Re8 魔法少女と情報
「なるほど。帝都では今、魔族との闘いに追加できる即戦力を集めているのですか」
酒場にて、私は皆さんにお酒と食事を振舞うと、早速冒険者の方々に聞き込みを開始した。
流石に皆して私をジロジロ見ていただけあって、店主さんとのやり取りも見てるし、お酒と食事に見合った情報はくれるという人が多い。完璧な作戦だった……。
「そうらしいぜ。なんでも皇帝様から莫大な褒賞金も出るとか。だから実力のある冒険者とか、腕に覚えのある奴ってのは皆今じゃ帝都の方にいるのさ」
「ふむふむ」
「ただ、その所為で集まる人が多くなり過ぎて不埒な輩が紛れ込むのが増えたらしくてな、冒険者でもB以上、それ以外ならそれ相応の身分か紹介状を持ってないと帝都には入れないって話だ」
「うわぁ、それは困りましたね……」
「お嬢ちゃんは帝都に用事だったのかい?」
「はい、そうなんですけど……このままじゃ帝都入りは難しそうです」
「確か貴族では無いんだったよな?」
「はい、そうです」
「冒険者でもないのか?」
「そうですね……」
「じゃあ商家の娘……って感じでもねぇな」
「はい」
「うーん、それじゃあ本格的に帝都入りは困難かもな」
「ですよね……」
うーん、どうしたら…………って、ん?
「貴族じゃなくても、商家の娘でも入れるんですか?」
「ん? あぁ、そうだな。要は身分がハッキリしていて役に立つ奴ならって感じだな」
「なるほど……」
それくらい緩いなら私でも入れるかもしれない。聖王の剣があるし。
「貴重なお話、ありがとうございます!」
「お? おぉ……」
私はそう一言お礼を言って、席を立とうとした、けど。
「あっ、忘れてた! あの、魔法って知ってますか?」
「ん? 魔術の事か?」
「いや、えっと、魔法です魔術じゃなくて」
「何か違うのか?」
冒険者さんが首をかしげる。これは知らない感じだね。
「あ、いえ。ご存じないのでしたらそれで……」
「あぁ、待て待て、うちのパーティの魔術師にも聞いてやっからよ」
「あー……はい」
という事で別の席で飲んでたいかにも魔女って恰好の魔術師さんを呼んできてくれた冒険者さん。
「それで、お金持ちのお嬢さんが何の御用かしら?」
「えっと、魔法についてご存じあることを教えて頂けたらなぁと」
「ふーん、魔術師志望ってこと? そうねぇ、魔術って言うのは体内にある魔力を一定のイメージで現象化させる技術で――」
その後、魔術師さんの教えてくれた知識はこの世界の魔術の基本的な初心者向けの知識だった。そしてその中で一貫して使われる呼称は『魔術』であり『魔法』では無かった。
「あの、魔法は使わないんですか?」
「何言ってるのよ、魔術師は魔術を使ってこそでしょ、使うわよ」
「うーん……」
でも聞いた話だと、魔術って言うのは詠唱が同じなら魔力量や制御による差異はあっても相応の実力があれば『誰でも』使える物のようだ……つまり。
「(魔法少女で言う魔法とは別物だ……)」
私達魔法少女は魔術という一種の共通の技術を使用して戦うのが一般的とされるけれど、それとは別に魔法少女固有の『魔法』が存在し、これは誰でも使える魔術とは区別される。
魔術は術さえ学べば使用者の実力に見合った結果が出る物だけど、魔法は個人固有のモノで、その魂に依存した能力になるモノだと魔法少女の使い魔が言っていた。そして魔法にはそれぞれ特異性があり、かつ一つのみ使える。複数の魔法の所持は無く、努力とかで増えるような物でもない。
で、何故これを私が気にしているかというと……それは聖都で闘ったあの悪魔、ジゼルの言葉が原因。
あの時、私が収束砲を撃とうとした瞬間、奴は『今更魔法を使う気か?』と言った。
あの闘いで私は既に魔術である魔光球や魔導障壁を使っていた。なのにあの悪魔は「今更」と言った。
つまりあの悪魔は知っていたのだ。魔法少女が使うのは『魔術』と『魔法』だと。
まあ、正直。魔導収束砲はただの魔術だから、あの悪魔の発言は結構的外れなんだけど。
それでもこれを問題視する理由は、魔術と魔法の区別ができる敵が居るという可能性。
実は聖都でも同じように調べてはいたんだけど、ここで聞いた話も含めて少なくとも聖王国と帝国では魔術と魔法の区別は単なる表記ゆれレベル。どっちも同じって感じ。
まあ、固有の魔法を魔術と同列に語っている可能性も無くは無いんだけど……。
それでもあの悪魔は確実に魔術と魔法を使い分けていた。であるなら魔族には魔法少女について詳しく知っている者が居る可能性がある。
そもそも魔術と魔法の区別も魔法少女特有のモノ。であるならその区別をする悪魔とは一体何者なのか。という疑問。
そして何より、区別していると言うことは、こちらの手の内を警戒すると言う事だ。
魔法があるとわかっていない相手なら魔法を警戒しないし、対策もしない。でもあるとわかっていれば、その効果を知らなくとも、警戒はするし、ある程度までは対策を取るかもしれない。
魔術で闘う中で「これ以上は無いはずだ」と思ってくれる相手と「魔法を使ってくるかもしれない」と思う相手。どちらが面倒かなんて言うまでもない。
だから知りたかった、この世界での魔術と魔法に対する認識を。
「――で、魔術に関してはこんな感じだけど。他に質問は?」
「あぁ……いえ、大丈夫です」
「そ? なら私は飲みに戻るわね、せっかくの上物だもの、飲まなきゃ損だわ」
そう言うと彼女は手をヒラヒラと振って他の冒険者と合流してまた飲み食いを始めた。
「ねえメグル、情報収集は進んだ?」
私が話終わったのを見計らってか、レナちゃんに声を掛けられた。
「うん、レナちゃん。欲しい情報は入ったよ。それよりごめんね、放置しちゃって……」
「んーん。いいよ。それより冒険者ギルドはどうする?」
「そうだね、一応行っておこうかな」
「それじゃあ案内するね!」
「うん、お願い」
さてさて、これで後はギルドに行くだけなんだけど、うーん、ギルドに行って何しよう……?
正直割と欲しい情報は手に入ってしまったから、ギルドに行ってもなぁ……。
あぁ、でも、この世界でいつまで暮らすか分からないし、仕事も無いと今後生きていくのに困るよね。それなら冒険者になっておくのもいいのかも?
「ここだよメグル」
「おぉ……レンガ作り。風格あるなぁ」
さっきまでいた酒場が木造で味のあるボロさだったのに対してなにやら小綺麗な感じだけど、ガッシリとした造りが風格を漂わせる。なんかちょっとしたお城みたいだ。
「さ、メグル、ギルドに付いたけど、何する?」
「うーん、とりあえず冒険者登録したいな。仕事が欲しい」
「そんなにお金持ってるのに?」
「うーん、いつまでも仕事しないといつかはお金が無くなっちゃうでしょ?」
「そっかぁ、メグルは浪費癖があるんだね」
そう言って苦笑いを浮かべるレナちゃんだが、これは何か勘違いしている気がするよ?
「なんだろう、凄い勘違いを受けている気がするんだけど……」
「違うの?」
「私はただ安心のために蓄えが欲しいって言うか……だから使うのが目的じゃなくて、持ってるのが目的……みたいな?」
「お金って生きるために使うモノじゃないの?」
「うーん、そうなんだけど、だからこそ余分にあったらいいと思わない?」
「……そうかもしれない?」
そう言ってレナちゃんは首をかしげているけど……何故疑問形なんだろう……。
「まあ、それは置いといて、冒険者登録するなら受付に行かないとね!」
「うん、おっけー」
ということで早速受付にゴーだ。
ギルド内に入ると、他の冒険者らしき人達から思いっきり見られた。
まさかテンプレみたいに絡まれたりしないよね?
ちょっと不安になりながらも、受付まで進む。
「いらっしゃいませ。本日はどのようなご用件でしょうか」
「冒険者登録をお願いしたくて来ました」
「かしこまりました。ではこちらの書類に必要事項を記入していただき、その後に適性検査、登録金を支払って頂いてから冒険者証を渡して終了となります、よろしいでしょうか?」
「はい」
正直、登録金が幾ら掛かるのか、とか。適性検査って何をするのかなぁとか気になるけど、他にできそうな仕事も思い当たらないからやるしかないよね。
という訳で、サクサクっと必要事項を記入。内容主に名前と年齢、職業。後はスキルとか使用できる魔術とかだったけど、とりあえず魔術は多すぎるから得意な物だけ書いて受付のお姉さんに渡した。
「記入内容には問題無さそうですね。メグルさん……ですね。ありがとうございます」
「あ、いえいえ」
むしろこれでいいのかとちょっとビックリだ。特に年齢とか職業が……あ、でもこの国では成人年齢だから良いのかな? 職業は……魔法少女って書いたけど……ま、いいんなら……敢えてツッコム必要もないよね。
「それでは適正検査ですが、こちらの魔道具に手をかざして頂ければステータスを調べることができます」
「うぇ?!」
「上?」
適正検査ってそういう? これってマズいんじゃ……。聞いたことがある、異世界ものでこういうのをやると大抵その世界での規格外能力とかが露見して大事になるって。
でも今更やらなかったら変に怪しまれたりしそうだよね……。
「お願い……できるだけ普通で……普通に……」
私は半ば自分に言い聞かせるように呟きながら、魔道具に手をかざした。
すると魔道具が突如激しく光だした!
「あ……終わった……」
見た感じ光も収まったから適性検査も終わったみたいだけど、それ以上に色々終わってしまった気がする。これきっとヤバいヤツだ。やってしまったヤツだ。
「えぇっと……はい、ありがとうございます。メグルさん。どうやら貴女は魔術師向きのようですね。若干高めな魔力値以外は平均値ですが……その歳でこれだけの魔力値なら将来有望ですね!」
「お、おや……?」
なんか魔道具が凄まじく光っていた時はやっちゃった感しかなかったんだけど、思ったより受付のお姉さんの反応は普通だ。しかしそう思った私の反応がむしろ変だったのか、お姉さんが私のことを不思議そうに見ている。
「どうかされましたか?」
「あ、い、いえ。なんか魔道具が凄く光っていたので、驚いちゃって」
「あぁ、そうですね。一般的にこれから冒険者になろうっていう方は大抵あそこまでの反応は引き出せないのですが、たまにいらっしゃるんですよ、才能を持った方がふと冒険者になってみようかな? みたいな感じで現れて先程のように眩く光るってことが。そもそもこれはこれから冒険者になろうとか、強く成ろうという方向きの計測器ですので、ある程度の実力を既に持っている方が使うとこうなるんです」
「あー、そ、そうなんですね」
「えぇ、知らない人は大抵驚かれますね。大抵Cランク程度の実力があればこういう反応になります」
「なるほど……」
つまりこの魔道具はそもそもCランク程度の実力者なら皆この光り方をするってことか。なら私に対するこの反応にも納得できる。はー、良かった。これでうっかり大事になったりはしないね。
それに、さっきまで私をジロジロみていた冒険者も、それなりに実力があると分かれば絡んでこないよね?
「それで、冒険者ランクですがAからFまでの一般的なランクと、特別にギルドから認められた冒険者のみ与えられるSランクがあります。規定によりたとえどれだけ強くとも最低でも下から二番目、Eランクからとなるのですが、よろしいでしょうか?」
「はい、お願いします」
「承りました。それでは他に何かご用件やご質問などあれば承りますが?」
「他にですか……」
他に、他にかぁ。
「……あっ、これ、何処かで売れたりしないかと思ったんですけど」
「? どちらでしょう」
「モンスター? の素材なんですけど」
「それでしたらギルドの方でも買い取っていますよ」
「あ、じゃあお願いします」
そう言って私はさっき拾ったドラゴンの鱗を出してみた。
「え……これって……まさか…………」
「?」
なんかお姉さんの顔が青ざめているんだけど、どうしたんだろう。
まさかとは思うけどやらかしちゃったりしてないよね?
「申し訳ありませんが、この鱗はどのように入手なさったのでしょうか?」
「えぇっと……拾いました」
嘘は言ってない。言ってないよ。実際拾ったものだし。某ゲームみたいに剥ぎ取ってないし。
「この鱗はドラゴンの物ですよね? 詳しくは鑑定しないとわかりませんが、この軽さでこの強度、恐らく上位のドラゴンの物のハズですが。本当に拾ったんですね?」
「……は、はい」
「……そうですか。こちら、直ぐにはお値段を算出しかねますので、鑑定士を呼んでからの買取となりますがよろしいでしょうか?」
「はい……」
ヤッバイ、せっかく適正審査を乗り越えたのに、うっかりやらかしてしまったのかもしれない。
素手で倒せるレベルだから正直イャ〇クックくらいの素材だと思ったんだけど……。もしかしたらリオレ〇アくらいはあったのかもしれない。
「宿泊先などをお教えいただければ後日ご連絡を上げますが……いかがなさいますか?」
「じゃあ、それでお願いします」
とりあえず今は考えるのを止めよう……。私は発行して貰ったギルドカードを受け取ると、レナちゃんに事情の説明をしてから宿の名前を受付のお姉さんに教えておく許可を貰ってから受付に戻った。
「満月の宿ですね。それでは後日ご連絡差し上げますね」
「お願いします」
私は受付のお姉さんに会釈をして、そのままレナちゃんの所へ戻り、一緒にギルドを後にした。
宿に戻ると私は崩したお金で数日分の滞在費を先払いし、部屋に入った。部屋は簡素ながら十分実用性のある部屋で、ベッドも庶民的な使用感でいい感じだった。
こちらに来てから貴族様にお世話になっていた所為でどうもベッドに違和感あったんだけど、これはありがたいね。にしても……。
「はぁ……面倒な事に巻き込まれないといいなぁ」
ベッドに転がりながらも私は、ひとり呟く。
ギルドでは鱗でやらかしてしまったかもしれないし、正直言って酒場でも若干やってしまった気がしてる。何をやってしまったかと言えば、面倒事のもとになりそうなことを、やってしまった。
本当に、面倒事にならないと良いんだけど。
そう思いながらも、私は今日一日の疲れに負けて、そのままベッドで眠りについたのでした。
ご読了ありがとうございました!
この回までで36×14で約100ページ分程になります。(改行込みですが)
初回ではここまでの投稿とし、ここからは毎週火曜日18時、一話ずつの更新にさせて頂こうかと思っています。
という訳で、次回更新は来週の火曜日18時となります。
少しでも面白いと思って頂けたら幸いです。