Re7 魔法少女と商業都市
「ふんふんふふーふふーん……」
聖都を出て一日、私は帝都近くの街、ラグランジュに向かっていた。
聖都からラグランジュへの間には大きな山岳地帯が横たわっているのでこれを迂回して進むのが普通らしく、それでも険しい道のりは本来なら二十日程掛かるらしいのだけど、飛行なら一日なんだから速い物だね。
とは言え流石にこれだけの速度(戦闘機くらい?)だから体への負荷も普通じゃ耐えられないので身体強化を掛けまくって頑丈にした体で飛んでいる。おかげで体に掛かる負荷も全く感じない。
魔法少女現役の時もこれを使った体当たりとかで闘ったこともあったんだけど、低燃費で結果が出た代わりに余りの地味さと泥臭さに小さいお友達の夢を壊しそうだったから一回きりで止めたんだったなぁ。
「さて、そんなことより、そろそろどこか良さげなところで着陸しないと」
この世界に来た初日に空を飛んでいた私を見た人たちの反応を見るに、空を飛ぶと言うのがそれなりに珍しいのだろうと言う事だけはわかっている。なので悪目立ちしない為にも人目のないところで降りたい。
そう思い、下に目をやって低速で飛んでいると、不意に辺りが薄っすらと暗くなり、とても大きな唸り声のようなものが背後から聞こえ、直ぐに振り返った。
「グルルルルルルゥ……」
「…………」
そこには、ドラゴンが、居た。
「グゥガァアアアアアアアアアアアアッ!!」
「あ…………あぁ…………あ…………」
私は余りの事に上手く言葉を発することができなかった……だって、振り返ったらドラゴンだよ……? ドラゴンってアレだよ? ゲームとかでも最強の種族だったり、下手したらラスボスだったりするアレ。ものによっては雑魚とかも居るかもしれないし、中ボスくらいかもしれないけど……。
でも、ドラゴンだし、アレだし、アレだよ……?
「ド、ドラ……ド…………ト、ゲ…………」
私がまだうまく喋れないでいると、ドラゴンは私がビビっていると踏んだのか、そのまま勢いよく巨大な体躯から生まれるパワーと鋭い爪で私を引き裂こうと襲い掛かって来た。
けど……そんなことはどうでも……よくはないけど、どうでもいい! だって!!
「トカゲ――嫌いぃいいいいいいいいいい!!!!!」
私はトカゲ、大嫌いなので。
「ギィヤァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!」
私が叫びながら思いきりドラゴンにアッパーを喰らわすと、ドラゴンもまた叫びながら吹っ飛び、一度遥か上まで行ったと思ったらすごい勢いで山の中に落ちていった。
…………うん。
「流石にあそこに人はいないよね……でも、うん、一応確認しに行こうかな……」
いくらいきなり襲ってきたとはいえ、身体能力強化多重掛けの状態で思いきり殴ってしまったし……殺してはいないと思いたいけど、死んでたらどうしよう……後味悪いよ……。
「あのー、誰かいますかー? というかーそのー生きてますかー?」
誰が居るかも分からないし、ドラゴンが生きているかも分からない。そんなこんなで変な呼びかけをしてしまったけど、反応は、無い。
「人はいないみたいだけど……ドラゴンは…………あっ」
辺りを見回すと、山には上から入れる大きめな洞窟(?)があり、そこにドラゴンが横たわっていた。
これが火山で、溶岩ダイブとかしてたらそれはそれで精神的に罪悪感でいっぱいだっただろうから、良かったかもしれない。
「うっ……思いっきり蛇腹……気持ち悪い、けど。生きてるかの確認だけでも……」
そう思い、私は少しずつ、ドラゴンの居る洞窟に降りていく。
「あ、一応生きてるっぽい」
洞窟に降り立つ頃にはドラゴンの呼吸音が聞こえていた。聞いてる感じは虫の息っぽいけど……ドラゴンの生命力ってどんなものなんだろう……。
「流石に放置して死なれちゃったら罪悪感あるし……治すかぁ……」
でもこれ、治したらまた襲ってきたりとか……しないよね?
「……よし、一瞬で治して一瞬で離脱しよう!」
うん、超名案。と言う訳で思い立ったら即行動! そう思って近づくと、あることに気づいた。
「なんかいっぱい鱗が落ちてる……」
これは、彼、彼女? の鱗だろうか。ドラゴンの鱗……かぁ。
路銀になるかな。
「ちょっと、ちょっとだけ貰っていこうかな……」
正直トカゲの体の一部と思うとゾッとするけど。もしかしたら何かに使えるかもしれないし、蓄えはあればあるだけいいよね。それにほら、いきなり襲われたし、迷惑料ってことで……ね。
ということで、ちょちょいと十枚程集めて。今度こそドラゴンを治そうと向き直った。
「よし! ヒール多重掛け! からの飛行!!」
流石にヒールを百回分も多重掛けしたし、死ぬことは無い……よね? 一応瀕死の人ですら二回もあれば全快する回復だし……いくらドラゴンでも百回もあれば回復するはずだよね? 多分。
「と、言う事で……さっきの続き、降りる場所探さないと」
またドラゴンとか出てきたり、さっきのドラゴンに襲われても厄介だから、サクサク降りる場所を見つけないとね。
とりあえず人目のなさそうな場所……あ、あそこでいいかも。
街の近場に森がある、あそこに降りて、そこからは徒歩にしよう。
そうと決まれば着地ー! っと。
「周りに人は……いなさそうだね。さて……」
とりあえず安全に着地できたし、後はサクサク街を目指して進んじゃおう。
ちなみに人が居ないうちに変身は解除。どちらにしても異国の衣装とは言え、ミニスカひらひらピンクできゃわわ。意味もなくこんな格好で街中を歩きたくない。
変身自体はコンマ一秒の世界。何かあったら直ぐに変身できるし、危機管理する為の探知魔術くらいなら変身してなくてもそこそこ使える。というかこれが使えなかったら基本一般人の私達が怪人の出現に立ち会うとか無理なので。
森から歩いて三十分後。
「ここが帝都に最も近い街、ラグランジュかぁ」
この世界に来て初めて自分の足で(ほとんど飛んでたけど)到達した街、なんか感慨深い。
そしてこの街も例に及ばず……というか二つ目だけど、やはり中世風の街並みだ。だけど一つだけ聖都と違うところがあるとすれば、至る所から魔力を感じることだろうか。一つ一つはかなり微弱な反応だけど……どういう状況なんだろう、これ。
見てみると、街に配置されている街頭とか、家屋の中から反応がしてるから、もしかしたら色んな機材とかに魔力を使っているのかな? ファンタジーならありそうかも。
「ま、なんでもいっか。とりあえず宿屋の確保と……できれば情報収集もしたいなぁ」
本格的な情報収集は帝都でする予定だけど、ここではあらかじめ帝都について学んでおきたい。ついでに帝都行きの馬車も見つけたい。
近くまで飛んでいけるとも限らないしね。
「宿……宿…………っと」
この世界の言葉も分かるし、文字も分かる、だから街をゆっくり散策しながらでその内見つかるよね。
そう思いながらフラフラすること数分。
「お姉さん、何かお探し?」
「…………」
「お姉さんってば!」
なにやら私の事を呼んでいるような感じだったので振り向くと、私よりちょっと背の低い女の子が居た。
「私ですか?」
「そうだよお姉さん、何かお探しかなって」
「あぁー、宿屋を探してます」
「やっぱり? お姉さんこの国の人っぽくないからさ、様子を見ててそうかなぁって思って。良かったらうちの宿に泊まらない?」
「……あー」
なるほど、そういう事か。
確かにこの格好で、辺りを見回しながら歩いてたら明らかによそ者だよね。それで、この子はきっと客引きで、私に狙いを定めたってわけだ。
まあ別にこだわりも無いし、探す手間も省けたけど……。
「おいくらですか?」
「おっ、お姉さん用心深いねぇ、良いよーそういうの。この街は商業都市だからね、疑って掛かんないとボッタくられちゃうもん。わかってるねぇ!」
「え、いやあ……ははは」
うん、まあ、商業都市とかは知らないけど、よそ者の客って段階で下手したらふんだくられるかなぁとは思った。
異国で相場を知らないと思われて吹っ掛けられるのはちょっとね、怖いよね。
「素泊まり一泊銀貨二枚でどう? 食事は一食で銅貨三枚ね」
「えぇ?」
この世界での硬貨の価値って聖都で大体、銅貨一枚が百円。銀貨一枚が千円。金貨一枚一万円。白金貨一枚百万円。くらいだったはず。なんか大きさによってまた違うらしいんだけど……大体そんな感じだった。うん。
ちなみに個人的に白金貨になるといきなり百万とか使い難いなと思うけど、これはそもそも白金貨は貴族や王族が利用する店での支払いを楽にしたり換金用の物だったりするらしい。その為に金貨に比べてあり得ない程価値が高いかわりに無茶苦茶デカい。掌を広げたくらいの大きさに厚みも割とある。いっそ白金塊と命名したいくらい。
それは置いておいて、さっきの話だと……一泊あたり二千円、一食三百円か……。
「馬小屋……?」
「えぇ?! 急に失礼だなぁお姉さん、ちゃんとした宿だよ!」
「でも安すぎない?」
「そうかな? 普通だと思うけど……」
「えぇ……」
この世界の宿屋は大丈夫なんだろうか……案外土地が安かったり税金が軽かったり、利用者が多いとかの理由があるのかもしれないけど。ちょっと心配。
「じゃあ、お願いしようかな?」
「やったね! それじゃこっちだよ、お姉さん!」
そう言って女の子は私の手を引いて走り出す。
とは言え宿は目と鼻の先だったようで、直ぐに着いちゃったんだけど。
「あら、レナ。お客さんかい?」
「うん、お母さん」
「えっと、とりあえず一晩泊めて欲しいんですけど」
「なら一泊銀貨四枚、食事は一回銅貨六枚だよ」
「おやおや?」
なんかさっき少女から聞いた値段と倍違うんだけど、これは、どういう?
「お、お母さん! この人には相場! 相場でいいの!!」
「あら、そうなのかい? すまないね、この街では見かけない客には相場の倍で吹っ掛けるのが常識でね」
「わぁお……」
それはまた凄い常識だ。商魂逞しいと言うか、何というか。一瞬逃げそうになったけど、他の宿もこうなんだろうなぁ……。
「それじゃ、銀貨二枚、前払いだよ」
「はい……って、あー」
「どうしたんだい?」
そこまで来て私は気づいてしまった……。
ヤッバイ。この袋…………白金貨しか入ってない。
一応、ノワールさんに貰ったお金もあるんだけど、こちらは聖都で買い食い……もとい現地の食料品調査に使ってしまった為、銅貨で三枚しかない。
あ、ちなみに買い食いはどれも塩味か素材の味でそこまで美味しくなかったです。
この街では食事が美味しいといいな……。
「あのー……両替とか、お釣りとかってあります?」
「ははは、何だい? そんなことかい。気にすることないよ、この街は商業都市、金勘定には五月蠅い街さ。釣りって言うならいくらでも……」
「あ、じゃあこれで」
私が安心して白金貨を出すと、女将さんの表情が固まった。
「…………これ、白金貨じゃないかい……」
「はい」
「…………アンタなんでうちに泊まろうと?」
「え、誘われたので」
「……アンタある意味来たのがうちで良かったかもね……」
「??」
どういう意味だろう、それは。
「はぁ。流石にこんな大金崩せる金は持ってないよ」
「あー、そうでしたか……」
「それと、お節介かもしれないけどね? こういうモンは本来持ち歩くべきものじゃないんだよ」
「そういうものですか?」
「こんな大金持ってたら、悪い奴に狙われちまうし、そもそも白金貨を取り扱ってる店なんて一部の王侯貴族向けの店だけさ」
「そうなんですね……」
「っていうかなんでそんなことも知らないでこんな大金持ってるんだい……」
「あははははは……」
よく考えたら日本ですらこの金額持って歩くのは非常識だね……。この世界に限った事じゃないか。いやホント、私なんかには身に余る代物だね……はぁ。
「その白金貨を使うなら貴族向けの宿を取るか……そうでなきゃ崩すしかないね」
「なるほど……」
しかしどう崩そう……これ……。
「ふうむ。アンタ、この街には何しに来たんだい?」
「えっと、帝都へ向かう途中でして、とりあえずこの街で情報でも集めようかなぁって」
「それなら酒場にでも行きな、高い酒があるし、冒険者にでもおごってやれば金も減る、情報も買える。後はそうだね、冒険者ギルドもいいね。先にそこいらで金を落として、崩して来たら良いんじゃないかい?」
「なるほど……」
確かにそれはよさげな案だね。
今のところは急ぐ旅でもないし、冒険者って言うのも見てみたいかも?
「部屋は取っといてあげるよ、安心して行ってきな」
「そうですね……わかりました。ご親切にありがとうございます」
「レナ、お客さんを案内したげな」
「うん!」
「え、そこまでしてもらうのは……」
「いーんだよ。アンタ金持ちそうだしねぇ。ここで恩を売っておくのも商売ってことさ」
「あはははは……」
と言う事で、私はレナちゃんの案内で酒場や冒険者ギルドを回ることになった。
「酒場って言うと夜の方がいいのかな?」
「そんなことも無いよ? 昼間から飲んでる冒険者とかたくさんいるし」
「そっか……」
とは言え今更ながら私未成年なんだけど、酒場に入るのってアウトじゃない? そしてもっと言えば私より年下っぽいレナちゃんは完全アウトだよね?
「レナちゃんは……酒場には入れないよね?」
「なんで?」
「え……未成年……だから?」
「私十六歳だよ?」
「同い年じゃん……」
「そうなんだ! お姉さんじゃなかったんだね」
そう言ってニコニコ笑うレナちゃんだけど……そこに食いつく?
「そうだね……って、そうだ。私は廻、三角廻っていうの」
「私はレナ・ホープ! よろしくね!」
「うん、よろしく」
「じゃあ、酒場いこっか」
「あぁ……」
そうだ、そんな話してたね。
「いや、ほら、私達未成年だよ?」
「うん? メグルの国では十六歳は未成年なの?」
「ここでは違うの?」
私の質問にレナちゃんはコクンと頷いた。
「えっとね、このラグランジュがあるのは帝国なのは知ってる?」
「うん、帝国の領土だよね」
「そう、それで帝国法では十五歳からが成人なの」
「そうなんだ……」
「メグルは何処から来たの? 聖王国も十五歳が成人だったと思ったんだけど……」
「あー……私はその、もっとずっと遠い国から来たの」
「そうなんだ……でも大丈夫だよ! この国では成人扱いだし、誰も文句言わないよ!」
「そ、そう、だね」
それはそれで正直どうかと思うけど……まあ、うん。今更日本の価値観持ってきても仕方ないよね……郷に入ってはってことで、ひとつ。
と言う事で、話もまとまったし、酒場にも着いた。
酒場は外観からして木造、かつちょっとボロい。おかげで中の騒ぎ声とか結構漏れてるし、荒くれ者とかがわんさと居そうな雰囲気がビシビシ伝わって来る。未成年かつ女子の私には中々に敷居が高いなぁ。
でも、私の想いなど知る由もないレナちゃんが、サクサクと入店していくので、私は慌てて付いて行った。
「らっしゃい――って、なんだ、宿屋の娘っこと……そっちは?」
店内に入ると店主と思わしき大柄で強面な男性が大きな声と厳つい笑顔で迎えてくれた。
けどその視線はレナちゃんを見て興味無さそうになり、私に向いて訝し気になった。
周りのお客さんも私の事を滅茶苦茶ジロジロ見て来る……この世界こんなのばっかりだなぁ……居た堪れないよ……。
「うちのお客さんのメグルだよ! お金崩しに来たの!」
「あん?」
レナちゃんの発言に思いきり険しい顔をして睨みつけて来る店主らしきおじさん。めっちゃ怖い顔してるよ……客商売する顔じゃないよアレ……。
それでもひるまずに店主さんの前まで行くレナちゃん、ハートが鋼なのかな。流石に一人で出入口に居るのも辛いので、付いて行く。
「レナちゃん、人聞き悪いから。違いますよ、ちゃんとお客さんです」
「ふんっ、言うだけならタダだな? 何を飲む」
「うぇ? えーっと……」
ヤバイ、この世界のお酒の知識とか全くないよ……どうしよう。とは言えさっきのレナちゃんの発言で思いっきり評価下がった気がするし……これ以上失敗できないよね?
「おすすめとか……あります?」
「なら火龍酒だな」
なんだろう、すんごい物を勧められている気がするんだけど……。名前からして強そうじゃない?
「あー……じゃあ、それで」
「なら金二十枚だ」
「じゃあ十枚で」
私も流石に騙されないよ、二倍なんだよね。高い物を買うとき程怖いね、二倍。
「おまっ……お前肝の座り方尋常じゃねぇな……わりぃがこれは相場だ」
「あれ、そうなんですか……私てっきり吹っ掛けられてるのかとばっかり……」
この街ってそういう街だって聞いてたんだけど、もしかしてこの店主は凄く良い人なのでは?
「それじゃあお支払いはこれで」
「これって……白金貨か。アンタどこぞの貴族令嬢かい? その珍妙な服と良い、随分変わってやがる」
「いやあ、貴族では無いですね。でもよかったです、こんなに高いお酒があって」
「ん? どーゆうこった?」
「お金崩せるじゃないですか」
「結局金崩しに来てるじゃねぇか……」
そう言って店主さんは深い溜息を吐いているけど、両替じゃなくても駄目だっただろうか……。
「まあいいけどな。にしても嬢ちゃん、酒つえぇんだな?」
「え? 何でですか?」
「火龍酒ってのはこの国、いや、大陸一強い酒だ。それを飲もうってんだから相当なんだろう?」
「…………わぁ」
そっかー、大陸一強いお酒かぁ……それはそれは……ははは。
「このお酒、ここにいる皆さんにご馳走しますよ」
「何? 正気か嬢ちゃん」
「駄目ですか?」
「駄目ってことはねぇが……まさかと思うが、飲めないのに買ったんじゃねぇだろうな……」
「……まっさかぁ」
目が泳ぎそうになる。何とか目を逸らさないように頑張る。
「…………マジかよ」
流石に私のこの苦し紛れの嘘は通じなかったみたいで、普通にバレたみたいだけど。
まあ、仕方ないね、追い出されないことを祈ろう。
「それでは今ここにいる皆さんにご馳走します! あ、あと適当に料理もいただけませんか、そちらも皆さんに振舞ってください」
「ここにいる全員にか? 大喰らい大酒飲みの冒険者共が三十人は居るぜ?」
「白金貨二枚くらいあれば足りますか?」
「おまっ……はぁ。あのな、さっきの一枚ありゃ十分だ」
「そうでしたか、じゃ、それで」
というか、そうだよね。白金貨一枚で百万だし……火龍酒の二十万を引いてもまだ八十万だし足りるよね……。
実際にお金出さなくてよかった。店主さんも冗談くらいに受け取ってくれているように見える。そうであって欲しい。
「お嬢ちゃん気を付けろよ、そんなんじゃ悪い奴にボッタくられちまうぜ?」
「あー、気を付けます……」
さっき宿屋の女将さんにも心配されたばかりなのに、またやってしまっただろうか。
でもまあ、これでお金も崩せたし……何より、恩を売った冒険者から情報も得られるかもしれない。
「さて、嬢ちゃんのおかげで忙しくなりそうだ。席は適当に座りな、直ぐに料理と飲み物を出させるぜ。飲み物は……ミルクでいいかい?」
「はい、それで」
「あいよ」
よかった、普通にミルクとかあるんだね……。
さあ。情報収集スタートだ!
ご読了ありがとうございました!