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「遠距離苦手なミミルは中でハウスの操縦!」
「マジかぁ?」
ミミルが操縦得意ってワケでもない。
「ネッカイは先導して道を開いてくれ! 俺と他の皆は屋根に乗って迎撃だっ」
「了解!」
「わん!」
俺達は配置に付き、ネッカイが風と雷の属性付与でスピードと火力を出して突進して作った道を砲撃しまくる飛行ハウスの屋根に乗って広間を突っ切り出したっ
屋根の上の俺達も攻撃しまくる!
「押し通るぜっ!!」
俺達は乱戦の浮遊石の広間を強引に抜けていった。
広間を抜けしばらくは召喚された魔族達に追われたが、振り切って進み続けるとパタっと追っ手が途切れた。
今回も相当持ってる俺の位置特定撹乱スキルの効果で俺達の位置が把握できなくなったんだろう。
内部からも備え付けの『物見の宝玉』で外の様子は見えるが、即応する為に頑丈であまり消耗していないボボとゼノロオンを屋根に見張りに残し、俺と他のメンバーは中で休んだり装備の調整をすることになった。
(忠告、深部まではルートが分かれるのである程度ごまかせますが、進む程、ルートの選択肢が減り、居場所の把握に関係無く待ち伏せのリスクは高くなります)
「だな。俺は連戦し過ぎたから、『5分』休む。皆も準備を済ませといてくれよ?」
俺は、リビングのソファで寝ているトトシ王子と近くのハンモックで寝ているヨーナの間くらいで毛布にくるまり、超レア回復アイテム『ファイナルエリクサー』をガブ飲みすると、スキル『単発発動・超高速仮眠(100P)』を発動しコテっと横になって寝た。
夢の中の俺はただの夏休みの高校生で、とあるビーチで水着を着て、同じく水着のコニやユッカナやマルシさんや魔女のネリや龍の魔女と、波打ち際で戯れたり、ビーチバレーしたり、スイカ割りしたり、日焼け止めを・・ムフフっ。
「ぐふふっ」
「キモっ、絶対エロい夢見てんぞこの茄子っ、起きろや!」
「ぐはっ?!」
ミミルのクロスチョップ気味の体当たりを喰らって起こされたっ。
「起こし方っ」
とにかく目覚めた。ミミルは河童のレインコートと白魔のコートを錬成した『ペンギン大王のコート+3』を着ているから、めちゃ冷やっこい!
「コニ、どこまで進んだ?」
(多少内部構造が変質はしていますが、中程、といったところでしょうか? しかし、忠告、ここからルートの選択肢が減るので遭遇率は上がりそうです)
「ハウスに透明化とか、直接的なスキルも利くかな?」
(忌避系のスキルも合わせればある程度は可能でしょう)
「よ~し」
俺はハウス自体にあれこれスキルを盛って、ボボとゼノロオンと見張りを交代した。
ルートが1本道になるエリアに入るとまだ残ってるはずの下級邪神群やアプサーとの戦闘は避け難い。なるべく消耗は避けよう。
透明になった飛行ハウスの屋根に乗り俺自身も透明化し、周囲への警戒を強めた。
装備の調整や持ち道具の補充や整理が済んだゼノロオンは、当たり前に支給される高価なエリクサーを(ヨモギとリンゴ果汁を煮詰めて冷やしたような味と臭いだな)と思いながら飲み、同じく飛行ハウスのリビングでエリクサーを飲んでいるボボを見た。
「王子には長く仕えているのかい?」
「ああ、長い。種族が違うからわからないかも知れないが私はもういい歳なんだよ。騎士団をとっくに引退して、請われて護衛を兼ねて王子付きの執事になったんだが、思いもよらず、だ。正直参ってる。ハハハっ」
「そうか、ふふ。じゃあ相棒は?」
ソファで眠るトトシ王子に膝枕をしていたノンノンは、自分の話になって顔を上げた。
「私の郷は魔王軍に襲われて壊滅した。生き残りの私は郷の跡の根城に、周囲の魔族を狩って獣のような暮らしをしていたんだが、冒険者ギルドに登録せず現地のギルドとも険悪だったから、嫌がらせで新手の凶悪モンスターとして懸賞金を掛けられてしまってな」
「酷い話だ」
「タチの悪いヤツがエリア単位で仕切ると色々おかしなこともあるさ。まぁ、そこに、腕試しで来た王子と付き添いのボボが来て一悶着あって・・私はコテンパンにされたワケだ」
ノンノンは懐かしそうに眠る王子を見詰めた。
「結局、ノンノンの真相を知った王子が激怒して現地ギルドに攻め込んで、後始末にほとほと骨が折れたぞ? 彼女はそれからだ」
「なるほど。じゃあ、魔王討伐は本懐ってとこかな?」
「・・復讐の為の復讐はもういい。災いの元凶は断ちたいが、今の私はただ王子に仕えてるだけだよ」
「いや、ただのショタコンじゃん? 何ナチュラルにいい話風に纏めてんの? 変態淑女じゃん?」
ミミルが我慢できずにツッコミを入れだした。
「誰が変態淑女だっ! 一緒にするなっ。私は、忠義っ!!」
「出~た~、忠~義~っ、便利なワード使ってらぁっ!!」
「何をっ」
ミミルとノンノンが言い争いだす中、王子は寝苦しそうに身動ぎし、ゼノロオンとボボは巻き込まれないように話題を飛行ハウスの砲台の仕様に移し、ミミルの隣に座っていたユッカナはスッとミミルから距離を置いた。
ネッカイは全く構わずジェム類と竜の肉等を混ぜた餌をガツガツ食べ、寝相の悪いヨーナはハンモックから落ち掛けていた・・
いよいよルートが1本道なる辺りまで来ていた。途中で先行させた水系モンスター達の死骸も尽きていた。悪いな。
休憩を済ませ、今のところ高度な手動操作は必要なかったが操縦役のミミル以外のメンバーは、全員飛行ハウスの屋根の上に登っていた。
(警告、ルートの先に不自然に敵の気配がありません。神殿入口と同じ種類の結界が張られていると、想定!)
「奇襲か。入口と同じ火力なワケないし、ハウスの一点を狙われるとキツいな。ヨーナ、結界をすり抜ける能力を俺の攻撃スキルに合わせられるか?」
「やれるかも?」
「よし、こっから中心部までそう遠くないはず。飛行ハウスはここで盾に使っちまう!」
俺達は慌ただしく中からミミルとカボチャの使い魔達を出し、俺とミミル以外は飛行ハウスから降りて間合い取って続いてもらい、魔王がいるはずの神殿中心部への直進ルートの入り口にいよいよ近付いた。
聖霊眼で見通せるユッカナが合図してきた。やっぱ、いる!
俺が遠隔で簡単な操縦権を確保した飛行ハウスは天井近くの入り口に微妙に角度が合わない位置をキープさせている。
何も気配を感じないが、向こうからは目視でこちらを確認して射線が通ればやってくるだろう。
透明化云々は高度な探知を直にやられると効かない。
「この距離が限界だな。ヨーナ、頼む」
「は~い」
ヨーナは俺の肩に片手を置こうとしたが、肩が無いので俺の後頭部? の辺りをガッと掴んだ。持ち方!
ヨーナの魔力が俺と同調する。
(スキルの同調を確認、いけますね)
「OK・・スピリットランス・2倍! 獄雷弾×60っ!!」
俺は魔力を高め、スキルポイントをガッツリ食う60発の雷の球を操り、入り口にあるはずの結界をすり抜けさせて内部に全弾撃ち込んだ!!
バリィイイイイッッッ!!!!
内部から猛烈な電撃が弾け、入り口にやはりあった結界が砕けた。
「いるいるっ! キモぉーーっっ!!」
物陰で総毛立つミミルっ。すぐに見える角度に移動すると、
「うわっ」
入り口の向こうに、床、壁、天井まで、初手の電撃で耐性の無い大半のヤツらにはかなりダメージを通せたが、50体あまりの異形の下位邪神達が蠢いていた!