Re12 魔法少女と闘技
待機室に通されてから一時間、遂にその時がやって来た。
「囚人、立て。貴様の罪を数える時が来た――」
「……あ、はい」
なんか私を呼びに来た兵士らしき人が凄く痛い感じのセリフを放ってるけど、とりあえず放置しとこう。今は適当に返事して、ぱっぱと戦いを終わらせて無実を証明するのに集中したい。変な人にツッコんでる場合じゃない。
兵士に連れられて廊下に出て、少し歩くと直ぐに通路の先に鉄格子の降ろされた出入口から光が差しているのが見える。
出入り口に着くと、直ぐに格子が上がり、そのまま先に進むよう背中を押された。
着いた先は思った通りの円形闘技場で、そこには既にここに来るまで一緒だったおじいちゃん……ライデンさんが居た。
「良く逃げずに来た。誉めてやろう」
「えーっと。はい」
なんだろう、この国の人ってみんなこう、こんな感じなんだろうか。そこはかとなく痛々しいというか……。
でも私はすぐに、それ以上に気になることを発見した。
「なんか魔力が増えてる……?」
「ほう、貴様も魔力量を視る力があるのか」
そう言ってライデンさんはニヤリと嗤った。うーん、一々演出が捗る人だなぁ。
というか「貴様も」ってことはライデンさんは視えるんだ。魔力。
「特別に教えてやろう。ワシは瞑想で魔力を一時的に限界を超えて増幅できるのじゃよ」
「へぇー」
「貴様、露骨に興味が無さそうだが、魔術師の端くれならば魔力を増やせる重要性くらいわかるのではないか?」
「あー……まあ」
魔力を増やす利点、それ自体はわかるんだけど私としては、あの一時間待ちは瞑想の時間だったのかな、とか思うとちょっとズルくない? と思ってしまう訳で。
そっちが気になって凄いとかどうとか、それどころじゃない。
「まあ無駄話はよい。一応始める前にここでのルールを説明しておこうか」
「あ、そこはちゃんとしてくれるんだ……」
「ごほんっ。まず初めに、勝利条件は相手が降参するか、相手を戦闘不能にする、または殺すこととする」
「え、超物騒」
殺しちゃってもいいとか……なんでそんな凄まじく物騒なルールなんだろう。これホントに公開処刑なんじゃ……。
「そして基本的には武器も魔術もありじゃが、飛行魔術でこの闘技場の外に逃げるのは反則じゃ。まあ逃げられんように結界が張ってあるが、それを出たら負けという事じゃな」
「出なければ飛んでいいってことですか?」
「そうじゃな。まあ、飛べる魔術師なんてそうはおらんがな」
なるほど……魔導帝国の大英雄、魔術師のライデンさんでその認識なんだったら、本当にこの世界での飛行魔術はかなりレアなんだね。
まあでも、飛んでいいって言うし、必要なら使ってもいいよね。
「大体のルールはこんなものじゃな。何か質問は?」
「あの、かなりギッシリ観客がいるんですけど、魔術の流れ弾は危なくないですか?」
「観客席にも強力な結界が張ってある、問題はない」
「結界壊しちゃったら……?」
「ふん、ありえん」
「……あ、はい」
これは駄目そうだ、頑張って手加減しよう……。
「もうないか?」
ライデンさんの言葉に私は無言で頷いた。声を発しなかったのはなんかもう疲れた為だ。
「とりあえず変身しとこ……キュアライトフォームアーップ!」
「ではゆくぞ!!」
そう言うとライデンさんは早速魔術――恐らくファイアーボール――を放ってきた。
変身は一瞬で終わったし、いいけど……魔法少女の変身中に構わず襲ってくるとかマナーが無いね……。
「ワシのファイアーボールは並みの魔術師の三倍の威力よ!!」
「おぉー」
どこかのグレイスさんと違って無詠唱な上に、赤いアイツは通常の三倍の威力なんですね。なるほど、なるほど。
「魔導障壁」
とりあえず防いでみて、どのくらいの威力なのか確かめてみよう。うっかり防げないと困るから強化魔法と追加の障壁もいつでも使えるように準備して……。
そう思いつつ身構えていたのだけど、どうやら必要なかったみたい。
炎の球は本当にグレイスさんの三倍程度しか威力が無かったようで、貫通する程では無かったみたい。障壁に阻まれてそこで止まり。燃え盛っていた。
「やったか!!」
なんか炎の向こう側から聞こえちゃいけない台詞が聞こえた気がする。
「まさか、やってないですよ」
私は炎をが消えるのと同時にライデンさんに語り掛けた。そしてそれを見たライデンさんはもういっそ顔芸レベルの驚愕した顔をしていた。
「直撃したハズ……! 何故立っていられる!!」
「直撃してないからですよ……」
ライデンさんからだと炎の球が邪魔で障壁が見えなかったのかもしれない。それにしても驚き過ぎだけど。
「ふ、ふん。ならば今度は……これだ!! トリプルファイアーボール!!」
「え、何そのファイアーボール推し」
私がツッコんでも魔術は止まらず、今度は先ほどより一回り小さいファイアーボールが三つ飛んできた。
今回は質より量ってことかな。
「魔光球――行って!!」
とりあえず相手が攻撃3つで来るなら、こっちも適当に攻撃を3つ飛ばして相殺しよう。そう思って魔光球を出したんだけど。
「わ、ワシのファイア―ボールが?!」
ただ、私の魔光球の方が思ったより強かったらしく、ファイアーボールを搔き消してそのままライデンさんの方に飛んで行ってしまった。
「ぬん!」
ライデンさんは地面に転がり、攻撃をギリギリで避けた。外れた魔法はそのままライデンさんが居た位置の地面に直撃して拳大の穴を開けた。
「ワシの魔術を破ってなおあの威力……ただの魔力の塊を飛ばしただけで……! それに貴様! その魔力量はなんだ!!」
「え? あぁ、そっか……」
そうだった、ライデンさんには魔力が視えるんだった。
という事は、今の私の魔力量も視えているわけだ……やってしまった。
「何故魔力が少しも減っていないのだ!! ワシのファイアーボールを二度も防ぎながら、微々たる量すら減っていないのは何故だ!!」
「うーん……」
どうしよう。これはこの世界にきてから一番やらかしてしまった気がする。
あんまりにも変な人だからついつい忘れていたけど、魔力が視えるって結構な才能だ。私は長年魔法少女をやっているから、なんとなくわかるようにはなったけど、厳密には視えているわけでは無い。なんとなくその魔力の大きさを感じ取れるだけ。でもこの人にはキッチリ視えているようだ。
参ったなぁ……。
「魔法少女には魔力を回復できる者もいるってことですよ」
「なんじゃと……!」
嘘じゃないからいいよね? 厳密にはこれは私固有の「魔法」の力だから魔法少女なら誰でもという訳ではないし、今まで他にできる人は見たことがない。でも私自身、魔法少女なので嘘ではない。
「くっ……ならば短期決戦を挑むしかあるまいな!! 喰らえ! 我が最強魔術――ぬぬぬぬぬぬぬめめめめめめめめろろろろろろろ――」
「え、ちょ……え?」
なんか凄まじく変な……気持ち悪い詠唱? らしきものを始めたんだけど……。
これは……待った方がいいのかな? 一応盛り上がりというか、展開というか。そういう意味で……。
魔法少女的にはこういう展開には弱い。何せお約束というか、色々な暗黙のルールがある世界で生きて来ただけに、相手の決め技とかには正々堂々挑まないといけない気がする病気が発症してしまっている。
「私も魔術の準備だけしとこ……」
それだけ呟くと、私は魔術を使って周りに魔力で出来た結晶を作り始めた。
普通ならこれは戦闘とかの前に作っておいて、戦闘中に使用して魔力を回復する……まあわかりやすく言うとMP回復アイテムだね。私は固有の魔法で魔力を回復できるからこれを作るのに魔力を消費しても、消費した先から回復するので実質的には消費無しで魔力のスタックをしているような状態だ。まあ、勿論、このアイテムに使用者の魔力上限を超えた回復をする効果はないから、普通に考えたら自身の魔力回復だけで済むから要らないんだけど……。
「――んんんんん! 喰らえい!! ギガフレイム!!」
「ふぁっ?!」
どうやら私が考え事をしながら魔力結晶を作っている間に詠唱が終わったらしく、直径3メートルはある炎の塊が飛んでくる。流石に王都で見たヘルフレア程のインパクトはないけど、それでもこんなに人がいるところでこれ程の魔術を使う神経に驚いた。
いくら結界があるって言っても……あ、でも、これくらいなら平気ってことなのかな? 結界を破壊できるような魔術を使ってたりとか……流石にそこまで考え無しで撃っては無いよね?
さて、どちらにしてもできれば迎撃したいけど、どうしよう。丁度いい魔術が思い浮かばない……感覚的にライデンさんの魔力はこの魔術でかなり減ったみたいだけど……ん? あぁ、そっか。
「ギガフレイム」
「なんじゃとぅ?!!」
ゴォォオオオオオオオオオオオオッ!!
衝突した炎は混じり合い、その場で煌々と燃え上がった。
で、まあ、私が何をしたかって言うと、見たままなんだけど。要は感じ取ったライデンさんの魔力消費にできるだけ近い魔力を消費して同じ魔術を使ってみることにした。
結果、良い感じに手加減出来たのかお互いの魔術は相殺された。
「無詠唱で……ワシのギガフレイムを……同威力で……」
でもなんか、ライデンさんが凄まじくショックを受けているように見える。で、でもまあ、私の方が強いと思ってもらえれば降参してくれるかもしれないし……そうすれば無罪にもなるし、ケガもさせずに済むから良いよね、これで。
「……るさん……」
「へ?」
「許さんぞぉおおおおおおおおおお!!!」
「えぇ?!」
なんか急にキレて叫び始めたんだけど……何、なんなんだろう。
「ワシの、生涯を掛けて編み出したワシだけの魔術を無詠唱で模倣し、その上同等の威力じゃと?!! 貴様ぁ……舐めるなぁああああああああああああ!!」
「……あー」
なるほど……アレはそういう魔術だったんだ……。
アレはライデンさんの創った魔術だったんだ……そりゃあ見よう見まねで使われて、しかも無詠唱で相殺されたら怒るよね……ライデンさんのプライドを傷つけたに違いない。
「もはや容赦はせん!!」
そう言ってライデンさんは何か瓶のようなものを取り出した。
「この秘薬はな、使用者の魔力を限界を超えて増幅させるアイテムよ! これを使い、今よりも巨大なギガフレイムを馳走してくれるわぁああああ!!」
「え、そういうのアリなんだ……」
いや、まあ。私も自分の魔力で作っているとは言え、魔力をスタックする結晶を使ってるし、今更アイテムはズルいとか言えないけどさ……。
でもどう見ても持ち込みだよね、あれ。そういうのは……どうなの?
などと私が思っている間にも、ライデンさんは瓶の内容物を飲み干し、魔術を使って結界ギリギリの上空まで飛ぶと、また詠唱を開始した。
すると、ライデンさんの魔力は戦闘前の瞑想で増えた分の魔力があった頃の非でない程に膨れ上がっており、また、それが急速に減少していった。
多分、あの魔術に全ての魔力を注ぎ込む気なんだろう。でも流石に……そこまでやったら結界が保つだろうか? 本人は上空に飛んでいるし……相当危ない術使うつもりなんじゃ……。
「仕方ない……真正面から打ち破ろう」
そう決心した私は、魔導収束砲の準備を始めた。あの魔術は先程はヘルフレア程では無かったけど、それはあくまでも消費した魔力が比較的に少なかったからだ。今のライデンさんの魔力を全て注ぎ込んで放たれるのであれば、それはヘルフレアに迫る火力があってもおかしくない。
そう考えれば……なるほど、人で上級悪魔の魔術に対抗し得る力……一国を灰にする程の火力を出せるのだからこの人は本当に英雄なんだろうな……まあ、人柄は別として。うん。
「んんんん!! 死ねい! テラフレイム!!」
「なんか単位が上がったような気がする……」
さっきまでのがギガなら、なるほどこの威力はテラなわけだ……。それにしてもネーミングがダサいというか、むしろこの異世界にはギガとかテラの単位があるんだろうか。
「まっ、いいや――収束砲、発射!!」
私はさっきまで作っていた魔力結晶を使って収束砲を強化して超高威力の魔術にし、ヘルフレアの時を参考に、3発で迎撃しようと試みた。
「何?! なぜそれ程の魔術が使えるのだ?!」
ライデンさんは私の収束砲を見て驚いているようだけど、その前に退避した方が良いんじゃないかな……あの時と違って相手を倒す必要がないから相殺する程度を想定して3発撃ったけど、もしかしたら貫通してしまうかもしれない。だからあのまま行くとテラフレイムを突き破ってそのままライデンさんに直撃しちゃう可能性もある。
「えぇい! ならば!!」
ライデンさんは何を思ったのか、飛行魔術で降りてきて私の背後を取った。
まあ流石にあの魔術を突破できないことはないはずだから、降りてきても安全だけどさ……もしそうじゃなかったら自分も燃えちゃうよね……?
「その魔術、姿勢を崩せないと見た! であれば喰らえ! ファイアーボール!」
「――魔導障壁」
「なにぃいいいいいっ?!」
私が片手間で防御すると、これまた顔芸レベルで驚くライデンさん。表情豊かな人だなぁ。
「あれ程の魔術を行使しながら防御もできるだと……?! 貴様は一体……ッ!!」
「ん? 魔法少女ですよ?」
何を今更って感じだけど……。いやホント、なんで今更?
「はぁっ……はぁっ……! き、貴様ぁ……」
「なんか急にゲッソリしてるよ……」
とりあえずテラフレイムも迎撃できたし。ちょっと計算ミスで結界の上の方も突き破っちゃったけど……ライデンさんは降りてきていたから誰もケガしてないし、本当によかった。ただライデンさんは非常にお疲れの様子だけど。
「あの、そろそろやめにしませんか?」
「なん……じゃと……」
「これ以上戦っても無駄じゃないですか? ライデンさんは魔力が尽き掛けてるし、対する私は魔力が全快しているし、もう勝負はついていると思います」
「ぐっ……くぅうっ……!」
「私は無実を証明したいだけなんで、あんまり無闇に戦いたくないです」
事実、私は勝ち方として最初からライデンさんの魔力切れを狙っていた。
私は固有魔法で魔力切れは実質的に無いから、互いに魔術での戦いになれば、相手の息切れを狙った方が比較的安全に勝てる。これは日本で戦っていた時から魔力を使った戦闘をする怪人との経験からして知っていた。
だから薬による回復は想定外だったけど……まあそれでも、流石にまた薬を使ったりはしないと思いたい。
「何故じゃ……何故……何故貴様はあれ程の魔術を使える……アレは、お主の魔力限界を超えた魔力を込められた魔術ではないのか?」
「収束砲ですか? アレなら、魔力結晶の魔力をリソースにしただけですよ」
「そんな訳があるか! その結晶は確かに魔力で出来て居るが、魔術に使用するならその魔力を一旦は使用者の体に取り込む必要がある。そしてそれらの魔力を補充するアイテムは上限を超えることは無い……かといって回復しながらその魔力を魔術に込めるなどと言うのも聞いたことがない……ワシでもできん! つまり! どうあっても貴様の魔力限界を超えた威力の魔術は使えない!!」
なるほど。魔力結晶の知識はちゃんとあるんだ……まあ剣と魔法の世界だし、あっても不思議ではないのかな。それこそ限界を超えた力を得られる薬とか使ってくる相手がいるくらいだし。
でもなぁ……自分ができないからあり得ないって考え方はいくら何でも……。
「これでも私、魔力のコントロールには自信があって。大気中にある魔力も使えるんです。だから魔力結晶を空中で消費して、そのまま魔力を魔術に流用できるんですよ」
「な……んじゃと……貴様は……マナも使えると言うのか」
「マナ……?」
「世界に漂う、一個人のモノではない魔力……それがマナじゃろうが」
「あー……そう言うんですね、この世界だと」
そういう呼び方の違いがあるんだ……なるほど、なるほど。
「それであの威力を…………はあ。ワシの……負けか……」
「えっ」
これは、言質を取れたのでは。ライデンさんの負け、つまり。
「私の勝ち……でいいんですね?」
「あぁ……認めよう、お主の勝ちじゃ」
その言葉と同時に、観客席から大きな歓声が上がった。そういえば観客がいっぱい居たんだった……ん? 待て、待て? よく考えたらその中に陛下が居るって聞いていた気がするんだけど……これって勝ってしまって良かったのだろうか。
この帝国の魔術師の長で、大英雄のライデンさんに勝ってしまったのって結構面倒事の種な気がしてきた……。
いやさ、もう勝っちゃった後だから今更気にしても遅いんだけどね。
「さて、この後お主には皇帝陛下に会ってもらうぞ。無実の証明は出来たとはいえ、お主がここへ来た目的などはまだ確かではないのだからな」
「えぇ……魔法少女について調べに来ただけですよ……」
「であればそれは陛下に直接申し上げるのだな」
「……はぁ」
こうして私の無実を証明する戦いは終わったのですが……なんだかまだまだ面倒な事には巻き込まれたままのようです。
ご読了ありがとうございました!




