談笑と武具
ツバキが部屋を出て行った後も、俺、ザフレと腐れ縁で辛うじて繋がっているルイナスはツバキの話で盛り上がっていた。
ルイナスの本名は、ルイナス・ユウガー。
ここアユリンの街が属する国、ナズラタン王国の騎士団長で、王国貴族であるユウガー伯爵家の現当主だ。
今は、訳あって商人に扮している。
ルイナスとは、まだ俺が冒険者だった頃に知り合った。
知り合った頃はお互い若くことあるごとに対立していたが、今では信頼できる仲間だ。
ただ、口に出すのはちっと恥ずかしいが。
「なぁ、ルイナス。あいつ、ツバキをどんな経緯で拾ったんだ?」
「あ、そう言えば話してなかったな。俺がこの街に来てる最中に、死にそうな顔して歩いてたから乗せたんだよ。丁度、目的地も一緒だったしな。でも、まさかこんなに強くなるとは思わなかったがな」
そう言いながら、思い出したように苦笑いを浮かべていた。
「なぁ、本当にいいのか?」
「なんだ?急に」
苦笑いを浮かべた顔から一転、ルイナス真剣な目で俺を見つめていた。
「ツバキに本当のこと伝えなくて良いのか?この件に関しては国に属さない冒険者ギルドのギルマスとして本当に受けても良かったのか?」
心配そうに、でも覚悟を決めるようにそんな目で見つめてくる。
「そう一気に質問するな」
冒険者ギルドは確かに国に属さない。
一つの国に肩入れしてしまっては公正に冒険者への依頼の斡旋、冒険者達の身の保証が出来ないからだ。
そして、国が冒険者ギルドへ圧力をかけたりすればその国から冒険者ギルドは立ち退き、魔物などのモンスターが出た際には国の国家騎士で対応しなければならない。
そんな無茶ができないため、帝国だろうが冒険者ギルドには手出しができない。
ルイナスが心配するの冒険者ギルドと王国の中に亀裂が入ること。
入って仕舞えばその亀裂は大きくなる一途を辿るだろう。
ルイナスは情報収集、隠密に長けているため騎士団長で伯爵家の当主にも関わらずこんなことをしている。
伯爵家はルイナスの弟が当主代理として行っているが、ルイナスは情報収集や騎士団長としての仕事でほとんど戻れないため、弟に当主の座を譲ろうと考えているらしいが弟が頑として断るそうだ。
さて、今回、王都への帰還命令が届いた。
その際に有能な若者を連れてくるようにというお達しがあったそうだ。
そして、今回の指名依頼それがルイナスがツバキに話すべきかと悩んだ正体だ。
「今更だろ、もう依頼出しちまったんだ。話すべきだと思ったらその時、話せば良い。きっと、理解してくれる。それと、ギルドのことは気にするな、こう見えても顔はそれなりに広いんでな」
そう言うとルイナスは笑みをこぼし肩の荷が降りたようにソファーにもたれかかった。
「そうか、安心した」
ルイナスがそう言い終わったのを聞いてふと外を見ると太陽が夕暮れを知らせていた。
「おっと、もうこんな時間か。ルイナス、王都への準備しなくて良いのか?」
「それなら、もうほとんど出来ている。そうだ、お前もこの後、用事が無いようだったら久しぶりに酒でも飲みに行かないか?」
その誘いは思わぬものだった。
最後にルイナスと飲んだのはもう何年も前、久しぶりに飲むのも楽しいかもしれないな。
「いいぞ、ただ、まだ少し書類仕事が残っててな、先に飲んでてくれ。場所はそうだな‥‥‥〝癒し子〟の店なんてどうだ」
「おぉ、いいな」
飲む約束を取り付けるとルイナスは部屋を出て先に店へ向かった。
さて、早く書類仕事終わらせて飲みに行きたいな。
これが終われば楽しみが待っている、そう考えると嫌な仕事も楽しくなってくる。
それから、一時間くらい経った頃に仕事が終わり、〝癒し子〟の店に向かった。
その後は、二人で昔の話し、今の仕事を語り尽くした。
翌日、飲み過ぎの二日酔いで気持ち悪くなることを知らないまま。
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ルイナスさんの指名依頼受けた翌日、俺は街にある武具屋に来ていた。
もちろん目的は指名依頼に向けての準備だ。
昨日、護衛をする際に必要となる物、持っていた方が良い物をエリナさんに聞いていた。
その結果、腰に差す剣と胸や腕につける防具が必要と分かった。
そこで防具類は武具屋で剣は鍛冶屋で新調する事にした。
異世界にきて初日にCランクに上がり、その後はヒーカさんとエリナさんの授業だった為、今はヒーカさんにランクアップのお祝いで貰った剣と武具を使っている。
ギルドで販売している武具にエリナさんの馴染みのお店で希望の効果をつけてもらった特別製で、異世界にきて初日にCランクに上がり、その後はヒーカさんとエリナさんの授業だった為、ヒーカさんにランクアップのお祝いでもらったのだ。
そして、今に至る。
アユリンの街も、もう三ヶ月もいれば色々と知り合いが増えていくものだ。
今日行く武具屋もその知り合いの一人だ。
因みに、エリナさんの馴染みの店で、俺の武具に希望の効果を付けてくれたお店だ。
「こんにちは、ラルスさん。防具新調しに来ましたよ」
「おぅ、いらっしゃい。あぁ、ツバキか。防具の新調か、なんかあるのか」
店のカウンターの後ろにある暖簾から顔を出しながら聞いてきた。
「はい、ちょっと王都まで護衛依頼を受けることになって。エリナさんに防具新調した方がいいって言われたんで来ました」
ラルスさんは分かったように頷いた。
「エリナちゃんが言うんだ間違いねぇな」
冒険者ギルドの食堂をしているエリナさんはこの街、この国の憧れの冒険者ベスト5に入るほどの冒険者と伝説のパーティの魔法使いという肩書きが相まってこの街に知らない人はいないほどだ。
因みにアユリンの街の冒険者ギルドのギルマスを始めとした幹部はほとんどエリナさんと同じパーティだったとか。
この街は伝説に守られている、それがこの街に住まう者たち共通の認識だった。
そんなエリナさんだから、名前を出せば一発で信じてもらえる。
そのおかげで特定の人にしか武具を売らない頑固な店主から武具を買うことができた。
でも、嘘だとバレたら地獄果てまでエリナさんに追いかけられるとかられないとか‥‥。
「んで、どんなのが欲しいんだ?」
カウンターに身を乗り出しラルスさんは聞いてきた。
「そうですね、魔法に耐えられて、ちょっとのことじゃ剣で切れないような防具ですかね」
魔物や盗賊と戦うことを前提とすればこのくらいの防具を買っても損にはならない。
俺が希望を伝えるとラルスさんは困ったように眉を下げた。
「相変わらず、無理難題押しつける」
「難しい‥‥‥‥ですか?」
恐る恐る聞くと、ラルスさんは想像していた感じではなく自信満々に胸を張っていた。
「そんな訳ないだろう‼︎俺を誰だと思っている、伝説の冒険者パーティ御用達の防具屋だぞ。そのくらいの注文なんてことねぇーよ」
「じゃあ、」
「あぁ、作ってやんよ。ただ、一から作るのは時間がかかり過ぎる。ツバキ、お前の防具を土台として作っても良いか?」
「はい、二日後には出発するのでそれまでにお願いします」
「二日後か‥‥‥。ちっと、厳しいがなとかやってみるわ。二日後の早朝、ここに取りに来てくれ。出来に応じて金額を決める。防具を渡してくれ、早速作業に取り掛からないと間に合わない」
両手を差し出してくるラルスさんの手の上に防具を置くと、ラルスさんはすぐに奥に引っ込み作業を始めた。
そんなラルスさんにお礼を言うと店を出た。