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内部な石造りの小部屋で、壁面には浄化等の魔除けや環境を保つ魔法式が描かれていた。
奥にもう1枚、装飾された古びた扉を開けると・・
ユッカナは奥の扉を開けた。
「これが、懐かしき槍?」
その部屋は、中央にある台座を中心に緑に覆われていた。
台座には植物の絡まった柄も穂先もヒビが入った手槍が納められていた。
「鑑定していいか?」
神社とか寺の御神体的な物だろうし、管理者同伴だしな。それに、なんだろ? 慎重に扱うべき物なような気が??
「構わないよ」
「よーし、鑑定!」
名称は『四季の槍』。野伏のエルフ一族ブロッサムウィンド氏に伝わる霊槍。大地の祝福を受けると共に四季の移ろいを宿す。現在は破損し、修復中・・か。
「属性が思ったり複合的だな・・四季の槍って言うのか。なんで懐かしき、って占い師の人は言ったんだろ?」
「この槍は私の叔母の従姉妹に当たる人がもう何十年も前に持ち出していた物なんだよ」
「ふぅん?」
「不思議な人だったよ。『マルシさん』。別の郷の野伏だったけど仕事をほっぽりだして世界中を旅をして、『冒険者』としても活躍していた」
「それ、知ってるぞ?『冒険者ギルド』ってのに入るんだろ」
森に落ちていた痕跡物の鑑定や全然別のレシピに含まれていた知識の範囲で断片的には知っていた。
この世界はトラブルシュートを専門にしたフリーランスの人達の互助団体があるようだ。
「うん。持ち出す時は『ずっとしまっててもしょうがない』『私に相性ピッタリ』とか言って、持ってっちゃって、大騒ぎになったみたい」
フレンドリーな泥棒さんだな・・
「で、壊れたから返されたのか。しょうがない親戚の人だな」
「・・マルシさんは亡くなってるんだ。魔王軍の砂漠地帯の幹部との戦いで相討ちになったみたい」
「えーっ」
そういう感じかぁ、そうか。魔王とかいうとゲームっぽい感覚になるけど、この世界の人達は交戦してるんだな・・
「情報が錯綜していてはっきりしないけど、その時その場に、まだ勇者として未熟だったダイスケ・・本物の方がいた。って話もあって」
「マジか、ダイスケ。頼むぜ」
まぁ、それが本当なら地球から呼ばれて、まだ育ってないのに強ボスと戦わされて散々だったんだろうけどさ・・
「とにかく砕けた槍と遺品だけが、マルシさんの知り合いの魔女によってこの森に届けられたんだ。墓は現地にあるらしいけど、砂漠の国はここから遠くて、今は転送門もあちこち壊れてしまってるから・・」
「へぇ、造るの大変なのにな」
転送門はテレポート装置だ。実は俺、『近距離テレポート転送門設置』のレシピを獲得していて、試しに最初の森で造ってみようとしたけど材料が足りなくて頓挫していた。
無理矢理起動させたらなんか爆発したしっ!
「ダイスケ、里長になんとか許可は取れた。この壊れた槍を持ってゆこう。草原の先には鍛冶に秀でたドワーフ達のテリトリーもある。そこで直せる可能性が」
「いや、この場で直せるぜ?」
「何っ?!」
「目が治せるなら槍だって直せるさ! ナビっ、『単発発動・器物の修復(100P)』を取得!!」
(スキルの獲得を確認)
「触媒は・・」
四季の槍は間違いなく一級品な上に、かなり複雑な構成で損耗がしている!
俺は様々なカラーリングの属性触媒、『ジェム』を1属性3つずつ、全属性! 念力で取り出し、さらに鉄より硬く軽いミスリル鉱石と霊木の琥珀も引っ張りだしたっ!
「ケチらず発動させるぞっ、ナビ! 修復だっ!」
(わかりました。・・よーしっ! 直っちゃえーーーっ!!!!)
またナビがはっちゃけてるが、全ての触媒を対価に器物の修復が発動した!!
激しい発光っ!!!
四季の槍は浮き上がり、完全に修復された!
(四季の槍が『四季の槍+1』に強化され、修復が完了しました)
すぐ元の調子に戻るナビ。
「おおーっ? ダイスケ、なんでも直せるのか??」
「いや、ポイントと触媒次第だとは思う」
冷静に応えつつ、槍が俺の元にゆっくり降りてきたからしっかりキャッチした。
蔓の手で触れるとまだ温かい。違うか、この槍は1つの森の生命その物のようだ。
ドクンっ!!!
触れると、四季の槍から強い鼓動を感じ、槍に宿された記憶が小間切れになって流れ込んできた!
件のエキセントリックな占い師から『未来』を告げられる幼いエルフの子供。
槍の技を修め、早々に森を出て冒険者として活動を始める少女。
旅先で知り合った龍の仔を連れた魔女に『魔王の顕現』を知らされる娘。
凄腕の冒険者となり、軽いノリで四季の槍を持ち出してお尋ね者になる娘。
砂漠の街で顔にノイズが入り声も聴こえないが、まだ未熟な様子の10代後半くらいの戦士職の男子とその仲間達と出会う娘。
娘はその男子の即席の武術の師匠となり、男子の仲間のやたら光の属性の強い格闘家風の女子に嫉妬されたりするようなった。
そうして強敵の魔族との死闘! 娘は男子を庇い矢面に立ち、槍の力を暴走させて相討ちに・・
「庇って逃がす予言だったけど、倒しちゃったよ? ダイスケ、未来は変えられるからね!」
娘、マルシは笑って亡くなっていた。
「ダイスケ? どうしたんだ?」
俺が泣いていたからユッカナが屈んで(蔓を伸ばさず普通に立つと俺の身長は153センチ程度! ユッカナの身長は168センチ程度!!)を見てきた。
「槍からマルシさんの記憶が流れてきた。彼女はやっぱり勇者ダイスケを護っていたよ」
「そうだったんだ。やっぱり・・」
「いつか、墓を参ってあげたいな」
ユッカナは眼帯を取って槍と俺を見た。やや顔を赤らめて俺の丸い紫ボディの下の方からは目を逸らし、軽く咳払いしたが、
「茄子のダイスケ。やはり君は特別だと思う。槍が聖なる光で君と引き合っているのが見える。最初は目の恩もあるし、探索ついでに近くを案内できれば私も楽しそうくらいに思っていたが、私は君の旅の行く末までついてゆきたくなった」
「おうっ、行こうぜ! 行き先が占い次第でぼんやりしてるけどな?」
「まぁそれはね」
ユッカナは苦笑していた。少しほろ苦いくらいの笑い方が似合う人なのかもしれないな。