Re41 魔法少女と真相
「私が死んだのは、まあ、自殺みたいなもの、かしら」
「自殺、みたいな……?」
なんだろうそれは、みたいなものってことは、そうではないの?
「何てややこしい言い方したけれど、別になんてことないわ。ただ、ちょっとした勘違いで、自分で死んだだけだから」
「ちょっとした勘違いって……そんなこと、ありますか?」
勘違いで自殺って、どうしたらそうなるのか、私にはわからなかった。
「……聴いても面白くないわよ」
「それを聞くために週を跨いだんですけどね」
「体でしょ……」
「ですけど、それでもです」
こんな強い人が死んだのが、わからない。この人がノモルワを倒しても全然おかしくない強さだ。そんな人がちょっとした勘違いで、しかも自殺って。
「ふう。そうね。そうだったわね。……どこから話そうかしら、そうね。私、生前は恋人が居たのよ」
「恋人ですか」
魔王はこれで美人さんだし、イケメン彼氏かな。魔王が理系だし、イケメンも理系かな。
ははは、私には縁遠い世界で生きてるなぁ。
「彼女は凄く愛らしい子だったわ」
「おおぉう?」
彼女? 愛らし……? うん?
「何の声なの、それ」
「い、いえ、なんでも」
そっか、この魔王、そっち系か。てことは時音さんとも……そういう?
「私の後輩でね、凄く人懐っこい子だった。素直で明るい可愛らしい子」
「はあ」
なるほど、多分私みたいな子だね。
「違うわよ」
「え」
「違うわ」
「はい……」
なんか私の思考に返事された上に凄い怒られてるんだけど……。何この魔王怖い。
「でもね、その子、ある時ノモルワ側の幹部に捕まってしまったの」
それは大変だ。可愛い女の子があんな連中に連れ去られたらピー音と謎の光で構成された時間が出来てしまう。
「まあ、早期に……ほんの数十分でアジトを見つけて、奪還はしたんだけれどね」
「それは良かったです」
まあこの人なら、出来そうだよね。色々インチキな装置とか使って。多分。
「でも、ふふ。すぐに駆け付けて、無事に助け出せたつもりだった私は、この時既に彼女に起きていた変化に、気づかなかったのね」
「え?」
それって、どういう事かな。
なんか凄く、大変な前振りっぽいんだけど。
「彼女はもうね、この段階で相手側に落ちていたのよ。悪落ち? って言うのかしら。彼女は既に幹部の手によって染め上げられていたわ」
「え、でも、助け出したんですよね……」
もしノモルワ側だったなら、素直に助けられるかな……。
「そうよ。彼女はスパイとしての仕事をする為に、救出された魔法少女の立場を利用したわけね」
「そんな……でも彼女が捉えられていたのって数十分ですよね。そこまで、その、落ちますか?」
私は捕まって拷問とか受けた事無いけど、どうなんだろう。
魔法少女、戦うヒロインと言っても年頃の女の子だし、戦闘力はあってもメンタル最強なわけではない。そういうことも、あるのかな。
「拷問とかは、されてないのよ。あの子。自分から、協力を申し出たみたいだからね」
「え」
自分から? そんな、まさか。
「先に言っちゃうけど、その子ね、相手の幹部、女幹部だったんだけれど、一目惚れしちゃったんだって。当時の私よりその女は年上だったし、大人のお姉さまが良かったんだって。笑っちゃうわね」
「あ、はははは」
「笑うな」
「はい……」
笑っちゃうって言ったから……いや、不謹慎だったね……すみません。
私は心の中で魔王に謝った。
「でも当時の私はそうとは知らずに、その後も彼女と共に行動したわ。まあ、私の行動は全部筒抜けで、やたら襲われたりしたわね」
「それは……キツイですね」
というかそれだと魔法少女に変身する前の素顔もバレてるってことだし、相当に厳しい状態だ。
「まあ、キツかったのは、それよりも、裏切られたことだけれど」
「浮気されてますからね」
「寝取られてるもの」
「そ、そうですね」
魔王の目がどんどん曇って、禍々しい光を帯びている気がする……こわ。
「まあ結局、私をどれだけ罠に嵌めても勝てなかった女幹部は、遂に最後の手段に出たのよ」
「最後の手段?」
なんだろう、この魔王を倒す方法なんて思いつかないな……。
「彼女を人質に取られてね、自決を迫られたわ」
「へ?」
そんな、そんなのが最終手段?
その程度でこの魔王を倒せるかな。
「ふふ、今にして思うと何とも滑稽ね、もう既に自分に気のない、どころか敵の女になった子の為に死ねなんて。でも私は、従うしかなかった」
「なんで……」
彼女ならいくらでも救いようがありそうだけど……。
「彼女にね、毒が盛られてたのよ。もう死ぬ寸前って感じで。今すぐ死ねば、解毒してくれるって言うのよ……私の魔法、生物には直接作用しないし、どんな毒か調べて治療する何かを作る時間もなかったわ」
「それで……自殺ですか」
「そうよ。それで死んだの。で、死の間際に種明かし。ホントは私達出来てたんですって。貴女は敵の女の為に死んだ大馬鹿だって。誰かの為に犠牲になったつもりが……勘違い女のただの自殺だったって訳。ふふ、笑っていいわよ?」
「…………っ」
笑えないでしょ、これ。こんなの酷い。この人、そんな死に方したのに、この一度は世界の為に戦ったの……?
「そんなことで、私は死んで、この異世界に来たのよ。どうかしら、面白かった?」
「いえ、全然……」
正直私より相当酷い話だった。私の死は自業自得みたいなものだけど、この人のは……。
「そんな私が『せめて異世界で幸せに暮らしておいで』なんて言われて転生したわけだけど、魔族に襲われるわ、世界はあちこち戦場で幸せに暮らすとか無理だったわ」
「それで、とりあえず世界を平和にするために戦ったんですか」
「そうね。大体そんなもんよ」
そしてその過程で、何処かで神様達とノモルワの話を知った……?
「ま、世界を救ったら、今度は人間たちが魔女狩りとか言い出して、私を殺そうとしてきたけどね」
それは、彼女にとっては二度目の裏切りだ。
一度目は彼女に、二度目は人類に。
助けた人に、守りたいものに裏切られた。
「もうね、そうなって来ると『なんかもう、自分の為だけに自由に生きたいな』って思っちゃったのね。だから、今こうしてるの、わかってくれたかしら」
「えぇ、結構分かりました」
この人、凄くしんどい人生歩んでるな……正直、人類の敵に回る気持ち、ちょっとわかる。
「貴女ならわかると思ったわ。貴女如何にも人間嫌いそうな性格だものね」
「そ、そうですか……?」
なんでそんな風に思われたかなぁ。
「人と魔物が戦ってるのを見て、魔物が被害者かも知れないと思って魔物を殺さないなんて、余程人類を信用せず、嫌ってなければ思わないわよ」
「…………」
はぁ、そういう事言っちゃうかぁ。
「まあ、正直他人を信じたりはしない口ですけど」
「そして平然と人を殺すし、人が死んでもなんとも思わない精神性。同種である人類相手によくやるわね」
「精霊国でのことですか……?」
「帝国でも、よ」
「むぅ……」
きっとライデンさんが死んだときに平然としてたことを言ってるね……はぁ。もう。
「だったら何だって言うんですか」
「魔法少女なのに、愛と平和を謳っても、貴女の心根にそれは無い。見てたらわかるわ」
まったく、楽しそうに私の分析を喋ってくれちゃって……。
「だから、それが何だって言うんですか」
「いえ。似た者同士ねってだけよ。人類を何とも思ってない同士。人外の力を持つ、魔法少女同士、気が合いそうねって」
「合わないですよ」
合う訳ない。この人何言ってるんだろう。
「そう? いい友達になれると思ったのだけれど」
「恋人じゃなくてですか」
「図に乗らないで。時音くらい美人になってから出直しなさい友人A」
「ぐっ……」
人が気にしてるシンプルな見た目をサラッとディスられた。魔王め……。
「それで、私の死と、人と神の敵になる理由、わかってもらえたと思うけれど。今一度問うわ――私の仲間にならない?」
「なりません」
なんか、すっごくキメ顔で訊かれただけれど、全然、仲間になる気起きない。
「そう、ならせめて、邪魔はしないで欲しいわね」
「それも無理です」
「はぁ。やるしかないのかしら」
「そうですね。できれば、やる前にもう一つお聞きしたいですけど」
「何かしら」
「貴女の本当の目的は、何ですか」
「…………」
私の質問の意図、しっかり伝わったようで、魔王が睨みつけて来る。
殺し合いになるかな、これ。
「神を殺し、復讐。魔法少女の世界を創る。それだけよ」
「本当にそうですか?」
「何が言いたいの」
魔王の当然とも思える問いかけ。でも、この人はそれを訊く意味、あるのかな。
「貴女が私に魔法を教えた意味が分かりません。今の目的だけなら私がコピーできると知っていて、教える意味が無いです」
「…………」
再びの無言の圧力に、しかし彼女はきっと、これを求めていた。
「私は、そう私は神を殺す、魔法少女の世界を創る……それだけ、それだけよ。それだけが私がここに転生した目的」
「…………あっ」
転生した、目的。
この世界で幸せにって言うのは、嘘? そもそもの目的、使命は……。
「それで……だから、ですか」
「貴女、やっぱり歪んでるわね。私とお似合いだと思うわ。友達としてだけど」
「誉め言葉ってことにしておきますね」
彼女の目的。ううん。彼女を送った神の目的。
私達の世界の神で、魔法少女の力を与える使い魔を遣わし、転生に関わった神。
この世界のものではない、神。
「分かったでしょう。私は何も、間違ってないわ」
「そうですね……そういう事に、なるんですかね」
私には悪に脅かされる世界を救えみたいに言っといて、これが真実だったなんて。
「でもそれ、私に言って良かったんですか?」
「言ってないわよ。貴女が勘付いただけ、でしょう?」
「遠まわしに言ってる気もしますけど……」
でもまあ、ハッキリ言われた訳じゃないか。
彼女をこの世界に送った、神。私が出会った神の目的。
何故かは分らないけど、あの神は……。
「魔法少女の世界……かぁ」
どうやら神は、魔法少女の世界を作らせようとしていたようです。
ご読了ありがとうございました!




