表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
落園の神々  作者: 木の実あかし
第一章 死宝の首飾り【ルミネス視点】
6/13

第五話

※2023.1.15更新②

 昼食後、捜査状況を纏めた。あたし達が駄目だった場合はミーア主導で捜査が始まるから、引き継ぎに困らないように。


 持っていた通信機を起動させて、ヘスト達にも聞こえるくらいの音量に合わせる。


『どうしたの』

「魔術解析のデータを提出したいから、合流しましょう」

『分かった、それじゃあ大広場で』


 それだけで終わった会話。アディスに通信機を渡したら物珍しそうにいじくっている。まだ魔道具の種類も覚えきれてないものね、アディスは。


「協会って、本当に謎の道具が多い」

「魔道具はみんなそうでしょ」


 そうはいっても、あたしだって協会に来るまでは見たこともなかった。

 そもそも、協会にある転移陣だって意味不明。どうして目的地に着くのよって初めは思った。便利で理解できない技術はちょっと怖い事がある。あたしでもそう思うくらいだから、協会の中を知らない一般人が魔術師を差別するのは仕方ない。


 アディスは純粋に感心している……だから、あたしはこの子と話してて気疲れすることがある。泣かれても困るから本人には言ってないけど。


「色々とやるべきことが多いんだな、捜査って」

「当たり前だろ。つーか、魔剣を持って威嚇するなよ」

「してないって! これは、精神安定のために」


 ヘストがもっともな正論で突っついた。銀で縁取りされた綺麗なグリップ部分が布切れからはみ出てる。道行く人にも剣を抱いてるってモロ分かり。

 それでも、アディスは止めない。


「これがあれば大丈夫なんだ、本当にすごい剣なんだからな!」


 頬ずりまでしているわ。ヘストはそんな様子を気味悪い顔をして眺めている。情緒が安定するならって目を瞑ることにした。


 大広間のシンプルな噴水辺りに佇んでいるミーアは誰かと話をしていた。目撃者かもしれないと期待して近づく。

 でも、当てが外れたわ。男女の二人組はロザリアンドの人達じゃなくて旅行者。観光目的の外国人が着用するブレスレットが見えたから。


 一人はかわいい系の顔立ちの女性。黄色味の強い金髪とオレンジ色の目は秋の紅葉のカラーリング。ふんわりとした薄緑のワンピースが似合っているわ。

 もう一人はサングラスと帽子を身に着けていて顔ははっきりしない男性。けど、外さなくても美形って分かる。鼻梁が高くて顔の輪郭が整っているわね。日焼けに弱いのか、肌の露出は最低限だった。


 ミーアに声を掛けると三人してあたし達に注目する。


「ああ、みんな来たね。この人達は北大陸の人達だって。治安について聞かれたんだ」


 手短に告げるミーアは、少し辟易とした声を出している。北大陸の協会魔術師ってすごい集団扱いだもの、だから声を掛けられたのね。

 女性の方はにこにこと親しみの籠った笑みを向けてくる。

 それに対して男性は少しよそよそしい。


「ええ、そうなんです。私達、あまり南大陸の事に詳しくなくって」


 女性が男性の腕を取った。

 家族にしては顔は似てないし無自覚にいちゃついてるから、きっと恋人達なんでしょう。


「それに、魔術師の人と話したことなかったので……ふふ、とても楽しくて有意義でした。ありがとうございますね」


 それで話は終わりっぽくて、女性が男性を引っ張ろうとしてるんだけど何故か男性は戸惑ってるみたいに動かない。


「ホラ、どうしたの、ルディ」

「え、いや、何でもない」

「もう、何? このキュートな子に一目ぼれとか?」


 いきなり嫉妬に近い感情を向けてきた女性に生暖かい目を返した。この人ってナンパする性格なのかしら。


 男性は「ごめんね」とサングラスを外して女性を見つめる。

 やっぱりすごい美形だった。紺色の目が肌の白さで際立っている。


「フィーの方が可愛いって」

「うふふ、そうよね? ルディにとっては、私がい・ち・ば・ん、なんだもの」


 一番、ってところでチラ見されたあたしはどうしたらいいのよ。もうアホらしくて勝ち誇った顔に適当な笑顔で応じる。目のやり場に困っているアディスもいることだし、話もそこそこに二人から距離を取ってあたし達は捜査に戻った。


 新たな目撃者がいたって事で、ミーアとも一緒にその人に会いに行くことにしたわ。

 ただ、問題があるのよ。その目撃者はどうも獣人らしい。心配になったあたしはアディスに確認する。


「あんた、獣人のことは勉強してる?」

「村にも一人いたから、何となくは分かる」


 そうきりっとした表情で答えたアディスに少し不安を感じつつも、本人の言葉を信じることにしたわ。

 獣人っていうのは、普段は人間と同じ格好をしているけど、いざとなったら獣の姿に変わる種族。人間と同じ感覚をしているかと思えば、全然常識が違ったりすることがある。どこに逆鱗があるか分かりにくい、扱いづらい性格の人達って認識をされているわ。


 講義で聞いた獣人の思想を頭の中でおさらいして、これだけはと思ってアディスに一言言った。


「間違っても獣人なんて呼んじゃダメよ」

「えっ、村の獣人は気にしてなかったけど」

「田舎じゃそうでも、ここは都会なのよ。のんびりした獣人ばかりじゃないから、地元のノリで行かないこと。分かった?」


 アディスに言い含めると、コクコクと頷いた。ヘストが続けてニヤリと笑う。


「そうそう、俺みたく撃ち落とすぞって脅されないようにな」

「何したんだよ!?」

「あー、飛んでたら捕獲されてさ」

「は、はあ? 銀竜に撃ち落とされなかったの?」

「ガキだから見逃すって言ってたぜ。すげーだろ」


 ミーアが窘めたけど、ヘストは話を盛ってアディスの恐怖心を煽った。ホント、からかうのが好きよね、こいつは。


 ちなみに銀竜って、獣人達が崇めている魔物よ。人と話せるらしいけど、それも嘘か本当か分からない。空を飛んだり飛ぶ仕組みを作った人達は銀竜の怒りに触れて雷を落とされるって言い伝えられている。

 まあ、でもだからといって獣人が危険かというとそこまでって感じはしないわ。別に邪神教徒みたいな殺人集団じゃないもの、ちゃんと話は通じる。


 都心から離れた雑木林の道を進んでいくと、ログハウスが見えてきた。

 ここが例の目撃者の家。牛でも飼っているのか奥の方から低い鳴き声が響いてくる。

 ドアベルを鳴らすとひょっこりとトサカを付けた女性が出てきた。きっと鳥人系の獣人。それ以外はまるで人間と一緒。


 鳥人はジロジロとミーアやあたし達の服装を見て眉をしかめた。


「協会の人達ですか、どんな御用で?」

「世間を騒がせている連続殺人事件の件で」


 無言でぴしゃり、と扉が閉められた。一切の譲歩もない拒絶よ。これはどうしたらいいのかしら。

 ミーアは一歩引いたところであたし達の見守り姿勢を崩さない。自分達でどうにかしないと。


 今度はノックをして声を掛ける。


「すみません、どうしてもお話を伺いたくて」


 うんともすんとも言わない。ヘストと顔を見合わせたら肩をすくめられた。

 そこに脈絡のないアディスの世間話が始まった。


「あのー、そのトサカ、色つやがいいですね。確か、よりピンクに近いのがコーラルコカトゥ族の美人の基準なんですよね」


 何か方策でもあるのかしら。でも、アディスの顔からしてただ単に話の切っ掛けを掴もうとしているだけ、よね。無いよりはましだけど。魔剣を抱きなおして精一杯の笑顔を作っている。


「友達はパールスパロウ族で、それで聞いたことがあるんですけどー……えー……」


 頑張るのよ、アディス。あんたの話術に掛かっているわ。目だけで応援した。


「その、まずはお友達になりませんかー……そ、その」


 口説き文句には絶対に聞こえないトーンでしょげているアディスの言葉に、微かに反応があった。ドアが指一本分だけ開いたのよ。


「……パールスパロウ族」

「は、はい、その、俺、カフス村出身で」


 反応があったことでにわかに元気を取り戻したアディスが、身を乗り出す。

 鳥人も少しだけ言葉の棘が抜けているわ。これはいいチャンスよ。


「名前は」

「はい?」

「貴方の名前」

「え、ええと、アディスです」


 一旦、ぱたんと閉じたドア。これは駄目だったと落胆した。


 でも、次にはドアが全開になったわ。


「友人の友人は等しく友人です」

「ありがとうございます!」

「……散らかってますけど、どうぞ」


 どういう心境の変化かまるで理解できないけど、お陰でどうにか話を聞けそうになった。

 ほっと胸を撫で下ろしてあたし達は鳥人の家に足を踏み入れた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ