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Re6 魔法少女の旅立ち

「それでは、姫を守り、上級悪魔ジゼルを倒したミスミ・メグルに褒賞に聖王国名誉勲章を与える」

「は、はぁ……じゃなかった――有難き幸せ」

 上級悪魔との戦闘から一週間後、王座の間にて行われている勲章授与式。

 私はあの一件の褒賞として爵位を貰いそうになったけどそこは魔法少女、どこかの国に属する気とかはサッパリ無いので謹んで辞退した。

 それでせめてもの代わりにと渡されるのがこの勲章ともう一つ。

「更にかの者にはこの聖王の剣を与えよう」

「身に余る光栄です……?」

 そういえばノワール卿にこんな感じの受け答えをするように言われていたような気がしないでもない気がしてきた。

 こういう堅苦しいやり取りは社会進出していないJKにはそれこそ身に余るなぁ……。

 ともあれこれで受け取るものは受け取って、やるべきこともやった、後はそう、世界を救うんだっけ? そんな感じのことをするだけだね。


 と言う事で、授与式も終わってノワール卿と共に帰宅。

「結局なんか貰っちゃったし……これ絶対賄賂だよぉ……」

 正直勲章の方は働きに対する褒賞という体をまだ取っているからいいけど、この聖王の剣って言うのは完全にワイロって言うか……。

 どうやらこれ、聖王が認めた勇者や英雄に贈与する短剣で、これが一種の身分証のような役割すら持つらしく、今後世界を救う旅に出るなら何かと役に立つだろう……ってことで渡されたのだ。

 要は貴族にして飼えなかったからこれを渡して聖王国との繋がりを持たせると。つまりマーキングみたいなものだ。魔法少女は聖王国の関係者、みたいな。

 ついでに私に恩を売れて一石二鳥的な……そーいう事だよね、これ。はぁ。

「まーでも、住所不定、身分不明じゃなぁ……最悪住所不定は案外冒険者とかに多いかもだけど、冒険者っていう身分ですら無いし。なんなら生まれもこの世界じゃないとか完全に怪しいもんね……」

 まあだから、必要なのは間違いないし、有り難いのは有り難いんだけど……今後また利用されたりしそうでヤだなぁ……。

 正直先日の一件だってそうだ。話ではノワール卿の働きかけで早い段階で謁見できたって話だったけど、それも実際のところ怪しい。

 何せ足を運んだその日に魔王軍幹部の襲来だし、あの頼みだって断られても最悪私を巻き込んで解決させる気だったんじゃないかなぁ……。

 ……まあ、いいんだけどね。人助け自体は。どちらにしても助けてたのは間違いないし。ただこう、自主的に助けるのと策謀を巡らされて助力を強要されるのはなんか違うかなぁっていう、単に気分の問題なんだけど。

「ま、気にしても仕方ないね。さて、とりあえず旅立ちの準備でもしようかな」

 うだうだ考えても仕方ない。こういう時は体を動かしていればその内気分も晴れる。

 幸い王様やグレイスさんからこの世界の情報も聞けたから、私の目標も決まった。

 魔族……魔物や悪魔、魔の者の総称で、これらを指揮し、人の世界を滅ぼそうとする存在、魔王。

 これを倒すことが最終目標でよさそうだ。

 そしてその為の手順として考えられるのがまず情報収集。この国は魔族が暮らす魔王国からは遠いらしく、人類と魔王軍との戦いの最前線にほど近い魔導帝国に比べると魔族の情報は入ってこないようだ。

 正直言ってこの国で得た情報も結構漠然としていると言うか、魔王が統治する国が魔王国。魔王国に暮らす民が魔族。魔王軍は超強い。人類は劣勢。そのくらいの情報しかなかった。

 幹部があと何人居るとか、他の敵の実力とか、そういうのは全く情報として無いらしい。

 唯一それっぽい情報は「現魔王は史上最強の魔王」ってことくらいだけど、これもそもそも過去の魔王を知らない私からしたらどのくらい強いのかの指標には全くならないっていう……。

 そして話の最後には「メグル、そなたならば必ずや魔王を打ち倒せるであろう」とか言ってたけど、あれってきっと、利用できそうな強い人には誰にでも言ってるよね。なんかもうテンプレって感じだし……。

「真面目に情報欲しいから、まずは魔導帝国に行くべきかな……」

 いきなり最前線付近の国に行くのもどうかと思うけど、情報は敵に近い程得やすいだろうし、何より他にアテもない。

「もう一つの目的も果たせそうだしね」

 その目的と言うのは仲間探しだ。

 私は一人で多数を相手にしたことがない。基本魔法少女の戦いは怪人一体ずつとの闘いだった。それですら一部の魔法少女はチームを組んでたりしたし。

 つまり魔法少女の戦いに一対一や多数対一はあっても、こちらが一で相手が多数は無い。

 そんな魔法少女が魔王軍を相手に一人で大立ち回りできるかどうか……できないことは無いかも知れないが、できないかもしれない。

 なら情報を集めて、必要に応じて仲間を集める、これに適したのは最前線で間違いない。

 それだけ危険な場所なら強い人達だって集まっているはずだから、仲間を探すにもいいと思う。

 ただ……問題があるとすれば帝国、めっちゃ遠い問題。

 ここから馬車で一ヵ月らしい。死んじゃう。そんなに馬車に乗って移動してたら心とお尻が死んでしまう。

 なので魔法少女らしく飛んでいこうと思うのだけど、正直この世界の法律が分からないから領空侵犯とか言われないか凄く怖い。

 魔導帝国ってくらいだから魔術の発達した国なんだろうけど、まさかと思うけど対飛行魔術用に地対空ミサイルみたいなものとかあるかもしれない。魔術でシュババババッと迎撃、みたいな。

 なのでまあ、馬車と飛行の併用で行こうかと思っている。

 幸い先日の功績を称えられただけでなく、しっかり褒賞金も出たので当分お金に困ることは無さそうだし。

 と言う事でさっさとこの国とはおさらばしよう……うん。

 そう思い、私が荷物を異空間に閉まって部屋を出ようとした時だった。部屋の扉がノックされたのは。

「ミスミ様、お客人が来られております」

「え、誰――」

「私です! メグル様!」

「……あー」

 この声はアレだ……あの人だ。

「はぁ……どうぞ」

「失礼しますわ。メグル様……あら、部屋がすっきりして……お荷物は?」

「えっと、これから旅に出るところでして……」

「そんな! 何故、一言おっしゃてくださいませんの?!」

「…………あー」

 絡まれるのが嫌だからです、とは言えないよね。

 彼女はフレデリカ・エリクシール、この国の第三王女殿下だ。

 先日の戦いの発端になった人物である。

「それで、どんな用件で来たんですか?」

「旅に同行させてください!」

「嫌です」

「じゃあ結婚してください!」

「嫌です」

「せめて抱いてください!」

「嫌です」

 彼女は……フレデリカ殿下は私と出会ってからずっとこの調子なのだ。

 そしてこの彼女の性癖こそが今回の事件の発端だった。

 そもそも彼女は元から同性愛者だったらしいのだけど、そんな彼女を心配した王様が彼女の見目麗しさを流布し、各国からぜひ妻にと名乗りを上げる男を集め始めた。しかしその噂は人間だけでなく魔族にまで伝わった。そこで人間の女を好む悪魔、あのジゼルに狙いを付けられた。

 そして実は以前にも一度、ジゼルにより攫われそうになった事があったらしいのだが、その時彼女は……その、囲っていた侍女とのアレ中だったらしく、それを見たジゼルはよくわからない捨て台詞を吐いて逃走。

 で、今回、同性愛者と知らずに謀られたとジゼルが彼女を攫う予告を出し、先日の事件に至ったと言う事である。

 でも私が一番ビックリしたのは彼女の容姿だった。

 正直王様の言葉もあって「これは絶対に美人じゃないフラグだな」と思っていたのに、恐ろしいほどの美女だった。それこそ傾国の美女って感じの。

 そんな人が王様の発案で色んな男の人に言い寄られて、最後には百合の人って言うのだから、それはもう魔族にじゃなくても恨まれると言うものだと思う……。

 で、まあ、そんな彼女の今のお気に入り、狙っている女性……それが私。

「と言うか、微妙に断るごとに要求値が上がってないですか……」

「嫌ですか?」

「嫌です」

 もうずっとこの調子なので、流石に相手が王族でも敬意と言うものが薄れて来ているし、敬語こそ使ってはいるがそれも結構ちゃらんぽらんと言うか、適当になって来てる。

「メグル様は……どうしても私と結ばれる気は無いのですか?」

「無いですね」

「何故ですか?」

「……それは」

 そんなのは聞かれるまでも無いと思うんだけどな……。

「それは?」

「それは――私が魔法少女だからです」

 私の言葉に、彼女はただただ、ぽかんとした表情を浮かべる。

「魔法少女は誰の物でもありません。この力は、皆を守るため、幸せにするためにあるんです。だから、私は誰か一人を愛するとか、結ばれるとか、そういう事はしません」

「メグル様個人の幸せはどうなるのですか、誰も愛さない人生、それはとても寂しい物に感じます」

「そんなこと無いですよ」

「……何故、そう言えるのですか?」

「だって、私は皆を愛してますから」

 その言葉に、フレデリカはまた、ぽかんと呆けた顔をする。

「私は無限の愛と、正義の魔法少女。正義の心で皆を守り、無限の愛で皆を幸せにする。それが魔法少女である私の幸せです」

「そんな……」

 別にわかってもらおうとは思わないけど、それでも知っておいて欲しかった。

 私と言う魔法少女は、こういう存在なのだと。

「…………わかりました。メグル様は私一人の手に収まる人では無かったようです」

「…………」

 どうやら諦めて貰えたようだ。

 それにしても、急に真面目な話になっちゃったなぁ……。

「メグル様、最後に一つだけいいでしょうか?」

「何でしょう」

「メグル様は皆を愛していると、そうおっしゃいました。で、あるならば。私も、このフレデリカも愛してくださっていると思っていいのでしょうか?」

 そう言ってフレデリカは私を見つめる。この部屋に入ってきて私に迫って来た時とは打って変わった、真剣な面持ちで。

「はい、愛してますよ。だから、ピンチになったらきっと呼んでくださいね。必ず駆けつけて、貴女の幸せを守って見せますから!」

「……はい、はい。メグル様!」

 それだけ答えると彼女は涙し、その場に崩れ落ちてしまった。

 これでいいんだよね、私、魔法少女だし。

 うーん、きっとこれから先も私が誰か一人を愛することって無いんだろうな……それに関してはなんとも思わないんだけどね……。

 でもきっと、こうしてこの先も誰かを傷つけることもあるかもしれない。

 だからこそ、私はこれからもずっと魔法少女だ。過去に傷つけた誰かをその先の未来で幸せにする為に。

 こうして私はこの国でのやり残しも無く、ついに本格的に旅に出ることになったのだった。


ご読了ありがとうございました!

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