Re25 魔法少女の過去
「アレはそう、私が魔法少女として活動を始めて半年、この使命に充実感と誇りを感じ始めた頃だったわ……」
時音さんはそう言って、自分の過去を語り始めた。
「学校に突如現れたノモルワの手先が男子生徒を人質に取ったの。これ自体はよくあることでしょう? 魔法少女的にはそう珍しくもないことだわ。当然、私は時を戻す魔法を使って人質になった生徒を助けて、同時に学校に来る前の怪人を探し出し、倒したわ。でも――」
そこで一瞬区切り、体を震わせると、怒りをあらわにして時音さんは叫んだ。
「学校に怪人が現れたのは人質になった生徒、彼の所為だったのよ! 彼は隠れて煙草を吸っている不良だったの! その悪業に惹きつけられて怪人は現れたの。奴らは人の悪意が好物だから……」
「な、なるほど」
まあ、確かに悪さをする人の所に怪人はよくあらわれる傾向があった。
後は賑わってる場所にも多いけど。特に悪さをする人の所には一般人を怪人化させようとする怪人なんかが多かった。
でも……。
「思ったより地味……」
「はぁ?! 未成年の喫煙は犯罪よ!!」
「そ、そうなんですけど……」
その通りなんだけど……そうなんだけど……。
「それにまだあるわ――アレは学校での一件の一ヵ月後だったわ」
そう言って、今度は遠い目をする時音さん。
「夜中に怪人の出現を感じた私はすぐに現場に向かったわ……でも、そこで見てしまったのよ――」
そこで話を止めると、時音さんはこちらに視線をチラチラと送って来た。
……もう、面倒くさい。
「……何をですか?」
「夜中の公園で怪人をホームレスだとか言いながらエアガン撃ったり花火向けたりしてる不良共を、よ!!」
「…………」
いや、うん、そうだね、悪い事……なんだけどね。
「まだ相手が本当のホームレスじゃなくてよかったわ! でもそういう事を好き好んでしている奴を助けなければいけなかった私の気持ちがアナタにはわからないでしょうね!!」
「ま、まあ……」
実際相手が人間だったら大変な悪事だし、若干いぬ〇しき感漂ってるけども。
私なら両方ぶっ飛ばすだけに、何とも言い難い。
「まだあるわ! アレは公園での一件から一年がたった頃の事。街中で暴れ出した怪人からとある善良な学生の少女を救った次の日だった」
おや、今度は善良な人を助けた話なんだ。これが一体どう悪い話になるんだろう?
「私は駅前ケーキ屋の一日十五個限定ケーキを買いに限定ケーキ用の待機列に早朝から並んでいたわ。そしてよく見ると、前日に助けた少女が私の前に並んでいたの」
「……なるほど?」
うん? ケーキ……? これどういう話なんだろう。
「店が開店してすぐ、限定ケーキは売れて行ったわ……でも、一人三つまでだったし、何とか買える……そう思っていたわ。アレが現れるまでは」
「アレ?」
そこまで話すと、相当フラストレーション溜まっていたのか、時音さんはまた急に大きな声で叫んだ。
「あのお婆さんが現れるまではっ!!」
「……おばあ……さん?」
これは本当に、どういう話なんだろう。
「お婆さんはそのお店で限定ケーキを買ったことが無かったからケーキ用の行列も知らなくて、素直にカウンターに向かったわ。でもそこじゃ買えなくて、素直に並ぶことにしたの……でも、その時にはもうほとんどケーキは売れていたし私と少女、お婆さんで一個ずつくらいは買える量しかなかったわ」
「……お?」
あれ、でもそれなら何も問題ないのでは?
「でもそこで、少女の前のお客さんがケーキを二つ買ってしまって残りは二個になってしまったの。そして、お婆さんの話を聞いていた少女はケーキを買うのを止めたわ。なんでも病気の孫と余命一ヵ月のおじいさんの為に、ケーキを買っていきたかったとか……」
「は、はあ」
「でもね、残りのケーキは二つよ。そこで私が買ったらどうなる? お婆さんはケーキを一つしか用意できないわ。その上、少女の想いも無駄になる。そんな状況でケーキを買える? 私はね……買えなかったわ」
「……うーん」
どうやら相当悔しかったのか、時音さんはマジ泣きし出した。
「毎日平和の為に戦って……たまに自分へのご褒美にケーキを買おうとしたら救ったはずの善良な少女の優しさで……私までケーキが買えなかったわ……」
「そ、そうですね」
「人の善意はね……時に、知らない誰かを傷つけるし……生きにくくするのよ……」
「…………」
これ、ケーキの話だよね?
なんかスッゴイ重い話されてる風だけど……ケーキの話だよね?
「ケーキくらい、また買えばいい話では……?」
「ケーキを甘く見るんじゃないわよ!! アナタ魔法少女なんて少女趣味な事してる癖にケーキを軽んじるなんて少女失格よ!!」
「えぇっ……」
何この怒られ方、理不尽って言うか意味不明過ぎる……。
「こうして私は、人の為に生きるのを辞めたのよ。もう、私は善意の為に生きないと誓ったの」
「なるほど……?」
駄目だ、しょうもなさ過ぎて、共感できないよ……。
「でも、それと魔王に付くのは関係ないのでは」
「あるわよ!! 真央は約束してくれたわ……私たちの目標が叶ったら、必ず毎日好きなケーキを食べさせてくれるって!」
「……うん?」
ケーキ……?
「え、あの。ケーキで買収されたってことですか?」
「見損なわないで! ケーキだけじゃないわ! ケーキを『食べさせてくれる』から真央と戦うと決めたのよ!」
「食べさせるって、つまり」
「『あーん』してくれるってことよ!」
「……ハハハ」
ヤバイ。この人、ヤバイ。
さっきまでケーキ買えなかった悔しさで泣いていた人とは思えないくらい、今度は顔を赤らめて興奮し、ギラついた眼ではぁはぁしてる。
「そんなのもう、味方になるしかないでしょ!」
「……ソウデスネ」
この人関わっちゃいけない系の人だ、やっぱり。
「とりあえず話も聞いたし、ぶっ飛ばしていいですか?」
「え、この話の流れでその発想が出て来るの? 凄いわねアナタ」
「むしろ今の話を聞いてぶっ飛ばす覚悟が固まった感はあります」
この人は本質的には悪い人ではないけど、魔法少女の力を私利私欲の為に使って、今は下で始まってしまった戦争を止める邪魔をしてくる敵だ。
悪さをしたら懲らしめるのもまた魔法少女の役目だね。
「という訳で、行きます」
「ちょまっ――」
「待たない!」
私は魔法を同時発動して下の戦争の時間停止、時音さんの使う時間操作に対しての相殺、そして操子ちゃんの空間操作を使って時音さんを拘束した。
「ッ! この程度の空間固定、魔法少女ならたやすく破れるわ!」
「そうですね……でも同格――いえ、それ以上の相手にその隙は命取りですよ!」
私は時音さんが空間を撃ち抜く間に距離を詰めてそして、触れた。
「『タッチ・ザ・エンド・オブ・ライフ』っと」
「っ――」
触れた瞬間即死させる魔法。私の事を何故だか大好きで、いつかは殺して保管したいと嘯いていた後輩魔法少女の得意技。
相手に触れる事でその生命を終わらせるまさしく必殺技。
ちょっと申し訳ないけど、後で生き返らせるのでしばらくはこのまま寝ていてもらおう。
腐敗とかするのは流石に可哀そうなので彼女の魔法で時間を止めておこう。
「さて……ようやく終わったし、アルクを呼んで仕切り直しだね」
そうだ、遺体は空間操作で異空間に閉まっておこう。見失ったら生き返らせるのも大変だからね。
何はともあれ、これでようやく戦争を止められるよ。
ご読了ありがとうございました!




