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落園の神々  作者: 木の実あかし
第一章 死宝の首飾り【ルミネス視点】
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第四話

※2023.1.15更新①

 早朝から数時間かけてグラスドンキーの車に揺られつつ目的に向かった。そして、今回の依頼人である捜査局で局長に挨拶をした。

 依頼の舵取りは基本的に学生。アディスは初参加だから、必然的にリーダー役はあたしかヘストの二択になった。お互いやりたくなんてなかったからくじ引きで決めた。

 結果はあたし。踏んだり蹴ったりよ、本当に。


「やあ、久しぶりだ、ルミネス」

「そうですね。その節はどうも」

「前よりもだいぶ大人びたな」


 太ってて生理的に受け付けない局長には、曖昧な笑みを返した。握手を交わしたけど、見えないところで手を拭いておく。ムカつくことに、ミーアには蔑みを含んだ視線を向けてるわ。


「君がいれば大丈夫だろう、ぜひとも尽力してくれたまえ」


 嫌みったらしい口調にも冷静に返事をしていた。気に食わないって表情を隠さないなんて、局長は大人気なくて器が小さい。だから苦手よ。

 逆に、こんなアウェイな空気に晒されても動じないミーアはすごいわよね。


 そんな感じで始まった依頼。目指すは三日以内、駄目だとしても期日までには依頼達成をしないと。

 まずは方針を立てる為に一室で資料を並べる。


 ロザリアンドは他国の商人達や旅行者の流入が多いから、その分犯罪も頻発する。いつもだと、別の事件を受けてる班があったりするんだけど、今回は捜査局絡みの依頼はあたし達の班だけみたい。人が少なく感じるわ。


 アディスが現場の写真を遠巻きにしながら怯えている。あたしが持ってる白黒写真に被害者の様子が映ってるのよ。小道から大通りに差し掛かる角で、カラカラのミイラ状態に干からびた人が。


 口を押える彼に、ちょっとあたしも反省した。初めての実習だからリーダーとして配慮すべきだったかもしれない。でもそこまで頭が回らなかった。


「都会怖い」

「人が多けりゃそれだけいろんな考えがあるからな、気張れよ」

「……俺はこの所持品とかから推測してみる!」


 遺留品の確認に逃げたアディスを放置して、残りの写真はヘストと二人で見る。


 次は焼死体。その次はまたミイラ。一見して手口に関連が無い。でも、解剖結果だと体内の魔力回路の切断箇所がみな同じだった。

 これがあるから、きっと魔術に詳しい犯人だってロザリアンドは考えたんでしょう。故意に切断した痕跡を隠したかったのかもしれないって。綺麗に同じ箇所なんて、魔術的な知識がなければ出来ないから。


 ただし、被害者に接点はない。上はおじいちゃん、下は成人したての子。親戚知人でもないし、身体的特徴や民族もバラバラ。

 地図を広げて犯行現場に印をつけていると、ヘストが聞き込みの記録を片手に唸った。


「手がかりがとことん無いな」

「そうね。事件直後に依頼があればもっと検証できたのに」


 時間が経てば経つほど魔術の特定は不利になるから初動が肝心なのよ。そこの辺り、この依頼は後手に回っている。


 不思議に思いながらも方針を纏める。

 魔術や捜査の見落としの確認。それと、アディスに経験を積ませないと。やるべきことをぺンで空中に箇条書きした。


 現場検証と聞き込み調査は洗い直し必須ね。使われた魔術の特定は解析器具の波形とか目撃証言で絞れることもある。魔道具を使われた場合であっても、見慣れない物だったら記憶に残りやすいし。


 今回求められているのはその程度。犯人を捕まえろなんて捜査局の威信に関わるから言うはずがない。


「こんなところね。ヘスト、修正はある?」

「いいんじゃね。足りなさそうなところはまた随時考えれば」


 にやりと笑って了承したヘストに小さく頷いて、焼き付けた記録用紙をアディスに渡す。

 そして、ミーアが資料とあたし達の方針内容をのぞき込んで指摘する。


「魔術体系を調べるなら、事前申請しないとだね。今回はその手配をしてあげるから、現場検証は君達主導でやってて。緊急事態があったら通信機で報告。分かった?」

「分かったわ。じゃ、ヘスト、アディス。早速行きましょう」


 気を引き締めてあたし達は現場に向かった。

 周りに気を配って真面目な表情を作る。付け入る隙を与えたらどんな言葉が飛び出てくるかわからない。そして、アディスだけ隙だらけなのが頭痛の種よ。


 紙を見ながら歩くアディスに上から水が被さりそうになる。ああ、言わんこっちゃない。その水に干渉して気付かれる前に排水溝へ流した。出鼻を挫かれたら彼のやる気が無くなるじゃない。


 フォローしたのに「魔眼の悪魔たち!」という差別用語が聞こえて結局アディスにもバレた。まともに取り合っても仕方ない。協会魔術師になったらついて回ることだもの。


「……俺達、これで協力を得られるの?」


 とっても不安なアディスにヘストが苦笑する。転がる木製のバケツを拾った彼は肩をすくめる。


「得られる、じゃなくて引き出すしかないんだよ」


 そう嘯いたヘストは家の壁を蹴って一気に二階の窓までバケツを届けた。悲鳴と窓を閉めようとする音がする。見ていると、風の魔術で妨害しているようだわ。それで笑顔になってるんでしょ、あいつは。見なくても何となく分かる。


「これ、忘れ物だよ」

「ひいぃ悪魔!」

「いやいや、別に悪魔じゃないし。悪魔はこんな分かりやすい恰好しないよ」


 本気で怖がっている住民に「捜査妨害するんだ?」って脅している。一応、あっちが先に手を出してきたわけだし、あたしは写真に似た魔道具を使ってたから意地悪をしてた証拠もある。

 ただ、今までの傾向から捜査局が取り合ってくれるか。ヘストはハッタリで押しているだけよ。


 しばらくしてヘストはお礼の言葉と共に飛び降りた。着地する直前、落下速度が異常に遅くなる。相変わらず天才的な調整だけど、やってることが物騒よ。

 そして途方に暮れているアディスの肩をポンポンと叩く。


「正攻法が正しいとは限らないんだよ」

「いや、俺には出来ない……そんな方法で二階に上がるのは」

「そりゃ、ルミネスもできねーよ」


 ずれたアディスの回答にヘストが軽く頭を小突いた。そこじゃなくて、別の部分を見て欲しかったんだけど。


「あのおばさん曰く聞き込み調査で漏れてた目撃者がいたぞ。まあ、現場検証が先だな」


 ヘストに頷きつつもあたしは検証に期待していない。

 発生からそれなりに時間が経ったから大気魔力として吸収されてるでしょうね。観測点に近ければデータの異常から割り出せる可能性があったけど、現場近くにはない。

 それでも現場に到着したら、アディスに操作方法を説明して起動させる。


「微かに魔力の反応が残ってはいるんだけど、霧散しかかってる……」

「記録しておいて。無いよりは役に立つから」


 そう指示を出しつつ、どうしてロザリアンドは協会への要請を後回しにしたのか考える。

 今まではここまで遅れることはなかった。何か裏がありそう。捜査局はあたし達の身を守ってくれるわけじゃないから、気を付けないと。


 考えてきたら憂鬱になったわ。気晴らしに昼休憩にしましょう。

 三、四階建ての建物が隙間なく道に並んでいる様子は協会とは結構違う。車道には蜥蜴車や熊車が走ってて音が響く。流石は都会、ストロングリザードやマッドベアは維持費の問題で高級車なのよ。


 そんな彼等をのんびりと見てふと思った。


「誰かに飼われたら幸せかしら」

「いきなり何言ってんだ」

「だって、そうでしょ、あの魔獣達は言われたことだけやってれば周りがお世話してくれるのよ。最高じゃない」


 ヘストが「理解できねえ」とあたしをバッサリ切り捨てた。

 あたしには自由って言葉が酷くおぼつかなく感じる。だって中身が空っぽなんだもの。自由にしろと言われたら、その途端に迷子になる自信がある。


「あー、はいはい。また病んでる思考に入ったんだな」

「なによ、その言い方」

「お前な。元カレ達に振られた原因を考えろって」


 ヘストとあたしは付き合いが長い。だから、あたしの異性遍歴も知られてる。

 みんなの最終的な別れ文句は「君は重すぎる」だった。重すぎるって。体重は平均だけど、どこら辺がよ。


「はあ……おい、アディス。お前、見た目に騙されるんじゃねえぞ。『浮気したら刺すわよ』って断言した奴だから」

「あら、それは普通じゃない?」

「フツウの女の定義をミーア以外に聞いてこい」


 ちゃっかりミーアまで貶してるわ、こいつ。でも、本当に普通じゃないの? 許せないでしょ、浮気なんて。嘘を付くなんてひどい裏切り。


 それに、あたしの場合は衝動的にあの人を刺してたのよ。だからまたやらかす可能性があるんだから、言っておかないと。


「ルミネス、なんで目が据わって?」

「やめとけって。矯正の余地はねーよ」


 それより、お昼ご飯はサニーサイドアップの気分。あたしはどの店を選ぼうか悩みながらあの人のことを考えるのを止めた。

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