかんだで、きみ、えっとツバキくん名前教えてないでしょ?」
「あ、確かに」
アレシアの指摘で俺がまだこのギルドに来てハンギュさんと受付嬢さんにしか名前を知られていないと気付いた。
「だから、特別。こんな状況で不謹慎なことはわかってるんだけどね」
「あぁ、そう?」
アレシアさんはお茶目そうに、片目をパチリとしてウィンクをした。
その様子に俺は対応に困ってしまった。
「皆さん注目してください!」
困っているとギルドの職員さんが大声を出して叫ぶと集まっていた冒険者たちが一斉にそちらの方に向いた。
「避難誘導の手順を説明します。優先されるのは高齢者、子供、病気の方です。特に子供は敏感に反応してしまうので注意をお願いします」
職員さんは視線が向いていることを確認すると話し始めた。
「質問です。どこに避難させれば良いですか?」
「それについては今から説明します。避難場所は二つあり、一つは領主邸の地下のシェルター、もう一つは教会です。領主邸には高齢者、子供、病気の方を優先的に。その他の方は教会の方にお願いします。避難経路はこちらに印を書いているので確認しながら誘導を行ってください。誘導の際はグループで活動してください」
ニ、三の質疑応答的なことがあったあと、俺たちは五つのグループに分かれた。
一グループに約五、六人で俺はアレシアと同じグループだった。
五つのグループに分かれた理由を聞くと避難経路の印がしてある地図が五つしか用意出来なかったからだそうだ。
避難場所であるらしい領主邸も教会の場所も全く分からないが、地図を頼りにすれば大丈夫だろう。
「鑑定持ちの方はいらしゃいますか?」
グループ内での軽い自己紹介を終え、避難誘導に取りかかろうとしていると、受付嬢さんが声をかけてきた。
「私、持ってます」
俺の横にいたアレシアが不思議そうに手を挙げるとそれに続いて俺も含めて何人かの手が挙がった。
「ではこちらへおね」
「ユリア、ちょっと待て、どういう事だ?人員を持って行ってくれては困る。避難誘導には人員が多く必要になるんだぞ。数人抜けるだけでも効率的に避難誘導が出来ない」
俺たちはをどこかへ連れて行こうとする受付嬢さんに職員さんは困惑した表情で言った。
「レイさん、ギルドマスターからの指示です。私も事情を理解しているわけではないんです」
受付嬢、ユリアさんと職員さん、レイさんは二人ともなんとも言えないような表情で打開策を講じているようだった。
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