Re9 魔法少女と取引
「ようこそ、メグル殿。私は当ギルドのギルドマスターをしているロバートというもの。以後お見知りおきを」
「はあ」
冒険者登録をしてから2日後、先日持ち込んだ鱗の件で話があると言う事で私はギルドの来賓室に招待されていた。
部屋の上座にはギルドマスターを名乗る大柄かつ筋骨隆々な髭面の男性、私の対面にはいかにも真面目な研究者っぽいローブの男性。そしてギルドマスターの後ろに立つのが先日私の冒険者登録の対応をしてくれたお姉さん。
このメンツ、何だか面倒ごとになっている予感がヒシヒシとする。
「それで彼がギルドお抱えの一級鑑定士のザックだ」
「どうも、初めまして。この度は大変良い物を見させていただきました」
「えっと、初めまして、よろしくお願いします」
大変良い物? 多分この前のアレの事なんだろうけど、ギルマスとか出て来る程良い物だったの? なんかスッゴイこっち見て来るんだけど……。
それとも、良い物っていうのは痛烈な皮肉? あからさまなゴミだった? いやいやそれとも……。
私がなんで呼び出し喰らった上にギルマスにまで見張られているのかとギルマスが口を開いた。
「ふむ。どうやらメグル殿は堅苦しい挨拶や前口上は要らないタイプのようだ。私……いや俺も、そういうのは苦手でね。であるなら、早速本題に移らせてもらってもいいか?」
「あ、お願いします」
正直いきなり呼び出されて知らないおじさんと長々話すのも辛いし、本題に移ってくれるならありがたい事だ。
こっちもいつまでも悩んでいたくも無いしね。
「まず、あの鱗について話を聞きたい。なんでも拾ったものだと言う話だが、それは本当か?」
ギルマスであるロバートさんが私に質問を投げかけて来る。これはこの前お姉さんにも聞かれたけど……伝達されてないのかな? それとも再確認?
「えっと、はい。本当です」
「どこで、どのように拾ったのか聞いても?」
「え……っと。倒れたドラゴンの隣に落ちていて、それを拾いました……?」
「倒れていた? ドラゴンがか?」
「はい」
「ふむ……」
う、嘘は言ってないよ。言ってない。言ってないけど、けど……どうしよう、もしかしてあのドラゴンってすっごく良いドラゴンだったりしたのかな。それとも天然記念物みたいに傷つけちゃいけない希少種とか?
なんでここまで気にするんだろう……。
そう、私が悩んでいると、今度は鑑定士のザックさんが質問してきた。
「メグル殿はこのドラゴンの価値をいかほどとお考えかな?」
「価値ですか……?」
それが分からないから鑑定してもらったんだけど……と言いたいけど、そういう事を言える雰囲気でもなさそう。
どうしたらいいんだろう。下手な事言ったら安く買い叩かれたりしちゃうんだろうか……。
別に大金が欲しいわけではないんだけど、下手に常識がないと思われるのもなぁ……。
よしっ。馬鹿らしくても高く言ってみよう、思い切って。
「……金貨一枚くらい?」
「…………ほう」
え、その「ほう」は何。何の「ほう」なの。
「メグル殿は、自分ならこれに金貨一枚出すと言うのですな?」
「えぇ?! 出さないですよ! 私は要らないですから!!」
「ではなぜ――」
ザックさんがさらに追及しようとすると、ロバートさんがそれを制した。
「よさないかザック。すまないなメグル殿。こやつは鑑定士だが同時に商人のような側面もある、故に値段交渉のようになってしまった。許して欲しい」
そう言うとロバートさんは席を立って頭を下げて来た。
「えっ?! いえいえ! 気になさらないで、えっと、頭を上げてください!」
私がそういうと、思ったより素直に頭を上げてくれた。ノワール卿の時なんてこれで何分使ったことか……この人はサバサバしているというか、面倒くさくない人みたい。
「本当にすまない、実の所、こちらとしてもこれの扱いには困っているのだ」
「……どういう意味ですか?」
私が問うと、ロバートさんは席に戻って話をつづけた。
「まずこれの価値だが、本来値の付くようなモノではない」
「価値がないってことですか……」
「逆だ。価値があり過ぎて、金でどうこうする物ではないと言う事だ」
「…………え」
おやおや? これはマズイ、マズ過ぎるのでは? これは多分、凄まじくやらかしてしまった流れではないだろうか。
「故に此度、こうしてメグル殿をお呼びしてこれの入手経緯を問いただし、不当な手段で入手されたものではないか? それを確認する必要があった」
「な、なるほど」
つまりこれが貴重品だから、盗品とかじゃないかを警戒したってこと……だよね?
それで受付のお姉さんにも言ったことを再確認されたのかな。
「疑ってしまったことは謝罪したいと思う、しかしメグル殿の回答は『拾った』というものだった」
「駄目……でしたか?」
「ふむ。それも判断しかねている。他の冒険者が戦った末に倒したドラゴンの素材を拾ってきたと言うのなら、本来それは倒したものに所有権のあるものだ。後からそう言った人物が出て来ると困る」
「なるほど……」
ど、どうしよう。面倒なことになって来たよ……?
「ドラゴンは倒れていたと言っていたが、どこで、どのように? 争った形跡は?」
「えぇっとー…………」
うーん……素直に言っても、誤魔化しても、どっちにしても面倒な事になる予感しかしない。
そういう意味で言うなら、下手に誤魔化して後で冤罪とかで捕まるのも嫌だし……。
しかたない……。
「実は、その……えーっと」
「何かな?」
「わ、私が倒した……とか言ったら、信じ……ます?」
「…………ふむ」
私の言葉を受けて、しばらく考え込むロバートさん。
ホントお願いだから……これ以上面倒な事にならないで欲しい。もういっそお金とか要らないからこの話が何事も無く終わるといいなぁ……と思う。
「あぁでも、殺しては無いです! 手加減もしたし、ちゃんと、回復もしました。だからその、えっと……」
「ふむ、非殺傷で、これだけの品を……とても信じがたい話だと言えるな。だが、信じよう」
「で、ですよねー。信じられ……ん?」
おやおや? 今何か凄く、信じがたい言葉を聞けたような?
「信じてくれるんですか?」
「あぁ」
「……わぁお」
何故か知らないけど信じられてしまった。マジか。
「あの、ありがとうございます。信じてくれて」
「何、感謝されることではない。さて、これでこの鱗はメグル殿の物という事で取引できるわけだが。先ほども言ったようにこれには値段が付けられない。そこでどうだろう、別の物で取引すると言うのは」
「別の物……ですか?」
私が問うと、ロバートさんは大きく頷いた。
「メグル殿、貴女が金銭以外で欲するものがあれば、それをできる限り用意しよう。それを持ってこの鱗との交換という訳にはいかないだろうか?」
「良いですよ」
私が即答すると、ロバートさんの表情が一瞬固まって、その後鋭い目つきで私をジイッと見つめて来た……え、なにこれ、怖い。
「…………いいのか?」
「え……? 良いですよ?」
「…………むう」
なんか一時はお金にできない価値があると言う事で不安だったけど、少なくとも盗品の疑いも晴れて、無事取引が出来て、なおかつお金じゃない物に変えられる。これって実は凄くラッキーでは? と思っている。
お金は正直言って王都で貰った物がまだまだあるし、ここでお金じゃない物と交換できるとなればそれはそれで非常にありがたい。
元々ギルドでも情報を集めたいと思っていたし、せっかくロバートさんとも顔を合わせられたのだから、ギルドのトップ相手にここで質のいい情報を手に入れたいところだ。
「それで、具体的に何か欲しい物は?」
「情報、ですね」
「情報……どのような?」
私の言葉に何故か警戒したような険しい表情を浮かべるロバートさん。なんで?
「えぇっと……魔法少女について、とか?」
「魔法少女。魔法少女についてはおとぎ話程度にしか知らないな」
「そうですか……」
うーん、ギルドの偉い人でも魔法少女についてはほとんど知らないんだ……。
「ですが、そういった伝承などを調べている者に心当たりがある。その者に聞くと言うのはいかがかな? もちろん、こちらで紹介状も用意しよう」
「良いんですか?」
「あぁ、むしろ直接役に立てず、申し訳ない」
「いえいえ、そんな……」
私としては詳しい話を聞ける人を紹介して貰えるだけでも十分過ぎるんだけどな。
「その者は帝都に居る、そちらは後で早馬を出しておくとして……他には何か入用な物は?」
他に必要な物か……うーん。
「無いです」
「…………無い?」
「はい、これだけで十分です」
「…………」
私がもう十分満足してそう告げると、ロバートさんは目を細めた。
「つまり、これで、この鱗は譲ると?」
「ん? はい。そうですね」
「……他にどのような見返りを求めている?」
「え?! 見返り?!」
「…………ふむ」
え、なんだろう、今度はさっきまでの様子から一転、思いっきり疑われている視線を感じるんだけれど。なんで?
「本当に、これだけでこの鱗を譲ってくれると?」
「えっと、そのつもりなんですけど、駄目でしたか?」
「いや、そのような事は。ただ、先程から何度も言っているが、これは値が付けられないような貴重品。それの対価としてはこれではまだ不足していると感じるが、いいのか?」
「え、お金にならない物が必要な情報に変わったら十分じゃないですか?」
「…………なるほど、随分と無欲なようだ」
「そんなことないと思いますけど……」
本当に欲がないならこの鱗だって拾ってないし、取引にも出さないっていうか……。そう考えると完全に欲望まみれな気がする。
俗物魔法少女かな、私。
「では、此度の交渉はこれにて成立という事で、よろしいか?」
「は、はい」
「では後日、研究者に連絡を取り、紹介状も準備出来次第、滞在中の宿に使いを送ろう」
「ありがとうございます」
「ではイレーナ、メグル殿を送って差し上げろ」
「はい」
お姉さんは一言返事をすると、私を案内してギルドの玄関口まで来てくれた。
「それではメグル様、本日は当ギルドまでご足労頂きありがとうございました。今後とも当ギルドをよろしくお願いいたします」
「こちらこそよろしくお願いします」
なんか凄くかしこまった感じで対応されてしまったけど……。そんなことより気になることがあった。x
そうかぁ……お姉さんイレーナって名前だったんだ。
私はそんなことを考えながらイレーナお姉さんに見送られギルドを後にし、宿への帰路についた。
ご読了ありがとうございました!
次回更新は来週火曜日18:00です。