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落園の神々  作者: 木の実あかし
第一章 死宝の首飾り【ルミネス視点】
8/13

第七話

※2023.3.15更新①

 翌日、あたし達は捜査局に今後の方針を確認することにしたわ。

 局長は出張だか来客の予定だかで居ない。代わりに、不愛想な捜査官相手に質問よ。ミーアが矢面に立つことになったわ。あたし達には荷が重いから。


「今回の依頼は魔術の特定です。件の連続殺人犯と遭遇した場合は拿捕の許可を頂いていますが、密輸となるとまた話が変わりますよね」

「ああ……場合によっては捜査妨害に相当する」


 つまり、囮捜査を実施する予定かもう捜査してるって事ね。面倒な立場で困るわ、組織のしがらみとか権限の制限とか。


「そちらの調査状況をこちらに共有する事はできますか」

「否だ。聞かずとも分かるだろう」


 小馬鹿にした様子に苛つくけどちゃんと言質は必要。はっきりと言ってくれるだけでも比較的親切な人だわ。これが局長だったらのらりくらりで明言しないかもしれない。アディスは居心地悪そうにしているけど、結局は部外者でしかないもの、あたし達って。


「では、仮にそちらの調査員を誤って拿捕した場合の処罰はどうなりますか」

「場合による。犯人を逃すなら、それなりのつけは払ってもらうつもりだ」


 空気が悪くなった捜査員は舌打ちをしながらミーアを睨んだ。


「こちらとしても魔眼共がうろつかれるのは困るんだ。さっさと依頼を終わらせろ」

「連携を見直すいい機会ではありませんか。現場主義は素晴らしいですが、それも個人の資質に左右されますし、時として大局を見渡すべきこともあるかと」


 ミーアは痛烈な皮肉を言っている。捜査局の腐敗を先にどうにかしろって意味よ。どこかで誰かが不正をしているんじゃないかって疑ってるみたい。

 でも、捜査員もミーアに負けてない。淡々とするミーアを見下ろして一笑した。


「口達者、結構なことだ。ああ、しかし、こちらに正当性があることを忘れるな、特にお前はな。プロを名乗るならプロらしく自分の仕事をこなせ」

「ご心配してくださるそのお心遣いに感謝します」


 頑として折れないミーアに捜査員は不愉快な顔で会議室から出ていった。

 一息つくミーアも疲れてはいるわ。でも、すぐに切り替えて「ちょっと考えようか」とあたし達に声を掛ける。


「連続殺人事件だけじゃなくて、違法武器の密輸事件も重なってるみたいだね」

「つまりは別の事件と考えていた二つは、実は同一犯による物の可能性があるって事だよな」


 ヘストのまとめにミーアが頷いて「そうだね」と答える。

 あたしは関連があるくらいと思ってるけど、こういう時は最悪のケースを想定して動いたほうがいいわ。なおアディスは全然展開についていけてない。さっきから魔剣を抱きしめて必死に落ち着こうとしてるだけ。


「面倒だな。捜査局内でも割れてるんだろ、あの様子だと」

「みたいだね。あっちに連携を求めるのは時間の無駄。となると、こちらとしては最速で蹴りをつけて内部抗争に巻き込まれないようにする、が一番傷は浅いかな」

「だとしても、もう関わってるからな。俺達は目立つだろ。犯人に目を付けられてもおかしくない」

「……もしくは私達を囮にっていう意図があったかもね。考えたくないけど、あの人達はやりかねないよ」


 本当に嫌になるわよ、こんな事情を考えるのって。

 人間の汚い部分を直視するような場面を見せつけられて、アディスの心が折れないか心配よ。あたしはあの人の時に根本から折れてしまったから、大人の汚さなんて驚きはしないけれども。


 結局はなるべく危ない目に遭わないよう単独行動を控える。そう決めて、当初の予定通りに魔術の特定を急ぐことになった。北大陸の魔術って国や民族ごとの特色があって、使われる魔術の属性が片寄ってるのよ。それで地域だけでも絞れたらこっちのもの。大使館を通して調査依頼もできるわ。


 ちなみに、ミーアはあたし達が把握できてない西東の大陸の技術と今回の解析結果と比べている。

 学生には教えない知識が入ってるらしくて、そっちのデータの読み方が分からないのよ。まだ学生は部外者の扱い。本当の仲間だと認められるには、学園をきちんと卒業しないとダメ。


 採取した魔力を解析機に掛けてしばらく待つ。

 魔力回路を損傷させる場合、よく使われる魔術は風属性で次が炎属性。理由は簡単、肉体ごと破損させちゃえばいいのよ。でも、実は水系統で内部から狂わせるって手段もプロなら取れるらしい。逆に一番無いのは光属性……協会魔術だと、光属性の扱いが他と違ってこんがらがるから便宜的な光属性って事にしておくわ。


「呪術か方術って可能性は、低そうだね」


 難しい顔をしてたミーアが声をかけてきた。

 あたしは装置につきっきりだから、書籍を漁ってるヘストが話してる。


「じゃあ、やっぱり北大陸の魔術師か」

「断言はできないけどね。魔術の習得は他大陸の人も出来るから」


 その話を聞きながら観測点の大気魔力と採取した現場の魔力を比べる。波形のピークがやっぱり無くて、異常検知には至らないわ。

 あたしのため息に、手がかり無しと分かったみんなは顔色が暗め。


「分かってるでしょうけど、属性は不明よ」

「あとは何を調べるか……属性もダメ、犯人像も詳細不明となると、思い付かねぇな。総当たりをしてたら時間切れだろ、この件は」


 万事休す。そうとしか言えないわ。

 そんな中、一人だけ妙にそわそわしているアディスが、会話に入ってきた。ヘストの補助でもやってるのかと思ったら、ほとんど本を読んでなかった。


「あのさ、ケイトさん、捜査局に保護してもらった方が安全だと思うんだ」

「あー……そういやまだあの人の話が途中だったか」

「それだけじゃなくて、なんか、思ったよりヤバいことになってるしさ。大丈夫かなって」


 ああ、あの人の事が心配で手が付かなかった、って事ね。アディスが話に出すまですっかり忘れてたわ、あたし。余裕が無いと視野が狭くなっていけないわ。


「関わると逆に危険じゃないか?」

「かも、しれないけど。俺、嫌な予感がする」


 根拠はない言葉。でも、アディスって妙に勘が良くなる時があるから切り捨てるにはちょっと気になる。あの鳥人が怯えてたって事は、犯人を見た以外の事を知ってるって可能性もあるのよね。


「捜査局でも聞き込みに行くんじゃないかな」

「なら、それに同行はできない?」

「うーん……待ってね、確認してくるよ」


 そうして捜査局の人達と一緒にあのログハウスに向かった。でも、あたし達はあの鳥人と会うことはできなかったのよ。


 ――その代わりに、あのベージュの敷物が血まみれになっているのを見つけた。

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