ギルドは色々
《あれ、アユリンの冒険者ギルドのギルマスだよな》
《あぁ、そうだろ。でもなんでこんなところにいるんだよ。それに隣の男は?全く強そうに見えないんだけど》
《えっ~、でもめっちゃ美形なんだけど。何あれ女の子ほっとかないよ、あの顔》
《面食いは黙ってろ》
《俺、あの〝旋風〟の斬豪ザフレって初めて見た。まじかっけぇー》
受付に近づいて行くたびに周りのヒソヒソとした声が聞こえてくる。
あ、俺の方が凄いってこの顔か。
でもこの顔か、でもこの顔は神様特典みたいなものだし、正直たまに鏡で見て誰だ?ってレベルなのに。
俺はそんなことよりギルマスの〝斬豪ザフレ〟の方がよっぽど注目されそうだけど。
「ようこそ、いらっしゃいました。本日はどのようなご用件でしょうか」
ライザイの冒険者ギルドの受付嬢さんもヒーカさんに負けず劣らずだった。
ただヒーカさんが可愛い系ならこの人は美人系だな。
‥‥‥なんか今の俺、めっちゃ気持ち悪い?
「入国の申請とギルドマスターへの言伝を頼みたい」
とんでもないことを考えてしまったような俺の心情を置いてギルマスは淡々と受付嬢さんと話す。
「承知しました。ではお二人のギルドガードをお預かりします。申請には少々お時間を頂きますがよろしいですか?」
「構わない」
「ありがとうございます。ではギルドマスターへの言伝をこちらの紙へご記入下さい。代筆は‥‥必要ありませんね。失礼致しました」
ギルマスは黙々と書き続け、終わると紙を四つ折りにし受付嬢さんに渡した。
「お預かりします。時間までは当ギルドに併設されている食堂でお楽しみください」
あっという間に終わり、俺はただボーッと立っているだけだった。
「同じだ」
併設されている食堂に向かうと、そこには雰囲気こそ違えどアユリンの街と同じ間取りが広がっていた。
「まぁな、ギルド本部以外の冒険者ギルドの間取りは全て一緒だ。内装はギルドマスターの意思で変えても構わんがいくつかの条件があってな。俺はそれが面倒で変えたことはない」
俺がポツリと漏らした言葉にギルマスは苦笑いしつつ答えてくれた。
「失礼致します。お飲み物はどうされますか?」
席に座りギルマスと話していると、頭上からとんでもないイケボの声が響いてきた。
驚いて上を見てみると、すらっとした体型の渋いイケオジが立っていた。
しかもなぜかバーテンダーのような格好をしている。
「え?」
「俺はコーヒーを貰おう。ツバキ、お前はどうする?」
「え?じゃあ、コーヒーで」
いろんな驚きから上手く状況が理解出来ないでいると、ギルマスが頼んだコーヒーを頼んだ。
ん?この世界にコーヒーってあるんだ。
初めて見た。
「承知致しました。少々お待ち下さい」
「お前、コーヒー飲めんのか?」
バーテンダー風のイケオジが綺麗な礼をしてカウンターの席へ戻るとギルマスが不思議そうな、心配そうな顔で言った。
「はい、飲めますよ。子供じゃないんですから」
地球では結構な頻度で飲んでたし。
「今何歳だ?」
「十五ですけど」
俺はギルマスに聞かれ今の姿での年齢を言う。
流石に夏紀修太郎としての身体の年齢を言うわけにはいかない。
ステータスは嘘をつけないからな。
「まだ成人してないのか。え?まだ成人してねぇの?」
「はい。成人しているように見えますか?」
あり得ないものを見るように俺の顔を見る。
流石に失礼すぎますよ、ギルマス。
この世界の成人年齢は十六歳。
つまり俺は来年ということになる。
この世界の暦は地球と変わらないので今は九月。
俺の誕生日は二月だからもう少しさきだ。
「あ、いや、常識を知らないのは成人してないからか。しかしそれにしても知らなすぎる。でもあの落ち着いた態度はとても十五だとは思えないな」
軽くディスっているようにも聞こえるがそれが事実だから言い返せない。
落ち着いているのは精神年齢はまぁまぁ、それなりに高いおかげなんだろう。
「談笑中のところ失礼致します。当ギルドおすすめのコーヒーでございます。ごゆっくりお楽しみ下さい」
「ありがとうございます」
コーヒーが運ばれてきて、俺とギルマスは取り敢えずコーヒーを飲むことにした。
「相変わらず、上手いな。少し苦味があるがそれが癖になる」
「うん、美味しい」
「全く、綺麗に飲むな~。飲み慣れてる感が半端ない」
久々のコーヒーの味に感動していると、ギルマスが本日何度目か分からない苦笑いを浮かべていた。
「そう、ですか?そんなことないと思いますけど。ギルマスも飲み慣れてませんか?」
さすがにやばそうなので曖昧に答えギルマスに質問した。
「俺はこの街に来たら必ず飲んでるからな。コーヒーの豆自体は市場に一定数流通しているらしいが、まだまだ豆を挽く技術を持つ奴がなかなかいなくてな。だがこのギルドは豆を挽くプロがいるからな。来るたびに飲んでしまう」
「へぇ~」
ギルマスがそこまで知っているということは相当コーヒーを気に入っているのだろう。
「ほぉっほ。これはこれは、アユリンの街のギルマス殿がそこまで言ってくださるとは」
そう言いながらテーブルの方へ来たのはさっき注文を取ってくれたイケオジさんだった。
「これは貴殿が?」
「えぇ。コーヒーを淹れることしか才のない老ぼれですがね」
「いや、とても美味しい。素晴らしいコーヒーだ」
「これは嬉しい言葉ですね」
イケオジさんは自分が淹れたコーヒーが褒められて嬉しいのか、ほぉっほ、と笑った。
「そういえばここに居られても大丈夫なんですか?」
俺が聞くとイケオジさんは俺の方を見て、少し驚いたような顔つきになったと思ったらすぐに引っ込めた。
「きみはコーヒーがとてもよく似合うね」
「え?」
「いいや。ここにいても大丈夫ですよ。ここをどこかお忘れですか?」
イケオジさんにそう言われて辺りを見渡す。
見えるのは厳つい男たち。
それに厳つい男たち。
そしてたまに見える剣を持ち鎧を来たりしている女性たち。
ん?ん?ん!
ここは冒険者ギルドだ!
コーヒーとか出てくるからどっかの喫茶店とかカフェとかと錯覚を起こしていた。
あ~、なるほど。
確かに失礼だけど、あまりコーヒーを飲む人たちには見えない。
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