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好きなものは、なんですか?  作者: 崎先 サキ
好きなものは、なんですか?
2/5

アリスター

少し加筆いたしました、内容は変わってないです。

「アリスター、お前何かしたのか?今日の昼、陛下から一緒に来るようにとのお達しだ」


朝いつものように、自分の机に座ると上司から突然告げられる。

陛下から…?城で勤めているが雲の上の存在で、外交官補佐といっても下っ端の俺は、会話もしたこともない。思い返しても心当たりが無い…が…もしかしてあれか?


俺の主な仕事は資料集めになる、なので執務室の机にいるより、図書室に居るほうが多いぐらいなのだ。いつもの様に図書室で仕事をしていると、本当に偶然、たまたま王女のマルティナ様がいらしたときに、小声で呟いた同盟国で使われている言葉を拾ってしまい、反射的に回答を言ってしまったことがあった。


周りの護衛騎士や侍女達の視線が刺さったが、マルティナ様はふんわり笑われてお礼を言ってくださった。そこから目が合うと微笑んでくださる様になったのだ。もしかしてそのことを、咎められるのだろうか。


マルティナ様は陛下が特に可愛がられている王女で、国内の派閥争いも落ち着き、周辺諸国とも目立った争いはなく、政略結婚の必要もないので、婚約者になる為にはマルティナ様に選ばれないと、なれないと言われている深窓のお姫様だ。


マルティナ様の侍女、護衛騎士は陛下はもちろん、王太子殿下の面接を経て、やっと側に置いていただける程、厳しい条件を掻い潜った者達の集まりだ。


そんな厳重に護られているマルティナ様と偶然お話をして、目が合うと微笑んでいただける様になった俺…。もしかしたら城の出入りを禁止されてしまうのだろうか?とにかく、陛下に俺には恋人がいるので大丈夫だとわかってもらい、マルティナ様には近づかないと宣言して、職だけは失わない様にしよう。


そう決めて上司と一緒に応接室へ向かったのだが、部屋へ入る前に『マルティナ様の、婚約者候補の方が到着しました』の声、部屋に入るのは上司と俺だ。婚約者候補?上司が?いや、上司は既婚者だ。なんだか事情がわからないまま部屋に入る。


部屋のソファーには陛下とマルティナ様が座っていて、俺が自己紹介してから、流れるように庭に出された。今のこの状況は、何が起こっているのだろう。


王族専用の庭をマルティナ様をエスコートして歩き、東屋で2人でお茶を飲んでいる。周りの視線が凄いのだが、マルティナ様は天使のような笑顔で、笑いかけてくださる。婚約者候補?何が起こっているんだ?


お茶を一杯、マルティナ様と一緒にいただいて、逃げるように自分の机に戻る。先程までの出来事を思い返すが、とても現実とは思えない。


一体今までどれだけの家がマルティナ様に婚約を申し込んだか、数え切れない程だ。そして全て陛下と王太子に却下され、今まで誰も候補にすらなって居なかったのに、俺が婚約者候補!?


叱責されるのかもと思っていたのにこの状況、動揺しすぎて忘れていたが恋人のベティーナとのことを言わなくては駄目だと、言いかけたが陛下からの話、マルティナ様の嬉しそうなお顔を見てしまうと何も言えない、せめてすぐに婚約者と発表されるよりは、『候補のままにして欲しい』としか言えなかった。


あんなに見目麗しい護衛騎士に囲まれているマルティナ様だ、きっと俺なんかではすぐに物足りなく感じて、断って来られるだろう。


それからは、語学の教師という建前で、2人で会う機会が増えた。マルティナ様は恋物語を好むので、色々な国の言語で書かれた物語を教科書に翻訳しながら発音を正していく。たまに愛を囁く様なセリフを訳すと、頬を染めて見つめられる。


儚げな美少女が、素敵だ、凄いと褒めてくれるのだ。グラグラしない訳がない…だがその度にベティーナの顔が浮かぶ。そうだ、俺にはベティーナという恋人がいるのだ。マルティナ様の笑顔に、流されている場合ではない。今の俺は語学の教師、教え子に邪な感情を持ってはいけない。


それに褒めてくださるが、俺たちの関係は教師と生徒の距離を保っていて、甘い雰囲気になることもなく、図書室で授業をして、庭を散歩し、東屋でお茶をする、それだけの関係だ。きっと婚約者候補という話は、いつの間にか、なくなっているのだろう。


マルティナ様は元々語学が堪能なので、教えることにも苦労することもなく、ちょっとした発音を訂正したり、丁寧すぎる言葉を親しみやすい表現に変えたりするだけなので、ほとんどの時間、会話を楽しんでいるだけの授業になる。


きっと教材が恋物語を使っているし、他は会話が中心の授業だから、マルティナ様が俺のことを、好いてくれているのかもなどと、勘違いを起こしてしまうのだ。少し早めに行って他に何か良い教材がないか探して見ようと思い、図書室に行くと面倒くさい奴に会ってしまった。


恋人のベティーナの従兄弟であるリュシアンだ、こいつは普段はいい奴なのだが、反マルティナ様派というか、こいつの兄が護衛騎士に選ばれなかったのを逆恨みして、マルティナ様の護衛騎士をハーレムだとか、婚約者がいないことを、政略にも使えない役立たずの王女だとか言ってる奴だ。


「おぉアスティー、最近王女様の御守りをしているらしいな。婚約者にされるんじゃないかと、噂になっているぞ。お前ベティーナにバレたらどうするんだ?」


余計なお世話だ、もしかしたら婚約者候補になっているかもなんて言ったら、どんなことをベティーナに言われるかわからないので、語学の教師をしているで通す。適当に話を切り上げて、当初の目的だった、教材になるような資料がないかと探しながらマルティナ様を待つ。


時間に遅れることがないのに今日は遅いなと思っていると、マルティナ様の侍女が『体調不良で今日は来れない』と伝えに来てくれた。


少しあの笑顔が見られないのかと、残念に思いながら、空いた時間を溜まっている仕事を片付けるかと、机に戻ってふと、マルティナ様にお見舞いの花など贈ったほうがいいのでは?と考えるが、仕事をしている間に、かなりの時間が経っていて、花など買える時間ではなくなっていた。


どんな花が好きかもわからないし、王女であるマルティナ様に、贈る花は何が相応しいのかもわからないので、次の授業でどんな花が好きなのか聞いてみよう。そう思っていたのだが…それから俺は、マルティナ様と授業でお会いすることはなくなってしまった。


次にマルティナ様に会った時には、同盟国に嫁がれるという報告を受ける時だった。突然過ぎた報告と語学に力を入れていたのは、この為で、やっぱり俺は婚約者候補ではなくただの語学教師だったのかと、力が抜けて思わず笑ってしまった。

『お幸せに』そんなありきたりの言葉しか、言えなかった。


そうしてマルティナ様が同盟国に旅立ち、お会いすることはなくなって、いつもの日常が戻ってきた。ベティーナの父親に、マルティナ様の教師をしていたことが知られて、ベティーナとの結婚もそろそろ許してもらえそうな頃、王太子殿下から呼び出しを受けた。


王太子殿下が待つ部屋に行くと人払いされて、2人っきりで話を聞くことになった。


「代官ですか」


「そう、君がマルティナの教師をしてくれたことで、同盟国に行っても困らないぐらいの語学力がついた礼に、領地を頼みたいとマルティナからの指名なんだ」


前にマルティナ様が言っていた、譲り受けた領地のことだろう。

たった数ヶ月教師をしていた俺が、そんな大役を任されて良いのだろうか。


「もちろん、恋人と結婚するなら、一緒に移ってもらって大丈夫だよ」


王太子殿下に、ベティーナとのことが知られていたのか…。


「それで、君に男爵位を叙爵したいと思っている」


「男爵に…ですか」


「受けてもらえるかな?」


「ありがたく賜ります」


断れる雰囲気でもなく、爵位までもらえるのなら、ベティーナの父親にも認めてもらえて、すぐにでも結婚出来ると、嬉しく思い受けることにした。


「本当はマルティナと2人で、治めてもらえると良かったんだけどね。…マルティナの初恋の相手だったんだよ、君は」


信じられない言葉が、王太子殿下から発せられて暫く呆然としてしまった。初恋?俺が?


「やっぱり気づいて無かったか、マルティナが君に恋をしたから、婚約者候補に選んだんだ。でも君に恋人がいることをマルティナが知ってね、それで同盟国に嫁ぐことにしたんだよ」


「マルティナ様は…知って…」


「あぁ、もちろん僕は始めから知ってたよ。でも、どんな男にも興味を示さなかったマルティナが、君にだけ頬を染めて微笑むから、候補にしたんだ。マルティナと接すれば、君はマルティナを選んでくれるかなって思ってね。そうなっても君は真面目だと知っていたから、マルティナを幸せにしてくれるだろうと、でもマルティナが君の恋人の存在を知って、自分では君が幸せになれないだろうと言って、同盟国に行くことを決めたんだ」


マルティナ様が、そんなことを思っていたなんて知らなかった…。

俺はなんて言葉を返せば良いかわからずに、マルティナ様に『お幸せに』なんて、ありきたりな言葉しか言えずに別れてしまったことを後悔した。


王太子殿下は、最後まで笑顔を崩さずに、春には出発出来る様に、準備を進めて欲しい、しっかり治めて欲しい。そう言われ謁見は終わった。






そうして、春になり俺はベティーナと一緒に、マルティナ様の領地に来た。この領地はあまり大きくないが、土地も豊かで色とりどりの花が咲き誇っている。


「アリスター!凄く綺麗な花畑!とても素敵なところね」


「そうだな、この領地をもっと豊かに出来る様に、頑張らないとな」


屋敷のバルコニーから花々を見ながら、隣ではしゃぐベティーナの声を遠くに感じ、マルティナ様のお見舞いに花も贈れなかったことを思い出していた。教師をしていた時に、1言聞けば良かった。


『好きなものは、なんですか?』


初めてお声をかけた時に、翻訳したあの言葉を。

そうすれば、マルティナ様の好きな花で、領地を埋めることも出来ただろう。


ベティーナのことは愛している、でも、マルティナ様と過ごしていた時、俺は言葉にも態度でも表せなかったが、惹かれていたのだ。俺のことを好きになってくれていたマルティナ様に、何も出来なかったことを少し後悔しながら思う。


あの方が望んでくださったベティーナとの幸せな日々を、この領地で過ごしていこう。海の向こうにいるマルティナ様の幸せを願いながら。

読んでいただけて嬉しいです、ありがとうございました。

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― 新着の感想 ―
[一言] この男、悪くはないですがなんか腹立ちますね、、、 ベティーナ周辺もなんかモヤモヤが。とりあえず、彼らは出世をこれからできないと思います。少なくても王は彼らによい感情を抱いているわけないので。…
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