Re24 魔法少女の本気
「時間を稼ぐ……どの程度だ?」
「一秒くらい?」
「……稼ぐ意味あるか?」
「……無いね」
私の言葉に見るからに呆れるアルク。そんな露骨に溜息吐かなくても。
実際、なんとなくその場のノリで言ってみたけど、時間を稼いでもらう必要はあんまり無いね。
「それで、本気とは?」
「魔法を使いまくる」
「……使ってなかったのか?」
「あんまり?」
魔力の再利用とかはしてたけど、他の使い方はしてなかったので、本来の戦闘スタイルにはちょっと遠い。
「という事でアルク、ここからは真面目なお願いなんだけど……ちょっと、ううん、大分離れてて欲しいの。戦闘から離脱するつもりで」
「いいのか? 一対一で、勝てるのか」
「うん」
私が即答すると、アルクは少し考えた後に頷いてくれた。
「ならば私は後方で見せてもらうとしようか。魔法少女の本気の戦いとやらを」
そう言ってそのままアルクは高速で精霊国側の空に飛んで行った。
「あら、よかったの? 自分から仲間を遠ざけてしまって」
「ここからは周りの事を気にして戦ってる余裕とか無いと思って」
「……そう」
時音さんにも私の本気が伝わったのか、また臨戦態勢だ。
「……行きます!」
まずは手数を出して様子を伺う。今の所単発の威力じゃ勝てないし、こっちはスピードで勝負だ。
「甘いわね」
時音さんは避けようともせずに魔法を使い、三十を超える魔光球が全て時間を止められその場で停滞した。
うん、まあそういう事するよね。
予想通り、かつ、狙い通りだ。
「進んで!」
私が叫ぶと、時の止まった魔光球達が動き出した。
「なっ?!」
魔光球が突然動き出すと思っていなかった時音さんに、その全てが直撃した。
「まだまだ!!」
いくら直撃でも、アレだけでは倒せない。そう思い追撃しようとすると、やはりとどめを刺し切れていなかったようで、魔光球を使う前に巻き戻され……そして。
「がはっ! なんっ……で……?」
時音さんは魔光球を全て直撃した直後に戻った。
「ここからは本気だって言いましたよ!」
「くっ!」
時音さんは私達の時間を戻しても無駄だと思ったのか、自分だけの時間を巻き戻して無傷の状態に戻った。
そしてそのまま反撃の為に魔導砲を撃ちだそうとする。
「させませんよ!」
「えっ……なんでっ! どうしてよ!!」
驚くのも無理はない。魔導砲は消え、時音さんの体は時を戻す前、魔光球を受けた体に戻ったのだから。
「降参、します?」
「するわけないでしょう!!」
そう叫んで、また魔導砲を構える時音さんは、また、発動手前で魔導砲を構える前に戻った。
「なんで?! なんで私が時間の影響を……! 何をしたの!」
「私の魔法ですよ」
「アナタの……魔法……?」
正直、この使い方って今までそんなに強くなかったんだけど、時音さんのような超強力な魔法少女相手だと凄まじく強いと思う。
それは魔法の再利用。
再利用はあらゆるものを再度使うことができる魔法。
だから私は時音さんの時間を操る魔法を再利用させてもらっているのだ。
まあもちろん、これにも制限が色々あるんだけど、主な制限は私の五メートル以内で使われたことのある魔法、魔術しか再利用できない事。
再利用した魔術、魔法の効果は再利用の射程である五メートルしか届かない事。
まあ、これも今は本気だから、ちょっとズルして射程伸ばしてるんだけど……。
「アナタの魔法……まさか……再利用、そういう事なの?」
「あれ、バレた?」
まあ実際、これだけ人様の魔法連発してたらバレてもおかしくないよね。
「人体の再利用に魔法、魔術、魔力の再利用……その言葉の通りの魔法ってことかしら」
「バレても困らない魔法だから言っちゃいますけど、その通りですよ」
実際、大まかな効果がバレたところで、この魔法は対策が難しい、と言うかほとんど出来ないと言っていい。
「随分卑怯な魔法を使えるのね」
「時を操る魔法も大概だと思いますけど……」
「今となってはアナタも操れるんでしょう?」
「まあ、そうですけど……」
でもそれは、時音さんが私の再利用範囲内で魔法を使ったからであって、今までは使えなかったしなぁ。
「そうでなくてもズルイわよ」
「むぅ……」
愛と正義の魔法少女として、ズルイと言われるのはちょっとショックだ。
「ということは、虎馬と操子の魔法も使えるのかしら?」
「あー……」
確かに操子ちゃんの方の魔法は私も使える。近距離で足斬り飛ばされたし……。
でも虎馬ちゃんの方は発動時に至近距離に居なかったから使えないんだよなぁ……使えたら時音さんに使いたかった。
「その反応に私の魔法ばかりの戦術。二人の魔法は使えないみたいね。相当難しい条件があるのかしら?」
「いやあ……まあ……」
うーん、時音さんは私が二人の魔法を使えないのに相当難しい条件があると思ったらしいんだけど、実際は五メートル以内で使われることだけだから、そこまででもない。
というか。
「降参してくれないなら、お喋りばかりもしてられないですね。戦争止めないといけませんから、時間が無いですし」
「まだそんなことを言っているの? そんなことをしてアナタに何の得が――」
時音さんが私に話しかけるも、私はそれを無視して魔光球を主軸に連撃を繰り出す。
「っ! 魔法少女の癖にお約束の会話タイムも挟んでくれないわけ?」
「時間がないと言いました!」
言いながらも時音さんは今度は時間を操作されるのを意識しながら防いだり避けたりして来る。
明らかに最初より攻撃の手が減ったのは私の魔法を警戒してだろうか、それとも時間操作に手一杯?
「そんなことをしても、アナタは幸せにはなれないわよ!」
「私の幸せを語られても!」
話しながらでも意外と戦闘ってできる。まあ、私達魔法少女の場合息が切れるような運動をしている訳でもないし、魔術飛んで、移動して。魔術で攻撃。詠唱もないから口は暇だよね。
「わからないの?! 元の世界でも散々世界の、人の為に戦って。死んで転生してなお、世界の為に戦い続ける! 私達はそうすることが当たり前のように生かされてきた……自分の為の人生を歩むことも無く!」
どうやら時音さんは魔法少女の人生について、余り快く思ってないようだ。
「私だって最初はアナタのように人の為になりたかったわ! でもね、そんな事しても何も変わらない、何も残らない! あるのはただ、無駄な事に時間を使ったという後悔だけよ!」
なら自分の魔法で時間戻せば? とか言うのは無粋だろうか……。
「今失礼な事考えたわね?!」
「やば、バレた」
人が真面目に話しているのに、野暮な事言っちゃ、もとい考えちゃ駄目だね。
「私の魔力では失った時間を全て取り戻すことは出来なかった! だから真央と一緒に、これから先の未来の為に生きると決めたのよ!」
「あー、そういう」
私の無粋な考えに、律儀に答えてくれるなんて時音さんは真面目だなぁ。
「アナタだって、魔法少女として死んだのでしょう? なら、わかるハズよ」
そう言って、私の眼をジッと見る時音さんに、私は答えた。
「わかりません」
「え?」
思っても見ない返事だったのか、時音さんが目を丸くしてポカンとしている。
「私、人助けすると気持ちいいんです。カタルシスです。自己満足してるんです。だから後悔とかしたことないです」
「え…………え?」
私の答えが理解できないのか、表情がどんどん難解になっていく。
「ちょっと待って、ほら、助けた人が、悪さしたり、助けなければよかった……とか――」
「無いです。そしたらその人を止めて『ふぅ、またいい事しちゃったな私』って、自己満します。むしろオッケーです」
「うそ……?」
私の言葉が信じられないのか、首を左右に振って震えだす時音さん。
いや、首を振るのはまだしも、震えるのはなんで?
「こんな恐ろしく自分勝手な魔法少女がいたなんて……信じられない……」
「それを魔王サイドに言われると凄く居た堪れないのですが」
と言うか、自分勝手かな、これ。いや、そうかもしれない?
「普通自分が助けた人が悪さをしたら『自分の所為で』とか『あの時助けなければ』とか思うわよ……?」
「何でですか? 困ってる人が居たら、どんな人が相手でも助けませんか? それで仮に助けた人が悪人で、悪さをしたならそれはその人の責任ですよ」
「そんな風に割り切れるのアナタだけよ……」
「えっ……」
そう、なのかな。
……そういえば、そういう葛藤をしている漫画やアニメを見たことある気がする……?
「あれってフィクションの感情じゃなかったんですね」
「リアルな心理描写よ!」
むぅ、何という事だろう。私って変わった子だったみたいだ。
「アナタ……そんなんで魔法少女やってたの?」
「そうですね。だから非常に幸せですよ、これでも」
「そ、そう……」
まあ、私の場合意図して助けるより、何だかんだ誰かの思惑とかに乗っかってしまったりするから、ちょくちょく利用されてる感じが嫌なところもあるけれど。それはそれとして、何だかんだ終わってみたら気持ちが良いのだから仕方ない。
「時音さんは後悔してるんですね」
「えぇ、しているわ。思えばアレは現役の頃の話よ――」
そう言って時音さんは遠い目をして回想に入ろうとした。
なので。
「えいっ!」
「アブなっ?! 何するのよ!!」
「え、隙だらけだったので」
「回想させなさいよ!」
「えー」
「お約束でしょ!」
まあ、そう言われたらそうだと思うけど。
「尺的にちょっと」
「尺的に?! じゃあ次回に続きなさいよ!!」
「えぇ……」
なんて面倒な相手だろう。下では戦争してて、さっさと止めたいのに。
「じゃあ下の戦い止めてからでなら、聞きますけど」
「そんな『今忙しいから後で』みたいなノリで人のシリアスな話を後回しにしないでくれる?!」
「……めんどくさいなぁ」
「アナタ魔法少女よね?! ヒロインよね?!」
んもう、本当に戦い止めないとマズいのに。面倒なことこの上ないなぁ。
「じゃあ、手短にお願いしますね。四十×十六で十ページ以内に収まる感じで」
「なんか妙に具体的な数字出して来たわね……まあいいわ、それじゃあ――」
こうして、私は時音さんの昔話を聞くことになったのだった。
ご読了ありがとうございました!




