Re38 魔法少女の説得
「ふぅん。つまり、神側には謝罪の意思があるからそれを受け入れて今後一切の魔王としての活動を止めろと」
「うーん、ちょっと違う?」
レイナさんに貰った鍵で魔王城に戻って来た私は、早速魔王に取り次いでもらって話をしたんだけど、ちょっとだけ誤解がある。
「魔王として魔族は統べていいですし、魔法少女の生活圏確保もいいんですけど、破壊活動というか、無闇に生殺与奪しないって言うか、そういう事です」
「なるほど、貴女、言いくるめられたのね」
「うっ……」
正直、謝る意思があるなら仲直りして欲しいのが半分、世界の為に仕方ない部分半分で、言いくるめられた感は百パーセントなので何とも言い返し難い。
「私は止まらないわよ。ここまで来て、引き下がれないでしょう」
「それは……」
まあ精霊国に戦争をふっかけて、帝国をあそこまで崩壊させて、それで引き難いって言うのは分る気もするけど……。
「そう思っても、引くべき時には引くって訳にはいきませんか」
「引くべき時と思わないわね」
「そう、ですか」
どうやら魔王の意思は固そうだ。これはもうバトル展開しかないんだろうか。
「でもそうなると、貴女とやり合うことになるのかしら?」
「そうですね、一応決裂したら首根っこ捕まえてでも、神様と話し合いの席に着かせることになってます」
「実に貴女らしいわね、メグル。さて、それじゃあ始めましょうか――」
そう言って魔王は立ち上がると、剣を取り出した。
「ちょっ、あの、本当にやるんですか? 神様を殺したら世界が滅ぶし、そうしたらまた、死にますよ?」
私がそう言って止めようとすると、魔王は笑った。
「ふふっ、大丈夫よ。こういうのはね、お決まりの展開があるの」
「お決まりの展開って……まさか」
「そう、私は神を殺し、空いた席には私が座る、魔王から神になって、この世界を統べるの。そうすれば、世界は滅ばない、魔法少女達の受け皿になる世界も造れる、何の問題も無いわ」
「あぁ、もう……」
こういう事言ってると、大抵失敗するモノだけど、わかってるのかなこの魔王。
「その場合、この世界に元々居た人々はどうするんですか」
「さあ、気に入らなければ殺すわね。特に聖王国の連中は残らず殺すわ」
「なるほど……そうですか……」
よし、そこまで言われたら仕方ないね。
やるしかない。
「アルク、やるよ」
『本気か? ここでやるとなると、他の魔法少女も全て相手取ることにならないか?』
「まあ、ね」
それはその通りなんだけどね……やるしかないのは変わらない。
「準備はいいかしら?」
「待っててくれるなんて優しい魔王ですね」
「ふっ、優しさじゃないわ、魔法少女の流儀よ」
「あぁ、納得です」
おしゃべり中は攻撃しないのはお決まりだよね。
「一生お喋りしてたら待っててくれます?」
「それは無理」
「ですよねー」
まあ、仕方ない、腹を括りましょう。
「身体強――」
「遅い、超重力――」
私が身体強化して高速戦に備えようとすると、魔王は重力の魔法を使って来た。
「ぐっ……貴女も重力系……?」
「いいえ? 全然そんなこと無いわ。貴女、的外れで期待外れね」
「むぅ……」
しかしこれ、どうしよう? また淳子ちゃんの時みたいに戦うのもなぁ……なんなら屋内なだけあって戦いにくいし。
「ねぇ、本当に私達の側には付かないの?」
「まあ、付く気はないですね」
「そう……沸騰」
「あっ……あ゛ぁああああっ!!」
何、これ……からだがあつい……? 痛い……?
「人間の血を沸騰させるのって本当、いつ見ても面白いわね。貴女も見てみる? ほら、鏡出してあげる」
そう言って魔王は、私の前に鏡を作り出した……これも、魔法?
「転移――」
今度は最初みたいに疎外されず、転移出来た。場所はアルクと出会った山。
追従は……無さそう。
体の調子も元にとは行かないけど、異常はない。
「何あれ……本気で死ぬかと思った……」
体中が燃えるように熱く、内側から弾けそうな感覚。気が遠くなりそうなほどの激痛。
魔法少女として戦い慣れ、もとい激痛慣れしてなかったら意識が飛んでそのまま死んでたと思う。
「もう既に戦いたくない感じになってきちゃったなぁ……」
正直、勝算は無くはない。特に転移と即死のコンボもあるし、暗殺と言う手を使えば勝てるだろうけど。
「魔法少女らしさ皆無だよねぇ、暗殺なんて」
「あら、誰を暗殺するって?」
「なっ!?」
声がした瞬間、それが魔王のモノだと気づいた私はすぐに距離を取らず、むしろ詰めた。
「あらやだ、私の魔法までコピーしておこうってことかしら、それとも即死狙い?」
「っ」
バレバレだった。まあこの状況で逃げ出さずに距離を詰めたら何かしらあると思われるよね。
にしてもコピーか……似たようなものだけど、なんでそれの為に近寄ったと思われたのかな。即死の方はまあ、四離ちゃんの魔法だから知っててもおかしくないけど。
「まあいいわ、使いこなせる物ならしてみなさい。ペーパーランス」
「うぁっ!」
なにこれ、よくわからないけど物凄く細い無数の何かが体を貫いた。
「結構効くでしょう。幾ら紙でも、そこまで折り畳まれているとかなりの強度と殺傷能力があるのよ?」
「いや……意味わかんないですね……」
紙にこんな使い方あるかな? って言うか折り畳まれてるとって、何。
「貴女はご存じない? 紙を何回折り畳めば月に届くのかって言う、とてつもなくどうでもいい空想を」
「は、はあ」
とりあえずダメージは再利用で体を戻したからなんてことないけど、アレ、頭とか狙われて即死したら凄く困る攻撃なんですけど。
とりあえず、防壁は常に張っておこう。流石に紙で貫かれたりはしないよね?
「それを例えばだけど、人に向けて使うとどうなるかって言う話なんだけどね。つまりまあ、本来あり得ない、月まで届く高さに織り込まれた高密度の紙を対象に向かって瞬時に届かせる、そういう技ね、これ」
「態々説明してくれるんですね」
「技だけにね」
「うわぁお……」
魔王が凄まじく寒いギャグをかまして来た。どうしよう。堪える。
「とは言え今の貴女みたいに防壁張ってる相手に聞くような技では無いわねぇ」
「それは良かったです」
「でもまあ、また沸騰させちゃう?」
「良いですけど、逃げますよ?」
「むう。持久戦は困るわね。貴女みたいに魔力が無尽蔵って訳では無いし」
そうは言いながらも余裕たっぷりなのは、まだまだ手札があるからなんだろうなぁ。
私と言ったら、無駄な火力と人の魔法をパクって来るだけだからとても困る。さっきの魔王のだって、距離遠くて再利用に記憶できてないし。
「次は、そうねぇ。ツングースカ大爆発って知ってる?」
「えぇっと、謎の爆発くらいにしか」
「そうね、一応、こうなんじゃない? って言う仮説とかあるんだけど。仮説って言うのは面白いわね、わからない現象、知りたいものにきっとこうだって、自分を、他人を納得させられる説明を付けたがる……」
そう言うと魔王は指をさした。
「みなさい。どかん」
「っ?! アルク! 全力で結界!!」
山の上に光が現れたと思った瞬間、私はそれを囲うように全力で結界を張った。
アレはまずいと、直感でそう感じたから。
「あーら残念。この一帯全部炭に変えてやろうと思ったのに……で・も」
魔王の声が、耳元から聞こえる、当然だ。彼女は結界で抑え込むのに必死な私の真後ろで、私の耳元に口を寄せ、囁くのだから。
「これじゃあ貴女、死んでしまうわ」
「っ!!」
「ねぇどうしよう、これ、確殺って奴、出来ちゃうのかしら」
「ぐぅううっ!!」
「あぁだめっ! ほら頑張って! 結界が崩れそうよ?」
「うっさいなぁもう!」
「えー、酷いわ。せっかく殺さずに待ってあげてるのにぃ」
「うぅううううううっ!」
この魔王、なんて性悪なんだろう。
間違いなく魔王だね、この人。
「あらスゴイ、本当に抑えちゃった。じゃあ次行ってみましょ?」
「ふざけっ……」
「フォーリング」
魔王がそういうと、しかし、別に私は落ちたりしなかった。
「? フォーリングっていうから、落ちるのかと……思ったけど」
「あら、別に貴女を落とすとは言ってないわ」
「じゃあ、何を……」
私の質問に既に距離を取った魔王は上を指さす。
「あ…………」
その瞬間、この魔王の頭の可笑しさに、絶句した。
神を殺すとか、魔法少女の生存圏とか、そんなの、コイツは本当はどうでもいいのかもしれない。
ただ、壊したいだけ。
理由を付けて、わからない何かを、規定したいように。
コイツはきっと、自分の狂気を、そう仮定した。
神への復讐をしたいから、魔法少女の国が欲しいから。
だから壊すんだと。
「ねぇ、どうする? どう止める? 楽しみね、ワクワクね? ふふふっ! ふひひひはははははははははははははははっ!」
魔王は嗤う、落ちて来る月の下で、彼女は狂おしいほどに嗤って居た。
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