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第十一話

『じいちゃんがいってたー! おんなのこにはやさしくするのが、おとこだって! だから、オレはヨウランをたたかない! えっへん!』


『なっ……なっ……なっ……』


『なー?』


『何言ってんだテメェー?! フザケてんのか、舐めてんのか、喧嘩売ってんのか?! よーし分かった、アタシを馬鹿にしてんだな?! よし決めた、ぶっ殺す!』


 思いつくまま怒りの感情を口にし、ヨウランはすかさずアークスターを強襲する。凄まじい気迫と闘気がまるで形を成すかの猛攻、だがやはりアークは戦う意思がないようで回避か防御しか行わない。


『~~~!!!』


 流れるような連打、そこから体勢を低く落とした水面蹴り、そして上方への追撃。まともに喰らえばオーク級程度は一瞬にしてスクラップになってしまうであろうフラッドウルフの連撃。その一つひとつをアークは持ち前の超感覚と、アークスターの機体ポテンシャルで器用に避けていく。


「あらぁ……ヨウランたら、ガチのおこね……どうしましょ」


「ううむ。最悪、私達で止めるしかないかな。やれやれ、隊長っていうのはもっと楽な仕事かと思ってたよ」


「お、お二人共、呑気に観戦してていいんですか……? ヨウランさん、アークの事を殺しそうな勢いなんですけど」


 レイチェルとマリアがあまりにもノンビリしているのでアマネは思わず尋ねてしまう。今もヨウランは言葉にならない叫びを上げつつアークスターへと踵落としを決め、そして華麗に受け流されてしまっている。


「なぁに、ああ見えてヨウランは歴とした共和国軍人さ。模擬戦で人を殺めるようなマネはしないよ…………たぶん」


「そうよ、いくら沸点のひっくいヨウランでも、人を殺すような人間じゃないわ~…………おそらく」


「お二人の信頼があるんだか無いんだか、よく分からないんですけど?!」


「おっ! お前ら、見るデス! ヨウランが魔法を使うようデスよ!」


 じっと模擬戦の様子を見ていた先生が突然大きな声を上げる。それにつられてアマネが見た光景は。


『んんんー! なにこれ、アークスターがうごかなくなった!』


 先程まで軽快に(フラッド)ウルフの攻撃を躱していたアークスターだが、どうしたことか、その動きに精彩さを欠いている。いや、それどころか殆ど身動きが取れなくなっているようだ。


『へっ! これがアタシの水魔法! 流水自縛(りゅうすいじばく)! どうだ、機体の関節部を水で縛り上げてやったぜ!』


 青く発光するヨウランの髪の毛。彼女の扱える魔法属性は水。術者の周囲から液体を集めたり、高い圧力かける事で水圧カッターのように撃ち出すといった事も出来る魔法属性だが、ヨウランはその中でも流体操作に長けているのだ。


「水は本来、高い粘度を持っているんデスが、それをヨウランの水魔法で一箇所に固定しつつさらに粘度を上げることで強力な鎖とするのが流水自縛デス。彼女ほどの術者ともなれば、例えヴァルクアーマーの出力でも引きちぎるのは難しいデスよ!」


「親切な解説どうも、先生! じゃなくて、ヤバいですよ?! 早くヨウランさんを止めないと!」


 慌てふためくアマネに、マリアとレイチェルは少し浮かない顔をしてみせる。このままではアークが大怪我をするかもしれない事態に発展するというのに、二人は申し訳無さそうに口を開いた。


「いやぁ、止めたいのは山々なんだけどね……?」


「ヨウランのアレ(魔法)、私達でも簡単に抜け出せないのよね~」


「えっと、つまり……?」


「マリアとレイチェルが今ヴァルクアーマーで飛び出しても、流水自縛を喰らえば只の()()()になっちまうって事デスよ。本来は動きを封じた相手を一方的にボコるっていう魔法デスし。まーそんなワケで、ここは部隊を率いるこの私に任せるデス」


 自信たっぷりに言ってのける先生は無線機のマイクに向かう。なんだかんだいっても、先生は軍のスター計画を持ち前の頭脳と閃きで主導し、スターライト部隊を切り盛りしている人物である。この可愛らしくも凛々しい表情と容姿、チャーミングかつ知的な性格は誰からも好かれ、そして人類の発展と未来をその双肩に背負った人間国宝とでも言うべきスーパー才媛(サイエン)ティストなのデス!


「先生! ココロの声がダダ漏れですよ?!」


「おっと、こりゃ失敬失敬! あ~ゴホン。ヨウラン! おいこら聞こえてるデスか! 今すぐ魔法の発動を止めるデス!」


 キャリアダックの周囲に先生の甲高い声が響き、アークスターへと迫っていたFウルフが足を止める。そして上半身をこちらに向け。


『うるっせぇ! そもそも! 先生(テメェ)がアタシにプロトスターを乗せてくれてたらこんな事にはなってねぇんだよっ!』


「いやまぁ、それを言われるとツライ所デス」


「負けてちゃダメじゃないですか?!」


「でもヨウラン、未だデバイスの謎を解き明かしていない以上、お前がアークスターを起動できる保証は無いんデスよ? こっちだって研究は進めてはいるデスが、アークがデバイスにとって重要な存在である以上、私もスター計画の責任者として彼をパイロット任命してるんデス」


 スター計画は共和国軍の次世代ヴァルクアーマー開発計画ではあるが、古代文明の遺物・デバイスの研究もその目的に含まれている。そんな中、アークスターとそのデバイスを起動できるアークは非常に貴重な人間なのだ。彼が協力してくれるだけでこの数年間分の研究が一気に結実する可能性がある、そんな事は先生だけでなくとも分かる事だ。


『でもな、アタシには必要なんだよ! このヴァルクアーマーが、もっともっと強い機体が! アタシは誰よりも強いパイロットにならなきゃいけないんだよ!』


『うぎぎ、うごけ……クンクン……このにおい……?』


 彼女が言っていることは勿論、先生たちも以前から知っていた。ヨウランを以前のVA部隊から引き抜く際に、先生へ『強力なヴァルクアーマーに乗せてくれるなら』と条件を提示し、今の乗機であるフラッドウルフも様々なカスタム要望を出してきた。そしてプロトスター開発にあたっては先生へ再三の直訴と起動実験のパイロットを努めてきたのだ。


 そうまでして、彼女が強い機体を求めるのかは、誰も敢えて聞かなかった。隊長であるマリアも、同期であるレイチェルも知らず、恐らくは誰にも話していないのだろう。


 決して仲間意識が薄いわけではない。だが、個人の事情はあくまで個人の問題、そういったプライベートな事に首を突っ込まないのがこの寄せ集めとも言える部隊での、純粋にパイロットとしての実力のみで選抜されたスターライト隊にとって暗黙の了解となっているのだ。


「ヨウラン、お前の事情は……まぁ分かったデスから、早く魔法を解除するデス。今なら簡単な始末書で済ましてやるデス」


 だが現実は()()だ。いくらヨウランが怒鳴っても、彼女がデバイスを起動・制御する事は出来ないだろう。であれば、ヨウランの行動は命令違反、あるいは反逆罪と捉えられても仕方ない重大な事態になりかねない。


 先生の言葉は淡々と、しかしその裏には冷徹な感情が見え隠れしているのをヨウランは無線機越しに感じ取った。しかし、だからといって、彼女はここで引き下がるわけにはいかないという確固たる意思を固める。


『だったら……今ここで……機体ごと!』


 身動きの取れないアークスターの前で拳を振り上げるフラッドウルフ。このままではパイロット諸共、機体を破壊してしまうのではないか。悲惨な光景が全員の脳裏をよぎった瞬間。


「ゲギャ! ゲギャギャ!」


「ギャッギャッ!」


 どこからともなく現れた機械の異形。ゴブリン級だ。


「な……?! こんな所に魔物がデス?!」


「レイチェル!」


「分かってます! すぐに出撃を!」


 急いで艦橋から格納庫へと走るマリアとレイチェル。ゴブリン級だけならば、ヨウラン一人だとしてもなんの不安もない。それが、普段の彼女であれば。


 走りながらマリアは最悪の事態を想定してしまう。立場上、あらゆる可能性を考慮しつつ、最善の行動を選び取らなければならない立場の彼女。無意識のうちに走る速度が上がる。




 * * *




『やっぱりざこのにおい! それと、ブタづらもいるよ!』


『うるっせぇ! このアタシがゴブリン級なんかにやられるかよ! テメェはそこで大人しくしときな!』


 何体かのゴブリン級に囲まれたFウルフとアークスター。しかし、ヨウランは魔法を解くどころかさらにアークスターを縛り上げ、磔のような格好にしてしまう。


『今のアタシは機嫌が悪いんだ! 覚悟しろ!』


 言うが先か、拳が先か。Fウルフは一番近くにいたゴブリン級へと一瞬にして間合いを詰め、一撃の下にその躯体を粉々に打ち砕いてしまった。


 確かに、ヨウランほどのパイロットならば何も心配は要らないはずだろう。しかし、キャリアダックからその様子を見守るアマネは嫌な予感がしてならないのだった。


週末いかがお過ごしデスか! 今日も天アクを読んでくれてありがとデス!


ちなみに書き溜めは今日で底を尽きてしまったデス。次の話はいま書いてるので少し待っててほしいデス! 今後は週に1、2回くらい更新出来ればと考えてるデスよ!


それでは今後も天明のアークスターをよろしくデス!

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