鍛冶屋の刀
アルが貴族かもしれないと言うことを聞いた後、二度目の街へ繰り出した俺は、ヒーカさんに描いてもらった地図を頼りに街を歩いていた。
「この辺なはずなんだけど。ラルスさんの所と違って俺は、この鍛冶屋に行ったことがないんだよな」
また、道に迷い俺は裏路地で呟いていた。
せっかく書いてもらったのに全く場所が分からない。
名前は確か〝フォルジュロン〟だったはず。
名前は分かっているけど場所が分からない。
人に聞きたいが、なんせ裏路地は人が通らない場所の定番。
そんな場所に人がいるはずもなくひたすらあっちへこっちへ歩いていた。
「ちょいちょい、そこのお兄さんどこかお探しかな?」
「え?」
迷っていると後ろから声をかけられた。
振り返ってみると十歳を少し過ぎたくらいの小さい男の子に話しかけられた。
「えっと、きみは?親御さんとかいないの」
「あ、僕?僕はラーラ。親なら今は仕事。この辺は僕の庭みたいなものだし、お兄さんがさっきからウロウロしていたからさ、助けてあげようと思ったんだ」
小さな男の子、ラーラは考えながら答えてくれた。
ラーラはどうやらこの裏路地に住む頼もしい案内人らしい。
これで、迷うことなく着きそうだ。
「じゃあ、〝フォロジュロン〟鍛冶屋を知ってる?」
「うちのお客さん⁉︎」
ラーラはビックリしたように答えた。
「えっ、うち?」
その言葉に俺も驚き復唱してしまった。
「うん。僕の家は〝フォジュロン〟って言う鍛冶屋だから。お兄さんが探している店と一緒だと思う」
「案内をお願いできる?」
「うん。良いよ」
それから、ラーラの案内で今まで歩いていた道とは検討外れの場所を数分歩き、ようやく鍛冶屋フォジュロンに着いた。
「父さん、ただいま~」
「こら、ラーラ。裏から入れっていつも言ってるだろ」
ラーラが元気よく挨拶すると、暖簾の向こうからひょっこりとラーラのに雰囲気がよく似た男の人(多分、父親なんだろう)がラーラを注意した。
「違うよ、父さん。お客さんだよ」
「こんにちは」
「おっと、いらっしゃい」
俺が挨拶をすると、気を取り直して、挨拶を返してくれた。
カウンターに寄り、注文をしようとしていると、ラーラに奥に行くように言った。
「じゃあ、早速、お伺いしましょうか」
「えっと、剣を新調したくて」
「今使っている剣を見せてい頂けますか?」
「はい。どうぞ」
店主さんは受け取ると、驚いたように剣をまじまじと見ていた。
「これは‥‥‥‥、私が〝斬鉄〟を強化した剣ですね」
「はい、冒険者ギルドのエリナさんが頼んだと言ってましたから」
「あ、エリナさんからこの剣を贈られたかたでしたか。若干の刃こぼれはありますが、初めて剣を持つ方がここまで扱えるのは凄いですし、それに、この剣はとても大事にされています。やはり、エリナさんの目に間違いはないようですね」
剣を手で軽く触れながら店主さんが感嘆して言う。
「‥‥‥エリナさんから何か聞いてるんですか?」
「あ、いえ、大した事は。ですが、とんでもない新人冒険者が生まれた、と楽しそうに言ってましたよ」
エリナさんの様子を思い出したのか笑みを浮かべながら話してくれた。
「とんでもない‥‥‥そ、そうですか」
俺はその話に思わず苦笑いで返してしまった。
確かに、魔王で勇者だしとんでもないけど、今まで大きな力は使ってないはずなんだけどなぁ。
「話を戻しましょうか。剣の新調とのことでしたが要望とかありますか」
「要望‥‥‥、刃こぼれしにくい剣とかですかね」
俺の言葉を聞き店主さんは暖簾の向こうに消えていった。
「お待たせしました」
「これは?」
店主さんが持って来たのは日本刀みたいな剣だった。
「日刀と呼ばれる剣、いえ、この場合、刀でしょうか。東方の国で生産されていた物なんですが、今は作る人も限られて、うちの工房にあるのはこれが最後なんです」
「そ、そんな、大事なものなんじゃないんですか?」
「切れ味は保証しますよ。それに、多分貴方が使えば刃こぼれをおこさないでしょうし、私は初めてこの人になら売っても構わないとそう、思いましたから」
俺が慌てていうと店主さんは日刀を摩りながら答えてくれた。
「えっと、それはどういう‥‥‥‥」
「先ほども言った気がしますが、貴方の手にあった剣はとても大事にしてありました。ほとんど刃こぼれもなく、綺麗に。この刀は繊細で、乱雑な人が扱えばすぐに脆くなり壊れます。この刀を売る相手は私が生きている限り出会わないと思っていましたよ」
「あ、でも。俺以上に相応しい人がいるかもしれないですよね」
そんな貴重な物貰うわけにもいかずただひたすら説得する。
それに、俺は異世界に来てから剣なんて握ったのに、こんなの貰う資格なんてない。
「えぇ、もしかしたらそうかも知れません。ですが、貴方以上の相応しい方が現れない可能性だってあります。だったら私は託したいんです」
店主さんは真っ直ぐとした目で見つめていた。
俺はまだこの気持ちに答える資格があるのか分からないけど、店主さんがそれを望んでいるのなら‥‥‥‥。
「分かりました。この刀、大事に使わせて頂きます。それで、お代はいくらですか」
「そうですね。銀貨三枚で」
「えっ、安すぎませんか。これもっと高価な代物ですよね。流石にそれでは」
銀貨三枚は日本円で言うと三万円くらいだろうか。
この世界はただでさえ、地球と比べて物価が高い、それを踏まえると更に安く感じる。
因みに、この世界には銅貨、大銅貨、銀貨、大銀貨、金貨、大金貨、白金貨、虹金貨の八種類ある。
日本円に換算するとそれぞれ、百円、千円、一万円、十万円、百万円、一千万円、この世界はただでさえ、地球と比べて物価が高い、それを踏まえると更に安く感じる。
単純に比較は出来ないけど。
「いえ。私には適正価格だと思います」
「分かりました。では、いただきます」
店主さんの熱意に負け俺はその値段で買うことにした。
「また、いらして下さいね」
「はい」
刀を買い、店主さんに見送れて、俺はギルドに帰った。
面白かったら、ブクマ、いいね、お願いします