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エルフ郷の家屋は土壁に草の屋根でできていた。骨組みは木製らしい。
特別な建物以外は全て平屋だったが面積はそこそこあり、家と家の間も結構離れていた。
魔除けの城壁で囲われた郷内には植物も多く植えられている。
ハーブの香がよく焚かれていて、あまり縁は無いがアロマショップみたいな匂いの郷だ。
生産活動はコーンウィスキーの醸造と魔法道具の杖造り、あとは最低限度の農園が郷内にあったが、収まり切らない農園は森の中の魔除けの塀に覆われた土地で補われているそうだ。
この郷はトウモロコシとホウレン草に似た葉物、それから山羊の一種と鱒の一種を多く育てている。
因みに野菜は人面ではなく普通のサイズで、山羊や鱒も特に喋ったりしなかった・・
「ユッカナ。しばらく見ないと思ったら、変わったキラーナスと契約したね」
「いや、まぁ。ハハハ」
帽子とリュックもあるがキラーナスにしては落ち着いてシレっとしてる、俺を珍しがる郷のエルフ達への対応にユッカナは四苦八苦していた。
「そういや、ユッカナはどっか出掛けてたんだよな?」
「ああ、ちょうどトロル農園の南の先に湿地帯があるんだよ。あの辺りはワーリザード、トカゲの姿をした亜人達が住んでる。情報交換をしていた。水晶を使って通信もできるが、実際行ってみないとさ」
「ふん? ユッカナはこの郷でどういう立ち位置なんだ?」
「私は野伏。自然の中を駆け回る職に就いている。まぁ言ってみればこの辺りのエルフ郷の使い走りや便利屋だ」
「ほぉ」
郷までの道すがらは俺の知ってるステータスや成長の概念と、ユッカナの知ってるこの世界の普通の人々の力や育成の概念の擦り合わせや、アイテム類の価値等についてばかり話していた。
というか、出会った場所から郷までわりと近かったんだよな。
「私は里長に報告に探索の報告にゆかなくてはならないが、先に郷の占い師の所にゆこうか? 変わり者だが、彼女は見識があるし、様々な物が見える。今のダイスケには必要だろう」
「かもな、よっし! 行くかっ」
占い師なんて文化祭の出し物を冷やかしたことがあるくらいだぜっ!
占い師のエルフは40代くらいに見えたがとっくに200歳を越えてるらしかった。化粧も奇抜だったがやたら鳥の羽根の飾りを身に付けていた。
「キェーッ! 茄子よぉーっ!!」
「おぉぉっ??」
たぶん塩と灰を混ぜた物をぶっかけられた! くっ、ユッカナが部屋に入ってすぐ後ろに下がった時点で察するべきだったぜっ。
害意無く、『当然の行動』として仕掛けられたから反応が遅れたっ。探知系スキルに頼り過ぎない方がいいな!
(状態異常、軽度の目潰し。ただし、浄めの効果もあったようです)
そりゃどうもっ。
「オババ、彼はダイスケ。良いキラーナスなんだよ。オババに色々聞いてほしいことがあるみたいなんだ。頼むよ」
「キェーッ! 報酬ぅっ!」
「・・ポーション+1です、どうぞ」
滋養をちょっと消費して目潰しから回復しつつ、俺は草編みのリュックからポーション+1の入った間違えないよう青く染めた瓢箪を1本取り出して差し出した。
占い師は栓を抜き、匂いを確認した。
「キェーッ! 3つまで聞いてやろうっ!」
ずっとエキセントリックだよっ。
「じゃあ、噂の魔王とかは、どーなってるんッスか?」
これは一応、聞いとこう。
「魔王は氷の底で休眠しておるっ。魔王軍は総崩れでバラバラじゃっ! あちこちで悪さを始めておる!」
思ったより組織としてダメージは受けてる感じなんだ。
真ダイスケ、頑張ったのな・・
「この地域は大丈夫なんッスか?」
「各地で被害は出始めておるっ。茄子よっ! お主はさらに東の草原へゆくと吉!」
「お? 東・・まぁアテもないし、それも」
「キェーッ!!」
「ええっ?!」
急にシャウトっ。
「この里で、『懐かしき槍』を回収せよっ!」
「懐かしき槍??」
「占いはここまでじゃっ!」
物凄い勢いで占い道具を置いた机を片付け始める占い師!
「え? 今ので3つ? 最後に俺自信のことを聞こうと」
「キェーッ!!! 茄子ぅーっ!!!」
奇声で俺を威嚇し、テーブルクロスで包んだ占い道具と渡したポーション+1を持って、占い師は魔除けの布で仕切られた部屋の奥に引っ込んでしまった。
「もう、なんだよぉ。心臓バクバクするわ~」
「ダイスケ、その槍なら心当たりがある。確かに、君のような不思議なヤツなら相応しいのかもしれない」
「いや、ユッカナ。1人で納得されてもさ」
どゆこと? 槍??
それから里長の家にゆき、俺だけ客間の1つで待たされることになった。
俺は家政婦のエルフにスンっ、とした顔で黙って出されたお茶をポットの全て飲み干し、あまり甘くないエルフの茶菓子も皿に盛られた全てを平らげ、まだまだ待たされ、最終的にソファで寝ていると、
「ごめん。待たせたね、ダイスケ」
ユッカナが客間に入ってきた。
「慌ただしいが、私の家で私物の整理をしたら、すぐ出発しよう」
「マジか? 俺はいいけど、ユッカナは帰ったばかりだろ?」
「問題無いよ」
ユッカナは笑ってみせたが、ほろ苦い物があった。
片付いてはいたが、小じんまりとしたユッカナの家は物が少なく、空き家同然だった。
整理する、というより、わずかに残った私物や、家の様子を見て回り、持ってゆけそうな物をいくつかポーチにしまい、それだけで済んでしまった。
「あまり帰らないんだ。管理は親戚に任せてる」
「家族は?」
「いない。私は早くに先輩の野伏に弟子入りしていて、この郷自体、たまに立ち寄るくらいなんだよ。行こう」
「・・おう」
この世界のエルフ族の寿命は人間の3倍らしい。ユッカナの見た目は10代後半だから、長い間、1人だったのかもしれないな。
日が暮れていたが、郷の外れの人気の無い石の扉の祠の前に俺達は来ていた。
扉の脇には小さな塚が1つあって、ユッカナは花と、香台に香を供えていた。
「一族の塚だよ。ブロッサムウィンドはこの祠を守る血統」
(ダイスケ、スキル・運命連鎖は回避できません)
「・・わかった」
小声でナビに応えていると、ユッカナは手をかざし、祠の石の扉を開けた。




