表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

わさび その1 その2

作者: 佐藤 浩

夕食がお刺身なのに、わさびを買い忘れてしまった。

 その1

 お刺身にしようと、絵美はいつものスーパーで買い物を済ませた、今日はPTAの会合で帰りが遅くなってしまい、夕暮れを曇り空が一層あたりを暗くしていて、その薄黒い雲に追い立てられる様に、無理やりブルトーザーで整地した坂を上り、同じ様な分譲住宅が建っている我が家へ帰った、疲れていたので夕食を簡単にしようと思っていた、冷たいお刺身を冷蔵庫にしまい、憂鬱な気分で家事を始めた。

 夫の大輔は、明日のプレゼンのことが気になっていて、スマホで見ている小さな画面のサッカー中継も、休日の楽しみのはずが、あまり面白くなかった。

 薄暗い物干しから洗濯物を取り込み、娘のメイに手伝うように声をかけた、日が暮れて薄暗くなった部屋で電気もつけず、ゲームに夢中になっていたメイは、めんどくさそうにスイッチを切った。

 とりあえず体裁を整えただけの食卓を3人で囲み、黒い塗り箸を手に取ろうとしたとき、わさびの無いことに気がついた、刺身を前にして大輔は絵美に向かって愚痴を言い初め、明日のプレゼンの不安もあって、だんだん強い口調で攻め立てていた、メイも食事が始まらないので、ゲーム機をいじりだし、ゲーム音が苛立たしく鳴り始めた、絵美は逃れるように、わさびを買いに、コンビニへ暗い坂を疲れた足取りで向かった。

 汁物が冷めてしまっていたが誰も気にしなかった、メイに箸の持ち方などいつものようにクドクドと注意をしながら、食事が始まった。


 その2

 今日はPTAの会合が思ったより早く終わったので、低くなり始めた夕日の眩しさの中、夕食の準備に余裕ができたので、デザートにプリンも作ろうかと思い、智子は買い物をしながら賑わっている商店街を抜け、小さな鉢植えの並んだ我が家へ帰った。

夫の誠は、新しいプロジェクトの立ち上げで張り切っていて、今日も休日なのに調べ物をしている、隣で息子の翔太も、最近買ってもらった図鑑に夢中になっている、二人並んでいるリビングの窓から夕日が差し込んでいて、大きい背中と小さい背中を赤く染めていた、布団と洗濯物は、取り込んであり、お日様の匂いのする洗濯物を畳みながら、二人の姿を眺めていた、昨日帰りが遅くなりそうなので、お刺身にすると言っていたので、それを楽しみに二人で掃除もしてくれていた。

 赤いお刺身が華やかで豪華なので、食卓にそろった3人はいつもより気取った笑顔になっている、ご飯を白地に紺の水玉模様のお茶碗に盛ろうとした時、わさびの無いことに気がついた。

 たまに引き起こすおっちょこちょいだが、申し訳なさそうにしている智子の姿は、愛おしく、たまらなく誠は好きだった、翔太をつれて、日が暮れてますます賑わっている商店街に、月明かりの小路を通り向かった、翔太は夜の街に興味津々で、冒険をするような少し興奮した気分で、誠の手を引っ張っていった。

 寄り道をして、屋台のおでんも買って帰ってきたので、少し時間が経っていたが、二人にお使いを頼むと、いつも寄り道をして時間がかかるので、智子はデザートのプリンに、飾り付けをして待っていた、冷めた汁物と一緒におでんも温めて、湯気の立ち上る食卓で、翔太が自慢げに話す、今見てきたおでん屋台の、鍋の大きさや、具のおおさなどを聞きながら、食事が始まった。

 

雰囲気の悪い家族の夕食の風景と、雰囲気の良い家族の夕食の風景。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ