Re20 魔法少女とドラゴン
私はロイドさんに後を託されると、ロイドさんの周りに小さく、強力な結界を張り、ドラゴンに向かった。
「……気持ち悪いなぁ」
以前見た時も思ったけど、普通に気持ち悪い。
蛇もトカゲも大嫌いなので、さっさと終わらせようと思う。
という訳で、今回は初っ端から収束砲を放つことにした。
だって前はいきなりだったから手が出ちゃったけど、正直触りたくはないし、下手な攻撃をしてスプラッタな絵面の爬虫類とか見たくない。
なので高火力で消し去ろうと思う。
このドラゴンは悪い龍らしいし、会話も不可能なので、倒すのにも抵抗はさほど無い。
「行きますよ、魔導収束砲――」
私は杖を構えて、魔法陣を作成。魔力を収束させた。
しかしそれを見たドラゴンは何を思ったのか、後ずさりし始めた。
……なんで?
ここは普通、ブレスなり、爪なり、攻撃してきて止めようとしたり、反撃する場面では?
「ま、待ってくれ! 強き者よ!」
「……?」
なんか変な声が聞こえた気がしたけど、まあいいや。
とりあえず魔力をもうちょっと溜めたら、ぶっ放そう。
「いや待て! 待ってくれ?! なんで無言で魔力を溜めているんだ!」
「…………??」
なんだろう、気のせいじゃなかったら、ドラゴンの口が動くのに合わせて声が聞こえた気がしないでもない。
「一発じゃ不安だし、十発くらいにしておこうかな……」
「なんでサラっと威力を十倍に?! 待ってくれ! 頼む!!」
「……おや?」
もしかしてこれは本当にドラゴンが喋っているのでは?
「もしかして今喋っているのは、待って欲しいのはドラゴンさんですか?」
「そうだ! 私だ!! 待ってくれないか!」
「あらあら」
ドラゴンさんは腰を抜かした人間みたいなポーズで「待ってくれ」と言っている。中々シュールな絵面だ。
とりあえず、警戒はするけど、収束砲はキャンセルしておこう。
「それで、なんでしょうか?」
「貴女はエルクス火山で出会った方ではないか?」
「……エルクス?」
それは何処だろう。このドラゴンと会った山の事だろうか。
火山だったの? あれ。
「貴女が私を殴った下にあった山だ」
「あぁ、アナタが私を襲ったところですか」
「……そうだ」
私の言葉をドラゴンさんは肯定したけど、両者の意見は食い違っている。
ドラゴンからしたら私に殴り倒された場所で、私からしたらいきなり襲われた場所だ。
「ただ、一つ言い訳をさせてもらうと、あそこは私の住処だ。その上空に頭のオカシイ速度で飛んでいる奴が居たら、敵だと思うだろう」
「……なるほど?」
頭のオカシイ速度で飛んでいたつもりはないけど、まあ自分の家の上をすさまじい速度で飛んでいる生き物が居たら、不審に思うかもしれない。
「それでも、いきなり襲われたら、抵抗もしますよ」
「貴女は自分の家の上に現れた怪しい奴に、貴女は怪しい人ですか? と聞いてから対処するのか?」
「うーん……」
そう言われると、まあ、なんか悪いことをした気がしないでもないけど。
でもやっぱり、いきなり暴力はどうかな……。
「まあ、とりあえずお互い水に流しませんか」
「……うむ。まあ、変にゴネて殴られても嫌だしな」
「そんなことしませんよ……」
なんか私が暴力女みたいな言われようだ。
大体、私は好き好んで爬虫類に触れたりしない。
「それで、待って欲しいって言うのは何だったんですか?」
「あ、あぁ。貴女は私を討伐しに来たのか?」
さっきまで戦っていたロイドさんと私を交互に見ながら聞く辺り、自分を倒しに来たロイドさんとの関係を気にしているんだろう。
ドラゴンからしたら、知らなかったとは言え、私の仲間を倒しちゃった状態なわけだから、気になるのかもしれない。
「うーん、まあ、そういうことになってますね」
「……見逃してもらえないだろうか。こう見えて私は無害な人間を襲ったり、食ったことは無いのだ」
「うーん……」
これは困った。
まさか話が通じると思わなかっただけに、いざ話せるとなると、凄く攻撃しにくくなった。
それに、そもそもこのドラゴンが迷惑を掛けているのはあの山から逃げ出す原因を作った私にも、責任があると言えなくもない。
まあ、無害な人間を襲ってないって言うのは、私を襲っているだけに何処までが無害判定なの? という疑問はあるけど。
「でも、アナタがここにいると、近くの国の人達が迷惑をするんです」
「そうなのか? なら、そうだな。火山に帰ろうか?」
「いいんですか?」
「貴女が襲わないと約束してくれるなら、安心して帰れる」
「襲いませんよ……」
アレは襲われたから自己防衛しただけであって……水に流そうって言ったのに、全然忘れてくれないな、このドラゴン。
「であれば、私はエルクスに帰ろう」
「あ、ちょっと待ってくれませんか」
「……なんだ?」
私はちょっと、良いことを思いついた。
「アナタは、悪い龍じゃないんですよね?」
「そのつもりだ」
「でしたら、今回の件で問題を抱えた精霊国の為に、力を貸してくれませんか?」
「……何故だ」
私の言葉にドラゴンが首をかしげる。首が長いからなんか絵面が面白い気がする。
「アナタを見逃すなら、それなりの理由が必要になると思うんです。私としては帰ってくれるだけでいいとも思いますけど、力を貸してくれれば、今後人から狙われることも無くなると思うんです」
「なるほど。まあ、私は貴女以外に襲われても問題ないのだが」
「……それでアナタが人を傷つけたら、私は敵になりますよ?」
「それは困る」
相当嫌だったのか、結構食い気味に返答してきた。
「でしたら、力を貸してくれませんか?」
「しかし、むぅ。どうすればいいのだ?」
「簡単です、魔王軍を追い払って欲しいんです」
これは本当は私がやった方がいいんだと思うけど、このドラゴンが悪意ある存在でないという証明に丁度いい働きになると思うし、私としてもまだ戦う決心がついていない魔王軍を任せられると助かる。
「ブレスで焼けばいいのか?」
私の追い払って欲しいと言う言葉に、随分過激な提案が返ってきた。
「そこまでしなくても、アナタだったら姿を現して、人の味方だってアピールするだけで効果があると思います」
「ふむ、つまり私の存在が相手に対する抑止力になると言う事か」
「そんなところです」
実際、このドラゴンの大移動でこの辺り一体の生態系の変化が起きるくらいには周りの生き物がビビって逃げ出すくらいだ。
魔王軍の前にこのドラゴンが現れたら相手も簡単には攻めてくれなくなると思う。
諦めて帰ってくれたら尚いい。
「どうですか。やってもらえませんか」
「ふむ。いいだろう」
ドラゴンさんはこの提案を飲んでくれた。
「ただし、今後私の住処を襲わないと言うことだけは、約束して欲しい」
「しないですって……」
という訳で、私はドラゴンさんを襲わず、ドラゴンさんは帰る前に魔王軍を追い払うという約束をした。
話が終わり、報告の為に一旦帰ろうかと思うと、気絶していたロイドさんが起きて来た。
「ん……メグル君……? はっ! ドラゴン!!」
起き上がったロイドさんはすぐに剣を構えて戦闘態勢を取った。
けど、戦う必要はもうない。
「待ってください、ロイドさん」
私はロイドさんを制止して、ドラゴンさんと約束した内容を話した。
「……それは、本当か?」
「本当だ。私はお前たちに力を貸そう」
「そうか……」
ロイドさんはの顔は嬉しそうに見える、でも声はちょっと残念そうにも聞こえた。
「まあ、人を襲わないと言うのなら、倒す必要も大義も無いな。ドラゴンスレイヤーの称号には、ちょっとばかり未練はあるけどね」
ロイドさんも剣士だし、やっぱり龍殺しとかに憧れがあるのかな。
とは言え無害……ではないけど、悪意のないドラゴンを殺すのは本意ではないみたいだ。
「それではその旨、僕の方から王女様にご報告しよう」
「助かります。それで、魔王軍を追い払うにも、日にちとか段取りが決まったら、ドラゴンさんに報告に来ますね」
「うむ、わかった。……あぁ、それと――」
ドラゴンさんは疲れたのか、地面に伏せると別れ際に言った。
「私はアルクだ。貴女は?」
「私は三角廻、魔法少女です」
ドラゴンさんが名前を教えてくれたので、当然こちらもそれに答える。
さて、それじゃあ、アルクさんにお手伝いしてもらう為にも、まずは王女様にこのことを報告しないとね。
ご読了ありがとうございました!




