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落園の神々  作者: 木の実あかし
第一章 死宝の首飾り【ルミネス視点】
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第十二話

 あたし達は鳥人の先導で夜の街を走っている。外に出る時に捜査局の職員へ鳥人が食って掛かったのにはげんなりしたわね。いざこざになりかけたのよ。でも、先方は彼女がディーネーって名乗ると態度を変えたわ。


 理由なんて知らないし、周りも説明するどころじゃないっぽいし。

 状況に流されるだけで全体像が分からないけど、末端でしかないんだからよくあること。そうやって自分を納得させたわ。


 昼間は賑やかだった大通りは、静まり返っている。本当なら靴音が響くところを、ヘストが魔術を使って音を抑えてる。やり方が堅気っぽくないこいつはあたしと同じく更正組だもの。慣れてるのよ、こういうのに。


 逸れかけた思考を戻して周囲を警戒する。この方向は海沿いに向かっているわ。


「ちんたら走ってんじゃないわよ!」


 きつい口調の鳥人は始終こんな感じよ。あたしは文句を言いたいけど、誰も何も言わないし。ヘストは不服そうな顔をしてるけど。


 そして海岸にたどり着いた。

 真っ暗で星の光だけの空。潮騒の音だけははっきりと分かる。

 ディーネーが浜辺に降りて人の姿に戻ったわ。険のある表情で指差した先には……何かの影がうごめいている。


「あんたら見える?」


 近くじゃない、もっと遠く。沖合いの上空に星を遮る物があるわ。

 体力に余裕のあるアディスが怯えながら魔剣を抱きしめる。


「あ、あれは何ですか」

「でっかいワイバーンよ」

「魔物!?」


 彼の気持ちも分からなくはないわ。だって、魔物って千差万別だけど、あの大きさは魔術師数人じゃどうにもならない。本部の北大陸にいる魔導師クラスが討伐するレベルよ。


 微かに震えるあたし達にディーネーは必死に語りかけた。


「私の部族じゃ、もう抑えきれないのよ。あんた達なら信用するわ、手を貸しなさい!」

「……魔術師協会の我々に協力を求めたのは、魔物対処の要請、ということかな」


 冷静に見えるけど固い声のミーアが聞いたら、馬鹿にしたように鳥人が呆れ声を出した。


「は?そんなのムリに決まってるでしょ、あんたらじゃ。現状をまず見せとかないとって思ったの」


 やけに喧嘩腰の鳥人よね。そんな彼女にヘストが「おい」と声をかけた。


「じゃあ何だよ鳥女」

「はぁ!?神祖様に聞いた通りの無礼者ね!」

「どうでもいいから早く話せよ。緊急なんだろ」

「……ったく。あんたら、殺人事件を調べてたでしょ。その犯人、私は見たのよ。小さな銃を持ってる悪魔だった」


 この前の鳥人とやっぱり同じ証言よ。でもケイトって名乗った鳥人とは別人ってどういうこと。あたしの疑問を差し挟む隙はないまま話が続く。


「そいつがうちに来たから返り討ちにしてやったのよ」

「あの血はケイトさん達の物じゃなかったんですね」

「決まってるじゃない!で、その時に銃よりもっとヤバイ物を持ってることに気づいてケイトが怖がって隠れちゃったのよ」


 いまいち鳥人の事情が分からなくて必死に理屈付けてみたわ。もしかしてあの鳥人の双子の姉妹、とか。

 ディーネーはあたし達が来た時に鳥になって隠れてたとか……それ以外に説明つかないわよね。


 ミーアがチラリと海上に目を向けてから、彼女に向き直る。


「それが今の状況と関係あるってことかな」

「そうなの!あのブツに呼び寄せられてるのよ、あの魔物!」

「つまり、私達には危険物を処理してもらいたい、ということか」

「あんたは話が分かる奴ね。で、そのブツは首飾りってワケ。見れば異様だって分かるはずよ、魔術師なら」


 ディーネーがふんぞり返って頷く。

 それから特徴をペラペラと話しだした。金細工で琥珀とか真珠があしらわれている物で、高濃度の魔力を帯びているらしい。つまり、まとめると貯蓄型の魔道具に相当するアクセサリーってことになる。


「早く探して処分して!私は他部族にも応援要請してくるからそっちは任せたわ!」


 言いたいことだけ言ってオウムに戻った鳥人は飛んでいった。制止する間もなかったわ。


「勝手な奴らだな」

「ねぇ、何が何だか分かんないんだけど。まず、あの人はケイトじゃないの?」


 ぼやくヘストの脇腹をつつくと、「あー……」と生返事で思案顔になる。その隣で青ざめていたアディスが閃いたって表情で答えた。


「獣人って、人格が二つ以上あるんだ。村の獣人も魔物が絡むと人が変わって戦いに行ってたし」

「ルミネス。あいつらをまともに理解しなくていいからな」


 のほほんとしたアディスの話を聞いて余計に理解不能となったところでヘストが一言添えた。

 成りゆきを見守ってるミーアも頷いている。


「南大陸だと彼らと関わりが深い人達は知ってるけれど、他大陸出身者とかあまり関わってない人達は知らない話だよ」


 もしかしてあたしが非常識なのかもと一瞬だけ落ち込んだらミーアがフォローしてくれた。

 なんでも、獣人の要請は緊急の魔物討伐に関することがほとんどで、魔術師協会も依頼されたら受けないといけないらしい。


 あたし達は正式な魔術師ではないけど、指名されちゃったからある程度は頑張らないとまずいって。その分、実習の評価はかなり上がるらしいけど……労力が半端ない。


 そもそも、首飾りを処分するには誰が持ってるかって分からないと駄目よね。なのに誰も犯人の人相を把握してない。

 つまり、丸投げよ。


「あの鳥女……引き継ぎくらいしろよ」

「詳しい話を聞き出せなかったのは痛手だね。しかも、あの旅行者達の護衛も必要となると。捜査局が力を貸してくれるといいんだけど」


 正直、あたし達への風当たりを考えると不安しかないわ。でも、鳥人の言葉にはちゃんと対応してたからあの人をだしにすれば聞いてくれそうにも思うのよね。


 ここで話していても埒が明かないから、あたし達は引き返そうとした。

 そうしたら、控えめな声がして皆立ち止まる。


「こんな夜更けにどうしたの?」


 つい数時間前に聞いた声。

 低くて魅力的な低音。でも、この場にはとても不自然なほど穏やかで。

 姿を現したルディはあたし達に近づいてきた。昼間よりも動きやすそうで、そして暗いと闇に紛れるような格好。


 サングラスを外した顔だけが月明かりに照らされてより白く見える。


 なんで、いきなり。

 警戒心を露わにするあたし達に気づいたらしくてルディが罰の悪そうな顔で弁明した。


「ごめん、いきなりで怖かったよね。俺、例の物を探しててさ。普通に流通してないなら、きっと闇市とかそういうところにあるんじゃないかって……そしたら君達を見かけてさ」


 でも、さっきまで人の気配はなかった。砂浜なんだしどうしたって足音は聞こえるはず。それに鳥人だって、気づいてなかったでしょう。


 ミーアが密かに結界用の魔力を編んでいたら、彼は両手を上げて白状した。


「敵意はないよ。俺、実は魔術使いで気配を消すのは得意なんだ」

「……やっぱりあの人の護衛なの?」


 あたしの言葉には生返事をして、目を逸らした。


「護衛というより、お目付け役、かな?一応仕事として頼まれたけども、まぁプライベートでも距離感は近かったよ」


 ルディは微妙に濁した答えだったけど、つまり昔の恋人ってことでいいのかしら。フィーはあからさまにそういう仕草をしてたし。


「それで、ルーちゃん達はこんな夜更けにどうして外に?」


 いきなり馴れ馴れしい呼び方であたしに目を向けるルディに違和感を覚えたけど、代わりにミーアが進み出た。

 魔術使いってことは、この一連の殺人事件に関係あるかもしれないからよ。


「捜査の関係上だよ。他は機密事項だから言えないかな」


 魔術師と魔術使いの一番の違いは依拠する魔術体系を修めているかどうか。あたし達学生も正確には魔術使いの分類だけど、野良の魔術使いは何を目的に魔術を覚えるか分からない。


 少なくとも、気配を消すなんて魔術、普通は隠密でしか使わないわよね。趣味じゃない限りは。そう判断したからアディス以外は緊迫した空気なのよ。


 ルディがちょっとだけ考え事をして、笑顔で海を指差す。


「あの魔物っぽいのと関係あるとか。もしかしたら、俺、原因分かるかもよ」

「そんなの分かったら苦労しない」

「ううん、たぶん……誤った使い手によって発動した死宝の首飾り(ブリーシンガメン)のせい、だと思うよ。俺達の探してる首飾り」


 そう答えたルディはやっぱり笑顔のままで、あたしはどことなく不気味さを覚えた。

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