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玉子家の2階に戻って、ネリとバジからルググメヴィスの確認された能力や魔族達の現在の侵入位置等を水晶玉を使い、宙に出した模型のような立体図なんかで解説されていると、突然っ、管楽器のメロディーが『建物等を無視して』、まっすぐ響いてきた!
「警報だっ!」
水晶玉の映像を消すバジ。続けてテレパシーが送られてきた。
(ルググメヴィスが術を掛けた地点から全く別の地中から出現! こっちが本体っ。今、彷徨ってるのは分体と推定! 分体の方の身体は即、崩壊しちゃったっ!)
(術の掛け直しは?! ヤツの進行ルートはっ?)
ネリがテレパシーで聞き返すっ。
(四賢にもう余力が無いよっ、弱るのを待ってたんだ! 柱の樹の位置も特定してるみたい。直進してるっ! 他の魔族群もあちこちで活性化して、真っ直ぐ柱の樹の方にっ)
「嘘・・」
呆然とするネリ。バジの方も混乱していた。仲間達も困惑している。
「念話っ!」
俺はテレパシースキルを使った。
(茄子のダイスケだ。足止めできるのか?)
(私達が移動を支援すれば、散らばってる魔族軍勢は冒険者と連合軍で抑えられる。でもルググメヴィスは無理っ!)
「ヤツらの狙いは魔女なのか? 柱の樹? どっちだ?」
「両方。でも柱の樹を優先すんだろ? 根絶やしにするつもりだから・・」
「私達は勇者ダイスケをずっと支援していたんだ。ずっと」
「うーん・・」
身動きは取れないか。
「2人とも、戦えない魔女達に卵を持たせて避難させてくれ、戦える魔女の内、いくらかは俺達の支援をっ!」
「アレと、直にやる気?!」
「無茶だよ、ダイスケ・・」
俺の茄子の頬に触れてくるネリ。ん? さっき会ったとこだよな? こういう所作のカルチャー??
(推奨、ネリの手首を捻って背負い投げ)
(なんでだよっ)
だがそっと、俺は蔓の手でネリの手を離した。
「茄子だが、俺達助っ人に来たんだぜ?」
俺はなるべく気楽な感じで言った。
俺達はルググメヴィスに対応する為に向かっていた。支援の魔女はネリとバジの他に70人程。
竜型の生きた樹で生成された飛行傀儡兵の大群も引き連れている。
四賢は万一の為の柱の樹の苗に守りの術を掛けて避難組に託したり、雑魚魔族軍に対応する冒険者達や周辺国連合軍に支援の術を掛けたり、柱の樹の結界を強化したり、残りの力でルググメヴィスに直接ダメージを与えるタイプの単純な妨害術を掛けたりしているようだ。
最後の力なんだろう・・
「マジ、なんの探知も掛からないな?」
俺の各種スキルが無反応で、前方にヤツの姿がまったく見えず、妨害されているはずの音も何も伝わってこなかった。
「柱の樹の隠しの術をコピーされたんだ。アイツ、自分の射程外から攻撃されるの嫌ってっから!」
「でも探知に関しては四賢の方が上、位置自体はわかってるよ? そろそろだから・・」
ネリは合図して、3種類いる竜ゴーレムの内『空間干渉タイプ』の竜ゴーレムを前面に出した。
(警告、接近!)
見えない境界を越えた瞬間っ! 遥か前方に城のような巨体のガラクタの塊のような化け物が姿を表した! 周囲の森から放たれる『結晶の根』の槍に攻撃されていたが、強力な魔力障壁で遮断して、意にも介していない様子だっ。
ルググメヴィス!! ヤツはこちらに気付くと大口を開け、溜めも無く速射で『極大波動砲』を放ってきたっ!
ドォウウウゥッッッッ!!!!!
前面の竜ゴーレム達が即応し、空間をねじ曲げて極大波動砲の超火力の熱線を分散させるっ。なるべく上空に弾かれたが3割程度は周囲の森に散ってしまい、相当な範囲が焼き尽くされてしまった。
負荷に耐えかねて、空間干渉タイプのゴーレムは4割は破裂していた。直進は無理かっ!
「散開っ!!」
俺は絨毯から飛び降り、スキルを盛ったグレート・ヘタウィングを使い、ネッカイはミミルを咥えて変化を解き、トトシ王子達は王子が作った星形の光の台座にそれぞれ乗って飛び出し、ユッカナとゼノロオンはそのまま飛行絨毯で後衛に回った。
ネリとバジ達魔女もゴーレム達と展開するっ!
「茄子がいるでゲスっ! 当たりゲス! マニにバカにされなくて済むでゲス~っ!!」
喜びつつ、ガラクタの身体から無数の回転ノコギリの武器を放つルググメヴィス!
魔女達が『迎撃タイプ』の竜ゴーレム達に熱線を撃たせて大半は撃ち落としてゆくが、抜けたノコギリで迎撃ゴーレムを5割は切断されて減らされたっ。
やり辛いな! 俺が囮に出るか? と思っていると、ルググメヴィスの背の一点に集中して結晶の根が打ち込まれ、わずかにヤツの魔力障壁にヒビが入った! 四賢だっ。
「ゲスぅ?」
気を取られたその隙を魔女達は逃さなかった!『障壁解除タイプ』の竜ゴーレムを全個体、ヤツの障壁に突進させ、激突と同時に解除の魔法式を展開していった。
揺らめくルググメヴィスの魔力障壁。もう一息だっ。
「トトシ王子っ!」
「オールスプライト・エクストリームじゃっ!!!」
寄り合う星々のタクトで光の奔流を放つトトシ王子! 王子はルググメヴィスの背部の障壁の亀裂に光を集めたっ。
「・・・」
ルググメヴィスは『王子1人』に対して、もう1度無数の回転ノコギリを放ったが、ボボとノンノンの範囲攻撃技と俺の蔓シェイバーラッシュでカバーする!
「んんっっっ、じゃーーーーっ!!!!」
フルパワーでさらなる光の奔流を撃ち込みっ、トトシ王子はルググメヴィスの魔力障壁を砕き、昏倒した! 即座にボボとノンノンが落下する王子の救出に向かい、俺が残りのノコギリ全部を相手する。こっからだ!
「『グリーンスター』っ!!」
ユッカナがルググメヴィスの足元に植物の力を乗せた矢を撃って大量の蔓を噴出させて巨体の両脚を縛り上げっ、
「『ミンチメーカー』っ!!」
ゼノロオンが2本の斧に最大に魔力を乗せて投げ付けて巨体の胸部に命中させて牽制しっ、
「『ギガノーザンスピン』っ!!」
ミミルとネッカイが氷属性の合体回転攻撃で顔面を打ち据え頭部全体を氷漬けにした!
魔女達も一斉に残り全ての竜ゴーレムを使って攻撃しっ、結晶の根も次々とルググメヴィスを貫きだす!
俺もノコギリは全てはたき落とした。押せてるっ。
だが!
「んがぁ~~~んっっ!!!」
氷を砕き大口を真上に向けたルググメヴィスは口から多重の輪状魔法陣に囲われた黒い玉を吐き出した!
重力球? いやっ、魔法陣が??
(警告っ、『重さ』が来ます!!)
ズンッッッッ!!!!
ルググメヴィスは自分以外の広範囲の全てに『重力の負荷』を与えたっ! 巨木の森は押し潰されっ、飛行していた者達は念力と魔力障壁で耐えた俺以外は全員に地に叩き落とされた!!