Re5 魔法少女の評価
「それでグレイス、魔法少女とやらはどうだった」
「はっ……それが……」
魔王軍幹部、上級悪魔ジゼル討伐から数刻後。
王城の軍議室に余と宮廷魔術師のグレイスの二人。
「かの上級悪魔、ジゼルが放ったヘルフレアをいともたやすく打ち破り、そのまま貫通した余波でジゼルを葬って見せました」
「ヘルフレア、あの『一国の都』を滅ぼすという魔術か……それを打ち破るとは、いかなる魔術を使ったのだ」
「それが我々の世界の元とは思えぬ魔術でして……詠唱も無く発動したと思えば、六つもの光の線が飛び出したのです……しかも、アレは……アレは……!」
「どうした、なんだと言うのだ」
珍しくこの男が狼狽えている、それほどの何かがあの娘にあったというのか?
「あの魔術の威力、アレは一本ですらヘルフレアを凌駕していました……! いえ、それだけではないでしょう、アレ一つでこの王都どころか聖王国領土全てを無に帰せる威力を優に超えていたと言えます。そしてあれ程の魔術が同時に六……あれは人の領域を超えています!」
「なんと……魔法少女、それほどか」
この男、グレイスには特別なスキルがある。
それは魔力の大きさ、流れなどを感知するもので、この男の評価を数段上げているスキルでもある。
そもそもこの男の就く宮廷魔術師という職、これは本来国一番の魔術師の物だ。だがこの男は凡人でも訓練次第で使えるようになる中級までの魔法しか使えない。
それでも宮廷魔術師に成れたのはひとえにこの魔力を見るスキルに所以がある。
この男はこれを駆使して才あるものを集め、この聖王国の魔術師団の強化に大きく貢献してきた。幸いこの男は才を発掘する能力と別に、育てる能力にも長けていた。
なので今ではこの男を超える魔術師は多くいるが、そのほぼ全てがこの男の弟子であり、魔術師団からの信頼も厚い。
そしてその信頼はもちろん、余も同じである。
「あの娘は危険です」
「わかっておる、しかし、それほどの力なら、他国に渡るのは避けたいものだな」
「それは、そうですが……」
「首輪を……爵位でも与えるか」
「あの娘に、ですか」
「不服か?」
「…………いえ」
嘘だな。どうやらグレイスはあの娘に爵位を与えることが気に入らないようだ。
理由は想像するまでもあるまい。
「魔女か」
「い、いえ、それは……!」
「よい、一部の貴族や権力者が魔法少女をそう呼んで軽蔑しているのは知っておる」
「…………」
「しかしな、アレはまだ利用価値がある。それが例え異界の、得体の知れない力でも、だ」
「はっ……」
この国の歴史からしても、魔法少女とは大変価値のある存在だ。例えそれが疑わしき『魔女』の力であっても。
「何、あの娘が爵位を素直に受け取るとも限らんぞ?」
「……その場合は、どのように?」
「適当に身分を証明する程度に勲章でも与えてやれば良かろう、恩を売っておけばそれが枷になることもあろう」
「では、そのように……」
こうして短いながらも、かの娘に対する対応については話が付いた。
六百年の昔、魔王を倒すために現れて以来、百年の周期で現れる魔法少女、その七人目。
その力は未だ未知数なれど……利用できるものは利用せねばなるまい。
でなければあの魔王には対抗しえぬのだから……。
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