Re28 魔法少女と終戦対談
「貴様! 裏切ったな!!」
「開口一番それを言いますか」
私が空間操作を使って呼び出した二人の内精霊国側の指揮官、というか将軍さんがいきなり私を裏切り者扱いだ。
いやまあ、一応精霊国に協力する立場なのにこの戦場に居た人全員ぶっ飛ばしちゃったんだから、間違ってもいないんだけど。
「この売国奴め!!」
「売国奴って。私は別に精霊国の人間じゃないですよ。と言うかそれだと魔族まで滅ぼしたのに説明がつかないと思いません?」
「ならば帝国の間者か!」
「より一層飛躍しましたね……」
「ならば邪神の使いか!」
「もういっそ何処まで飛べるか観測したくなる勢いですが。違いますよ。とりあえず落ち着きません?」
とは言ったものの、いきなり両軍消し炭にされて、更には転移魔法でこんな場所に引きずり出されて落ち着けと言われても難しい話なのは理解できるんだけど。
さてどうしよう。
「メグル殿、そちらの御仁はどなたかな」
「あぁ、そうでした。オナラブルさん、この人は――」
紹介しようと思って、ふと気づいたことがあった。
この人、誰だっけ。
「精霊国側の指揮官、将軍さんで……なんとか、かんとかさんです」
「名前も知らない将を引っ張り出したのか君は……」
「ま、まあ。そうなりますね」
名前は知らないけど、一度だけ顔を合わせたことはある。だから一応転移の対象を選ぶのには困らなかったんだし……話すのには困るけど。
「それでは、お名前をお伺いしてもよろしいか」
「何だ貴様は」
オナラブルさんが名前を問うと、思いっきり機嫌悪そうな馬顔で睨みつける将軍さん。
何というか、オナラブルさんとは仲良くなれそうだけど、彼とは難しいかもしれないと思ってしまうくらいにはとっつきにくい印象。
それにしても下半身が鹿で上半身が馬の生き物ってなんて言うかファンタジーにしてもあんまりな気がするのは私だけだろうか。
「私はオナラブル、ただのオナラブルだ。家名は無い。此度の魔王軍の指揮を任されている」
「貴様がっ?! メグル、やはり売国奴であったか!」
「おおぅ、話が通じない感凄いなぁ」
この人いつまでその話引っ張る気だろうか。
冷静に物事を見れない人が将軍でいいのかなとか、ちょっと思ってしまったよ。
「貴殿の戸惑い、心中察するものであるが。その態度はいかがなものか。私は名を名乗った。貴殿の名は効かせては貰えないのかな」
「魔族如きに聞かせる名など無いわ!!」
「あー……」
なるほど、これは話せる相手じゃなさそうだね。アルクもこの人と話したんじゃ苦労しただろうなぁ。
でもこれだと困るし。どうしたものか。
「ふむ……メグル殿、今回の事、どういった用向きか聞かせていただけるかな」
オナラブルさんも彼には話が通じないと思ったのか、私に要件を催促してきた。
まあ、話が通じないならある程度無視して進めるのも手なのかな。
「それはですね、私の方から提案があるので、それを飲んで欲しいと思って両軍の指揮をする貴方達をお呼びしました」
私がオナラブルさんの問いに答えると、名前も知らない人……仮に名無しさんが声を上げた。
「裏切り者の分際で提案だと? 抜かすな! この場で切り捨て……っ!」
なんか本格的に話の通じない名無しさんが剣を抜こうとしたので空間を固定して動きを制限させてもらった。
「貴様っ、何をした!」
「動きを制限しただけですよ。話合いの場で物騒な事をされても困りますから」
「ははは、一番物騒な存在の君が言うのが中々皮肉だな」
「オナラブルさん結構言いますねぇ……」
いやまあ、確かにこの場で一番物騒な力を持ってるのって私だろうけど……。
「それで? 提案とは」
「はい。両軍にはこれでこの戦いを退いて欲しいんです」
「ふむ。とは言え、それだけならここに我々を呼び出す必要もあるまい。両軍壊滅したのだからな」
当然すぎるオナラブルさんの疑問には同時に私の言葉にそれだけではない何かを感じたと言うニュアンスが混じっていた。
「そうですね。もしここで引くことを確約して貰えるなら、戦死者の蘇生を行ってもいいと思っています」
「蘇生だと?! 戯言を!!」
私の言葉にいち早く反応したのは名無しさんだった。
「ちょっ……そんなに信用できません? 私」
「できないな!」
「……むぅ」
ま、まあ、彼からしたら唐突に両軍消し炭にした相手だし、色々私には理解しきれない感情もあるってことかな……うん……。
「それでメグル殿、その蘇生と言うのは一部の将校の話かな?」
「いいえ、戦死者全員ですよ。大体五十万くらいですよね」
「それは……正気か?」
「? 正気ですけど……どうしてです?」
何故かオナラブルさんにまで疑われ始めたよ。なんで?
「疑ってすまない。だが、死者の蘇生、それだけでも信じがたいものだ……それを五十万の規模ともなれば、流石にな」
「あー、なるほど……?」
私がそれくらいできてもおかしくないくらいに思われてるかなぁと思ったけど、流石にそこまで受け入れ態勢万全では無かったみたい。
まあ、殺せるのと生き返らせるのは別物だし、普通に考えたら攻撃も回復もどっちもできるなんて都合のいい話ないか……。
「まあでも、退いてくれるなら本当に蘇生しますよ?」
「ふむ。此度の戦はどう見ても敗北だ。精霊国の軍こそ壊滅したがこちらも同様。しかも要因が魔女の怒りを買ったからとあっては魔王様に顔向けできんか……であれば退くのもやぶさかではないが、貴殿はどうだ」
そう言ってオナラブルさんは話の通じない馬顔の名無しさんに話を振った。
けど、なんか今彼の口から結構酷いこと言われた気がするのは気のせい? なんか魔女とか呼ばれた気がするんですけど……。
「蘇生されたのであれば戦うのみ。戦士なら当然!」
「そうか。どうする、メグル殿」
「……じゃあ魔族だけ蘇生しましょうか」
「いいのか?」
「約束通り引いてくれないなら、その時はまた滅ぼしますけどね」
「約束は守るとも」
「ま、待て! 貴様魔族に与する気か!!」
そう叫んだ名無しさんは今までの怒りに任せて頭ごなしに怒鳴っているだけの感じではなく、ちょっと焦っているように見えた。
「与するんじゃなくて、提案を飲んでくれたオナラブルさん側に約束の蘇生をするだけですよ」
「なら精霊国軍も蘇生しなければおかしかろう!」
「でも引かないんですよね? なら蘇生させる方がおかしいですよ」
「なっ……」
もしかしなくても、魔族だけ蘇生すると言ったから焦ってるよね、これ。
ならこのまま焦って焦って、怒りなんて忘れてとりあえずでいいから退く約束して欲しいかも。
まあ約束破ったら、魔族だろうが精霊国だろうが関係なくお仕置きだけど。
「この話は両軍が引けば蘇生すると言う話では無いのか!」
「別にそんなことは言ってないですよ」
「ぐっ……しかし、しかし……!」
どうやら何とか魔族側だけの蘇生は阻止したいみたい。
でもそれなら退いてくれるだけでいいのに。
「引いてくれませんか、そうしたら、蘇生しますよ、私」
「ぐぬぅ……」
うーん、そんなに撤退したくないの? なんでそこまで戦いたがるのかなぁ。
「メグル殿、我が魔族だけ先に蘇生してもらうのはどうだろうか」
「貴様何を勝手な――」
オナラブルさんの提案に名無しさんが口を挟もうとしてたので、ちょっと悪いけど魔法で空間をより精密に固定して口を固めた。
「ごめんなさい、今は黙っててください。それで、オナラブルさん。それは構わないんですけど、敢えて提案された理由を聞いてもいいですか」
魔族だけの蘇生は私からも提案したことだし、それをオナラブルさんが今、敢えて言い出すって言うのには何か理由があるんだと思う。
「うむ。我が軍が蘇生して退いてしまえば精霊国もあえて魔族領に進軍することも無いだろう。故に先に蘇生して貰えれば軍を退こうと言う話だ」
「なるほど……」
それはありがたい話だけど、実際どうだろう。この名無しさん、そういう理屈は通るのかなぁ。
チラッと名無しさんの方を見ると、一生懸命喋ろうともがいていた。まあ空間固定されてるから全然動けてないんだけど。
とりあえず話をするのに動けるようにしてあげようかな。口だけ。
「魔王軍は退いてくれるそうですけど、これでも戦うんですか? 精霊国の女王様にそこまで交戦の意思があると思えないですけど」
「それはっ……」
うんうん。やっぱり徹底抗戦しようとしているのはこの人の独断みたいだ。
それでも女王様の意思に背く気はないみたい。
「お願いします、退いてください」
「…………むぅ」
ここに来てようやく話をできるくらい落ち着いて来たように見える。
もしかして最初から女王様のことを口にしたらよかったかなぁ。
「わかった……こちらも全軍を引き上げよう……」
「お」
本当にあっさり話が決まってしまった。
女王様って人望あるんだね。
「話は纏まったな。であれば早速蘇生を願いたいところだが、両軍同時に蘇生してはまた戦いになりかねない。そこでどうだろう、精霊国側から蘇生すると言うのは」
「いいんですか、オナラブルさん」
「構わない。彼らが攻勢に出たら、君が何とかしてくれるだろう?」
「思ったより信用されてて嬉しいです」
「君の人柄とその力の大きさは信頼に値すると思ったまでだよ」
なんかよくわからないけど、話が円滑に進んだのは良いことだね。
オナラブルさんが話の通じる人で本当に良かった。
「それじゃあ両軍退くためにもまず、二人を陣営に帰しますね。その後、三十分程したら蘇生を始めるので、退く準備でもしててください」
「了解した」
「うむ……」
オナラブルさんも名無しさんも頭を縦に振ってくれたし、大丈夫だね。
それじゃあ二人を転移させてっと……。
「……さて、後はアルクを呼ばないと」
正直、五十万人を蘇生するなんて大見得切ったけど、今のままだとちょっと厳しい。
ふと、アルクが去った方の空を見る。
「アルクの力……借りられると良いなぁ……」
この世界で唯一私が頼れる相手だし、是非とも力を貸して欲しいところだね。
そう思いながら、私はアルクに約束した呼び出しの合図の魔術を空に放った。
ご読了ありがとうございました!




