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昼 ヘキスコル市街地 1


 ハウンドさんの言う通り、北上して『ヘキスコル市街地』に辿り着くまで、他のプレイヤーとは遭遇しなかった。日中の草原を銃やバックパックを背負いながらの長距離移動に、体は一切疲れを訴えかけてこない。


「――[DAY WALK]でも、無限に走り続けられたし」


 体の作りが[DAY WALK]準拠なら、わたし達も含めた全プレイヤーの身体能力は全く同じなはずなんだけど。ただ草原を走っているだけなのに、わたしとハウンドさんで身のこなしが全然違うのはやはり設定(・・)が影響しているのだろうか。


 なんて考えてるうちに、ハウンドさんに先導される形で、わたしは街の外縁にある二階建ての一軒家へと入った。このマップの市街地は大抵、一から三階建ての住宅が密集していて、中央付近に学校とか病院とかの大きな建物が鎮座している。後は、アパートが連なってる団地とか。

 コンクリかたまに煉瓦造りの現代的な街並みで、道に沿って並ぶ街路樹や路肩に留められた自動車なんかは全て、配置されたオブジェクト。信号は機能していないし、街灯なんかは漏れなく破壊されているけど。


 そんな街に、家々を手早く渡りながら入り込んでいく。


「――安全地帯(アンチ)はこの町の更に先。ささっと通り抜けよう」


 バトロワゲーでお馴染みの安全地帯――その外にいるとHPが継続的に減少してしまう、いわば生存可能領域。ストーム、リング、パルス等々、ゲームによって設定も名称も異なるそれは、[DAY WALK]では『暗闇』と呼ばれ少し変わった仕様になっていた。



 まず[DAY WALK]ではマッチ中に昼夜の概念があり、昼と夜で安全地帯の範囲が全然違う。夜はマップ全域が『暗闇』に覆われ、プレイヤーは特定の屋内や洞窟等(セーフティスポット)に避難しなければ、秒間34のスリップダメージであっという間にHPが0になる。

 昼間は円形に区切られた安全地帯内に居れば大丈夫だけど、その外は時間帯に関わらず常時『暗闇』に覆われ、立ち入ることが叶わない。また各所のセーフティスポットは、安全地帯から外れるとその機能を失う。


 日の出と同時に次の安全地帯の範囲が予告され、日没と同時に収縮が始まって。夜の帳が降りるまでに、プレイヤーはそれより内側のセーフティスポットを目指して走り。朝まで(と言ってもゲームだと一分そこらだったけど)身を潜め、日が昇れば再び、次の安全地帯内を目指して動き出す。それが[DAY WALK]の基本ルール。

 このルール故に、草原や山岳地帯などの自然エリアにも小屋なんかがぽつぽつとあったし、ここに来るまでにもその存在が確認できた。



 ――という訳でわたし達も、ハウンドさんの言葉通り早くここを抜けてしまいたい。住人が誰もいないゴーストタウンに武器やアイテムだけが散乱している様子は少し不気味で、心が落ち着かないし。


 街中を通る利点としては、とにかく建物に囲まれているため遠くから一方的に撃たれる事が少ない≒安全っていうのが挙げられる。……デメリットとして、同じ考えで街に集う他のプレイヤーたちと鉢合わせる可能性がある≒危ないっていうのが挙げられるけど。というか正直、大きめの街には殆どの確率で誰かしらいる。複数人いることだってザラだ。

 ゲームならそれも、短時間で連続戦闘できて楽しいって思えたんだけど。今となっては不安材料でしかない。それでも、平原を通ってそれこそ街側から狙撃なんてされたら堪ったものじゃないし、そもそも迂回は時間がかかり過ぎるって事で、こうして街中を突っ切るルートを選んだのだけど。


「――ひぅっ」


 街の中心を過ぎた辺りで、ぱぱぱぱぱと銃声が聞こえてきた。思わず足を止めて、音のした方、左前にある大きな病院を見上げる。


「……」


 ハウンドさんも立ち止まって、音で状況を確認しているみたい。一応わたしも、目に見える範囲で何か起こってないか辺りを見渡してはみるけど、冷静に索敵できている自信はない。


 その間にも銃声はいくつも重なり、わたしにもこれ複数パーティーいるんじゃないかって分かってきた。


「……病院を挟んだ向こうの区画。恐らく、四チームほどいる」


 銃声の数?種類?とかで判断したのだろうか。音は左斜め前、わたし達の進む方向とは微妙にずれたところから聞こえてくるけど。進めば当然、近づく事にはなる。


「少し右に迂回しつつ進もう。戦闘は避けたい」


 街に入ったのはあくまで、厄介度が狙撃>市街地戦闘だったからであって、進んで戦いに来たわけじゃない。怯えるわたしを安心させるように微笑みながら、ハウンドさんはルートを右に修正した。その右手には既にグロック17が握られている。わたしも斜めに下げたAKMに手を添えてはいるけど……正直、撃てるかは分からない。


「……」


 もう家の中には入らず、壁や塀に身を隠しながらなるべく早く進む。

 遮蔽物から出る前には、必ずハウンドさんが素早く安全確認(クリアリング)をしていて。その動きはまさしく、ゲーム中にわたしがしていたプレイそのものだった。


 だから、決して彼女が悪いわけじゃない。何が悪いと聞かれればそれは、運、としか言いようが無いだろう。


「……ごめん。銃声、近づいてきてる」


「……っ」


 三階建ての家の塀から街道を覗き込みながら、ハウンドさんは静かに呟いた。言葉通り、断続的な銃声は大きくなっている。恐らくあちらも、撃ち合っている内にこっち方面に流れてきたのだろう。


「さらに迂回――いや駄目……!」


 本当に運悪く。視線を向けていた、街道の向こうにあるコンビニ横の細道から、銃を持った二人組が姿を現す。回り込んで待ち伏せようという魂胆なのか、建物の裏で立ち止まってしまった。彼らの視線はこちらから見て左側――銃声の鳴る方へ向いているから、わたし達はバレていないようだけど……



「――――クソッ!クソッ!!」



 遂に左の大きな十字路の奥から、今しがたまで発砲していたんだろう男が走ってきた。全員共通の、簡易都市迷彩服。遠目でよく見えないけど、アサルトライフルっぽいものを持っている。

 そのすぐ後ろからはチームメンバーっぽいプレイヤーが付いてきていて、不利な状況なのか、彼らは脇目もふらずにわたし達の前を走り抜けていった。待ち伏せがいるコンビニの方へ。


「うわァっ!?なん、ヤメ……!」


 塀の裏に身を隠しても、悲鳴と銃声が響いて良く聞こえてくる。少し後には、視界の端でキルログが流れた。


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